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真田十勇士

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巻ノ百三十五 苦しい断その六

「もう負けて死んで」
「それで終わると思っておるな」
「苦しむことはない、そんな感じですな」
「戦は戦って勝つもの」
 それが目的だとだ、長曾我部は看破した。
「それで何故じゃ」
「死ぬことを喜ぶのか」
「それでは勝てる筈がない、もっともな」
 ここで苦い顔になってこうも言ったのだった。
「この度の戦はな」
「勝てる戦ではない」
「それは確かじゃ」
 このことは長曾我部も否定しなかった、だが。
 それでもだ、彼は明石にこう述べた。
「しかしな」
「それでも生きるものですな」
「潔く死ぬのは何時でも出来る」
「それこそ」
「大事なのは生きてことじゃ、やるべきものがあるのなら」
「何としてもですな」
「生きるべきじゃ、勝って武勲を身を立てたいなら」 
 この城に来た浪人達の多くが思っていることだ、少なくともそう思いここまで来た。そのことが間違いないならというのだ。
「是非な」
「戦いに勝ちそうして」
「生きることを目指すべきじゃ、この様な有様では」
「最初からですか」
「勝てるものではない、まことに危ういわ」
「では」
「やはりこの度の戦負けるわ」
 その兵達を見てあらためて思ったことだ。
「負けてそしてじゃ」
「逃げ延びることが出来ねば」
「落ち武者狩りに捕まって終わりじゃ」
 そうして首を切られるというのだ。
「そうなってしまうわ」
「そうですか、では」
「明石殿、お主は目指すものがあるな」
「それがしは切支丹です」
 幕府が禁じた耶蘇教を信じている、明石は長曾我部に確かな声で答えた。
「ですから」
「切支丹が認められる国にしたいな」
「戦に勝ち」
「そう思われるならな」
「何としてもですな」
「生きてじゃ」
 そうしてというのだ。
「それを果たされるのじゃ」
「敗れようとも」
「それでもな、わしは家の再興じゃ」
 長曾我部家、彼自身の家だ。
「何としてもな」
「それを果たされますか」
「その為にここまで来た、それならばじゃ」
「例え敗れようとも」
「落ち延びそうしてじゃ」
「生きてそうして」
「また再起を期すわ」
「そうされますか」
「何があろうともな」
 それこそというのだ。
「首さえ身体とつながっていれば」
「お家再興を目指されますか」
「そして果たす、必ずな」
「ではそれがしも」
 明石は長曾我部の決意を聞いて彼に確かな声で応えた。
「果たします」
「切支丹としてじゃな」
「何があろうと生きて」
「ではな、共にな」
 生きようとだ、二人は誓い合った。死ぬ為の滅ぶ為の戦になりそうだったが彼等はそれでも生きようと誓っていた。
 大野はその中で密かに北政所に文を送りそのつてから彼女の兄である木下家と連絡を取った。そうしてだった。
 やはり密かに大坂に来た木下家の者にこう話した。 
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