IS~夢を追い求める者~
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最終章:夢を追い続けて
第70話「圧倒的。故に天才」
前書き
―――……これが……天才……!
ようやく秋十VS桜です。
まだ才能があった箒と違い、秋十は才能を全て努力でカバーしています。
そして、その分だけ苦戦度は高くなります。
=秋十side=
「ッ!!」
「ふっ!」
ギィイイイン!!
ブレードとブレードがぶつかり合う。
そして、俺はその度に仰け反りそうになる。
「っ、はぁっ!」
「っと、ふっ!」
「くっ!」
ギィイン!!
一撃を回避し、足払いのように低い位置を薙ぐ。
それはまるで当然のようにジャンプで避けられ、空中からの一撃を受ける羽目になる。
「シッ!」
「っ、っと」
「せぁっ!!」
ギィン!!
二連続の突きを放ち、回避された所を回転斬りする。
しかし、それはあっさりと受け止められる。
「っ………」
「……ふむ…」
すぐさま飛び退き、間合いを取る。
「……秋十君」
「……なんでしょうか?」
「重り、外さないのかい?」
「……ばれますか。やはり」
桜さんの言葉に、俺は両腕両足につけていた重りを外す。
やっぱり無粋だったな。それに、重りを付けていたら攻撃が通じない。
「……では、行きます」
「来い」
言うなれば、さっきのは準備運動。
……ここからが本番だ。
「ふっ!」
「っ!」
ギィイン!!
先ほどまでよりも圧倒的に早く、重くブレードを繰り出す。
その速度と鋭さに、桜さんも僅かに目を見開いた。
だが、それもあっさりと防がれる。
「はぁぁああっ!!」
「ぉぉおっ!!」
ギギギギギギギギギィイン!!
かつて、IS学園に通っていた頃ではありえなかった速度で剣戟を繰り広げる。
防ぎ、斬り、避け、斬り、防ぎ、避け、斬り、斬る。
思考と行動をほぼ同時に行わないとついていけない程の速度で斬りあう。
ギィイン!
「くっ!」
「っと」
ギギギィイン!
けど、やはり俺の方が劣っている。
ブレードで押し負け、回避しつつ後退する。
すぐさま持っている銃で撃つも、あっさりとブレードで斬られる。
「(ISと違って、生身では銃は牽制にしか使えないか……)」
少なくとも、ブレードを持っている状態では、当てることは不可能だろう。
……だが、それは俺の場合も同じだ。
「ッ……!」
一度離れた間合いを詰めるように、俺は駆ける。
そんな俺を近づけないために、意趣返しのように桜さんもアサルトライフルを撃つ。
どこに持ってたとか、片手で撃ってるとかは桜さん相手には無粋な考えだ。
とにかく、円を描くように駆ける。これで基本的には当たらない。
……“基本的”には、な。
「っと……!はっ!」
「さすが、この程度はもう対処できるか」
回避する先に銃弾が撃ち込まれる。
それを事前に察知し、ブレーキ。動きを反転しつつ、間合いを詰める。
だけど、生半可な予測では回避しきれないため、ブレードで銃弾を切り裂く。
「(偏差射撃は桜さんみたいなタイプが絶対に得意とすること。……変に考えて動いた所で、簡単に予測される!)」
タイムラグなどを考え、相手の動きを予測して撃つ。それが偏差射撃。
桜さんや束さんでなくとも、理数系に強い人なら可能だろう。
……そして、俺の頭ではその予測を破ることは難しい。
「(……でも)」
本来なら“不可能”だった。それが“難しい”になっているだけマシだ。
「つぁっ!」
ギギィイン!
「む……」
「はぁっ!」
ギィイン!
「ほう……」
当然のように俺の行く先を予測され、そこへ弾丸が撃ち込まれる。
それを当たるものだけ切り裂き、“無駄に”少しだけ進路をずらして突き進む。
桜さんはそれを見て、瞬時に予測を変えて正確に俺の進路を妨害する。
「(桜さんは言わば最善手を読み切るスーパーコンピュータのようなもの!おまけに、ある程度の“悪手”すら想定してくる……!)」
俺が“最善手”を模索したところで、簡単に予測されるだろう。
“悪手”も同じだ。第一、勝つための“悪手”が俺にはわからない。
だから、悪手でも最善手でもない、“無駄な一手”を入れる。
“無駄”ではあるけど、これで俺の動きの流れは変わる。
それを繰り返すことで、桜さんの読みに乱れを生じさせるつもりだったが……。
「(こりゃ、完全に気付かれたな)」
まぁ、前提として“そう考えている事”が読まれるわな。
こういう行動自体が、俺にとっての“最善手”だからな。
「ふっ、はっ!」
「はぁっ!」
ギィイン!!
今回は、気づかれても近づくことはできた。
次は同じ手は通じないだろう。
ギィイイイン!!
「ぜぁっ!」
「ふっ!」
ギィイン!
足払いを仕掛ける。ジャンプで躱され、上からの一撃で間合いが開く。
即座に間合いを詰めなおし、着地した所を狙うも、簡単に防がれる。
「(二度は通じない……だったら……!)」
「っ!」
ギィイン!
単純なこと。動きを変えればいい。
「ッ……!はぁっ!」
「っと、ふっ!」
ギィイイイン!!
「くぅっ……!」
横一閃を身を捻らし、高跳びのように躱す。
そのまま攻撃を繰り出すが、それは回避される。
そして、反撃を着地した瞬間に受け止めさせられる。
「ッ!」
「甘い……ッ!?」
「それは、こっちのセリフです……!」
足払いを仕掛け、跳躍で躱される。
だが、そこから攻撃が繰り出されるよりも早く、ブレードを上に突く。
無造作で、威力ほとんどないが、これのおかげで桜さんの意表を突けた。
「(不完全でもいい!とにかく次の手を予想しろ!今こそ、はやてとの特訓を生かす時だ!)」
はやてとのチェス。あれは、所謂手の読み合いを鍛える手段だった。
ハンデありとはいえ、俺ははやてに勝てるようになった。
何百手と試せば、一手ぐらい桜さんの予想を超えることだってできるはずだ……!
「シッ!」
ギィイン!
「っと」
ナイフを投擲。弾かれた所へブレードを突き出す。
……が、あっさりと身を反らして回避。着地を狙っても意味がない。
「はぁっ!!」
「ふっ……!」
ギギギギィイン!!
“水”と“風”を宿した斬撃をいくつも繰り出す。
しかし、それらを桜さんは真正面から相殺してくる。
「そこだ!」
―――“明鏡止水”
「甘いッ!」
ギィイイイン!!
攻撃と攻撃の一瞬の合間を突き、“水”を宿した一撃を放つ。
防御も回避も困難な一太刀だが、桜さんも“水”を宿すことで、防がれてしまった。
……それでも、回避を選ばなかった時点で、絶対に通じない訳じゃない。
「今だ!」
―――“疾風迅雷”
さらにそこから、“風”を極めた超速の連撃を繰り出す。
並の相手であれば、剣筋が見えないまま切り刻まれるほど。
……だが、桜さんが相手の場合は別だ。
「はぁっ!」
―――“疾風迅雷”
「くっ……!!」
同じ技で、相殺される。
しかも、ほんの僅かとはいえ、後から繰り出したのに俺の方が押されていた。
「はぁっ!」
「ふっ!」
ギィイイイン!!
「シッ!」
「甘い!」
ギギギギィイン!
「ォオッ!!」
「はっ!」
ギィイイイン!!
“火”と“風”、“風”と“水”、“火”と“土”。
属性を組み合わせた動きで攻めても、全てが同じ動きで上回られる。
属性を三つに増やしても、それは同じだった。
「(だったら……!)」
今までは四つの属性を体に宿していても、攻撃の動きでは属性を減らしていた。
体の負担や、不安定さを考慮していたが……それでは、勝てないだろう。
そう考え、四つの属性を宿して動く。
「ふっ!」
「っ!」
ギギィイン!!
……手ごたえが、変わった。
今まではあっさりと相殺され、俺が押されていた。
だが、今回はきっちりと受け止められた。
「なる、ほど……!」
「ぜぁっ!!」
ギィイン!ギギィイン!!
関心したように桜さんは呟き、俺の斬撃を的確に捌く。
今までのように軽々と受け止められている訳じゃない。
手ごたえでわかる。これは、桜さんでも容易に受け流せる状態ではないという事だ。
「既に、そこまで来ていたか……!」
「シッ!!」
「っと……!」
ギィイイイイン!!
有無を言わせぬ一突きは、大きな音を伴って受け止められる。
だが、受け止めている桜さんのブレードは僅かに震えている。
軽々しく受け止めているんじゃない、“何とか”受け止めているんだ……!
「そこだぁっ!!」
「ッ……!」
ギィイン!!
桜さんの防御を崩すようにブレードを振るい、切り返しに胴を薙ぐ。
だが、それは跳躍で躱される。
「ふっ!」
「はぁっ!」
ギィイン!
だけど、先ほどまでのようにはならない。
俺が今までで積み重ねてきた全力を出せば、桜さんの動きにも対処ができる。
「ッ!」
「ッァ!!」
ギギィイン!
後は、はやてに鍛えられた“状況を読む”力で……!
ギィン!ギギィイン!
「っ、はぁっ!」
「ふっ……!!」
ギィイイイイン!!
……一体、何度剣を交えただろう。
互いに互いの攻撃は避け、防ぎ、受け流していた。
決してまともに攻撃を受けることはなかった。
だから、ここまで戦闘は長引いている。
「ふぅ……!」
「……生身でここまでやるのは、千冬や束、後は恭也ぐらいだったが……さすがだな」
「……全員、只者じゃない人たちじゃないですか……」
千冬姉や束さんは前々から知っていたけど、やっぱりあの人も人外級だったか……。
というより、御神流の使い手がおかしいだけか……。
「……ここまでこれたのは、協力してくれた皆のおかげです。……もちろん、俺を救い、鍛えてくれた桜さんも含めて」
「……そうか」
俺の本心からの言葉に、桜さんは僅かに顔を緩ませた。
……嬉しかった、のだろう。
「それと、知っているでしょう?八神はやて」
「……まぁな。……なるほど、そういうことか」
ギィイイン!
納得する桜さんに、容赦なく切りかかる。
「秋十君が俺の予想を上回ることが多くなっているのは、彼女の入れ知恵か」
「というより、鍛えてもらった感じです、ね!」
チェス自体は、実戦では何の役にも立たない。
だが、“如何に状況を切り抜けるか”といった、戦略の柔軟性は鍛えられる。
元々才能のない俺は、戦略の柔軟性も足りていなかったからな……。
「なるほど……なっ!」
ギィイイン!
「といっても、分かっていたでしょう!?」
「まぁ、な!」
渡り合う。押し負けない。防ぎ切り、躱し切る。
かつての俺じゃ、到底考えられない攻防を、桜さんと繰り広げる。
「しかし、どうした?お得意のあの連撃は使わないのか?」
「生半可な攻撃では、相殺してくるでしょう?まぁ、楽しみにしててくださいよ……!」
とは言うが、試してみる価値はあるだろう。
……まぁ、全身全霊の切り札ではないけどな。
「っ……ぜぁっ!!」
―――“ナインライブズ”
「こいつ、は……!」
ギギギギギギギギギィイイン!!
「っづぁ……!!」
けたたましい金属音が響き渡り、桜さんは大きく後退した。
それだけじゃない。支障はないだろうが、腕に負担をかけさせたようだ。
「はぁっ!」
「っ!」
追撃を放つ。だが、わかっていたことだ。
あっさりと、それは躱される。
「ぜぁっ!」
「っ……!」
ギィイン!!
躱された所からの反撃を何とか防ぐ。
すぐさま一度距離を取る。
「……さすがだな。今のは、驚いたぞ」
「防ぎきっておきながら、よく言いますね……!」
正直、もう少し効くと思っていた。
直撃は無理だとわかっていても、もっと後退させられると思っていた。
「だが、今のはあの連撃ではないな」
「当然です。あれは俺が切り札とするものじゃない。確かに、俺の持つ技の中でも上位に位置する技です。……が、あれで貴方を倒せるとは思っていない」
「……わかっていて、放ったのか?」
「倒せなくとも、効くとは思っていたので」
少しでも桜さんの体力を削れるのなら、試さない理由はない。
……同時に、これでは倒すことはできないと、確信させられる。
「(俺が考えた技では、通じるのは努力を結集させた連撃の類だけ。他にあるとすれば、同じようにありとあらゆる“想い”を詰め込んだ一撃のみ……)」
早すぎる故に斬撃が同時に見える。……それが俺の切り札となる技だ。
桜さんと束さんを大いに驚かせ、俺の切り札となった技。
それを放つタイミングは限られているし、容易ではない。
……だからこそ、確実に決めなければいけない。
「(それ以外は、全部それに繋げる“布石”にするしかない)」
元々、俺は別に多才じゃない。
はやてに鍛えてもらったといっても、戦略性は桜さんに大きく劣る。
「(最低でも体勢を崩してからじゃないと、あの連撃は入らない)」
万全にブレードを振るえない状態にしないと、まず俺の攻撃は通らない。
少なくとも、“生身”ではそうしないとダメだろう。
「っ……」
手汗が滲む。今までは、“勝てない”なりに桜さんに挑んできた。
だけど、今回は“勝たなければならない”。
“負けてもいい”と逃げていた訳じゃないが、その分の緊張がなかったのは確かだ。
その分のプレッシャーが、今はかかっている。
「……ふぅ……」
それだけじゃない。
俺がここまで桜さんと長く戦えた事はなかった。
模擬戦でも、以前の戦いでも、既に戦闘は終えているほど、決着は早かった。
体力に余裕があっても、その事実が俺を追い立てていた。
「(……だけど、それがどうした……)」
燻る気持ちを抑え込もうとする。
これは、緊張による恐れではない。……高揚、しているのかもしれない。
だからこそ、抑えなければ動きが緩慢になってしまう。
「……ふっ……!」
「っ……!」
ギィイン!!
戦闘再開だ。
息を整え、呼吸を整え、研ぎ澄ました一撃を放つ。
防がれてしまうが、別段驚く事ではない。
「さらに鋭く、重くなるか……!」
「はぁっ!」
二撃目を放つ。それも防がれるが、防御だけだから僅かに後退させた。
「ぉおっ!!」
ギィイン!!
さらに、三撃目。四属性を宿した三連撃に、桜さんはさらに後退する。
……これでも、後退止まりか。
「………!」
四属性を宿した一撃としては、間違いなく俺の放てる最大の鋭さだ。
だけど、防御に徹されれば、防御自体は容易い。
その上から攻撃を通せるほどの一撃だが……やはり、桜さんには通じない。
「ふっ……!」
「っ……!」
ギィイン!ギギギィイン!ギギィイン!!
ブレードが何度もぶつかり合う。
互いの力がぶつかり合い、相殺される。
……だけど、俺にはわかる。押されているのは、俺の方だと。
「くっ……!」
「ふっ……!」
躱し、斬り、防ぎ、また斬る。
ただ努力を重ねてきた一撃一撃は、無骨に見えて非常に洗練されたものとなっている。
それでも、通じず、防がれる。
「……!」
……わかっている。俺の実力は決して桜さんを上回っている訳じゃない事は。
俺が一つの事を習得している間に、十の事を習得できるのは桜さんだ。
そんな相手に、実力で上回れる訳がない。
……故に。
「しまっ……!?」
「隙ありだ」
こうして、拮抗していたと思われる攻防は、あっさりと崩れる。
「ぐっ……!」
僅かな隙を突かれ、俺は蹴り飛ばされた。
床を転がり、その勢いを利用してすぐに立ち上がる。
「っぁっ!!」
「ふっ!」
ギィイイイン!!
だが、立ち上がった瞬間に攻撃を防ぐ事になり、再び俺は体勢を崩す。
「ぉおおっ!!」
「っ!」
ギィイン!!
そして、次の追撃を……無理矢理防ぐ。
崩れそうになる体勢を、前に踏み出して無理矢理整える。
さらに、そこから今まで以上に鋭い一撃を放ち、相殺する。
「ぐ、っ……!」
「っ、そこからそう来るか……!」
何とかこの場は凌げたが、まだまだ劣勢だ。
俺の全てを賭しても勝てないほどの実力を持つ桜さんに勝つには……。
「(全てを賭した上で、限界を超えなければならない……!)」
一撃一撃を交える度に、痛感する。
俺の才能のなさを。桜さんの強さを
この覆す事を考えることすら烏滸がましい程の実力差を。
そして、何よりも“天才”というものを。
ギギギ、ギィイイイン!!
「っっ……!」
またもや押し負けるようにブレードが弾かれる。
即座に飛び退く事で、追撃は避けておく。
「ああっ!!」
ダンッ!ギィイン!!
そして、その直後に前進。
即座にブレードを振るう
「っ、はっ!!」
「ッ……!」
受け止めた勢いを利用して桜さんは薙ぎ払うようにブレードを振るう。
ギリギリしゃがんでそれを躱し、間合いがブレードでは近すぎる程に縮まる。
「ふっ……っ……!」
その状態から放つブレードの柄による打突。
だが、それは容易く受け止められる。
「っ……ぐっ……!」
それどころか、受け止められたせいで反撃の蹴りを躱せずに食らってしまう。
幸い、ガードはできたものの……。
「っつ……!」
腕に走る痛みに、顔を顰める。
ただでさえ実力に差があるのに、さらにハンデがついてしまった。
「(ああ、まったく、嫌になるぜ……)」
諦めるつもりは毛頭ない。
だけど、それでも思い知らされる。
「(……これが……天才……!)」
天才と、凡人の圧倒的差というものを。
「ぐ、がぁっ!?」
………また、床を転がる。
「くっ……!」
「遅いぞ」
「ぐぅっ……!」
起き上がって攻撃を凌ぎ、また床を転がる。
……途中から、この繰り返しだ。
「(ここで地力の差が出てきたか……!)」
どれだけ努力しても、俺では天才たる桜さんに地力で勝てない。
そして、その差による劣勢に、俺は追い込まれていた。
「……ここまでやられれば普通は敗北を悟って素直に諦めるか、醜くも力の差を認めずに喚くかのどちらかだが……やはりそのどちらでもないか」
「っ………!」
さっきまでよりも起き上がるのが遅い。
だが、それでも俺は立ち上がる。
……“勝つため”に。
「……力の差を理解している。そして尚且つ、“その上で勝つ”つもりか。……一見すればただの馬鹿だが……」
「………」
再び構える俺に、桜さんも言葉を区切って警戒を緩めない。
……ああ、桜さんの言う通りだ。俺は、諦めない。
「(まだ、俺は努力の全てを、見せていない……!)」
勝てる勝てない以前に、自分の全てを出し切っていないのに、そこで終わる訳に行くわけがないだろう……!
「っぁあ!!」
「っ!」
ギィイイイン!!
「ぜぇぁあっ!!」
ギギィイイン!!
執念とも取れる俺の攻撃が、桜さんを防御の上から押す。
……だが、それだけだ。
「ッ……!」
ギィイイン!
「攻撃は重く鋭くなっているが、動きが鈍っているぞ?」
「ぐ、ぁあっ!?」
次に繰り出した一撃は躱され、そのまま懐への一撃が繰り出される。
辛うじてブレードを引き戻し、防ぐことは出来たものの、また吹き飛ばされる。
………これで、14回目……。
「どうした。攻撃以外を疎かにしては意味がないぞ」
「っ………」
桜さんの言葉を聞き流しつつ、よろよろと立ち上がる。
「(単に競り勝つことは不可能。いくら手を変えても、それは変わらない。だったら……!)」
立ち上がる俺へ、容赦なく桜さんは攻撃してくる。
それに対し、俺は……。
「シッ……!」
「ッ……!」
互いのブレードは、ぶつかり合わない。
桜さんのブレードは、俺の脇腹を掠め、俺のブレードは桜さんの頬を掠めた。
……捨て身のカウンターだ。
「っ、そう来るか……!」
「やっと、攻撃が入った……!」
ただのカウンターでは、まず成功しないし、したとしても防がれる。
だけど、どんな天才であろうと、変わらないことはある。
それは、攻撃と同時にカウンターへの対処は不可能だということ。
カウンターする側であれば、回避or防御と同時に攻撃は可能だが、その逆の場合はどうあっても同時は無理だ。……やる場合は、どうしても攻撃を中断するか、後回しにする必要がある。
「(如何に反射神経が鋭く、超人的な身体能力であろうと、これなら……!)」
もちろん、問題はある。
攻撃が中断されないタイミングは、俺も回避や防御が不可能なタイミングだ。
カウンターをすればするほど、俺へのダメージは桜さん以上に蓄積する。
「はぁっ!」
「っ……!」
ギギギィイン!!
体に走る痛みを無視して、再びブレードを振るう。
攻撃を与えるのは捨て身のカウンターだが、そこに繋げるために攻防は必須だ。
「(……と、言いたい所だが……)」
ブレードを交える。攻撃を防ぐ、躱す、繰り出す。
……だが、まったくカウンターのタイミングが来ない。
「(……当然と言えば、当然か)」
カウンターに危険性があるならば、それができないように動けばいい。
桜さんはそういうつもりなのだろう。
ギィイイン!!
「……知っていますか?桜さん」
……ああ、まったく……。
「俺、無茶するタイプなんですよ」
瞬間、桜さんの顔が初めて驚愕に染まった。
……当然だろう。なぜなら。
「秋十君、何を……!?」
「これでも、痛みには耐性があるので……!」
“捨て身”なんてものじゃない。
攻撃を無視した攻撃。そんなことすれば、一撃だけで俺はただでは済まない。
「まったく、予想外なことを、してくれる……!!」
俺のブレードは、桜さんの肩に掠めるように刺さっている。
対し、桜さんのブレードは、俺の肩から腹を切り裂くように振るわれていた。
覚悟していたのより傷が浅いのは、寸前で桜さんがブレードの勢いを緩めたからだろう。
「そんなのはカウンターなんて代物じゃない。ただ防御を捨てただけだ……!」
「……おかげで、攻撃は通じましたけどね……!」
直後、俺は蹴り飛ばされる。
「馬鹿野郎……!多少の無茶は見逃したが、そんなのはただの自殺行為だ!」
「……わかってますよ。こんなの、何度もできる訳がない」
桜さんの顔は確かに驚愕に染まった。
だけど、それは俺が無茶をしすぎている事に対してだった。
「……さぁ、まだ終わってませんよ……!」
「っ……!」
桜さんは言葉を詰まらせる。
それは、怒りからか、それとも……。
「無茶も大概にしろよ!」
その言葉と共に、桜さんは斬りかかってくる。
さて、ここで今一度考えてほしい。
人が、人体が“最も効率よく”体を動かす時はどんな時だろうか?
少なくとも、“こう動かそう”と考えている間は決して最適ではないだろう。
……だから、俺はこう考える。
ギィイン!!
「……無意識化の動きが、最も強いんだってね……!」
「ッ……!」
素早く脱力した状態から放たれたブレードが、桜さんの攻撃を弾く。
そう。無意識の動き……“体が勝手に動く”のが一番効率がいい。
効率よく、そして俺の努力の成果が最大限に発揮される。
「……まさか、ここまで計算して……!?」
「計算……なんてものじゃないですよ。ただ追い詰められただけ。それだけです」
これに気づいたのは、恭也さんとかと手合わせをしていた時だ。
無茶に無茶を重ね、いざ模擬戦を終わらせようと恭也さんが動き……。
……気が付けば、逆に俺が恭也さんを追い詰めていた。
つまり、俺が意識して体を動かせなくなった時が、俺の真価が発揮される時だ。
「……俺の努力の真髄、お見せします」
……戦いは、これからだ……!
後書き
明鏡止水…言葉通りのような、澄んだ一太刀。たった一撃だが、“水”を極めることでその回避は非常に困難なものとなる。また、防御をすり抜けるように繰り出すことも可能。
疾風迅雷…“風”を極めた剣技。非常に速い連撃を一気に叩き込む。
ナインライブズ…九重の高速且つ重い連撃を繰り出す。並大抵な相手だとこれだけで簡単に押し勝てるほどに強力な技。なお、連撃速度は二重之閃などには劣る。技名は九連撃繋がりでFateから。
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