英雄伝説~西風の絶剣~
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第43話 黒装束の襲撃
side:エステル
エルモ村で一泊したあたしたちはマオお婆さんにお礼を言ってドロシーを連れてツァイスに向かっていた。
「はぁ~、それにしても朝の温泉も気持ちがいいものだったわね。病みつきになってしまいそうだわ」
「お肌もツルツルになるしこれだから温泉は止められないのよね~」
ドロシーと温泉について話しながら歩いていると前方から東方風の服装をした大きな男性がこちらに歩いてきていた。
「よう、お嬢さんがた。ちょいと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「へっ……?」
「わぁ、背のおっきな人……」
「はわわ、く、熊さん!?」
まさか声をかけられるとは思っていなかったのであたしたちは驚いてしまった。でもドロシー、流石に熊っていうのは失礼でしょう。
「熊って……まあいいか。エルモっていう温泉地がどこにあるか知らないか?」
「それならここから南に向かって街道沿いに行けばありますよ」
「おお、そうか。不案内だったから助かったぜ、ありがとうな」
男性はあたしたちにお礼を言ってエルモ村の方に歩いていった。
「なんか飄々とした人だったわね」
「でもあの鍛え上げた身体はタダものじゃないと思う」
「ねえリィン、さっきの男性って……」ボソッ
「ああ、教団壊滅作戦の時に見た事がある。話していないから印象に残ってないはずだけど一応警戒しておこう」ボソッ
あたしとヨシュアがさっきの男性について話しているとリート君とフィルがなにかを話していた。
「二人とも、どうかしたの?」
「え?ああ、アイナさんやシェラザードさんたちのおみやげはちゃんと買ったか確認していたんですよ」
「ばっちし買ってたから大丈夫」
「なんだ、深刻そうに話していたと思ったらそんなことだったのね」
「あはは、すいません」
その後は特に問題もなくツァイスに着くことが出来た。
―――――――――
――――――
―――
「あれ、なんだか騒がしくない?」
ツァイスに着いたあたしは街の様子がおかしいことに気が付いた。
「確かに遠くからなにか騒ぎのようなものが聞こえるね」
「ん、中央工房の方からだね」
「えっ……!?」
「とにかく行ってみましょう」
あたしたちは急いで中央工房に向かった。
「な、何よアレ!?」
中央工房の前にある広場に着いたあたしたちの目に映ったのは煙をあげた中央工房から必死で逃げてくる人たちの姿だった。よく見ると一昨日の夜に知り合ったマードック工房長さんがいたので彼から話を聞く事にした。
「工房長さん!」
「君たちはエステル君とヨシュア君、それにティータ君じゃないか。エルモから戻って来ていたのだね」
「一体何の騒ぎなの!?」
「どうやら建物内部で何かのガスが発生したらしい、地下から5階まで煙まみれだ」
中央工房から出ていた白い煙はガスだったのね。地下まで煙まみれになるなんて一体何があったのかしら。
「原因は火事ですか?」
「いや、消火装置が作動してないから火事ではないようだ。だが何故煙が出ているのか全く分からなくてね」
火事じゃないとするとどうして煙が発生したのかしら。
「あ、あの、工房長さん。おじいちゃんはどこですか?」
「えっ、その辺りにいないのか?ヘイゼル君、確認はしたんじゃなかったのかね?」
「それが職員の確認はすんでいますがラッセル博士の退去はまだ……」
「!!」
「なんだって!まだ中に残っているのかも知れないのか!?」
なんてことなの、ラッセル博士があの中にいるかもしれないですって!?
「工房長さん、ここはあたしたちが様子を見てくるわ」
「分かった。君たちに任せよう」
「わ、私も連れて行ってください!」
「えぇ!?」
あたしとヨシュアが中に入ろうとするとティータが一緒に連れて行ってほしいと頼んできた。
「駄目よ、危険だわ!」
「私なら中央工房に詳しいから……お姉ちゃんたちをちゃんと案内するから!」
「ティータ……」
……無理もないわよね、自分の家族の安否がかかっているんだもの。よし!
「分かった。一緒に行きましょう」
「ただし、危なくなったら直に戻ってもらうからね」
「う、うん……」
「エステルさん、ヨシュアさん。気を付けてください」
「ティータもね」
「ええ、それじゃ行ってくるわ!」
あたしとヨシュアはティータを連れて煙が立ち上る中央工房に突入した。
「凄い煙ね。あれ、でもそこまで息苦しくないわ」
「これは……多分、撹乱用の煙幕だと思う。フロアのどこかに発煙筒が落ちているはずだ」
「発煙筒って……誰がそんなものを?」
「分からない、今はこの煙をどうにかしよう」
「分かったわ、煙を消しながらラッセル博士を探していきましょう」
あたしたちは各フロアに落ちていた発煙筒を解体しながら3階の工作室に向かった。
「おじいちゃん、大変だよ!あ……」
工作室にはラッセル博士の姿はなく機械だけが動いていた。取りあえず危ないので機械は止めておいた。
「ど、どうして機械だけが動いていたのかしら?」
「博士もだけど黒のオーブメントも見当たらない。これはひょっとしたら……」
「フン、ここにいやがったか」
背後から誰かに声をかけられたので振り返ってみるとそこにいたのはなんとアガットだった。
「ア、アガット!?」
「どうしてこんな所に……」
「そいつはこっちの台詞だぜ、騒ぎを聞いて来てみりゃまたお前らに先を越されるとはな。ったく、半人前の癖にあちこち首突っ込みすぎなんだよ」
「こ、こんの~……相変わらずハラ立つわねぇ!」
「あの……お姉ちゃんたちの知り合いですか?」
「ん?おい、何でガキがこんなところにいやがる」
アガットはティータを見ると鋭い眼光で睨みつけた。するとティータは怯えた様子であたしの背後に隠れた。
「ひっ……!」
「ちょっと!ティータに酷い事しないでよ!」
「……チッ、言いたいことは山ほどあるが今は後回しだ、何があったんだ?」
「はい、実は……」
あたしたちは発煙筒が置かれていた事、ラッセル博士と黒のオーブメントの姿が無くなっていることをアガットに説明した。
「フン、発煙筒といいヤバい匂いがプンプンするぜ。時間が惜しい……とっととその博士を探し出すぞ!」
「うん!」
あたしたちはアガットも加えてラッセル博士を探すことにした、だが地下から4階を探してもラッセル博士は見つからなかった。後は5階と屋上しかないのでまずは5階から捜索することにした。
「あれ、どうして扉が開いてるのかしら」
5階に上がると演算室の扉が開いており奥から誰かの声が聞こえてきた。
「……待たせたな。最後の目標を確保した」
「よし、それでは脱出するぞ」
「用意は出来ているのか?」
今の声って……まさか!
「ヨシュア!」
「うん、今の声はラッセル博士や中央工房の関係者じゃない。多分発煙筒を仕掛けた奴らだ」
「急ぐぞ!エレベーターのほうだ!」
急いでエレベーターの方に向かうと何者かに拘束されたラッセル博士がエレベーターに乗せられようとしていた。あいつらってボースやルーアンで見た黒装束どもじゃない!
「いた……!」
「てめえらは……!」
「む……貴様はアガット・クロスナー!?」
「面倒な……ここはやり過ごすぞ!」
黒装束たちはエレベーターに乗って行ってしまった。
「おい、階段に向かうぞ!」
あたしたちは非常階段で1階に向かった。
―――――――――
――――――
―――
side:リィン
エステルさんたちが中央工房に入ってから数十分が過ぎた。さっき遊撃士のアガットさんが中央工房に入っていったがツァイスに来ていたのか……彼もフィルを探してもらった人の一人だったのでお礼が言いたかったが直に行ってしまったのでそれは出来なかった。
「アガットさんがツァイスに来ていたのは知らなかったな。でも彼がここにいるという事はあの黒装束たちもツァイスにいるという事か?」
「分かんない、でもアガットは黒装束たちを追っているって聞いたから可能性は高いと思う」
それから少ししたら白と青の軍服を着た軍人たちが現れた。
「あの軍服は確か女王陛下直属の王室親衛隊……なぜこんなところに?」
「怪しいね……」
親衛隊を名乗る軍人たちはエア=レッテンの関所からカルデア隧道を通って駆け付けたらしく「事件は解決した、遊撃士たちに後を任せて自分たちは騒ぎの原因となったものをレイストン要塞に運ぶ」と言って去っていった。
「……フィー、行くぞ」
「了解」
俺とフィーは人目が付かないようにその場を離れて親衛隊の後を追った。奴らはレイストン要塞に続くリッター街道ではなくトラット平原道の方へと向かっていた。
「レイストン要塞はリッター街道を通らなくては行けないのに、全く関係のないトラット平原道に向かうとはもうこの時点で怪しいな」
「あいつらはどこに行くのかな、もしかしてヴォルフ砦からカルバート方面に逃げる気じゃ……」
「軍だってバカじゃないんだ、いくら親衛隊の恰好をしていようとあんな大きな荷物を何も検査しないで通しはしない。連中だってそれは分かっているはずだ」
「そうだよね。でもあいつら何者なんだろう、かなり警戒してるからここまで離れていないと感づかれてしまいそうだね」
「ああ、ここは見失わない程度に離れて慎重に後を追おう」
「了解」
暫く親衛隊の行く先を探っていると奴らは大きな紅い塔の内部に入っていった。
「あれは塔か……そういえばアルバ教授がリベールには4つの塔が各地方に一本ずつ存在するって言ってたな。あれもその一つか」
「……」
「あ、すまない。フィーはアルバ教授が怖かったんだよな」
「ん、今は平気。それよりもこのことをエステルたちに話にいこう」
「ああ、直に向かおう」
俺たちは急いでツァイスの街の戻りエステルさんたちを探しにギルドへ向かった。遊撃士であるエステルさんたちならまずそこに向かうだろうと思ったからだ。
「エステルさん!」
「あ、リート君にフィル。どこにいたの?姿が見えないから心配してたのよ」
「ん?お前らは例の兄妹じゃねえか、なんでツァイスにいやがるんだ?」
「あっ、あなたがアガットさんですか?俺はリートといいます、妹がお世話に……」
「んな話はいい、なにか言いに来たんだろう。時間がねえからさっさと話せ」
「あ、はい。実は……」
俺は親衛隊がトラット平原道の紅い塔に入っていったことをエステルさんたちに話した。
「それは本当なの?」
「はい、間違いありません。遠くから奴らを見ていましたが絶対にそこに入っていきました」
「おい、ちょっと待て。まさかお前、そいつらの後を追ったんじゃないだろうな?」
「え、それは……」
すると突然アガットさんが俺の胸倉をつかみ上げてきた。か、片腕で俺を持ち上げるなんて……
「てめぇ、遊撃士でもねえ癖になに勝手な事をしてやがる!シロウトがウロチョロしてんじゃねえよ!!」
「ぐっ、うぅ……」
「アガット!止めなさいよ!今はそんなことをしてる場合じゃないでしょ!!」
「……チッ、確かにその通りか。小僧、てめぇへの仕置きは後回しだ。あいつらをとっ捕まえるために紅蓮の塔に急ぐぞ!」
アガットさんは俺を離してエステルさんとヨシュアさんを連れて塔にも向かおうとする。だがそこにティータが何か言いたそうにアガットさんの前に立った。
「あん、何か用かよ?」
「……お願いします!私も連れて行ってください!」
「はぁ?」
ティータの突然の頼みにアガットさんは呆れたような表情を浮かべた。
「あのなチビスケ、お前を連れていける訳ねえだろうが。常識で考えろや、常識で」
「で、でもでも!おじいちゃんが攫われたのに私、私……!」
「でももくそもねぇ。ハッキリ言って足手まといだ、付いてくんな」
「……っ!!」
アガットさんはきっぱりとティータに足手まといだと告げた、ティータは今にも泣き出してしまいそうだった。
「ちょ、ちょっと!少しは言い方ってもんが……」
「黙ってろ。てめえだって分かってるはずだ。シロウトの、しかもガキの面倒見ながら相手できる連中じゃねえだろうが、あいつらは」
「そ、それは……ねえヨシュア、何か言ってよ」
「……残念だけど僕も反対だ。あの抜け目ない連中が追撃を予想していない訳がない。そんな危険な場所にティータを連れてはいけないよ」
「ヨ、ヨシュアお兄ちゃん……」
エステルさんはヨシュアさんに助けを求めた。だが流石に今回ばかりはヨシュアさんもティータを連れていくことには反対のようでティータはヨシュアにも反対されたことで泣く一歩手前まで追い詰められていた。
「う~っ……ごめん。ティータ。やっぱ連れてはいけないみたい……」
「エ、エステルお姉ちゃん……ひどい……ひどいよぉっ……」
「ティータ!」
ついにティータは泣き出してしまいギルドから出て行ってしまった。
「エステル、ティータはわたしたちに任せて。行こう、リート」
「……ああ」
俺とフィーはティータを追うためにギルドの外に向かった。
―――――――――
――――――
―――
side:??
「エステルお姉ちゃんもヨシュアお兄ちゃんもひどいよぉ……」
ギルドから飛び出したティータは発着場の隅で泣いていた。エステルとヨシュアなら絶対に自分を連れて行ってくれると信じていたが結果的には無理だと言われたことでティータは深い悲しみに落とされていた。
「おじいちゃん……私、どうしたらいいの……」
大好きな祖父が連れ去られて心配でたまらなかった、自分も助けに行きたかった。でもアガットからはっきりと足手まといと言われてしまい彼女の心は悲しみに沈んでいた。
「おや、どうかしたんですか?こんなところで泣いたりして……」
泣いていたティータに誰かが近づいてきて声をかけた。ティータが顔を上げるとそこにいたのは眼鏡をかけた男性だった。
「あ、あなたは……?」
「おや、これは失礼しました、私はアルバと言います。こう見えて考古学者をしているんですよ。それにしてもどうしたんですか、こんな人気のない所にいたら危ないですよ?最近は何かと物騒ですからねぇ」
「……」
「……何か悲しい事があったんですか?もし良かったら私に話してくれませんか、親しい人物よりも知らない人間の方が気楽に話せることもあると思いますしこれも何かの縁です」
「……実は」
ティータは初めてあったはずのアルバ教授に何故か警戒心を抱くこともなく自分の周りで起きたことを話し出した。
「……なるほど、あなたの祖父が何者かに誘拐されて自分も助けに行きたかったが反対されたのですか。それは悲しいですねぇ、気楽に話せだなどと言って申し訳ありません」
「……いいんです、私が足手まといなのは事実ですから」
「……ティータさんといいましたか?あなたはどうしたいんですか?あなたの祖父を助けたくはないのですか?」
「助けたいです!でも私は足手まといだから……」
「……なら私が力を貸してあげましょう」
「えっ、それってどういう……」
ティータは最後まで台詞を言う前に倒れてしまった。アルバ教授はそんなティータを見るとクスッと笑みを浮かべた。
「折角の余興です、少しくらいハプニングがあったほうが面白いですからね……」
―――――――――
――――――
―――
その頃リィンとフィーは飛び出したティータを探してツァイスの街を捜索していた。だがティータは一向に見つからなかった。
「中央工房にも自宅にもいないとは……ティータ、どこに行っちゃったんだ?」
「まさか一人でラッセル博士っていう人を助けに行ったんじゃないよね?」
「それはないと思う、街の出入り口は軍人が今見張ってるからティータが一人で出ようとしたら止めるはずだ」
「ならどこに……」
「おや、君たちはまさかリート君たちじゃないですか?」
ティータがどこに行ったか分からない二人は困り果ててしまう。そこに何者かが声をかけてきた。
「あなたは、アルバ教授じゃないですか」
「……っ!」
フィーはアルバ教授の姿を見るとリィンの背中に隠れてしまった。
「お久しぶりですね、まさかツァイスでも会えるとは思ってもいませんでしたよ」
「……お久しぶりです。教授は紅蓮の塔を調べに来ていたんですか?」
「ええ、でもその前にエルモの温泉地で温泉に入ってきたんですよ。いやぁ、あそこの温泉は素晴らしいですねぇ、頭が冴えわたって今ならいい結果が出せそうな気がしますよ。今はツァイスで道具をそろえてから紅蓮の塔に向かおうとしてた所です」
「ではまだ紅蓮の塔には行ってないんですね、それならちょうど良かった」
「おや、何かあったのですか?」
リィンは紅蓮の塔に黒装束の集団がいることをアルバに話した。
「……なるほど、そんな輩がいるんですね。はぁ~、良かった、危うく鉢合わせになるところでしたよ」
「今遊撃士の方々が紅蓮の塔に向かったばかりなので暫くは近づかない方がいいですよ」
「ご忠告ありがとうございます。ですがそうなるとトラット平原道で見たあの少女が心配ですね……」
「少女?……それってまさか紅いツナギや帽子を身に着けた女の子じゃないですか?」
「おや、よくわかりましたね、その通りです。この街の途中にあるトラット平原道の分かれ道でその少女が紅蓮の塔の方に向かっていたんですよ。声をかけても振り返らず行ってしまいましたね」
「そんな……!!」
「リート!」
「ああ、急ごう。アルバ教授、すいませんが今はこれで失礼します!!」
リィンとフィーはアルバの話を聞いて大急ぎで紅蓮の塔に向かった。
「王国軍は何をやっていたんだ!ティータを見逃すなんて!」
「不味いね、今頃エステルたちが紅蓮の塔に入ったくらいだからもう戦闘が始まってるかもしれない」
「そうなっていたら最悪巻き込まれてしまうかも知れない。いくらB級遊撃士のアガットさんがいるとはいえあいつらは油断のできない奴らだ、何が起こるかは分からない!ティータが塔に入る前に何とか合流するぞ!」
「了解!」
リィンとフィーは急ぎ紅蓮の塔に向かった。
紅蓮の塔に向かったリィンとフィーだったが道中ではティータを見つけることはできなかった。
「草原をあちこち探したけどいなかった、という事は……」
「もう塔内部に入ってしまっているのか……くそっ、エステルさんとヨシュアさんに申し訳がない!」
「まだ終わった訳じゃない、今から行けばまだ間に合うかも知れない」
「……そうだな、後悔はやってからしよう。行くぞ、フィー!」
「ん、了解」
二人はそう言うと紅蓮の塔内部に入っていった。魔獣を倒しながら塔の屋上に向かうとアガットさんがティータを庇って敵の攻撃を受けているのが目に映った。
「しまった……!」
「遅かった……」
黒装束たちはその隙に飛行艇にラッセル博士を乗せて逃げていってしまった。
「エステルさん!ヨシュアさん!」
「リート君!フィル!」
「どうしてここに……」
「すいません、街でティータを探していたんですがアルバ教授が紅蓮の塔に向かっているのを見たと聞いて急いで来たんですが……」
「間に合わなかったみたいだね、ごめん……」
どうやら間に合わなかったようだ、くそっ、俺たちがティータを見つけられなかったばっかりに敵には逃げられてしまうしラッセル博士は連れ去られてしまった。
「とりあえず今はツァイスに戻ろう、あの飛行船の事をギルドに報告しないと……」
「ティータ、怪我はない?」
「……なんで……どうしておじいちゃんが……ひどいよ……どうしてぇ……」
「おい、チビ」
アーツで怪我を直したアガットさんはティータの頬にビンタをした。
「……あ」
「言ったはずだぜ、足手まといは付いてくんなって。お前が邪魔したお陰で爺さんを助けるタイミングを逃した。この責任……どう取るつもりだ?」
「あ、私……私……そんなつもりじゃ……」
「おまけに下手な脅しをかまして命を危険にさらしやがって……俺はな、お前みたいに力も無いくせに出しゃばるガキがこの世で一番ムカつくんだよ」
「ご……ごめ……な……さい……」
ティータは自分がしてしまった事の重大さに気が付いて今にも心が崩れてしまいそうなほどの後悔に襲われているんだろう、その瞳からは大きな涙がこぼれ落ちていた。
「……おい、チビ。泣いたままでいいから聞け」
「うぐ……ひっぐ……?」
「お前、このままでいいのか?爺さんの事を助けないでこのまま諦めちまっていいのか?」
「うううううっ……」
「諦めたくないんだろう?なら腑抜けてないでシャキッとしろ。泣いてもいい、喚いてもいいからまずは自分の足で立ち上がれ。てめえの面倒も見れねえ奴が人助けなんかできる訳がねえだろ?」
「……あ」
アガットさんは彼なりにティータを勇気づけたんだろう、ティータは次第に泣くのを止めて目をふいた。
「ティータ、その……」
「……大丈夫だよ、お姉ちゃん。私、もう一人で立てるから……」
「……へっ、やればできるじゃねえか」
「あ、あの……アガットさん」
「なんだ?文句なら受け付けねえぞ」
「えと……あ、ありがとうございます。危ない所を助けてくれて……それから励ましてくれてありがとう」「は、励ました訳じゃねえ!メソメソしてるガキに活を入れてやっただけだ!」
「ふふ……そーですね」
アガットさんは必至で否定するが顔を真っ赤にしているから説得力がまるでない、アガットさんとティータのやり取りを見ていた俺たちはクスリと笑いだしてしまった。
「ぐっ……大体お前らもなんでここにいやがる!シロウトが出しゃばるなって言っただろうが!」
「す、すいません……」
「……まあ俺がこのチビを追い詰めちまったのかも知れんし今はいい。取りあえず速攻でギルドに戻るぞ、連中の背後にかなりの大物がいるのは間違いない。気は進まねえが軍と協力する必要もあるだろう」
「うん、そうね……」
「急いだほうがよさそうですね」
「ならさっさと……ぐっ!?」
アガットはその場に膝をつき苦しそうに胸を抑えていた。
「ア、アガットさん!?」
「ちょっと、どうしたのよ!」
「チッ、俺としたことが油断しちまったか……」
俺たちはアガットさんに駆け寄るが彼の顔は真っ青になっておりかなり苦しそうな様子だ……まさか!
「さっきティータを庇って受けた攻撃に毒があったんじゃ……」
「た、大変じゃない!すぐに回復しないと!」
エステルさんはアーツを使って毒の解除を試みたが効果は無い様だ。
「効いてない?ただの毒じゃないってことなの?」
「アガットさん!しっかりしてください!アガットさん!」
「とにかく急いで街に運ぼう!」
俺たちは倒れたアガットさんを連れて急いでツァイスに戻った。
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