天体の観測者 - 凍結 -
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月光校舎のエクスカリバー
聖剣エクスカリバー(笑)
前書き
連続投稿です
「…。」
暇だ。
現在ウィスは暇を持て余していた。
ウィスは今、オカルト研究部の部室内のソファーでくつろいでいた。
レーティングゲームは無事リアスの勝利に終わった。
全て此方の計画通りである。
レイヴェル・フェニックスとも出会い、有意義な時間を過ごすことができた。
リアスの婚約騒動も正規の方法で破談と化し、彼女は心からの笑顔を浮かべている。
ウィスは大満足である。
久方ぶりに他人を鍛え、リアス達の実力を底上げする修行の取り組みは実に有意義な時をウィスに与え、生の存在を強く感じさせた。
そう、自分は暇が大嫌いなのである。
悠久の時を生きる自分にとって娯楽とは切っても切れないもの。
心の隅で常に娯楽と愉悦を求め続けているのだ。
この駒王学園に入学したのもその一つ。
自分は遥か以前から生に対する強い刺激を、愉しみを、娯楽を、そして久しく感じていなかった学生としての何気ない日常が欲しかったのだ。
確かに学校生活は愉しい。
何気ない日常、会話、生徒との交流、学生の本業である勉学に取り組む日々。
自分が求めていたものが溢れていた。
だがそれでも現在ウィスは暇であった。
寝そべるように自分に覆い被さっているオーフィスは静かに眠っている。
本当にこの小さな少女がこの世界の頂点なのかと疑ってしまうような光景だ。
此方の気も知らないで。
先日、使い魔を手に入れるべくリアス達と共に使い魔の森に出向いたことは記憶に新しい。
森の生物達がウィスの姿を目にした途端首を垂れ、平身低頭したことは強く脳裏に焼き付いている。
何か面白いことが起きないかとウィスは寝転がりながら漠然と部室の天井を見上げた。
「あら、ウィス。貴方もう部室に来てたの?」
思考に没頭する自分の耳にこの部室の主であるリアスの声が響いた。
本日の授業を終え、誰よりも先にこの部室に来たようだ。
「何だリアスか…。」
「随分な物言いね。私で悪かった?」
むっとした様子で頬を少し膨らませ、此方をジト目で見てくるリアス。
やはり今の彼女は以前よりもどこか肩の力が抜けたように見える。
笑顔を浮かべることも増えた。
「いや、別にそんな意味合いで言ったわけじゃないんだが…。」
ウィスはオーフィスを抱え、だるそうにソファーから起き上がる。
「まあ良いけど…。隣、失礼するわよ。」
返答を聞くことなくリアスはウィスの隣に座る。
「…。」
仕方なしとばかりにウィスは頭を掻くしかない。
「…それにしてもウィス、貴方やっぱり口調を時折変えるわね。」
今はどこかフランクな口調だし、とリアスは以前から気になっていたことを指摘する。
「まあ、敬語は会話の潤滑油と言うからな。時と場合に応じて私は遣い分けているんですよ。」
こんな風にね、とウィスは即座に口調を変化させる。
成程、とリアスは合点がいったとばかりに首肯する。
「それにしてもウィス、貴方暇そうね。」
「その通り。現在自分は暇で暇でしょうがない。」
正解とばかりにウィスはリアスを指差す。
「丁度退屈しのぎにリアス達を鍛えようかと思っていたところだ。」
そう、以前より更にキツイ修行を計画してある。
「そ…それはまた別の機会にお願いするわ…。」
冗談ではない。
漸く結婚騒動の収まりがついたというのに切実に止めて欲しい。
今度は冗談抜きで死んでしまう。
「おや、それは残念。」
ウィスも軽い冗談であったようで直ぐに興味を失った様子を見せる。
「「…。」」
その場を静寂が支配する。
ウィスは完全に脱力しているのに対し、リアスはどう言葉を切り出すべくか迷っているようであった。
ウィスは再びぐでーと寝そべる。
完全に脱力してしまっている。
暇だ。
暇すぎる。
「…ねえ、ウィス。」
「…?」
コテンと首を傾げ、ウィスはリアスを見据える。
リアスはウィスの顏を自身の膝へと誘導し、顏を近付けた。
交錯するウィスとリアスの視線。
あと一歩踏み出せば顔と顏がくっつきそうだ。
「貴方って一体…。」
リアスがウィスへと問いかけようとした刹那…
「やっと授業が終わったー!」
「お疲れさです、一誠さん。」
「お腹が空きました…。」
「あらあらリアス、一体ウィスと何を話しているんですか?」
愛する眷属達である朱乃達が入室してきた。
「…っ。」
仕方ない。
この問いはまた今度にしよう。
リアスは此方を追究するように鋭く射抜く朱乃から目を離し、心の隅にこの疑問を置いて置くことにした。
「「…。」」
静寂が辛い。
切実に一誠達はそう思う。
「おい、どうするんだよ、木場。この空気。」
「ごめんね、一誠君。この状況は僕ではどうしようもできないよ。」
一誠と木場の2人は顔を寄せ合い、ひそひそと話し合う。
前を見ればウィスを挟み合うように睨み合うリアスと朱乃の姿があった。
完全に修羅場と化している。
朱乃はウィスの腕に抱きつき、対するリアスは苦笑しながらもその場を離れない。
リアスと朱乃の2人に挟まれたウィスは全く動じることなく、ケーキを頬張っている。
オーフィスも何時の間にか目を覚ましウィスから餌付けされ、口周りをクリームだらけにしていた。
彼女の隣には小猫がウィスの膝上に座り、同じくケーキを食している。
ウィスと彼女達は相変わらず通常運転であった。
「失礼する。此処がリアス・グレモリーの住処で合っているだろうか。」
そんな緊迫とした部室に如何にも不審者の風貌の身なりの2人が部室の扉を開ける。
深々とその大きな外套を羽織り、その2人は入室してきた。
▽△▽△▽△▽△
「今回私達が此処を訪れたのは…。」
うーむ、デリシャス。
我ながら素晴らしい出来ばえ。
「つい先日教会側が有していたエクスカリバーが盗まれたの。…」
無視、無視。
「エクスカリバーは先の大戦で折れて…。」
無言の催促を促す小猫の小さい口にスプーンを運ぶ。
「今ではエクスカリバーは7本に分かれ…。」
次はオーフィス。
もきゅもきゅと咀嚼音を鳴らしている。
可愛い。
「…そしてこの聖剣が『破壊の聖剣』、教会が有している7つの聖剣の一つだ。」
エクスカリバー(笑)が取りだされる。
パチモン、此処に極まりである。
緑メッシュの女性に続き栗色の髪の女性が前に出る。
「そして私が持っているのが擬態の聖剣、形を自由自在に操ることができるの。」
エクスカリバーを此処まで侮辱されると最早笑えてくる。
何故、アーサー王が有していたエクスカリバーを教会が所持しているのかを誰も疑問を持たないのか。
あんなものが伝説の聖剣なわけがない。
加えて、7つに分割されたことにも何か恣意的な悪意を感じる。
「そして今回教会から聖剣を奪ったのは神の子を見張るものの幹部、コカビエルだ。」
「コカビエル…!」
思わぬ大物の登場に目を見開くリアス。
コカビエル、古の闘いを生き残った猛者にして聖書にその名を刻まれた堕天使の幹部。
彼女達曰くそのコカビエルは既にこの駒王町に潜入しているとのこと。
奪取した3本の聖剣を所持し、この町にて良からぬことを企んでいるのだと。
この案件は教会で処理し、リアス達悪魔には一切の協力を仰がないとも豪語する。
今回はその提案を此方に述べにきたらしい。
見れば両者は今もなお互いに睨み合い、話は平行線を辿っていた。
「貴方達以外に教会側から援軍は派遣されるのかしら?」
「いいや、私達2人だけだ。」
そして驚くことに教会側から派遣されたのは彼女達だけらしい。
「…無謀ね。貴方達確実に死ぬわよ?」
呆れたようにリアスは嘆息する。
それはそうだ。
いくら聖剣を有しているとは言え相手はあの堕天使の幹部のコカビエル。
これでは死ににいくようなものだ。
「そうね。死ぬでしょうね。」
「私もそう理解しているが、できれば死にたくはないな。」
だが彼女達はそんなリアスなりの気遣いを一掃する。
「やっぱり貴方達のその常軌を逸した狂信は理解できないわね…!」
苦虫を嚙み潰したような表情でリアスは彼女達を非難する。
駄目だ、こいつら…早くなんとかしないと…
「我々の信仰を馬鹿にしないでいただこうか、リアス・グレモリー。」
「ゼノヴィアの言う通りだわ。教会の上層部の意向は最悪奪われた聖剣の破壊。堕天使に利用されるくらいなら聖剣を全て破棄せよとの命よ。その命令を遂行するためならば私達は死も厭わないわ。」
主のため、教会のため。
彼女達は死さえも恐くないと言う。
リアス達は彼女達の狂言に当てられ言葉も出てこない様子だ。
だ…駄目だ…笑うな
く、しかしっ!
「まさか君は魔女のアーシア・アルジェントか?」
アーシアは魔女という言葉に身を強張らせる。
そんな彼女を庇い、一誠はゼノヴィア達を鋭く睨み付ける。
「あら、あなたがあの噂の元聖女のアーシア・アルジェント?」
まだ笑うな…こらえるんだ…!
ウィスは笑いをこらえるのに必死であった。
彼女達の余りにも無謀で、愚かで、教会の洗脳とも呼ぶべき狂信に当てられた有り様に抱腹絶倒する寸前であった。
「聖女と呼ばれた君が悪魔となっているとは、世も末だな。だというのに君は今でも我らが主である神を信じているのか。」
「ゼノヴィア。魔女である彼女が信仰を続けているわけないでしょう。」
どこまでも独善的で偏見的な言葉をアーシアへとぶつける2人。
駄目だ…まだ笑うな
「いや、彼女からはまだ僅かに信仰の匂いがする。」
信仰心を嗅ぎ分ける能力を披露するゼノヴィアにウィスは更にツボを刺激されてしまう。
「神の名の元、今此処で私が君を断罪してあげよう。」
「手前ェら…っ!」
一言物申そうと身を乗り出す一誠。
だが此処がウィスの限界であった。
途端、オカルト研究部の室内をウィスの笑い声が支配する。
リアス達は思わず呆然としてしまう。
対面するゼノヴィア達も理解できないとばかりに大きく目を見開く。
先程まで傍観を続けていたウィスが腹が痛いとばかりに笑い出したのだ。
瞳に涙を浮かべながら、実に愉しげにウィスはその場から立ち上がる。
「失礼、貴方方を侮辱するつもりはなかったのですが、つい笑ってしまいました。」
口元を抑えながら、ウィスは今なお失笑している。
「…何か笑うとこがあったか?」
額に青筋を浮かべながら緑メッシュの女性、ゼノヴィアはウィスへと鋭い視線を飛ばす。
「そうね、何がそこまで面白かったのか、教えてもらいましょうか?」
栗色の女性、紫藤イリナもウィスを睨み付けていた。
今の彼女達の内心を支配しているのは自分達の信仰心を馬鹿にされたという純粋な怒り。
それも悪魔と関係を持つただの一般人の男にコケにされたことも彼女達の怒りを後押していた。
「実に愉しませて頂きましたよ。貴方方の見事な道化ぶりにね。」
流石は独善的な正義を振りかざす教会の方ですね、ご立派ですよ、とウィスはなおも彼女達を煽る。
実に彼女達は傀儡だ。
「貴様…、言わせておけば随分な物言いじゃないか…!」
「ええ、ゼノヴィアに全面同意だわ!」
遂にゼノヴィア達は聖剣に手を伸ばし始めた。
リアス達はただ呆然と傍観するしかない。
「良い機会です。この際はっきり言っておきましょう。」
ウィスは突如手に握っていたスプーンをへし折る。
握力に耐え切れずにスプーンは無残にも半ばで折れ、砕け散った。
そして笑い顔から一転、真顔になり静かにその紅き双眸に怒りを内包した鋭い視線を飛ばす。
思わず怯えてしまうアーシア。
リアス達は普段らしからぬウィスの様子に息を飲む。
「私はね、神という存在が大…ッ嫌いなんですよ…!」
珍しくウィスは感情をあらわにしていた。
途端、部室の地面はひび割れ、周囲に暴風が吹き荒れる。
リアスと朱乃は吹き飛ばされないようにウィスの腰に抱き着くしかない。
一誠はアーシアが吹き飛ばされないように彼女を抱き締め、木場は地面へと剣を突き立てている。
ゼノヴィアとイリナの2人は奮闘虚しく吹き飛ばされる。
これまで狂信者や生贄、供物など腐るほど見てきた。
全ては神のため、主のためと豪語する信仰者達。
もううんざりだ。
「だいたい貴方方は何の権利があってアーシアを魔女呼ばわりするんですか?」
底冷えする程冷たい視線でウィスはゼノヴィアとイリナの2人を睨み付ける。
その様子に普段の朗らかな様子は皆無だ。
何がウィスをそこまで奮い立たせたというのか。
ゼノヴィアとイリナの2人の身体はウィスから放たれる圧力に弛緩し、動けない。
否、恐怖の余り冷や汗を垂れ流していた。
「ならば貴様にとって…神とは何なんだ!?」
絞り出すようにゼノヴィアはウィスへと諫言する。
大した胆力だ。
「私にとって神とは何かですか…。」
これはまた分かり切った質問をする。
「そうですね。強いて言えば……」
「傲慢の塊、塵、ストレス発散のサンドバックですよ。」
ああ、ウィスは決して噓をついていないな、とリアス達は遠い目で天井の染みを数える。
「それに貴方方が信仰する主という存在ですが、既にこの世界に存命などしていません。」
「何故なら、その主と呼ばれる神は遥か以前に死んでいるのですから。」
─ウィスは続け様に特大の爆弾を投下した─
─リンク60%─
後書き
人を魔女呼ばわりし断罪しようとしながら、何故自分達だけ罰が下らないと思ったのか
そう、神は既に死んでいる
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それが執筆の意欲になります
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