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真田十勇士

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巻ノ百三十四 寒い春その七

「あの茶々様がです」
「大坂から出られるとはじゃな」
「思えませぬので、それにこの度の裸城のことは」
「嵌められたか」
「そうも思いまする、この雪辱もです」
「晴らしたいか」
「さもなければ武門の名折れ、武門として是非」 
 騙され裸城にされた雪辱、それをというのだ。
「晴らしたいので」
「戦いたいか」
「そうも思っておりまする」
「この度の戦は何もない場所で大軍を少ない兵で迎え撃つ」
 護りをなくなった大坂城を拠点として六万に満たない兵で二十万の幕府の軍勢を迎え撃つというのだ。
「それはな」
「最早ですな」
「負けることが決まっておる戦じゃ」
 これは駄目の目にも明らかだった。
「それでもか」
「戦いたいのです」
「死のうともか」
「死んでも意地と誇りを見せるのが武門といいますので」
「それでか」
「それがしそうも思っております」
「お主はまだ若い」
 大野は木村のその若さを惜しんで言った。
「その才覚もこれからじゃ」
「だからですか」
「生きるべきじゃ」
「いえ、それではです」
「武門の誇りが立たぬか」
「そうも思いまするので」
 それ故にというのだ。
「戦いたいともです」
「思っておるか」
「そして戦いになれば」
「散るか」
「はい、見事に」
「そうするか、茶々様が大坂を出られねば」
「そして茶々様は」
 再び彼女がどうするのか、木村はその読みを述べた。
「やはり」
「大坂から出られぬというのじゃな」
「修理殿もそう思われていますな」
「何とか説得する、常高院様のお力も借りてな」
「そうされますか」
「ここに退かねばまことに戦じゃ」
 それになるというのだ。
「だからな」
「お家の為にですな」
「わしはあえて武門の誇りを押し殺してな」 
 そうしてでもというのだ。
「茶々様、右大臣様には生きて頂く」
「そしてその為にも」
「ことがなれば責を取って腹を切るからな」
「それでことを収めるのですか」
「豊臣家の為に、あと真田殿や後藤殿はあの才じゃ」
 先の戦でもそれを見せたのでというのだ。
「必ず幕府か何処か大きな家がな」
「召し抱えられますか」
「大名にもなれよう、後藤殿はかつての主君黒田殿の横やりがあり続けたが」
 そうしてこれまでの仕官が思う様にいかず浪人暮らしひいては物乞いの様なものにまで身を落としていたのだ。
「しかしな」
「それもですな」
「幕府のお墨付きか幕府に直接召し抱えられてじゃ」
「それもなくなりますか」
「塙殿もな」
 この者もというのだ。
「加藤孫六殿からそれがなくなりな」
「無事にですか」
「召し抱えられる、そうなるからじゃ」
「だからこそですか」
「わしは話をもっていく」
 豊臣家を守る方にというのだ。 
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