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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  227 【ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ】


SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー

「これは…」

「ここも変わってしまったわね…」

8月に入って最初の土曜日。伽藍(がらん)とした【漏れ鍋】を抜けて、寒々しく様変わりしたダイアゴン横丁を見たアニーとハーマイオニーが呟いた。ジニーもそんな二人に追従するように頷いている。

「最近のダイアゴン横丁はこんなもんだ。……どこもかしこも雰囲気が暗ぇ。これじゃあまるで〝名前を言ってはいけない例のあの人〟の全盛期に戻ったみてぇだ」

アニーとハーマイオニー、ジニーの嘆きに答えたのはもはやお馴染みのルビウス・ハグリッド。

今のアニーには第一級セキュリティの資格とやらが与えられていて、本来ならダイアゴン横丁を大勢の護衛を引き連れて歩かなければならなかったのだが、そこはダンブルドア校長の鶴の一声でハグリッドのみという事になった。

……ダンブルドア校長の采配にアニーが肩を落としながら喜んだのは云うまでもない…。

「わぁ…!」

そんなこんなで──ドラコ・マルフォイやナルシッサ・マルフォイの気配が〝マダム・マルキン〟の店に在ったりするの無視したりしながら【ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ】に向かう。

入店してジニーが開口一番にそう洩らす。それは俺達の第一印象の代弁でもあった。

言葉が店内は店外とは打って変わって沢山の客がごった返していて、正に〝繁忙〟と云う言葉しっくりくるそんな感じだ。ハーマイオニーとジニーは入店して間もなく俺とアニーから離れて、それぞれ興味が惹かれた商品がある棚へと向かっていた。

置いてきぼりとなった俺とアニーは、大して欲しい物も無かったので冷やかし混じりにこの店を回ろうと思い、いざ動き始めようとしたその時、横合いからよく知った声音で声をかけられる。

――「やあ、お二人さん」「やあ、お二人さん」

俺とアニーを引き留めた異口同音の声の主は、【ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ】の主であるフレッドとジョージ。

「やぁ、フレッド、ジョージ」

「〝儲かってる?〟──って訊くまでないかこの盛況振りじゃ」

「そいつもこいつも」
「全部、君達二人のおかげさ」

(……?)

「……?」

俺とアニーはそんな風に軽口を交わしながら順々にフレッドとジョージと握手する。その時フレッドから何か──形状からしてバッジの様なものを握らされた様な気がした。

アニーもジョージと手を握った時に同じ様なリアクションをしていた辺り、アニーも俺と同じ様にフレッドから何かを握らされたのだろう。

「手を開けてみなよ」「手を開けてみなよ」


二人の指示通りに手を開けば、俺とアニーの手の中には[特別優待客]と書かれたバッジが。

「〝特別優待客〟…? 〝これ〟って一体なに?」

「何、大したものじゃない」
「ちょっとしたお礼さ」

「よもや全品50パーセントOFFとかでもなかろうに」

俺の皮肉とも呆れを混ぜた言葉に、フレッドとジョージはにやり、とする。俺の投げ遣りな言葉が正鵠(せいこく)を射ていたのだ。

「正にその通りさ」
「そのバッジを着けてりゃ」

「お前さんとアニーに限り全部の商品は半額だ」
「小数点は切り上げさせてもらうがな」

ジョージが締めくくると、今度はアニーがぽしょり、と小声でフレッドとジョージへと(たず)ねる。

「……やっぱり、〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟の賞金のことで…?」

隠している訳ではないが、声を大にして()くことでもないことなので、声をひそめているアニー。

俺とアニーが〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟の賞金である1000ガリオンの8割をフレッドとジョージに、開店資金として投資したのは身内では公然の秘密だ。

……しかしフレッドとジョージは首を横に振る。

「いいや、そうじゃない──いや、開店資金についてのお礼もあるけどそれだけじゃない」

「〝開店資金(それ)〟以外にも君達には借りがあるのさ──それはもう君達に足を向けて眠れないくらいのな」

「……投資以外? なんかフレッドとジョージにしたっけか? ……アニーは?」

「……ボク? ボクは何にもしてないよ」

開店資金の投資以外フレッドとジョージに(なにがし)かを渡した覚えはなく、アニーも同様だった。

「ロンは商品を破格の値段で(おろ)してくれている」

「……あー、確かにそんな事もあったな」

「アニーは店の経営について頭を貸してくれた」

「……大した事をしたつもり無かったんだけどね」

二人の言葉で思い出した。確かに俺は〝対外的な価値〟からしたら──〝護りの指輪〟等の商品を捨て値同様で卸しているし、アニーだってポイントカード、そして〝ポイント倍デー〟等の導入を提案している。

俺の高コスパ商品の提供はそのまま純利益となるし、アニーの提案もリピーターを確保出来る。……ここでバッジをを断るのもフレッドとジョージに悪いだろう。

「……まぁ、貰える物は貰っておこうか」

「……そうだね」

アニーもまた、フレッドとジョージの好意を無碍(むげ)にしたくなかったのか、バッジをを貰う事にしたようだ。フレッドとシリーズに遠慮したいならバッジを外せばいいだけなのだ。

「……ところで売れ筋は?」

「〝ズル休みスナックボックス〟はいうまでもないけど」
「やっぱり売れるのは、ロン──お前さんの〝護りの指輪シリーズ〟だな」

「こんな世の中だからね…」

「まぁな。だが実のところ、大人連中にもロクに〝盾の呪文〟が使えないやつが多いらしいから、飛ぶ様に売れてくな」

「今になって、≪プロメテウス≫での訓練がどれだけ高度なものだったかが判るね」

フレッドとジョージはそこで声をひそめる。……所謂(いわゆる)、〝ここだけの話〟なのだろう。

「……それからここだけの話、魔法省からも大量発注が来てるんだ」

「意外な事にもな。……でも問題もある」

「……在庫(かず)だな」

頷くフレッドとジョージ。……つまりは俺に新しく(おろ)して欲しいようだ。俺はふくろうでちょくちょく送ってはいるが、魔法省に卸すとなればどうしても数が足りなくなるだろう。

「数と納期は?」

「1000個を出来れば半年以内だってよ」

「〝1000個を半年以内〟とか──鬼か」

「だけどあちらさんも無理を言っているのを理解してるのか、定価の2倍は出すってよ」

「……ってことは、10,000ガリオンか」

10,000ガリオンと云えば〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟の賞金の10倍。三等分するとしても3333ガリオンが俺の懐に純利として入ってくる。手間も全く掛からないと云っても良い。……なんともボロい商売だ。

「……でだ、ロン」
「ものは相談なんだが…」

「のった」

「ひゅうっ♪」「話が判る♪」

即決である。三等分は行き過ぎにしても1000ガリオンは堅い。さして金に興味があるわけでもないが、ここまで旨い話に乗らないのも馬鹿らしかった。

「ホグワーツに行けば〝別荘〟も使えるし半年もあればいけるだろうしな。……んで、〝振り分け〟はどうする?」

アニーは俺が直ぐにでも〝指輪〟を用意できるのを知っているので、そんなアニーのジト目から逃げる様に話を報酬の分配の塩梅について逸らす。〝取らぬ〝葉隠れ(デミガイズ)〟の皮算用〟ではあるが、後々になって兄弟で揉めたくないので今の内から話を詰めておいた方が気楽でもあったから。

……しかしジョージから提案された金額は、俺を躊躇させるには十分な数字だった。

「5000ガリオンでどうだい?」

「……定価とは云え、貰いすぎじゃないか?」

「何、お前さんにはいい思いをさせてもらったんだ、そのお礼を込めてさ」

「それに、あと3000ガリオンもあれば〝ゾンコ〟を買収出来るしな」

「俺達は1000ガリオンも貰えりゃ御の字さ」

そこまで言われて、改めてフレッドとジョージを見てみる。……強がりとかではないらしく──否、むしろ二人からはそこはかとなく〝申し訳なさ〟みたいな感情も伝わってくる。

(……本気で言っているな)

そしてフレッドとジョージの顔から、もし俺が譲歩してもそれに乗って来ないだろうと云うことも判ってしまった。……これは、俺が納得してしまうラインを想定されてしまっていたとも取れる。

(……まぁ、だとすると──1000ガリオンってラインが俺とフレッド、ジョージからしての一つの落としどころか…)

そこまで考えて、頭を掻いては降参する様な気分でフレッドとジョージへと手を差し出した。

「じゃあこれで」
「商談成立ってことで」

「あいよ」

がっちりと、フレッド、ジョージの順に握手をすると、そこでアニーが店の外を見ながらふと声をあげた。

「あれ、ドラコ・マルフォイじゃない?」

「……確かにそうだな」

フレッドとジョージの商談で〝気配察知〟がおざなりだったが、確かにドラコが店の前を横切って行く。……しかし一緒にいたナルシッサの姿が見えない。

「……追う?」

「……追うか」

その後、〝知識〟通り、夜の(ノクターン)横丁の【ボージン・アンド・バークス】に行ったのだが──それは割愛。

SIDE END 
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