江戸前寿司

「あれだよ」
「刺身をか」
「そうだよ、飯の上に置いてね」
　そうしてというのだ。
「食ってみたらどうだい？」
「魚とか貝の刺身をか」
「それがいいと思うけれどね」
「そうだな、じゃあ飯も刺身もな」
　与兵衛は腕を組み彼もまた考える顔になって女房に応えた。
「馴れ寿司を実際に食う時みたいにな」
「食べやすい大きさにしてだね」
「刺身は飯の上に置いてな」
　そしてというのだ。
「そうして食うか」
「そうしてみるんだね」
「よし、次は形だ」
　それの話だというのだ。
「そっちも考えていくか」
「これからはね」
　二人でそうしたことも考えていった、そうしてだった。
　与兵衛は飯を手の三本の指で摘まめる位の大きさにして魚や貝はその飯を隠す位の大きさに切って上に乗せてみた、そのうえで女房に言った。
「食ってくれるか」
「へえ、面白い形だね」　
　女房は与兵衛が作ったその寿司を見てこう言った。
「馴れ寿司とはね」
「また違うな」
「そうだね、何か可愛らしいね」　
　与兵衛が作ったその新しい寿司を見てこうも言った女房だった。
「これは」
「そうだろ、じゃあな」
「この寿司をだね」
「ああ、今から食ってな」
「味や食べ具合をだね」
「話してくれ、俺も食う」
　作った与兵衛自身もというのだ。
「それで美味みかったらな」
「お客さんに出してだね」
「売るからな」
「よし、じゃあね」
「今から食おうな」　
　二人でというのだ、こう話して実際にだった。
　与兵衛は女房と共に二人で自分が考え作った新しい寿司を食べてみた、するとだった。
「へえ、これは」
「美味いね」
「ああ、いけるぜ」
「魚と飯がよく合ってね」
「飯の酢や砂糖の具合がよくてな」
「魚とよく合ってるよ」
「そうだな、これはな」
　まさにとだ、与兵衛は会心の声で言った。
「売れるぜ」
「お店に出したらね」
「ああ、それじゃあ売りに出すか」
「そうしようね」
　こうしてだった、与兵衛は女房と共にこの新しい店を屋台に出した。すると客達はその寿司を見てまずはこう言ったのだった。
「何だよ、これ」
「小さな握り飯か？」
「上に刺身を置いた」
「随分変わった握り飯だな」
「いや、握り飯じゃないさ」
　与兵衛は握り飯かと言う客達に笑って答えた。
「これは寿司さ」
「寿司！？これが」
「これが寿司かよ」
「馴れ寿司じゃないぞ」
「こんな寿司があるのかよ」
「ああ、俺が考えた新しい寿司さ」
　まさにとだ、与兵衛は客達に話した。
「だからな」
「よし、それじゃあな」
「この寿司食うか」
「食わせてもらうか」
「一体どんな味かな」
「これからな」
「ああ、どんどん食ってくれ」
　与兵衛も応えた、そしてだった。
　客達は彼が作った新しい寿司を食べてみた、親指と人差し指中指の三本の指で摘まんでそうしてだった。