狐の試験
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第五章
「及第するにはこれまでよりも遥かにです」
「難しいな」
「そうです、ですから」
それでというのだ。
「及第までどれだけかかるか」
「わからないか」
「そうなのです、さらに学問に励みます」
「ではそれまでだな」
「また学問です」
「それで天狐になれる者は全体のどれ位だ」
このこともだ、陳は李に問うた。
「それで」
「千匹試験を受けまして」
「一人位か」
「そうしたものです」
「では大抵はだな」
「郷試で落ちて」
そうなってしまうというのだ、最初の段階で。
「会試に及第出来るだけでも」
「相当か」
「これから郷里に帰りますが」
「その郷里でもだな」
「大騒ぎだと思います」
「そこも科挙と同じだな」
最後の殿試に及第せずとも会試に及第すればそれだけでかなりのものだ、それなりの地位も約束されるのだ。それで郷里でも会試に及第すれば騒ぎになるのだ。
「まさにな、ではだな」
「一旦故郷でこのことを伝えて」
「そしてだな」
「そのうえで殿試に向かいます」
「受かればいいな」
またこう言った陳だった、殿試ともなればその難しさは会試の比ではないことから言っている。
「まことに」
「今度は山に入りそこで厳しい修行と学問を積みます」
「及第、神になれるだけの力を備える為にか」
「そうします、ですがお部屋をお借りした恩は忘れません」
このことも伝える李だった。
「ですから及第すれば」
「その時はか」
「お礼を申し上げに参りますので」
「その時が来ればな」
「はい、また」
李は陳に微笑んで言った、そしてだった。
彼は陳に深々と頭を下げて姿を消した、それから陳は彼と会うことはなかった。
時は流れ永楽帝が死にそれから数代の皇帝が立ち丁度土木の変の後の騒動が落ち着き囚われていた皇帝が戻った頃にだ、代々学者を務めていた陳の家のその時の当主陳用達のところに着飾った細長い顔の男が来て深々と頭を下げた、だが陳用達が相手が誰かわからず怪訝な顔で問うた。
「貴殿は一体誰ですか?我が家に何か御用ですか?」
「はい、実は」
その狐、李はここで自分のことを話した。長い修行と学問そして数えきれないだけ落第した末にようやく天狐になれたことを。陳用達の先祖である陳達極とのことも。先祖の顔の名残が残っている彼に全て話した。
その話を聞いて驚いた陳用達は思わずこう言った。
「何とも不思議なお話ですな」
「人にとってはそうですね」
「まことに。ですが遂にですか」
「はい、天狐即ち狐祖師になれました」
殿試に及第してだ。
「そのお礼に多くの銀を持ってきましたので差し上げます、そして馳走と美酒もです」
「用意してくれますか」
「ご先祖のお礼に。では」
李は陳用達に山の様な銀子を渡しそうして彼を山海の珍味と極上の美酒を揃えた宴に招いた。陳用達にとっては思いも寄らぬことだった。だが彼は先祖の徳と縁により思わぬ幸を得たことに先祖と李に心から感謝したのだった。それは宴の後で李が天界に登り別れの挨拶をしてからも續いた。
狐の試験 完
2017・12・17
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