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蒼穹のカンヘル

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十九枚目

~~!
~!

誰かが言い争っている…?

「うっ……うぅん……」

目を開けるとヴァーリが見えた。

「う"ぁーり?」

「篝!大丈夫!?」

ヴァーリ近付いてきた。

「うぅん…大丈夫…」

横向きで寝ていた体を起こす。

「ここは……」

ここは、母さんの部屋?

「篝が倒れたからバラキエルさんがここにはこんだの」

あぁ…なるほど…

「それと、服は私のワンピースだよ。
翼と尻尾が出せるのがそれしかなかったの」

そう言われたので見てみると確かにヴァーリのワンピースだった。

白くてゆったりしたやつで、肩紐の間から六枚の翼が出るようになっていた。

「あの後…何かあったか?」

「えっと……」

俺が聞くとヴァーリはくち籠った。

何かあったのだろうか?

「何か…あったのか?」

「お姉ちゃんが怒ってる」

「姉さんが?何に?」

「バラキエルさん達に…」

あ、あー…そうか…そうきたか…

「怒ってるって…どんな風に?」

「…………………行けばわかるよ」

ヴァーリの言葉に従い居間に向かおうと引戸を開けると…

「篝!起きたんですね!」

姉さんに抱き締められた。

「うん…おはよう、姉さん…あぶないよ…」

「そんな事はありませんわ…貴方が私を傷付ける筈がありませんもの」

「ありがと…姉さん…」

姉さんの言葉は異形となった俺の心を軽くした。

「篝、お母様が呼んでます」

母さんが?

「わかっ…た」

俺とヴァーリが部屋を出ると、姉さんは自分の部屋に行ったようだ。

背中に広がる翼は、堕天使のそれは収納できたが龍の翼は収納できなかった。

四肢を見ると、龍のままだ。

肘と膝から先は完全に鱗に覆われていた。

二の腕や太ももも部分的に鱗に覆われている。

腰の辺りに手をやるとカツンと音がした。

尻尾の付け根から背骨のラインの中頃まで鱗が走っている。

尻尾は二メートル程あるだろうか…

窓に映る自分の上にはエンジェルハイロゥが浮かんでいた。

改めて、自分が人間をやめたのだと認識した。

「篝?どうしたの?」

「いや…なんでもない」

居間に向かうと精気の抜けた父さんとアザゼルが居た。

「あら、篝、目が覚めたんですね」

「母さん…コレどんな状況?」

「……………朱乃も私の娘なんですよ」

「あー…うん…だいたいわかった」

おそらく姉さんが何か言ったのだろう…

「何言われたのさ…」

「……………」

「……………」

二人共黙りこくったまま…というか俺の声にも気付いていないようだ。

傷は深いな…

「はぁ…ったく…堕天使総督と幹部が子供の言葉でここまで沈むのかよ…」

三大勢力って大丈夫なのか?

天使は知らんが堕天使と悪魔のトップはあんまりアテにならんと言うか…

「ヴァーリ…どうする?」

「どうしよう?」

色々説明とかしたかったんだけど…

「はぁ…しょうがないですね…」

母さんがおもむろに立ち上がった…

「すぅ…はぁ…」

何故か深呼吸…

そして一枚の札を取りだし…

「起きなさい!」

パシィン!パシィン!

「「ぎゃぁ!?」」

えぇ…

母さんが握り締めた札から光の鞭が伸びていた。

「母さん…ナニソレ?」

「霊力の鞭です…朱乃にも仕込みました」

母さん!?

「ほら、二人共、篝が起きましたよ」

「あ、あぁ…」

「う…うむ…」

二人がノロノロと動き出した。

「篝、今回の件、すまなかった!」

おぉう…

「やめてよ…っていうか…それ…不味くないの?」

堕天使総督の土下座…

ていうか…

「父さんまで土下座しないでよ…父親に土下座されてどう反応したらいいのさ…」

取り敢えず…

「何があったか説明するから顔あげてよ」

二人はゆっくりと顔を上げた。

「篝、ヴァーリちゃん、ここに座りなさい」

母さんに言われて俺とヴァーリは座布団の上に座った。

良く見ると父さんとアザゼルには座布団が無い…

母さんェ…

「じゃぁ、はなすよ?
事の始まりは姫島本家が攻めてきた事。
それはジュスヘルに習ったクー・リ・アンセで撃退した。
けどそこにリリンが乱入してきて俺が応戦。
リリンを追ってサーゼクスルシファー、セラフォルーレヴィアタンが参戦。
形勢不良と見たリリンが撤退。
こんな所かな?」

母さんの命に関しては、何故か言うのが躊躇われた…なぜだろうか…

俺はその為に生きてきたのに…

そう思っていると母さんが言った。

「そして、リリンに一度奪われた私の命を取り戻したのは篝です」

「「!?」」

父さんとアザゼルは驚いた顔をした。

「あのね、篝が龍になったのは朱璃さんを助けたからなの」

確かにそうだ、だけど…

「父さん、母さん、俺は後悔してないよ。
母さんを護れたんだ。
それで…それだけでいいじゃないか」

「そうか…篝…!朱璃…!本当に済まなかった!」

父さんは膝の上で拳を握っていた。

その拳は震えていた。

「朱璃さん…あんまりバラキエルを責めないでください…
こんな時にコイツに仕事を押し付けた俺が悪いんです…」

アザゼルはとても申し訳無さそうに母さんに言った。

「私の言いたい事は全て朱乃が言いましたし…篝とヴァーリは何かありますか?」

なにか?特に無いかな…

するとヴァーリが父さん達に言った。

「バラキエルさんはお姉ちゃんに謝った方がいいと思う…
もちろん、アザゼルも…」

「あぁ、わかっ…」

「今はダメですよ?」

「む…そ、そうか…」

うーん、確かに今は聞く耳持たないだろうな…

「篝、ヴァーリちゃん、朱乃を見てきてください」

「ん、わかった…ヴァーリ、いくぞ」

「うん」

俺とヴァーリは居間を出て、姉さんの部屋に向かった。

途中、奴との戦闘で壊れた所もあった。

「ヴァーリ、気をつけろよ」

「うん…」

そして、姉さんの部屋に着いた。

コンコンコン…

「姉さん、入っていい?」

……返事がない

「姉さん?」

おかしい、姉さんの気配が無い…

「姉さん!」

俺はドアを開けた…



しかし



そこに



姉さんは



居なかった。

『篝へ、少し頭を冷やしたいので外に出ます。
暗くなる前には帰ります』

そんな置き手紙が机にあり、窓が開け放たれていた…

「ヴァーリ!母さん達に伝えろ!」

「わかった!」




俺は窓から飛び出した…
 
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