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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第五十一話  特別講習・午前


 水着の撮影会が終わって街頭の巨大スクリーンに映っていた御坂さんを動画撮影し、寮に戻ると特別講習の通知が来ていた。俺がレベルアッパーを自分で使ったわけでは無いと学校側へ伝えたにもかかわらず俺まで参加することになっていたのは、俺が学校側に伝えた時点で既に特別講習への参加が決まっていたということらしい。

 特別講習の実施場所に関して言えば確か上条さんが通っている高校だったはずなのだが、通知の本文内にも地図にも実施場所の学校名が書いてなかったので上条さんの学校の名前は分からずじまいである。

 取り敢えずアニメで見て覚えている部分としては、佐天さんがお弁当を忘れることと重福さんが来ること、それからヤンキー姉ちゃんとその取り巻き男子が来ることぐらいである。あー、そう言えば鎖帷子さんとかマッシュルームカット君も居たはずだ。あと、午前の講習を月詠先生が、午後の講習を黄泉川先生が担当していたことぐらいか……いや、その後でもう一回月詠先生の講習があったな。





 特別講習の当日、弁当は俺が普通に食べる量よりもそこそこ多めに……とは言っても、もし佐天さんが弁当を忘れて無くても食べきれる量のサンドイッチを作り、弁当箱に詰めてバッグに入れる。アニメでは重福さんが佐天さんにお弁当を分けてあげていたのだが、その時に言っていた「作りすぎたので」みたいな言い訳が本当だったのかどうかが微妙な所だからだ。午後の講習は体力トレーニングみたいな感じなので、自分の食べる量を減らして佐天さんに食べて貰っていたのなら、重福さんの体力的な部分が心配になるわけである。まあ、本当に作りすぎて佐天さんに食べて貰っていた場合とか、佐天さんに食べて貰いたくてそもそも多く作ってきていた場合とか、佐天さんが弁当を忘れていなかった場合などには、食べ過ぎ的な問題で体力トレーニング中の俺の状態が心配にはなってくる。

「行ってきまーす」

 いつも通りに声を掛けて部屋を出る。色々考えて今日は姫羅になっているが、佐天さんに弁当を分けてあげるにはこっちの方が良いだろうという判断である。

 地図に従って上条さんの学校へと到着する。山の上というか丘の上というか、階段の先に校舎が見えるこの景色は、間違いなく上条さんの高校だろう。今にもインデックスに噛み付かれた上条さんがやってきそうな光景である。尤も、原作通りだったとしたなら上条さんはまだインデックスと出会ってないということになるわけだが……というか、今でもアリスやシェーラがある程度情報を持っているので接触があれば報告があるはずだ。

「校門の長い階段を登ると学校であつた」

「何、古い文学作品の冒頭みたいな事言ってるの」

 階段を上りきって俺が呟くと、それを聞いていたのか後ろから佐天さんが声を掛けてきた。

「名前はまだ分からない」

「作品が違うっ!」

 上条さんの通う学校の名前は未だに分かってないので続けて呟くと、佐天さんはツッコミを入れてくる。というか、作品が違うというツッコミを入れられるのは、佐天さんも『鱈国』と『吾輩は狸である』の冒頭を知っているということである。

「いや、特に意味は無いけどね。何となくかな」

「何となくって……。それにしても、神代さんも……なの?」

 俺が答えると佐天さんは聞きにくそうに聞いてきた。特別講習の通知には特にレベルアッパー使用者云々といった記述は無かったのだが、夏休みを目前にしたこの時期に休日を利用して特別講習を行うとなれば何となく予想は付くのだろう。

「うん。学校と色々掛け合った時には既に決まってたんだって」

「あー、そうなんだ」

 佐天さんは俺が学校でレベルアッパー使用に関して色々とやり合っていたことを知っているので、俺の答えにも納得の表情で頷いてくれた。

「るいこー!」

「アケミ、ムーちゃん、まこちん」

「これで柵川中チームは全員揃ったねー」

 後ろからムーちゃんに声を掛けられ、一緒に来ていた他の二人も含めて佐天さんが三人の名前を呼ぶ。俺は気配を感じて分かっていたのでのんびりと声を掛ける。

「何なのよこの長い階段はーっ」

「皆体力無いなぁ」

「神代さんは男でしょうが!」

 まこちんがしゃがみ込んで文句を言っているので、俺が正直な感想を言うとムーちゃんに半ギレされた。俺が姫羅の状態だと普通に女子みたいな扱いをしてくるし、たまに本当は男であることを忘れてたりするくせに、こういう時にはちゃんと男子扱いするんだなと思ってしまう。

「確かに女子の方が体力的な面では男子に劣るかも知れないけど、この階段ぐらいでへばってるとか体力なさ過ぎでしょうが……。それ以前にウチもこの姿だと体力は女子だけどね」

『そうなの!?』

 俺の説明に佐天さんも含めた四人が驚く。まあ、体力とか筋力的な面で言えば姫羅の状態でも恐らく同年代男子の平均よりは上になっていると思うが、騎龍と姫羅では設定がそれぞれ別になっているので間違ってはいないのである。

「まー、元々陸上やってたし、女子になっても女子の中ではそこそこ体力がある方だと思ってるけどねー」

 以前、土御門さんと話し合った俺の設定に従って話をする。とは言っても陸上をやっていたという部分だけなのだが、小学校の卒業式前にこの学園都市に来た理由として、運動中の怪我で卒業まで入院しなければならないほどだったので先に学園都市に来て治療したという設定になっているのである。

「神代さんは元々が異常だからねー」

「それは何気に酷いんじゃない?」

「能力とは全く関係なく気配が読めるとか、漫画の世界の人みたいだよねー」

「レベルアッパーにしたって神代さんだけは倒れなかったみたいだしさぁ」

「ちょっと論文読んだだけで対策できるってどんなチートだよって感じだよねー」

 佐天さんの言葉に反論すると、アケミさん、ムーちゃん、まこちんがそれぞれ言ってくる。取り敢えずアケミさんの言葉に関しては、半分ぐらい当たっているとも言えるだろうか。元の世界はともかく、以前の世界では漫画をベースにした所もあるからである。この世界は銀行強盗事件の事を考えると少なくとも漫画版では無いと思うので、アケミさんには「それならあんたらはアニメの世界の人でしょーが」と言いたい。まー、言えないけど……。

「まー、こんなところで腐っててもしょーがないし、行きますか」

 ある程度呼吸も整ってきたのかムーちゃんが立ち上がる。

「そうだねー」

 まこちんが答えると俺達は特別講習の会場に向けて歩き出したのである。

「こっちだってー」

 玄関前に貼ってある張り紙に特別講習受講者用の案内が書いてあるのでそれを見たまこちんが矢印の方向を指差した。特別講習受講者は教員用出入り口から入らないといけないようなので、俺達は矢印の方向へと歩を進める。

「よりによってこんな日に特別講習とか災難だよねー」

 教員用の出入り口へ向かう途中、ムーちゃんが佐天さんに話しかける。

「まー、仕方ないよ」

「諦め良いな-、涙子は。そんなんじゃ、幸せになれんぞ」

 表情を暗くして答える佐天さんをまこちんがからかう。あー、確かこの辺はアニメで見たことあるな-、なんて考えながら俺もついて行く。

「もう、嫌なこと言わないでよ」

「涙子はもっと怒って良いんだよ」

「そうだよ。涙子は私達が巻き込んだだけなんだから」

 佐天さんが無理矢理表情を作った感じで明るく返すと、今度はまこちんとアケミさんが暗くなる。発言こそないもののムーちゃんも同じように暗くなっているので、三人とも佐天さんにレベルアッパーを使わせてしまったという後ろめたさがあるのだろう。

「わ……私は巻き込まれたなんて思ってないから」

「まー、それを言えば神代さんだってほぼ関係ないのに巻き込まれてるもんねー」

「何故か話の流れがウチに回ってきた件」

 佐天さんが今度は三人を気遣うように返すと、最初にこの空気を作ったムーちゃんが俺に振ってきた。

「確かにウチの場合はレベルアッパーって知らない時点で音聞かされちゃったわけだけど、レベルアッパーって知ってからは兎に角体とか脳がおかしくならないように調べまくったからね。そもそもレベルアッパーの効果を知った時点で胡散臭いと思わない方がどうかしてると思うんだけどねー」

 折角俺に振られたわけだし、アニメで見た時の感覚だと佐天さん達はこの特別講習をレベルアッパーの使用に対する罰だと思っているような印象だったので、その辺の払拭も出来ればしておきたい所だと考えて話の流れを変えてみる。

「だ……だって、まさか意識不明になるとか普通思わないでしょ」

「いや、ウチは普通に死に至ることまで考えてたけど。だから滅茶苦茶必死で対策練ったんだし」

 アケミさんが反論してくるが、普通というならある程度胡散臭いと感じる人が居てもおかしくないはずなのである。もし、何の副作用も無しにレベルがアップするとレベルアッパー使用者全員が思っていたのだとしたら、学園都市ではオレオレ詐欺とか振り込め詐欺辺りの成功率がかなり高くなるのでは無いだろうか。

「そんなのは神代さんだけだって」

「えー、だいたいの人は凄い能力が一瞬でも使えたら後は死んでもいいやーって思って使ってたんじゃ無いの?」

 まこちんが言ってくるので、俺は逆方向に少しあり得ないような予測を言ってみる。まあ、本当に全員がそれだけの覚悟を持って使っていたのだとしたら、それはそれで凄いと思うけど……。

「そんなわけ無いでしょうが!」

 俺の暴論にはムーちゃんが否定してくるが、当然俺もそう来ると思っていたのでそのまま続ける。

「でも、もしレベルアッパーが脳のオーバードライブで能力を上げてたんだとしたら、今頃皆死んでたか、意識不明のまま戻ってこれなかったでしょうね」

『うっ!』

 今度は暴論で無く、レベルアッパーの物によってはあり得たかもしれない予測を出してみると四人が一斉に呻いた。

「まー、今後も何かしら似たような誘惑とかあるだろうし、その時の判断は各個人に任せるわよ。普通なら事前にメリットとデメリットの説明があるはずだからね。もし、メリットに対してデメリットが異常に軽いとか、デメリットの説明がほとんどされないようなモノだったら、レベルアッパーみたいに何か裏があると思った方が良いわよ」

 今後何かの実験やら薬品の投与などを受ける際に、ことごとく俺の所へ相談に来られても困るので、その辺はそれぞれ独自に判断して貰いたい訳なのだが、全く判断材料が無いのも困るので一応基本的な所は教えておく。

「うわー、なんか今後レベル上げるのが無理になってきた気がするー」

「ん? そんなこと無いよ。だって前も言ったけど、レベルアッパーで使えてた能力までなら、演算能力上げれば自力で使えるようになるはずなんだから」

 アケミさんが言ってからがっくりと肩を落としたので、一応フォローを入れておく。

「そんな簡単に言われてもねえ」

「まー、ウチには簡単だったから何とも言えないわね。というか、最初からレベル4だったから実質どうやったら演算能力が上がるのかって言うのも分からないけど」

 確かにムーちゃんの言いたいことは分からなくもないし、俺自身がその辺のことについて説明やら指導やらすることは出来ないが、そこはこれから月詠先生と黄泉川先生にしっかりと叩き込まれることになるだろう。

「それが分からないと結局はレベル上がらないのよ」

「けど、その為の特別講習なんじゃない」

 まこちんの呟きに俺が答える。

「あ……そうなのかな?」

「多分そうだよ」

 急に顔を上げて聞いてきた佐天さんにも答える。月詠先生にも黄泉川先生にも能力開発関係は丸投げになってしまうが、やる気の無い生徒を教えるよりもやる気のある生徒を教える方が教え甲斐があるのでは無いだろうか。あ、黄泉川先生は問題児の方が好きだったか。





 教員用出入り口で急遽用意されたと思われる下駄箱で上履きに履き替えると、順路の看板に従って進み教室へと入る。アニメでは受講者の人数もそれほど多くなかったと記憶しているのだが、既にアニメの時よりも多い人数が教室の中に居た。

 人数が多いこともあって教室の後方の席は既に埋まっており、俺は最前列の窓際へと座る。すると佐天さんが俺の隣に座り、佐天さんの後ろにアケミさんとまこちんが座り、俺の後ろにはムーちゃんが座った。ちなみに、俺と同じ窓際の列の一番後ろの席には重福さんが座っている。

「神代さんが先に行くから後ろの席取られるかと思ったのに、私が後ろ来ても良かったの?」

「うん、教壇から見ると最前列の一番端が視界の一番外側に来るからね。後、教壇の位置が高い場合なんかは教壇の目の前とかも意外と盲点だったりするんだよ」

「へー、そうなんだー」

 ムーちゃんから声を掛けられて俺は答える。皆、後ろの方に行きたがるようだが、意外と後ろの方が教壇からは見え易いのである。

「それにしても、本当に色んな学校から集められたんだねー」

「そうみたいだねー」

 アケミさんとまこちんが教室内を見回しながらそんな会話をしている時に、教室の扉が開けられた。

「何だ、皆シケた面してやがんな」

「やっぱだりぃっす、帰りましょうぜ、姉御」

「あぁ? ここまで来てつべこべ言ってんじゃねえよ!」

「お……落ち着いて下さい、姉御」

 アニメでは御坂さんが変電所を壊した時に戦っていた不良グループが到着したようだ。一応、この世界でも御坂さんは変電所を壊しているので、その時には恐らくアニメと同じように対戦をしたのだろう。

「あれ、高校生だよね?」

「多分そうだね。あ、女性や子供は目を合わせちゃ駄目だよ。飛びかかってくる可能性があるからね」

「それは猿回しの猿でしょ」

 ムーちゃんが柵川組だけに分かるようこそこそ話すので、俺もこそこそ答える。そのまま続けた俺のボケには佐天さんがツッコんでくるが、猿回しの注意事項とか佐天さんもよく知ってたな。

「はいはい、こんなところで突っ立ってると邪魔ですから、さっさと中へ入っちゃって下さい」

 高校生達の後ろから声が掛けられる。俺の位置からは……というか、教室内から姿は全く見えないが、声からして恐らく月詠先生だと思う。

「あぁ?」

「なんだ? このガキは」

 高校生達の頭の角度や言葉などからも、相手が月詠先生であることは間違いないだろう。

「先生ですよ」

『先生!?』

 月詠先生の言葉に驚きの声を上げる高校生一同。まあ、身長は勿論のこと容姿やら声に至るまで、ランドセル背負ってる年齢だとしか思えないというのだから当然である。

「午前の講習を担当する月詠小萌です。嘗めた口聞いてると、講習時間伸ばしちゃいますからねー」

 俺の位置から月詠先生の顔は見えないわけだが、多分めっちゃ良い笑顔なんだろうなと思う。

「はーい、ちゃっちゃと席に着いちゃって下さいねー」

 月詠先生は高校生達を空いている席に座らせる。既に最前列しか空いていなかった上に、先生が来ている現状では後ろの方に座っている生徒を脅して変わって貰うことも出来ないので、高校生達は素直に空いている最前列の席に座っていた。なお、姉御と呼ばれたリーダー格が座った席は佐天さんの隣である。

 高校生達が座ったことでここに来てようやくこの世界で初めて月詠先生を見たわけだが、確かにどう見てもランドセルを背負って学校に通っているぐらいの年齢にしか見えない。

「さて、皆さんちゃんと席に着きましたね? それでは特別講習を始めますよー」

 こうして月詠先生の講習が開始された……かと思いきや。

「えーとー、柵川中学の神代ちゃん、居ますか-?」

「へ? ウチっ!?」

 いきなり俺の名前を呼ばれて驚く。

「あー、そこに居たんですね-。それでは、これから私が説明することに間違いがあった場合とか、説明が足りない場合なんかには補足をお願いしますねー」

「え、あ、はい」

 何故か月詠先生から補足をお願いされて思わず頷く。その後、月詠先生からの説明は俺が柵川中学の校長先生に説明したこととほぼ一緒だった。

「と言うわけで、皆さんがレベルアッパーを使った時に使えた能力は、演算能力さえ上げれば使うことが出来るようになるわけです」

 そこまで言い終えた月詠先生が「これで大丈夫ですか?」といった感じで俺の方を見たので、俺は一つ頷いておいた。

「皆さんは本当に運が良かったんですよ-。もし、神代ちゃんが想定していたように脳のオーバードライブで能力を上げるようなレベルアッパーだったら、今頃皆さんは眠りから覚めない植物人間か……もしくはあっちへ旅立っちゃってたかもしれませんからねー」

 月詠先生が更に続けて、最後に上を指さす。その言葉で一瞬教室の空気が固まった。ただ、柵川組だけは俺が事前にそういう話をしていたこともあって、それほど動揺した気配を感じ取ることは出来なかった。

「と言うわけで、この講習で皆さんには何かを掴んで貰いたいと思っていますよー」

 月詠先生は特別講習がレベルアッパー使用の罰では無いことをこの時点で匂わせ、そのまま本来の特別講習に入っていったのである。

 
 

 
後書き

お読みいただいた皆様、ありがとう御座います。
この部分を夏休みに持って行くかどうかで悩んだのですが、「折角の休み」みたいな表現があったことから夏休みでは無いと判断しました。
主人公が上条さんの通う学校名を分からないと言っていますが、作者も知りません。
この特別講習の話が終わるとようやく禁書の方のストーリーに入るのですが、上条さんの通う学校の名前が分からないままで大丈夫なのかちょっと不安です^^;
 
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