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龍宮童子

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第一章

                龍宮童子 
 真田道明はこの時母の鈴音と恋人でもある幼馴染みの夏目みちるに安堵の言葉を漏らしていた。鈴音は一六五程の背でおっとりとした感じの垂れ目に縁なし眼鏡をかけた優しい顔立ちの美女で茶色の髪の毛を巨大と言っていい胸まで伸ばし水色のゴムでくくっている。
 みちるは長い黒髪をポニーテールにしており奇麗な黒い目と整った眉を持つ精悍かつ真面目な雰囲気の顔立ちをしており高校の制服であるセーラー服がよく似合っている。道明はその二人に言うのだった。
「いや、急に借金取りがいなくなってよかったよ」
「ええ、とんでもないヤミ金だったみたいでね」
 みちるが道明の長方形の顔を見つつ応えた、道明は今は家が経営している喫茶店のエプロンを制服の上から着ている。
「摘発されたわね」
「犯罪行為はね」
「それはね、ただね」
 みちるはここで顔を曇らせて言った、三人共今は閉店した店のカウンターの方に集まって話をしている、みちるも店の店員として働いているのだ。アルバイトである。
「摘発はされたけれど」
「その前に全員殺されたからね」
「酷い殺され方だったみたいね」
 ここで鈴音が話に入ってきた、道明とみちるはカウンターの席に座っているが彼女はカウンターの中にいてそこで立っている。
「全員引き千切られたか引き裂かれたか」
「事務所の中でバラバラになってたみたいだね」
「そうみたいよ」
「何でそんな殺され方をしたのかな」
 首を傾げさせつつだ、道明は自分のスポーツ刈りにしている母と同じ色の髪の毛を右手で触りつつ言った。
「誰に」
「そうね、確かに私達にもお金を貸していて無理に取り立てようとしていたけれど」
 道明の父、美鈴の夫はだらしない男だった。その彼が蒸発する前にヤミ金に手を出していたのだ。それもギャンブルのツケを払う為にだったのだ。
「幾ら何でもね」
「引き裂いて引き千切ってとか」
「ゴリラみたいな怪力でもないと」
 それこそと言う鈴音だった。
「出来ないわね」
「それも真昼間の事務所の中でのことよね」
 みちるもこの話に入った。
「そうよね」
「うん、そうだっていうね」
「真昼間にそんな残酷な大量殺人があっても誰も気付かなかったとか」
「おかしな事件だよ」
「怪事件ね。しかもあの時何件かそうした事件起こってるけれど」
 評判の悪い人物がこの上なく惨たらしい方法で殺されている事件がだ。
「同じ犯人かしら」
「手足を引き裂いたり首をねじ切ったり」
「絶対に普通の人の仕業じゃないね」
「サイコ殺人鬼かな」
「そうかも知れないわね」
 首を傾げさせつつ言うみちるだった。
 そしてだ、みちるはあらためて店の話をした。
「それはそうとしてね」
「ああ、うちのことだね」
「借金はなくなったけれど」
 あまりにも違法性が強い借金であったし貸している人間が全員殺されてしまってはそうした話がなくなるのも当然だ。
「それでもね」
「お店の売り上げは普通よね」
「うん、前からうちはね」
 実際にとだ、道明はみちるに答えた。
「駅前にあるし」
「そんなに困ってないわよね」
「コーヒーがネットでも評判だし」
 鈴音が淹れたものだ、道明もその味を勉強して受け継いでいる。 
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