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第五章

「だからかも知れない」
「じゃああの獺はイギリスの獺?」
 蒔絵は眉を顰めさせて考えた。
「そうなのかしら」
「あれっ、着物着てたのよね」
 ちるは姉にその店員の外見のことを尋ねた。
「そうだったのよね」
「ええ、そうだったわ」
「しかも日本人の外見だったのよね」
「そうだったわ」
「そりゃ化けるからにはそこまで化けたんだろう」
 日本人にとだ、三樹夫は答えた。
「あちらさんもそれ位は出来る」
「そうなのね」
「イギリス人が鯉とか沢蟹とか売ってると妙だろ」
「日本でそうしていたら」
「それでだと思うがな」
「けれど随分獺のままの外見だったけれど」
「そこまで考えが及ばなかったのかもな」
 獺の方もというのだ。
「とりあえず日本人に化けているとな」
「いいと思っていたの」
「そうかもな」
「ううん、何か色々突っ込みどころがあるわね」
「そうだな、しかしな」
「しかし?」
「鯉を売っているんだな」
 三樹夫はその目を鋭くさせて蒔絵に問い返した。
「そう言ってたな」
「ええ、そうよ」
 その通りだとだ、蒔絵も兄に答えた。
「大きくて新鮮な鯉をね」
「鯉は美味いからな」
「そんなに美味しいの?」
 ちるは義兄の言葉に興味深そうに尋ねた。
「そうなの?」
「ああ、刺身にしても揚げても鯉こくにしてもな」
「美味しいのね」
「刺身は虫が怖いから確かなところでないと食べない方がいいが」
 それでもというのだ。
「どんな料理にしても美味い」
「そうなのね」
「だから今度買いに行くか」
「じゃあ三人で行く?」
 ちるは義兄の言葉を受けて明るい笑顔で提案した。
「そうする?」
「そうするか。じゃあ蒔絵今度の日曜にな」
 三樹夫は下の妹の言葉に微笑んで応えた、それから蒔絵に言った。
「その店に三人で行くか」
「それで鯉を買ってお家で食べるのね」
「お義母さんに料理してもらってな」
 料理上手の彼女にというのだ。
「そうして皆で食べるか」
「わかったわ、じゃあ次の日曜ね」
 蒔絵は義兄の言葉に頷いた、そしてだった。
 次の日曜の朝に義兄そして妹と三人でその店に行くことにした。獺が経営している店に行って鯉を買いそれを食べてだった。
 三人はその分だけ距離が縮まった、蒔絵はこのことにも笑顔になった。


獺   完


                 2018・4・25 
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