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第三章

「家族に紹介して」
「義兄さんにもなの」
「食べてもらうわ」
 その川魚をというのだ。
「川魚は生じゃ危ないっていうけれど」
「川魚は冗談抜きで気を付けてね」
 るりかはこれまでの明るい微笑んでいる笑顔を消して真面目な顔になった、そのうえで蒔絵に忠告する様に言った。
「いいわね」
「新鮮でもよね」
「そう、虫がいるから」
 だからだというのだ。
「それも怖いからね」
「だからよね」
「生で食べることはね」
 どうしてもというのだ。
「注意してね」
「そうよね」
「けれど川魚は川魚で美味しいから」
「鯉とかね」
「だから買うのもね」
「悪くないわね」
「ええ、じゃあ日曜の朝にでもね」
 るりかの方から日時の話をしてきた。
「そのお店行ってみましょう」
「魚市場は朝早いのが常だからね」
「そうしましょう」
 こうしてだった、蒔絵はるりかと共に南海高野線今宮戎駅に程近い魚市場に日曜の朝早くに来た、蒔絵は今宮戎駅の前でるりかと合流したが挨拶の後でこんなことを言った。
「今宮戎とか萩野茶屋とかね」
「南海の駅がどうしたの?」
「いや、天下茶屋とか新今宮から歩いて行けるじゃない」
 駅と駅の間をというのだ。
「そうでしょ」
「それがどうかしたの?」
「いや、何ていうかそこまで近いと」
「駅としてある意味あるかどうか」
「そう思うけれど」
「まあそこは南海さんの都合でしょ」
 南海電鉄のとだ、るりかは蒔絵にこう返した。
「だから別にね」
「私達が気にしても」
「仕方ないでしょ。しかし蒔絵私服も生真面目ね」
 見ればズボンにブラウスというシンプルかつ露出の少ない服装だ、それに対してるりかは黒タイツにデニムの半ズボン、ピンクのブラウスに多くのアクセサリーという恰好だ。
「ファッションはね」
「派手にっていうの」
「そうしたら?」
「あんたはまた派手過ぎるでしょ」
 蒔絵はるりかのそのファッションを見て言った。
「何で外見はそうなのよ」
「こういう恰好が好きだからね」
「髪の毛も染めて」
「そうしてるの」
 蒔絵にあっさりとした口調で返した。
「それでなのよ」
「その派手なファッションなの」
「学校でもね」
「それで生活は真面目だから信じられないわ」
「だからファッションは別よ」
「中身とはっていうのね」
「そうよ」
 その通りだというのだ。
「そこはね」
「そうなのね」
「そのギャップも面白いでしょ」
「そうかしら。まあとにかくね」
「ええ、今からね」
「魚市場行きましょう」
 こうしてだった、二人は今宮戎駅から程近い魚市場に向かった、二人共自転車で来ていたのでそれは駐輪場に停めた。
 そして魚市場に入って川魚を売っている店に行くとだ、そこに確かにだった。
 やけにひょろ長い身体で着物を着た中年の女がいた、首が特に長く目はつぶらだ、口は素朴な感じで頭は小さい。
 そして売っている魚はどれもだった。
 難波の魚市場では今は珍しい川魚ばかりだった、それはどれも新鮮でるりかはその変わった外見の店員に声をかけた。
「おばさんどのお魚がお勧め?」
「どれもや」
「どれもなの」
「そう、どれもや」 
 関西弁を使っているつもりだが愛媛訛りがあった。
「ええで、ただ今日は特にな」
「特に?」
「鯉がええで」
 こうるりかに答えたのだった。
「それがな」
「あっ、確かにね」
 その鯉を見てだ、るりかも頷いた。 
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