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Unoffici@l Glory

作者:迅ーJINー
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1st season
  8th night

 
前書き
長らくお待たせしました。今回の話も、ビスマス様(Twitter ID:f01bismuth)よりご提供いただきました。氏に、感謝。  

 
 都内某所、チューニングショップR4A。

「おはようございます」
「おはよう柴崎。重役出勤じゃねぇか、えぇ?」
「俺重役ですよ社長。あと今日はそういうシフトです」

 柴崎の出勤時、俄に店がザワつく。普段は目立つタイプでは無い柴崎だが、今日は全ての視線が彼へと向いた。そして何より、普段は株主と笑顔で格闘している社長が店に降りてきている。

「……で、何事ですかコレは」
「おいおい、当事者が知らんのか。これを見ろよ」
「どれどれ……?」

 社長から手渡されたタブレット端末には、世界的なSNSサイトが表示されていた。その中で一際観覧数と拡散数が多いものがある。

「R4A撃墜予告……何ですかコレ」
「一昨日お前が退勤してからアップされた書き込みだ。飛び火して今凄まじい勢いで拡散されてる」
「あぁ……なるほど」

 すんなり腑に落ちた様子の柴崎に、社長が半笑いで詰め寄る。

「……さてはお前、帰り道で何かやったな?」
「いや、いつも通り自分の車で適当に流して帰っただけですよ。途中で1回妙な外車に煽られましたが振り切りました。本来あの時間は走る事が禁止されてますし」
「どうやらソイツだな。吹っ掛けてきたのはアメ車専門のチームらしい。頭を張ってるのはV8マスタング。ウチの客も何回か振り切られたそうだ」

 柴崎は一昨日の記憶を引っ張り出す。首都環状を流している時に後ろに着いてきた、3台くらいの外車集団がいた。彼に対してやたら吹かして煽ってきたので、軽く置き去りにしていった奴らだろう。

「あの外車か……ルールを知らない新参相手だし、面倒ですね」
「指定日時は三日後。で、やるのか?」
「そのための俺でしょう?やらなきゃクビでしょうに。当然やりますよ」
「流石柴崎。軽くひねってやれ」
「了解しました、社長殿」

 彼にとっては珍しい話では無い。大概の場合こういう輩は、海を渡ってきたか田舎から出て来たかのどちらかになる。今回は前者だろうと彼は読んだ。大手のショップを撃墜しこの国で箔を付けようという魂胆が透けて見えるとは、あえて彼も言わなかった。

「……いつまで俺を眺めてるんだ?さっさと仕事に戻れ。時間も客も待たねぇぞ」
「「「はいっ!!」」」

 柴崎はどこかぼんやりしていた若い衆に激を入れ、R35の方に向かった。ショップの名前を指定してきた以上、彼に手抜きは許されない。



 その日の夜。数日姿を見せなかったグレーラビットが久しぶりに走りに出ていた。現在は辰巳パーキングエリアで休憩している。

「……冗談じゃねぇ……」

 彼が今宵刻んだC2レインボーブリッジルートの区間タイムも、湾岸合流地点での最高速度も、彼自身のベストを叩き出している。しかし、その表情は満足には程遠い。

「……このままじゃ、今の俺はあのR35になんか勝てやしない……」

 愛車であるZ32を降り、その傍らで缶コーヒーを握りしめてへたり込む姿に、かつて雷光の疾風に対して叩きつけた自信はない。しかしその瞳にはどこか、燻るものを感じさせた。

「……これがslumpって奴か……クソッタレ……」

 虚空に呟くその声を拾うものは誰もいない。しかしそれでも彼は、その胸の内からくるものを嘆かざるを得なかった。届かないと知っていても、吐き出さずにはいられなかった。そうしなければならないほど、彼は自分を知らず知らずのうちに追い込んでいた。

「……冗談じゃねぇ……どうすりゃいいのか、全くわからねぇ……」
「失礼、何かお困りのように見えますが」

 へたり込んだ彼に声をかけたのは、黒いスーツに身を包んだビジネスマン風の少々くたびれた雰囲気を持つ青年だった。しかし、正当な勤務時間とは到底言えないこの時間にこの場所にいる、ただそれだけでグレーラビットから彼は異様に映った。

「……なんの用だ?」
「私はこういう者でね、今はわけが合って、知り合いの店を手伝っているのですよ」

 とげとげしい視線を向けられても、平然と言葉を返し、名刺を取り出した青年の胆力は大したものと言えるだろう。名刺を受け取ったグレーラビットだが、視線の色を変えることなく切り返す。

「……もう一度聞こう。店の宣伝とかなら結構だ」
「おっと、これは手厳しい」

 その鋭い視線を受けてか、一拍置いてから青年の表情から笑顔が消えた。

「この時間に走り回っている人達に、うちの車を乗ってもらおうっていうテストをしているんですよ」
「……普段なら何も聞かずに断るところだが、聞いておこう」
「オーケイ。ならついてきてください」

 果たして、この男の目的たるや。



 R4Aへの宣戦布告から三日後。旧首都高速、箱崎PA。

「ふぅ……大した賑わいだな」

 柴崎は指定された時間よりかなり早く着いていた。普段ならC1やC2を攻める走り屋で賑わう箱崎PAだが、今日は一段の賑わいを見せている。

「それも当然か……まぁ、何でもいいけどね」

 急に現れた実力派のチームがショップに宣戦布告。野次馬根性が湧くのも無理はない。彼は自身の集中力を高めるため、その賑わいとは少し離れた所に車を停め、車外で煙草を燻らす。

「あの……」
「うん?」

 声をかけられたことに気がついた彼が振り向くと、2人の若者が近寄ってきた。

「その車、R4Aの柴崎さんですよね?」
「あぁ、チューニングショップR4Aの柴崎だ。君達は?」
「あっ、俺達Fine Racingの者です」

 2人の視線の先には手堅くまとめられたインプレッサとランサーエボリューションが停めてある。最近時々噂になっているあの2人組だろう。

「Fine Racing……あぁ、あのC1のチームか。首都高は楽しいかい?」
「とても。流石にR4Aや他の所には追いつけないですけど、楽しいです」
「それは良かった。もし気が向いたら、ウチの店にも顔を出してみるといい」
「是非。今日は頑張ってくださいね!」

 軽く手を挙げて答えると、彼らは興奮した様子のまま仲間と思しき集団に駆けていく。

「若いっていいねぇ……」

 なんて独りごちた後、自分自身も年代的には大して変わらない事に気付き、苦笑を漏らす。



 同日同時刻、大黒PA。謎の黒スーツの男に連れられて、グレーラビットはやってきた。

「……こんな日にこんなところに連れてきやがって、何のつもりだ?」
「もちろん、今できる最高の舞台を用意してあげたんですよ。今日、R4Aが売られた喧嘩を買うとのことですし、最高の相手じゃありませんか?」

 それを聞いたグレーラビットの視線が鋭くなる。

「……お前らもあのR35が目当てか?」
「標的の一人、と言っておきましょうか。うちにはメカはいますが、超高速域で戦えるドライバーがいないのでね。壁を破ろうとしていたあなたに声をかけたんです」
「それでこいつに乗れ、というわけか。あのMonsterを相手にするにはいささか時代遅れな気がするが」

 彼らの目の前にあったのは、黒のNSX-R。どこか異様な存在感が、グレーラビットを震えさせる。

「慣らしはうちのスタッフがすでに済ませてあります。今日結果を残せたなら、うちのデモカーになるでしょうね」
「勝てるのか?」
「あなた次第です。さぁ」

 青年はそう言い切ると、胸の裏ポケットからキーを取り出した。グレーラビットがそれを受け取るまでには、そう時間はかからなかった。

「……冗談じゃねぇ……どんなもんか、拝ませてもらうとするさ……」




 同時刻、箱崎PA。アメ車特有の低音、大排気量の為せる重厚なエキゾーストノートが響く。のっそりと現れたシルバーのマスタング、それにレッドラインが入ったダッジチャージャーとオレンジのシボレーカマロ。すぐに柴崎に気付き、R35に横付けする。

「……来たか」

 車両から降りてきたのは筋骨隆々な黒人3人。分かりやすいステレオタイプのアメリカンバッドボーイ。

「……お前がR4Aのドライバーか?」
「あぁ、R4Aの柴崎だ。今宵は御招待いただきありがとう」
「ふん、こんなヒョロヒョロのガキが最速だってな。この場所のレベルも知れたもんだぜ」
「こちとら一応カタギなんでね。そっちこそそれだけ無駄なウェイト積んでよく走る」
「口は達者みたいだな。だがそんなマシンで何が出来る?」

 男達がチラリと自分達の車を見る。三者三様に派手なカスタムをしてあるが、中でも1番目を引くのはボンネットから飛び出した巨大なスロットルダクトだろう。V8スーパーチャージド。アメリカではポピュラーな大パワーチューニングの一つだ。

「見た目より速いぞコイツは。アンタらのマシンもパワーはありそうだが」
「当たり前だ。お前ら日本の非力なクルマとは訳が違う」

 当然だが、日本車とアメリカ車ではクルマに対する考え方が違う。ストック状態ならパワーの差は歴然だ。それを承知の上でも、柴崎の余裕は崩れない。

「それでも、負けるとは思わないね」
「何だと……?」
「おいおい、熱くなるなよ?勝負前に泣き言を言う選手が居るか?」
「……ふん、吠えたいだけ吠えてろ。100mあればオマエなんか地平線の彼方だ」
「やってみろよ異邦人、アンタらが先行して行け。ルートは任せるがウチに挑むんだから横浜環状がゴールだ」
「ハッ、上等だ。後悔するなよ?」

 PAが俄かに騒ぎ出す。今宵の戦闘区域へ、四台の咆哮が歩む。スロープを加速態勢で駆け上り、本線へ躍り出る。最初は慣らすように、環状を駆け始める。大歓声が見守る中、イベントの幕が下りた。 
 

 
後書き
バトルは次回。いい加減、「D」についても話を進めないと…… 
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