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機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第三の牙

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第七話 タイムリミット

 
前書き
久々の投稿です。書きたてほやほやです。
多分、脱字誤字とか沢山あると思います。気になる点や感想などあればコメントくれると嬉しいです♪ 

 

 「────バルバトス?」
 
 バルバトスの瞳、メインカメラはモビルアーマーだけを見つめていた。
 あれ、バルバトス?
 バルバトスは動かなくなった。
 全く、言うことを利かなくなった。
 「バルバトス?」
 リンカーシステムの不具合か?
 いや、モビルスーツとのリンクは切れていない。バルバトスも異常は────────あった。
 バルバトスの動力、ツインリアクターのリミッターが解除されていた。
 まさか、これが原因で動けない?
 目を閉じ、バルバトスの内部システムにアクセスする。
 リンカーシステムを通じ、バルバトスの制御プログラムにアクセス。
 error。error。error。
 バルバトスの制御管理システムにアクセス出来ない?
 どうして……さっきまで入れたのに。
 「これじゃ……動かせない」
 目の前で繰り広げられている激戦。
 モビルアーマーとガンダムフレームの対決は熾烈を極める。
 「止めろ」
 あの二機の戦闘は凄まじかった。
 モビルアーマーの一撃はコンクリートの地面を易々と砕き、モビルアーマーが動く度に被害は拡大していく。
 ガンダムフレームは、被害の事なんてどうでもいいと思っているのだろう。ただ、平然とモビルアーマーと対峙していた。正義の味方気取り……でも、アイツの力は俺なんかよりも凄くて圧倒的だ。このままアイツに任せればモビルアーマーを倒してくれるだろう。
 でも、今のままじゃ駄目だ。
 「バルバトス、動いてくれ」
 再び、バルバトスに問い掛ける。
 「お願いだ、動いてくれ」
 バルバトスは動かない。
 「このままだと、アイツらはもっと被害を出す。だから、動いてくれ」
 バルバトスは動かない。
 「バルバトス、」
 バルバトスは動かない。
 「頼む。お前の力を貸してくれ」
 バルバトスは、動かない。
 「あのガンダムフレームは、モビルアーマーを倒そうとしている。
 でも、倒すだけじゃ駄目なんだ。俺は皆を救いたいんだ。アイツはモビルアーマー倒そうとしている、それだけだ。この街の事なんてどうとも思っていない。このままアイツらを戦わせたら被害はもっと酷くなる。頼むよ。
 今、アイツらを止められるのはお前だけなんだ。だから、動いてくれ。」
 バルバトスは、動かない。
 「バルバトス……」
 バルバトスは、動かない。
 「お願いだ。
 動いてくれ」
 バルバトスは……動かない。
 「お前は、モビルアーマーを倒す為に造られた兵器なんだろ?
 お前の目的は目の前だ。アイツは倒すべき敵なんだろ?」
 バルバトスは動かない。
 「なんで、なんでだよ」
 バルバトスは応えない。
 ……。
 ………。
 ……。
 ────。
 ───────。
 ────。
 ……────。
 ────……。
 ────……────。
 ……────……────
 ────……────……────。
 ────────────。
 ………………………………。
 ────────────……。
 …………………………────。
 バルバトスは動かない。
 
 「分かった」
 
 それなら、それでいい。
 「俺は、アイツらを止める」
 バルバトスのコックピットを強制的に開かせる。
 「お前はここで見てろ」
 ここからは俺の戦いだ。
 
 
 
 走る。
 モビルアーマーとガンダムフレームの元へ走る。
 左足の包帯、邪魔だ。引きちぎって捨てる。
 そして、走った。
 左足の感覚は無くなっていた。
 痛覚に慣れた。いや、放置し過ぎた。このままだと使い物にならなくなるとユージンは言っていた。まぁ、今は動くからこれでいい。
 でも、足を動かす感覚が無いのはちょっと気持ち悪いな。
 走っていても、左足だけ走った感覚がない。
 右足は走っている感覚。
 地面に足が付いている感覚は確かにあった。
 「凄いなぁ……」
 目の前で繰り広げられる激戦。
 モビルアーマーとガンダムフレームの戦闘はとても機械同士のものとは思えなかった。
 人じゃない。機械でもない。強いて言うなら『悪魔』か。両者の戦闘は周りの建物を破壊する。
 両手の戦闘の余波は凄まじい。
 ガンダムフレームの斬撃はビルを裂き、モビルアーマーの一撃は大地を割る。
 アレは危険だ。
 このまま続ければ街は崩壊する。
 止めなければならない。
 でも、どうやって?
 バルバトスは動かなくなった。だからこうやってなんとか走ってアイツらの元まで走ってるけど……その後はどうすればいい?
 俺は、どうやってアイツらを止める?
 どうやって皆を救えばいいんだ?
 止めなければならない。
 見捨ててきた人達の為にも、俺は止めなければならない。
 でも、どうすればいい。俺はどうすればいいんだ?
 「まぁ、今は走るか」
 今すべき事は今すべきだ。バルバトスが使えないなら他の策を考えればいい。どちらにせよ、アイツを止めなければこの街は崩壊する。なら、最終目的はアイツを倒すことだ。少しでも近付いて、倒す方法を模索するんだ。
 「おい、そこの少年!」
 突如、空からグレイズが降ってきた。
 グレイズのパイロット、この声は……えっと、名前は確か……。
 「ジキールさん……だっけ?」
 「な。何故、私の名前を?」
 「俺だよ。バルバトスのパイロット、」
 そっか。通信の時に少し会話してたけど面と向かって……いや、この絵面だとモビルスーツ越しで会話してるな。まぁ、どちらにせよ。ジキールは俺の顔を知らないんだ。
 「君が、バルバトスのパイロット……?」 
 その声は驚きに満ちており唖然していた。
 「君みたいな子供が……モビルスーツを、」
 「歳なんて関係ないよ」
 動かせたから動かしただけ、戦場で子供も大人も関係ない。
 それは、この現状で嫌というほど知った。
 「だが、君は……」
 「子供とかそういうのはどうでもいい。今はアイツを倒す事を優先しないと」
 「そうだが……?
 いや、待ってくれ。何故、君はこんな所で一人なんだ?」
 「バルバトス、動かなくなった」
 「は?」
 「だから動かなくなったんだよ。
 あのモビルアーマーの鳴き声を聴いたら」
 「…………?」
 どうやら俺の言っている言葉の内容が理解できないらしい。俺自身、リンカーシステムを使ってバルバトスとリンクしていなかったら理解できていなかっただろうが納得はしていない。
 「あのモビルアーマーの声で、機能を停止したのか?」
 「そう。バルバトスのツインリアクターのリミッターが一時的に開放されてた。それが原因で一時的にerrorを起こしてる」
 「???」
 更に困惑したのか、ジキールの声は途切れた。
 「まさか……噂話だと思っていたが、もしかするともしかするな……」
 ジキールは何か心当たりがあるのか意味あり気な発言をするとグレイズのコクピットを開いた。
 「ここから先は私達、軍人の役割だ。君は何処か安全な所に避難していなさい」
 グレイズのコクピットから出てきたジキール。
 なんか、俺の予想とは違った。
 声からするにもっとひょろっとした奴だと思っていたが実際に現れたのは筋肉質な青年だった。
 赤色の短く整えられた髪型、そしてギャラルホルンの軍服をしっくりと着こなしている。
 「安全な所なんて何処にもないよ。アイツが……アイツらが暴れ回っている限りわね」
 視線の先、ここから数kmは離れたそこでは化け物同士の戦いが繰り広げられていた。
 「アイツをどうにかしないと」
 「どうにかって、あのモビルスーツは君の仲間じゃないのな?」
 「あんな奴、知らないよ。てか味方じゃない。アレは「敵」だ」
 俺達の街を、火星を無茶苦茶にした奴らだ。
 「だ、だが……あのモビルスーツはガンダムフレームだ。君の乗っていたバルバトスと同じガンダムフレームで、厄祭戦の遺物であるモビルアーマーと戦っている。少なくとも敵ではないんじゃないか?」
 ジキールは少し嬉しそうに言う。
 いや、違う。アレは味方じゃない。
 確かに、傍から見れば正義の味方にも見なくはないだろう。だが、あのガンダムフレームはこの惨劇を更に加速させている。
 ただ、あのモビルアーマーを倒そうとしているだけで街の事なんて二の次……そんな戦い方だった。
 「でも、」
 俺も、人の事は言えないのかもしれない。
 モビルアーマーの戦闘中、俺は周囲の建物を利用し奴に近付いた。だから俺も傍から見れば奴と同じなのだろう。
 「でも、それでも」
 俺は、この街を救いたい。
 この街を、火星を救いたいんだ。
 「俺はアイツらを止める」
 止める方法なんてない。
 あの化物共の戦いに割り込めば死ぬのは目に見えている。
 俺一人の力で、この状況を打破出来るなんて、そんな自惚れた事なんて思ってもいない。
 でも、それでも────ただ、立ち止まって居るなんて出来ない。
 だから俺は進むんだ。
 片足の感覚は当の前に薄れ、体の隅々も傷だらけだ。
 歩くことすらままならないこの状況でも俺は諦めない。アイツらを止める……その一心で足を無理矢理、動かす。
 一歩。また一歩。
 そしてまた一歩。
 例え、足元に人間だった残骸が転がっていても関係ない。
 例え、誰かの悲鳴が聞こえようと立ち止まらない。
 今までも見捨ててきた。見捨ててきたんだ。今更、善人ぶって人助けなんてする気もない。
 だが、俺は決して忘れない。
 誰かの助けを求める声を絶対に忘れない。
 助けられた命を無視して俺は進むんだ。
 一歩。また一歩。そしてもう一歩と確実に距離を詰めていく。
 「待て!」
  ジキールのグレイズは俺の目の前に立ちはだかった。
 「邪魔しないでくれ、」
 「本当に、行くのか?」
 「うん」
 「何故、君は自分から死にに行こうとするんだ?」
 「別に、死ぬつもりなんてないよ。ただ、俺はこの街を『火星』を護りたいんだ」
 だから死ぬつもりなんて毛頭ない。生きて母さんとクーデリアの元へ帰るんだ。
 「…………」
 「だから、そこを通してくれ」
 「……。……。……。」
 返答はない。なら、自力でここを通る。ゆっくりとジキールのグレイズを通り過ぎる────その時だった。
 グレイズの手の平が俺の目の前に差し出された。
 「……?」
 何のつもりだ?
 俺は、グレイズのコクピットに振り返る。
 するとジキールはグレイズのコックピットから軽快と降り、俺の目の前でやって来た。
 「その足では日が暮れる。
 私のグレイズに乗れ、」
 「……は?」
 「勿論、操縦するのは私だ。そして君の命は何としても守り抜く」
 「いや、何を言ってるのか────」
 解らない。と言おうとした直後、俺の体は宙に浮いた。
 「何してんの?」
 ジキールは俺を抱き抱えながら歩き出す。
 「無駄口を叩くな。
 今は1分1秒でも早く、あのモビルアーマーの元へ行くのが先決だ」
 「いや、それはそうだけど」
 なんで、アンタも一緒に来る流れになってんだ?
 「私は軍人だ。そして、君と同じく、この街を火星を護りたい。いや、護らねばならない」
 「でも、アンタのモビルスーツじゃアイツらは止められないよ?」
 片腕を失い、各箇所の装甲も損傷が烈しい。動くだけなら何とかなりそうだが、あのモビルアーマーとガンダムフレームの戦闘に介入するのは無理だ。
 ましてや、武器も無しにどうやって……?
 「そんな事は解っている。だが、行動しなければ何も始まらない。それを教えてくれたのは君じゃないか、」
 「俺?」
 「そうだよ。君は無茶苦茶な奴だ。でも、君の心の在り方は本物だ」
 「何を言ってるのか解らない」
 「ははっ。確かに、これは私個人の考え方だ。そして君の在り方に敬意を評したい」
 ジキールは俺を連れてコクピットに乗り込む。
 「さて、行こうか」
 グレイズは歩きだす。
 ゆっくりと……そして少しずつ加速する。
 「…………」
 俺には解らなかった。
 何故、この男は見も知らぬ俺にこうやって手助けをしてくれるのか。
 何故、この男は諦めていないのか。
 「あと少し、踏ん張ってくれよ」
 このグレイズは、もう限界だった。
 外見から見れば期待全体の装甲の破損と片腕を失った程度の損傷と判断できるが、機体の内部状況は最悪だった。
 右足、左足の関節部に異常発生。
 こうやって二足歩行で移動しているのも奇跡的な状態だ。
 そして、極めつけは背中のブースターだ。
 多用し過ぎたのか、モビルアーマーとの戦闘で破損したのか……どちらにせよ、あと一、二回の使用でこのグレイズの動力は停止するだろう。
 機体のコンデションは最悪。
 それは武装面でもそうだ。
 今、このグレイズは丸腰に近い。
 残された武装は両腰にマウントされた手榴弾と閃光弾。どれもアイツらを倒すには火力不足だ。
 だが、それでもジキールは諦めていなかった。
 ジキールから伝わってくる気持ちは────正しく『本物』だったんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動けない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動けない。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 バルバトスは動けない。
 
 バルバトスは動け……。
 
 バルバトスは動か……。
 
 バルバトスは動き……。
 
 誰も居ない、バルバトスのコックピット。
 画面上に映し出されたerror表示。
 
 バルバトスは動けない。
 
 バルバトスは動かない。
 
 バルバトスは動きたい。
 
 少しずつ……少しずつ……変化していく。
 
 瞳の色は赤から緑、青から赤へと変色していく。
 そして誰も居ない。誰も乗っていないバルバトスは少しずつ覚醒していく。
 error表示は消えていく。
 そしてバルバトスの両肩から『蒼炎』が噴き出した。
 バチバチと火花のような音を放ちながらバルバトスは動き出す。
 誰も乗っていないバルバトスは動き出す。
 ゆっくりと。
 ゆっくりと立ち上がる。
 バルバトスには誰も乗っていない。
 動き出す事は有り得ない。
 バルバトスは歩き出す。
 向かう先、視線の先は殲滅対象のモビルアーマーと自身と同型のガンダムフレーム。
 バルバトスは歩き出す。
 ゆっくりと歩き出す。
 真紅の瞳を輝かせ────走り出す。
 バルバトスには誰も乗っていない。
 そう、誰も乗っていない。
 バルバトスは走る。
 バルバトスには誰も乗っていない。
 バルバトスには誰も乗っていない。
 バルバトスには誰も…………。
 
 
 
 
 *********************************
 体勢を低くし、しゃがみ込む。
 視線の先、グレイズのメインモニターから映し出される映像にジキールは言葉を失っていた。
 あぁ、グレイズの目からはこう見えてるのか。
 両機の激突、モビルアーマーとガンダムフレームの戦闘はジキールの想像を絶するものだった。
 ここまで間近で見れば怖気もする。
 ガンダムフレームから繰り出される一撃はモビルアーマーの装甲を切り裂き、その余波は建造物を吹き飛ばす。
 流石のモビルアーマーでも、あのガンダムフレームから繰り出される斬撃は驚異の対象なのか避ける事に専念している。
 ガンダムフレームから繰り出される斬撃はモビルアーマーの装甲にダメージを与え、モビルアーマーは痛みに悶絶しているように見えた。
 「何なんだ……アレは?」
 ジキールも俺と同じ疑問を抱いている。
 あのモビルアーマーは機械の筈だ。
 それなのに何故だろうか。
 俺達の目には、あのモビルアーマーが巨大な生き物に見えていた。
 モビルアーマー……いや、機械ではなく一つの生命体に見えているのだ。
 「私達は……一体、何と戦っているんだ?」
 モビルアーマーと呼ばれる人を殺す為だけの殺戮兵器。
 そう、その筈だ。
 アレは人を殺す為だけの機械。
 その事実は変わらない。
 だから……今は、そんな疑問は無視しろ。
 「ジキールさん。
 あのガンダムフレームのパイロットっと通信って出来る?」
 「あ、ぁぁ。
 出来なくは無いが……さっきから妙にエイハブ・ウェーブの濃度が濃くなっている。オープンチャンネルなら……なんとか」
 「それで構わない。
 オープンチャンネルで、アイツとコンタクトを取ってくれ」
 「分かった」
 ジキールは通信を試みる。
 そして────ガガガっ。
 ────ガガガ……ガガガガっ。
 エイハブ・ウェーブの影響で電波障害が発生していて通信もままらない。だが、このまま何もせずに見ているだけなのは嫌なんだ。
 そして────────。
 「だ、れ、だ?」
 ノイズ混じりの声、あの男の声だ。
 「俺は、暁・オーガス。
 バルバトスのパイロットだ」
 「しっ、ている」
 「そう。なら話が早いや」
 なんで俺の事を知っているか知らないけど今はどうでもいい。
 「今すぐ、モビルアーマーを引き連れてここから離れてくれ。このままアンタらの戦闘が続けば被害は拡大するばかりだ」
 倒せとは言わない。今すぐここから離れろとだけ伝えると。
 「それは、無理な、相談だ」
 「なんで?
 アンタならアイツを誘導しながら戦うことも出来る筈だ」
 「出来な、い、事、は、ない。
 だが、そ、れ、なら、ここで倒、した、方、が、楽だ」
 「んなの知るかよ。
 今からここから離れろ」
 「面倒、だ、な」
 「巫山戯るな。アンタとモビルアーマーの戦闘で余計な被害が出ている。このままだと避難した皆も危ない」
 「関係ない、な」
 ガンダムフレームは止まらない。
 俺との会話を続けながらも戦闘を続けている。
 なんで、それだけの力を持っているのにここから離れてくれないんだ。
 「どの道、こ、こ、か、ら……離れた────所で────ガガガッ────損害が、減る訳で、はない。俺は、俺の……や、り……たい、ように……するだけだ」
 男の言っている事に、俺はすぐさま反論出来なかった。
 ここから離れても被害は出る。
 そうだ。俺もモビルアーマーとの戦闘でそう思っていた。
 だが、俺と奴の違いは街を救う為にモビルアーマーと戦うのか。モビルアーマーを倒したいから倒すのか……。あの男は後者だ。
 俺も、傍から見れば後者なのかも知れない。でも、今は倒す事なんかよりここから引き離す事が重要なんだ。
 「離れろ……離れてくれ、」
 「………………」
 「ここは、俺の俺達の街なんだ。
 だから頼む。ここから離れてくれ、」
 切なる願いだ。
 だが、男は。
 「断る。俺には関係ない」
 そう言って通信を切った。
 なんでだ。何でなんだ?
 なんで、なんで、なんで。
 俺は、この街を……火星を救いたい。その為にバルバトスに乗ったんだ。
 それなのに、なんでバルバトスは動かなくなった。なんで、いう事をきかなくなったんだ。
 なんで、こうも思い通りにならない。なんで、なんで、なんで!
 「────────クソッ!」
 グレイズのコックピットを強制的に開かせ、俺は飛び降りる。
 「おい!」
 ジキールの声。
 ジキールさん。ここまで連れてきてくれてありがとう。
 そうしてなんとか地面に着地し歩き始める。
 さっきの着地で、右足から変な音が聞こえたけど関係ない。
 明らかに折れていても関係ない。
 今は前だけ見て進め。歩き続けろ!
 痛みなんて無視しろ。今は進むんだ!
 「────逃げろ────!」
 ジキールの叫び声。
 その声と同時に俺の頭上からとんでもない大きさの物体が落下してきた。
 目の前で繰り広げられているガンダムフレームとモビルアーマーの戦闘の余波で発生したのだろう。
 なんて冷静に状況を把握しつつ回避行動を取るが……足が動かない。
 遂に、俺の右足は限界を超えてしまったようだ。
 かくんっと大きく体勢を崩し、崩れ落ちる俺の肉体。
 駄目だ。これじゃ避けれない。
 目前まで迫った落下物、俺はそれを眺める事しか出来なかった。
 
 ここで、終わるのか?
 
 こんな所で、終わるのか?
 
 何も出来ないまま……誰も救えず、見捨ててきた。
 助けたかった。助けられるなら皆、助けたかった。でも、全ての人を救うなんて俺には出来ない。だから、自分が本当に護りたいもの守るために俺はここまで来たんだ。
 諦めたくない。
 諦めたくなかった。
 助けたかった。
 救いたかった。
 俺は無力だ。人の感情を理解できないクズ野郎だ。
 でも、これは本心だ。
 俺は、この街を────火星を。
 
 ────────クーデリアと母さんを護るんだ。
 
 「だから、俺は────────」
 
 諦めない。
 だから来てくれ────バルバトス!
 
 それは颯爽と現れた。
 「────────────」
 俺の想いに応えるように来てくれた。
 「バルバトス……!」
 その機体には誰も乗っていない。
 動ける訳ない。パイロット無しで行動できる訳がない。でも、コイツは来てくれた。
 バルバトスは降り注ぐ、落下物から俺を守るように覆い被さる。
 そして閉ざされていたコックピットハッチは勝手に開いた。
 「お前、恐いんじゃなかったのか?」
 バルバトスは応えない。
 「俺のワガママに付き合ってくれるのか?」
 バルバトスは応えない。
 「俺と一緒に戦ってくれるのか?」
 バルバトスは応えない。
 そもそも応えなんて返ってくる訳ない。
 そう、その筈だが────バルバトスは俺に手を差し出してきた。
 「乗れっていうのか?」
 バルバトスは応えない。
 だが、これだけは伝わってきた。
 お前と一緒に戦いたい────と。
 「なら、遠慮なくお前を使わせてもらうよ」
 バルバトスは応えない。
 代わりに、俺のズボンのポケットから光が放たれた。
 「な、なんだ……?」
 俺はズボンのポケットに手を突っ込み、光を放つ物体を取り出す……それらクーデリアの手紙と共に送られてきたペンダントだ。
 ペンダントの中央部分の宝石が光り輝いている。
 「これって、」
 その光はとても暖かく、心地よいものだった。
 「────アカツキ、聴こえるか!?」
 バルバトスのコクピットからオヤっさんの声が響き渡った。
 恐らく、通信によるものだろうが、余りの音量の大きさに両耳を塞いでしまう。
 「そんな大きな声、出さなくても聞こえるよ」
 俺は、バルバトスのコクピットに乗り込み音量を下げる。
 「おおっ!
 無事だったか!」
 その声は先程と同じく、とてもクリアな音質で通信状況も良好だった。
 ……よく見ると先程まで充満していた エイハブ・ウェーブの濃度が下がっている。
 先程までの高密度の エイハブ・ウェーブは何だったんだ?
 「さっきからろくに通信も繋がらねぇし、バルバトスの識別子コードが消えちまうし……一体、そっちはどうなってんだ?」
 「色々あってね。
 さっきまでバルバトスが動かなかった」
 「動かなかったって……?
 まさかどっかイカれたのか?」
 「いや、損傷とかじゃないみたい。なんな、バルバトスってあのモビルアーマーの声を聴くと動かなくなるみたいなんだ」
 機体の状態チェックをしつつ俺は答える。
 やはり、何処を調べても機体に破損の形成はない。
 有るとしたら……あのモビルアーマーを聴くとバルバトスのリミッターが一時的に解除される事くらいだ。
 恐らくは、これが原因でバルバトスは機能停止になったんだろうが……何故、モビルアーマーの発する声でバルバトスのリミッターが解除されるんだ?
 「モビルアーマーの声でって……。まさか、いや……そのまさか……」
 「心当たりでもあるの?」
 「まぁ、少しな。
 アカツキ。モビルアーマーの発する、その声とやらのデータをこっちに送ってくれ。俺の憶測が正しければ……アイツはヤりにくい相手だぞ」
 「そんなの最初から分かってるよ。
 データは今すぐ送るから手短に説明してね」
 「おくよ。
 ……おっし、受信完了だ。
 …………………………。
 成程やっぱりそうか」
 「何か分かったみたいだね」
 「あぁ、あのモビルアーマーの特性ってヤツだな」
 「特性?」
 「ユージンからこんな話を聞いてなかったか。
 ガンダムフレームはモビルアーマーを狩るための存在だって、」
 狩るため……?
 そういえば……そんな事を言ってたような気もする。
 「ガンダムフレームは本来、阿頼耶識つう特殊なデバイスが無けりゃ動かせねぇ代物でな。今は、説明する時間がねぇから簡単に端的に説明するとモビルスーツと人間の融合だ」
 「融……合?」
 「そう、モビルスーツと人の神経を繋ぎ合わせる。それにより通常のモビルスーツ操作では不可能な動きも可能になった。だが、これには結構なデメリットもある。んで、そのデメリットを改善し軽減させたのが、オメェの首元に巻かれたリンカーシステムだ」
 人とモビルスーツの融合。
 阿頼耶識を簡略化したリンカーシステム。確か、出撃前にリンカーシステムの話をしてたっけ。色んな事が有りすぎて忘れかけてた。
 「で、ここからが重要な話だ。
 ガンダムフレームってのはモビルアーマーを狩るための存在だ。オメェもあの怪物とヤリあったなら、アイツの強さは身に染みた筈だ」
 「………………」
 「解っていると思うが、通常の兵器、モビルスーツでモビルアーマーを倒す事は出来ねぇ。だが、ガンダムフレームのモビルスーツなら可能だ。
 ガンダムフレームのモビルスーツには、ある特殊なリミッターが設置されている。そのリミッターは通常時は機能しねぇ……てか、元から機能してるんだが、ガンダムフレームはモビルアーマーを視認するとそのリミッターが一時的に開放されるんだ」
 それが、あの時のバルバトス……?
 「だが、そのリミッター解除の代償はとてつもなく大きい。
 それを使えば、モビルアーマーとだって互角以上に戦える。だが、それは諸刃の剣なんだよ」
 「諸刃の剣?」
 「使えば一時的にガンダムフレームの真の力が開放されるが、代償にパイロットの脳にダメージを与えちまう」
 脳に……ダメージ?
 それって、あの金髪のオッサンが言っていた────もしかして、父さんはモビルアーマーと戦ったて死んだのか……?
 「今のバルバトスには機体のリミッターを強化してっから普通ならバルバトスは動ける筈なんだが……。
 どうやら、あのモビルアーマーから発させられる声はバルバトスのツインリアクターに負担を掛けてんだと思われる」
 「負担って……」
 もしかして、だから動かなくなってたのか?
 でも、それじゃあ……なんで、お前はここまで来てくれたんだ?
 「取り敢えず、今の所はバルバトスに不調はねぇ。今なら動かせる筈だ!」
 「うん。今なら動ける、」
 「だが、不用意に近付くな。アイツの発する声を至近距離聴いちまったらバルバトスのツインリアクターにどんだけの負担が掛かるか検討も付かねぇ。離れてやり過ごせ!」
 「でも、離れてたらアイツらを止められない」
 バルバトスのメインモニターに映し出されるモビルアーマーとガンダムフレーム。アイツらを止めないとこの街は────────。
 「いいか、今はアイツから距離を置け。そろそろギャラルホルンの奴らが、宇宙からダインスレイブを発射させてくる!」
 
 
 
 


 
  
 

 
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