英雄伝説~西風の絶剣~
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第40話 暗躍する影
side:リィン
学園祭が終わり俺とフィルは孤児院の人たちと一緒にマノリア村に向かっていた。エステルさん達は学園祭の片づけがあるらしくそれが終わったらギルドに報告しに行くと言っていた。
「やったな!これで孤児院が元に戻るんだ!」
「もう、クラムったらはしゃいじゃって……まあ私も嬉しいんだけどね」
子供たちにも事情を話して孤児院を再建させることが出来ると知って全員が笑顔になっていた。
「孤児院が再建されるようで良かったよ。後はその放火した犯人を見つけるだけだな」
「カルナさんもありがとうございます。忙しいはずなのに護衛をしていただいたりして」
「構わないさ、あんな大金をもっていたら危ないからね」
帰る間際にコリンズ学園長がカルナさんに護衛の依頼を頼んでいたらしく今はこうして彼女も一緒に同行してもらっている。
因みにクローゼさんも学園から許可をもらって一緒に同行している、まあ孤児院が放火されたことで心配になっているんだろう。今も同行してくれているカルナさんにお礼を言っていた。
「でも犯人は何を考えて孤児院を放火したりしたんだろうな?」
「エステル達は強盗や怨恨は可能性としては低いって言ってた」
「だとしたら他の目的があるのか……オリビエさん。あなたならどう思いますか?」
「そうだねぇ。物や人が目的じゃないのなら土地そのものが関係しているのかもしれないね」
オリビエさんの答えに俺は疑問を浮かべた。
「土地……といいますと?」
「鉄血宰相は知ってるかな?彼は鉄道を広げるためにその土地にあった民家などをミラで買い取ったりしたんだけど中にはそれを拒んだ者もいたんだ。でもその全員が何らかの原因で土地を手放さなくてはならなくなったんだ。借金をしたり家が放火されたりってね」
「……まさかその鉄血宰相っていうのがやったの?」
「証拠はない。ただ被害にあった人々が土地を手放す事になった原因や事件を調べていると彼の手が入ったような痕跡があるんだ。彼は英雄であると同時に多くに人間から恨まれているのはそういった事があるからなんだ」
「土地か……」
俺たちがそんなことを考えているとカルナさんがため息をつきながら注意してきた。
「こらこら、あんた達……そんな物騒な会話をしないでくれ。放火事件は遊撃士が追っているんだ、下手に首を突っ込まないでほしいな」
「あ、すいません。ただ気になっちゃって……」
「まああたし達が不甲斐ないからこんなことになってしまったんだし汚名返上もかねてしっかりと調査していかないとな」
「はい、お願いしますね」
その後俺たちは何事も無くマノリア村に着くことが出来た。夕食を食べた後に外泊許可を貰ったクローゼさんも来て子供たちと一緒に遊んだりしていた。そしてあっという間に長い一日が終わっていた……
なら良かったんだけどな……
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side:??
辺りが深い暗闇に包まれた深夜のマノリア村……村の入り口から離れた海道に数名の黒装束を来た人物が村の様子を伺っていた。
「いいか、目的は寄付金が入った封筒だ。極力殺しはしないようにしろ」
「何故ですか?全員皆殺しにすれば手っ取り早いものを……」
「隊長からの指示だ。ただ黒髪の小僧と銀髪の小娘は場合によっては殺しても構わないそうだ」
「小僧は兎も角あの小娘には痛い目に合わされましたからね。借りを返してやりたいですが任務を優先します」
「当然だ……行くぞ」
黒装束の人物たちはそう言うとマノリア村に近づいていく。そして後少しという所で全員が止まった。
「……何者だ」
「へえ、結構な手練れだな。この闇の中で俺たちに気が付いたか」
そう言って現れたのはリィンとフィーだった。二人は黒装束たちを睨み武器を構える。
「貴様ら、我々がここに来ることを読んでいたのか?」
「ああ、お前らが何者かは知らないが放火した奴が孤児院をなくしたいと思っているなら当然再建されるのは嫌がるはずだ。寄付金を狙って来るんじゃないかと思っていたんだ」
「……殺せ」
黒装束の集団はリィンとの会話を早々に終えて導力銃を取り出した、だが先頭にいた黒装束が銃を構えた瞬間、銃の先端が消えていた。
「二の型、『疾風』」
リィンは発砲される前に銃口を切り飛ばしていた。
「チィッ!?」
先頭にいた黒装束は銃を捨ててブレイドに持ち替えてリィンに切りかかった。リィンはそれを受け止めて切りあう。背後にいた他の黒装束たちが援護しようとしたがフィーが放った銃弾に阻まれた。
「お前たち、二手に分かれて撃破しろ!」
リィンと切りあっていた黒装束が他の仲間にそう指示を出すと3人がフィーの方に向かい残った3人がリィンの方に向かった。
「くらえっ!」
背後から切りかかってきた黒装束をリィンは蹴り飛ばして前方から撃たれた銃弾を太刀で叩き落した。
「化け物め!」
銃弾を放った黒装束は思わずそう呟いたがリィンの放った掌底を胸に喰らい大きく後退した。そこにフィーが蹴り飛ばした他の黒装束が吹っ飛んできてぶつかってしまった。
「とどめ!」
フィーがナイフを構えて接近するがリーダー格の黒装束がブレイドでフィーの攻撃を凌いだ。
「くそっ、話に聞いていたよりも強いぞ!」
「焦るな、数ではこちらが勝っている。数人で抑え込んで村に向かえ!」
リーダー格の黒装束がそう言うと彼以外の黒装束がリィンとフィーに向かっていった。その隙にリーダー格の男が村に向かった。
「所詮は子供だ、寄付金さえ奪えば……!?」
リーダー格の男が村の入り口にたどり着こうとした時、光の弾丸が放たれてリーダー格の男に直撃した。
「ぐわぁっ!?これはフォトンシュートだと!?一体だれが……」
「真打ち登場ってね」
近くにあった木々の陰からオリビエが現れた。リーダー格の男にアーツを放ったのはオリビエのようだ。
「仲間がいたのか……」
「村の入り口は二つあるからね。片方は僕が見張っていたんだけど騒ぎが起きたのでこっちに駆け付けたって訳さ。遊撃士協会にはとっくに連絡がいってある、観念した方がいいよ」
「時間をかけ過ぎたか……だが捕まるわけにはいかん!」
リーダー格の男が懐から閃光手榴弾を出すと地面に叩きつけた、すると強い光が辺りを包み込みリィンたちが目をあけると黒装束たちはいなくなっていた。
「……逃げたか。かなり訓練されているみたいだな、まるで猟兵だ」
「いいのかい?彼らを逃がしたりしても」
「これ以上は俺たちが深追いすることはできません。あいつらが逃げた先はフィルが追ってますし駆けつけてくる遊撃士の方には上手く誤魔化しておきますよ」
「……しかし何者だ、君たちは?あまりにも場慣れしているが本当に唯の剣士なのかい?」
「それはお互い様でしょう、あなただって唯の旅行客ではないんじゃないですか?」
探るように見てくるオリビエさんに俺も探るような視線を送った。
「……分かった。ここはお互い探りあうのは止めておこう。僕としては君とは友好的な関係でいたいからね」
「……感謝します」
その後俺たちは駆けつけてきた遊撃士……まあエステルさん達だったんだけどオリビエさんと僕が夜中に出歩いていたら奴らを発見して逃げて行ったという嘘を、後フィーが奴らの行き先を探っておいたのでそれも誤魔化しを交えながら説明して後は彼女たちに任せる事にした。
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side:エステル
夜中にマノリア村の『白の木蓮寧』からオリビエが連絡をしてきたので何事かと思ったがなんと孤児院を放火した黒装束たちがマノリア村を襲おうとしたらしいの。
あたしたちは直にそこに向かうとオリビエとリート君がいて詳しく話を聞いてみるとオリビエが酒場でお酒を飲んで火照った体を冷やすためにリート君を連れて外を散歩していたら村の入り口で黒装束が現れたようなの。
そいつらはリート君達を見るとバレンヌ灯台の方に逃げて行ったと聞いたあたしとヨシュアはそこに向かっている途中って訳よ。
「おい、お前ら!」
「あんたはアガットじゃない?なんでここにいるの?」
「話を聞いて飛んで来たんだ。何でもあの黒装束が現れたんだってな?」
「ええ、そうよ」
「なら話は早い。俺も同行するぞ」
「じゃあ3人であいつらを追いましょう!」
途中でアガットと合流してあたしたちはバレンヌ灯台の中に入っていった。中に入るとそこにはレイヴンのメンバーがあたしたちの行く手を遮るかのように立っていた。
「あ、あんたたち!?どうしてこんなところにいるのよ!」
「こいつらは昨日から忽然と姿を消してやがったんだ。それで今日の襲撃事件と来た」
「じゃあこいつらが犯人だったの!?」
「でも何か様子がおかしいよ。目も虚ろだし意識が無いようにも見える」
ヨシュアの言う通りレイヴンのメンバーは全員目が虚ろで様子がおかしかった。
「おい、てめえら。こんな所でなにしてやがる?」
「……」
「聞こえねえのか、おい!」
アガットが近づこうとした瞬間レイヴンのメンバーの一人であるディンがアガットに切りかかった。
「アガット!?」
「ぐうっ……!これは……!?」
アガットは攻撃を防いだが驚いたように声を荒げた。そして何とかディンを引き離して大剣を構える。
「こいつら、力が格段に上がってやがる……おい、ひよっこども!気を抜くなよ、倉庫でやりあった時とはまるで別人だからな!」
「わ、わかったわ!」
あたしとヨシュアも武器を構えて襲い掛かってきたレイヴンのメンバーと戦闘を開始した。勝つことはできたが前に戦った時はとまるで別人のような強さだった。
「な、何とか勝てたけど……どうなってるの、これ?」
「……これは」
「どうした、小僧?」
「彼らはどうやら操られていたようです。薬品と暗示を利用した特殊な催眠誘導みたいだ。おまけに身体能力も最大まで引き出されている」
「あんですって!?」
催眠ってそんな事が出来るものなの?でもレイヴンのメンバーは明らかに様子がおかしかったし操られていたとしか説明がつかないわね。
「でもよくわかったわね」
「うん、昔からこういう症状には詳しいんだ。何でかは知らないけど……」
「とにかくこいつらを操っていた犯人はこの上にいるはずだ。油断するなよ」
「分かったわ」
あたしたちは襲い掛かってくるレイヴンのメンバーを気絶させながら灯台の上を目指していった。最上階に着きそうになった時誰かの話声が聞こえてきたので様子を伺う事にした。
「なんてザマだ!寄付金を奪えなかったとは!」
「……すまない」
「すまないじゃないよ!このままではあの女が孤児院を再建してしまうじゃないか!そうなったらすべてが水の泡だ!」
あれ?この声どこかで聞いたような……そうだ!ダルモア市長の秘書のギルバートさんの声じゃない!でもどうして彼が……
「あの土地は市長が計画している別荘地を立てる重要な場所なんだぞ!せっかくあいつらを追いだせるチャンスが来たというのに……クソ!」
そ、そんな……今回の事件の黒幕がダルモア市長だったなんて……あんなにテレサ先生や子供たちの事を心配しているように見せておいて裏ではほくそ笑んでいたっていうの!?
「こうなったらあの女とガキどもには死んでもらうしかないようだな。事故に見せかけて魔獣でもけし掛けるか……」
「ふざけんじゃないわよ!」
あたしたちは階段を上がりギルバートたちと対峙した。
「き、君たちは……!?」
「あんたたち、最低にも程があるわ!そんなくだらない計画の為にテレサ先生やクラムたちを傷つけたっていうの!」
「どうしてここが……それよりもあのクズどもは何をしていた!?」
「全員眠らせていますよ。もっとも彼らもあなたにはクズなんて呼ばれたくはないでしょうがね」
「く、くそ……おい!お前ら!あいつらを皆殺しにしろ!」
ギルバードが黒装束達に命令をするが、彼らは動かずにこちらを見ていた。
「何をやっている!早くしろ!」
「……ここまでだな」
黒装束たちは何を思ったのか、あたし達ではなくギルバートに銃口を突き付けた。
「な、何をしているのよ!」
「動くな、一歩でも動けばこいつの頭を撃ち抜くぞ」
「ふざけんな、そんな三文芝居に騙されるか」
アガットがそう言うと黒装束はギルバートの右足を容赦なく撃ち抜いた。
「うぎゃあ!!」
「て、てめえら……!」
「我々は本気だ。こいつは所詮利害が一致しただけの赤の他人に過ぎない、故に殺す事にもためらいなどない」
「それともこっちの爺さんのほうがいいか?」
もう一人の黒装束が灯台守のおじいさんに銃を突きつけた。
「止めなさいよ!その人は関係ないでしょう!」
「ならばしばらくの間、階段まで下がっていてもらおうか」
あたしたちは仕方なく黒装束の要求通り階段付近まで下がった。
「ふふ、それではさらばだ」
黒装束たちはそう言うと外に出る扉から逃げて行った。
「おい、お前ら!そいつとレイヴンのメンバーは任せたぞ!」
「アガット!?」
アガットはそう言うと奴らが逃げて行った扉を潜っていってしまった。
「ど、どうしよう。ヨシュア……」
「……こっちには怪我人もいるし黒装束は彼に任せよう」
「そうね、今はできることをしましょう」
……こうしてあたしたちは放火事件の関係者であるギルバートを捕まえることが出来た。レイヴンのメンバーは操られていたとはいえ一応事件に関与していたのでギルバートと一緒にマノリア村の風車小屋に監禁した。
見張りをカルナさんに任せてあたしたちは事件の真相が知りたいと言ってきたクローゼも連れてこの事をギルドに報告しに向かった。
「……話は分かった。しかしまさかダルモア市長が黒幕だったとは……こいつは大事件だぞ」
「ねえ、ジャンさん。早く市長を捕まえたほうがいいんじゃないの?」
「それは難しいんだ……」
「えっ?どうしてなの?」
首を傾げるあたしにヨシュアが説明してくれた。
「エステル、遊撃士協会は国家の内政に不干渉っていう原則があるんだ。だからルーアン地方の責任者であるダルモア市長を逮捕するのは難しいんだ」
「嘘でしょ……おかしいわよ、そんなの!」
「でもそれが決まりなんだ。これがあるから遊撃士協会はあのエレボニア帝国にもギルドの支部が置けたくらいだからね」
「じゃあダルモアはこのままのさばらせておくしかないってことなの?」
頭を抱えるあたしにジャンさんが声をかけてきた。
「エステル君、まだ手がないわけじゃないよ。遊撃士協会が駄目でも王国軍なら市長を逮捕できる」
「あ、そっか。王国軍に頼るのは癪だけど、この際そんな事言ってられないわよね」
「君たちはこれから市長の元に向かって事情聴取をしてきてくれ。多少怒らせても構わないから時間を稼いでほしいんだ」
「なるほど、その間に王国軍を呼ぶわけですね」
「その通りさ。ただ市長も秘書が戻ってこないことに警戒してるかもしれない、気を付けてくれ」
「わかったわ」
あたしたちは事件を稼ぐためにルーアン市長邸に向かった。
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ルーアン市長邸に着いたあたしたちは中に入るとメイドさんが話しかけてきた。
「ルーアン市長邸にようこそ。ただ今市長は接客中でして他にもお待ちしている方がございます。真に申し訳ございませんがまた来ていただけますでしょうか?」
「ええ~っ!ちょっと待ってよ……」
「その来客のことなら僕たちも承知しています。デュナン侯爵閣下ですよね?」
「えっ……」
ヨシュアの突然の話にあたしとクローゼは驚いてしまった。何でそんなことが分かったのかしら?
「まあ、その通りですわ……ひょっとして皆様も招待されていらっしゃるのでしょうか?」
「はい、市長から直々に。お邪魔しても構いませんか?」
「よく見たら遊撃士の方ですわね。そういう事情でしたらどうぞ、お上がりになってください」
「ありがとうございます」
「……ポッ」
ヨシュアの笑みを見たメイドさんは顔を赤くしながら去っていった。む~……なんか面白くないわね。
「……」
「……」
「あれ、どうしたの?」
「べっつに~」
「え、えっと……そうだ。どうして侯爵閣下が来ていると分かったんですか?」
そう言えばどうしてあの侯爵がお客さんだって分かったのかしら?
「ああ、カマをかけただけだよ。市長は別荘地を作って各国のお金持ちに売りつけるのが目的だからあの侯爵様なら恰好のお得意さんだと思ってね」
「まあ……」
「もう、悪知恵が働くんだから。市長に招待されているなんて口から出まかせを言っちゃってさ」
「出まかせじゃないさ、初めてダルモア市長に会った時も何か困ったことが合ったら遠慮なく市長邸に来てくれって言ってただろう?」
「あ、そっか」
そんな約束もしてたっけ……言われるまで忘れていたわ。
「だから何の問題もないよ」
「それならOKね、さあ悪徳市長を問いただすわよ!」
あたしたちは市長と侯爵がいるという2階の広間に向かった。
「こんにちは~。遊撃士協会の者で~す」
「君たちは……」
「ヒック……なんだお前たちは?」
「あなた方はいつぞやの……」
「こんにちは、執事さん。今日はそちらの市長さんにお話があってきただけだから」
あたしがそう言うとダルモア市長は顔をしかめた。
「困るな、君たち……ギルドの遊撃士ならば礼儀くらい弁えているだろう。大切な話をしているのだから出直してくれないかな?」
「なにぶん緊急の話なので失礼をご容赦ください。実は放火事件の犯人がようやく明らかになったのでその報告にきました」
ヨシュアがそう言うとさっきまで顔を顰めていたダルモア市長は仕方ないといったように観念した。
「……仕方ない。侯爵閣下、しばし席を外してもよろしいでしょうか?」
「ヒック……いや、ここで話すといい。どんな話なのか興味がある」
「し、しかし……」
「いいじゃない♪未来の国王様もそう言ってるし」
「おお、そこの娘はよくわかっておるじゃないか!」
本当はそんな事思ってないけど、この人がいれば上手い事時間が稼げるかもしれないから煽てておいた。
「ま、まあいいか……それよりも話に聞いたんだが、昨日マノリア村が何者かに襲われかけたそうじゃないか。テレサ院長や子供たちは無事だったのかね?」
「彼女たちは無事です。後今回の事件を起こそうとした者は、孤児院を放火した犯人と同一人物だという可能性が出てきました。残念ながら実行犯の一部は逃亡している状況ですが……」
「そうか……だが犯人が分かっただけでも良しとしなくてはな」
な~に白々しい真似してるんだか。まあ今は我慢ね。
「因みに犯人は一体誰だったのかね?」
「市長さんが想像してる通りの人物ね」
「そうか……非常に残念だよ。いつか彼らも更生させることができると思っていたのだが、単なる思い上がりにすぎなかったようだな」
「あれ?市長さんは誰だと思ったの?」
「誰って、それはレイヴンの連中に決まっているじゃないか。少し前から行方も眩ませていると聞くし彼らで間違いないだろう?」
ダルモア市長は本気でそう思っているように答えた。まああんたたちの描いていたシナリオ通りならそう答えるわよね。
「いえ、彼らは犯人ではありませんでした。むしろ今回に限っては被害者とも言えるでしょうね」
「な、なに!?」
「今回の事件の犯人……それはあなたの秘書のギルバードさんだったわ」
「ま、まさか……!?そんな……彼がそんなことを……」
「残念ですが彼は実行犯と内通しているところを発見して現行犯で逮捕しました」
ヨシュアがそう言うとダルモア市長はショックを受けたかのように顔を伏せた。
「そんな……彼が何故そんなことを……」
「ギルバードさんは実行犯に裏切られて足を撃たれたショックで気を失っています。後日彼が目を覚ました時に詳しい事情を聴くつもりです」
「そうか……残念だ」
よし、ダルモア市長は自分が黒幕だってバレてはいないと思ってるわね。これなら王国軍が来るまで時間が稼げそうね。
「情けないな」
急に知らない声が聞こえたと思ったら窓際に誰かが立っていた。仮面を被っていて顔は分からないがその見た目はあの黒装束の奴らによく似ていた。
「あ、あんたは誰よ!?」
「お前は……」
「無様だな、ダルモア。そいつらはお前が黒幕なのはもう知っている。王国軍にも連絡がいっているから連中がここに来るまでそうかからないだろう」
「な、なんだと!?」
しまった、ダルモアにバレちゃったわ!
「だが俺はお前を助けに来た訳ではない」
「な、なに!?」
「お前がこいつらを口封じ出来れば後の事は何とかしてやろう。故に自らで何とかしてみるんだな」
仮面の男はそう言うと魔法陣みたいなものを地面に出して消えてしまった。
「き、消えちゃった……」
「ぐぐ……こ、こうなったら後のことなど知ったことか!」
ダルモアはそう言うと後ろにある壁からスイッチを出してそれを押す。すると壁の一部がずれてそこから狼のような大型魔獣が2体現れた。
「ファンゴ!ブロンコ!エサの時間だぞ!」
「ま、魔獣!?」
「信じられない……魔獣まで飼っているなんて」
「何とでも言え!お前らさえいなくなれば後はあの人が何とかしてくれるだろう!ひゃーはっはっは!!」
最後まで往生際の悪い奴ね、まあいいわ。こいつらをさっさと片付けて孤児院の皆に謝らせてやるんだから!!
「行くわよ、ヨシュア!クローゼ!」
「了解!」
「大切な孤児院を壊したこと……絶対に許しません!」
あたしたちは武器をかまえて魔獣に向かっていった。
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ーーーーーー
ーーー
「はぁ……はぁ……どんなもんよ!」
何とか魔獣を撃破したあたしはダルモアにスタッフを突きつけた。
「あんたの負けよ、ダルモア!」
「遊撃士協会規約に基づきあなたを現行犯で逮捕します」
あたしとヨシュアがダルモアに負けを認めるようにいうがダルモアは不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふふふ……こうなっては仕方ない。奥の手を使わせてもらうぞ!」
ダルモアは杖のような物を取り出した。何をする気か知らないけどさせないわよ!
「時よ、凍えよ!」
ダルモアが持っていた杖が怪しく光るとあたしたちの体の動きが止まってしまった。
「か、身体が動かない……!」
「こ、これは導力魔法なのか?」
「ち、違います。これは恐らく『古代遺物』の力です!」
古代遺物?それっていったい何なの?
「ほう、クローゼ君は博識だな。これぞ我がダルモア家に伝わる家宝、『封じの法杖』……一定範囲内にいる者の動きを完全に停止させる力があるのだよ」
「な、なんてデタラメな力なの……」
「こんな強力な古代遺物が教会に回収されずに残っていたのか……」
身体が全く動かせない、こんなの反則じゃない……!
「さてと、君たちの始末は私自らが行ってあげようじゃないか。光栄に思うがいい」
「だ、誰がそんなことを……」
ダルモアはそう言うと銃を取りだしてあたしたちに突きつけてきた。
「まずは生意気な小娘から死んでもらおうかな」
ダルモアはまずあたしから始末しようと銃をあたしに突きつけた。ま、まずいわ、このままじゃ……
「汚い手で……エステルに……」
「なに?」
「汚い手でエステルに触るな……!もしも毛ほどでも傷つけてみろ……どんな方法を使ってでもあんたを八つ裂きにしてやる……!」
ヨシュアは今まで見たこともない様な表情を浮かべてダルモアを睨みつけた。こ、こんなヨシュア見たことない……
「ゆ、指一本も動かせん癖に粋がりよってからに……いいだろう!貴様から始末してやる!」
ダルモアはそう言うとヨシュアに銃を突きつけた。
「や、やめて!だめえええぇぇぇぇぇ!!」
バキュンッ!
銃声が鳴り響きあたしはヨシュアが撃たれてしまったと思い目を閉じた。でもゆっくりと目を開けるとそこに映った光景は封じの宝杖と銃を撃ち抜かれて唖然としていたダルモアだった。
「い、一体何が……」
「間一髪だったね、エステル君」
体が動くようになったので背後を見てみるとそこにはなんとオリビエがいた。
「ど、どうしてあんたがここに……」
「昨日ダルモア市長の秘書君から別荘地の話を聞いてね、興味があったから市長邸を訪れていたのさ。でも先客がいたようだから一階の客室で待ってたんだ。そしたら何やら騒がしくなったからつい覗いてみたら君たちがいて銃を突きつけられていたじゃないか。だから咄嗟に怪しい杖と銃を撃ち抜かせてもらったよ」
「あんたはもう……でも最高のタイミングよ!」
あたしは唖然としていたダルモアにスタッフを叩き込んで気絶させた。
「まったく……あんたの悪だくみもここまでよ!!」
こうしてダルモアはお縄に付くことになった。
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side:リィン
「皆さん、本当にありがとうございました」
俺はルーアンの発着場に集まってくれたエステルさんとヨシュアさん。オリビエさんやテレサさんや孤児院の子供たちに挨拶をしていた。ダルモアが逮捕されたことによって孤児院の人たちが襲われることはなくなったので俺はフィーを連れてロレントに帰ることになった。
「フィルお姉ちゃん……寂しいよ……うわ~ん!」
「僕も嫌だよ……」
「ポーリィ、ダニエル……」
子供たちがフィーとの別れが嫌だと泣き出してしまった。
「もう、二人とも。お姉ちゃんにも帰る場所があるんだからちゃんと笑顔で見送って……みおく…あげな……うえぇぇぇ……ぐすっ……」
「マリィ、ごめんね……」
子供たちの中で一番しっかりしたマリィも泣き出してしまった。フィーは三人を抱きしめると必ず会いに来ると約束した。
「……なあ、ちょっといいか?」
「クラム?」
するとクラムがどうしてか俺に話しかけてきた。何やら二人っきりで話したいことがあるらしく俺は彼と共に少し離れた場所に移動した。
「それでどうしたんだ?」
「その……ごめんよ。オイラ、あんたに色々酷い事を言って……オイラ、見てたんだ。フィルとあんたと金髪の兄ちゃんが夜中にあの黒い奴らと戦ってたのを」
「起きていたのか……」
「うん、トイレに行こうとしたら偶然見ちゃって……あんたはオイラ達を守ってくれたのに、オイラ……」
クラムは本当に済まないといった表情で謝ってきた。この子はちょっと素直になれないだけで心優しい子なんだな。
「クラム、俺は気にしていないよ。君がそう言ってくれただけで俺は嬉しい」
「リート兄ちゃん……」
「約束するよ、また必ずフィルを連れて孤児院に行くって……それまで皆の事を任せたぞ」
「……ぐすっ。へへっ、当たり前だろう!兄ちゃんだってフィルのこと、もう離すなよな!」
「了解したよ」
俺はクラムと握手をかわして皆の元に戻った。何をしていたのか聞かれたが男同士の秘密と言ってごまかした。
「リートさん、フィルさん……本当にありがとうございました。また是非孤児院が再建できたら遊びに来てくださいね」
「はい、必ず行きます」
「バイバイ、テレサ」
俺とフィーはテレサさんと握手をして今度はクローゼさんの方を向いた。
「クローゼさん、フィルがお世話になりました。それに武器まで買って頂いたそうで……でも本当に代金を払わなくてもいいんですか?」
「はい、フィルさんには孤児院の事で色々助けてもらいましたし、結果的にはリートさんとオリビエさんが犯人を見つけてくださったお陰でマノリア村が襲われることはありませんでした。武器の代金はほんの僅かなお礼だと思ってください。
「そうですか……ならそのお気持ちは有り難く頂いておきます」
クローゼさんはフィーの方を向くと手を差し伸べた。
「フィルさん、短い間でしたが色々とありがとうございました。あなたとお友達になれて本当に嬉しかったです。これからもリートさんやご家族の方と仲良く過ごしていってください」
「わたしもクローゼには感謝している。もしクローゼに何かあったらわたしは必ず駆けつけるから」
「フィルさん……ありがとうございます」
フィーはクローゼさんと握手をかわして笑顔でお互いに頷きあった。
「リート君、フィル。ロレントに戻ったらシェラ姉やアイナさんによろしく言っておいてね」
「はい、エステルさんとヨシュアさんも正遊撃士になるための旅、頑張ってください」
「うん、君たちも気を付けてね」
「バイバイ、エステル、ヨシュア」
二人とも握手をかわして最後に俺はオリビエさんに話しかけた。
「オリビエさんはルーアンに残ると言いましたが本当にいいんですか?」
「うん、まだルーアンの名物料理やお酒を堪能してないしこの町にはカジノもあるっていうじゃないか。是非とも行かないとね」
「俺としてはあなたを置いていくのが凄く心配なんですがね」
「おや?もしかして僕と離れ離れになるのが寂しいのかい?いやー、リート君もようやく素直になってくれたんだね。よし、そんな君にはハグをしてあげようじゃないか」
「あはは、そんな訳ないじゃないですか。あなたじゃなくてルーアンの人々を心配しているんですよ」
「そ、そんなはっきり言わなくても……がっくし」
落ち込んだように首を下に下げるオリビエさんだがそんなことは知った事ではない。まあ俺たちの事を黙っていてくれることには感謝しているがそれとこれとは話が別だ。
「それじゃ皆さん、本当にお世話になりました。またどこかで会いましょう」
「バイバイ、皆」
俺とフィーはそう言うと定期船に乗り込み、定期船が上昇しだした。俺たちはデッキから遠くなっていくルーアンを見ていた。
「……」
「やっぱり離れるのは寂しいか?」
「……ん。でも西風の皆にも会いたいし我儘を言ってリィンを困らせたくない。だから気にしないで」
悲しげに微笑むフィーを見て、俺は思わずフィーを抱きしめてしまった。
「……リィン?」
「また会いに行こう、いつか再び会える日が来るように俺も出来る限りの事をする。だから安心してくれ」
「リィン……うん!」
猟兵が再びリベールの地に足を入れれば当然遊撃士やリベール軍に警戒されるだろうし、下手をすれば要らぬ争いの種となって西風の皆に迷惑をかけてしまうかも知れない。それでも俺は目の前にある笑顔を曇らせたくなかった。
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