獣篇Ⅲ
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11 念には念を。
次の日、朝起きてからの準備が忙しかった。ポリジュース薬を瓶に詰めたのを一応 5つ。いつものセットを鞄に詰め、刀に化けた杖を持ち、服を整え、髪を結えば完成だ。
この一連の流れを見ていた晋助が口を開く。
_「オレの、髪の毛でなんとかなる、って言ってただろォ、お前ェ。」
_「あら?そんなこと言ってたかしら?」
_「ごまかすな。」
端正な顔が近づいてくる。
鼻の先が当たりそうな距離だ。
深緑色の目が目の前を占める。
_「オレの髪の毛なんぞ使って、何しやがるつもりだァ?なんか薬でも作ってんのかァ?」
隻眼が猫の眼のように細められる。
_「まぁね。でも、中身は教えられないわ。企業秘密だもの。あ、そうそう。これを晋助に渡しとくわ。」
と、ポリジュース薬の瓶を取り出し、ふたを開け、私自身の髪の毛を入れて、蓋をする。
_「これが噂の薬よ。万が一私がいない間に何か起こったら、これを飲んでとうにかやり過ごしてね。」
と言って、晋助の手の中に押し付ける。
じゃあね、と言って、私は去った。
***
港に一艘の貨物船が、そっと入港してきた。そう、それは私たち鬼兵隊の船だ。今回の作戦の指揮者の私は、任務を受けた隊士たちをもスタンバイさせ、頃合いを見計らって江戸に降りたった。
作戦の都合上、まずは私だけで行動する。隊士らには私特製のイアホン型トランシーバーを渡しておいた。時期が来たら、合図する。もちろん、また子たち幹部にも同じように渡してあるが、彼らにはまた違う型のトランシーバーを渡してある。
甲板を見ると、また子、万斉、武市、そして晋助が1番前、そしてその後ろに隊士たちがズラッと並んでいる。もうすでに平子にはアポを取ってあるので、後は指定の場所へ向かうだけだ。顔に仮面をつけ、指パッチンするとあら不思議、服も髪も全て晋助になっていた。髪の毛も自由に変えられる方法も知っている。もちろん、その魔法をかけたのは私だが、なにも知らない隊士たちは、どっと歓声を挙げた。だが、さすがに性別までは変われないので、胸にはさらしが巻いてある。
宛先は鬼兵隊全員(一応いつ何時に起こるかもしれない非常事態に備えて、晋助にもトランシーバーを渡してある。だから私からメッセージを送ることもできるのだ。)に、それでは行ってきます、との伝言を残して去った。目的地は、かぶき町のとある居酒屋だ。他の店には中々ない、個室がついている店なのである。今日はそこを予約しておいた。もうすでに平子はついている頃だろう。
私も急いで万事屋にワープした。そこからの方が一番人にばれにくく到着できるからである。
編笠を被り、羽織を肩に掛け胸元から煙管を取り出し、火を付ける。忍び歩きで向かった。
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