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ランス ~another story~ IF

作者:じーくw
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第6話 沢山の魔人




 翔竜山はこの世界の中心で一番標高が高い山だ。 

 だから危険。特に落石なんかは注意が必要である。ふとしたきっかけで 突然上から大きな岩が降ってくるかもしれないから。
 あえて言うなら、ガーディアンとか上から降ってくるかもしれない。

「………まぁ 大丈夫だろう」
『お前も結構テキトウになったよな……』

 降ってくるかもしれない、ではなく 振ってくる。ガーディアンであるシーザーとイシスをあの戯骸と一緒に叩き落したのだから。でもゾロは楽観的に言ってるのを訊いて 深くため息が出た…… 気がする。

「ここまで人に入り込めば普通だと思うが」
『まぁ それもそうだ。如何せんオレの周りではそう言うのが多かったし』

 あくまで気のせいだった。ため息が出た気がしたなんて。2人ともが大して気にしてない様子だったから。
 それに何よりもあの戯骸と離れられた事に心から安堵しているからと言う理由がでかいかもしれない。
 
「さて。門の確認も出来た。……エールたちが来たのも確認できた……のは 良かったのか悪かったのか……」
『また あの時(・・・)みたいな感じで行動するか? 非難受けるかもしれないが』
「あの戦争時のか。……うむ。彼らにも自尊心があるのは判っていたが、命には変えられん。私は後悔などしてはいない」
『その辺はオレだって同じだ。……あの時のアイツはもうアイツじゃなかった。女だろうが顔なじみだろうが躊躇せずに壊していた。……あぁ 男だったら顔なじみでも斬るか。あいつは』
 
 ふと思い出すのは 先の戦い。
 魔王ランスとして覚醒し人類を蹂躙した戦争。後に鬼畜王戦争と呼ばれる今から5年前の大規模戦争の事だ。
 歴史に刻まれている通り、ゾロもそれにはそれとなく参戦している。訳があり大っぴらな参戦ではなかったが、確かに参戦していた。時折の助太刀は民衆にはウケが良いが あの時の中心メンバー達にとっては好ましくないものだった。当然一癖も二癖もある面子だったから。

 ゾロと内にいる者には 例え 目的(・・)が有り 必要な事だった……とは言え 彼らを見捨て、そのまま死なせる様な真似だけは出来なかったから。自尊心(プライド)を守る為には命も~ と言いかねない者も中にはいるが、その辺りは我慢してもらう他ない。
 死なせるよりは何倍も良いのは間違いないから。

「……後悔はしてない、とは言ったが、主は非常に辛かった筈だ。……すまない。私の身勝手だ」
『何を馬鹿な事を……。さっき自分で言ってたじゃないか。命には代えられないと。それにもうどれだけ付き合ってきてると思っている? 今更 礼も謝罪もオレには不要だ。返し切れない恩はオレにこそあるんだから』
「む。……そう、だったな。――――ふ、ふふふ。はははははっ!」

 ゾロは笑いだす。傍から見たらホント危ない人…… と言うのはこの際置いておこう。
 兎も角笑い出した意味がいまいち判らないのは仕様がない。笑う場面ではないと思えるし、前触れもなく笑いだしたから。

『おい、いきなりは流石にビックリするぞ……。幾ら長い付き合いだと言っても』
「ははははは。悪い。悪かった。私としたことが 少々不覚だったよ。……ふふ、ここまで笑ってしまうとはな」

 口許に指を当てて笑い続ける。
 その真意が分かったのは直ぐ後の事だった。

「この手のやり取り。主と我とで もう何度交わしたか判らぬよな?」
『ん? あー……似た様なの、と言えば』

 そう、礼を、謝罪を言い合うのはこれが初めてではない、と言う事だ。長く行動を共にし 自然に意思疎通をする様になった時から今日まででもう数える事が出来ない程した。

「それを自然と思い返していた、そうしたら何故か心底笑えた。……くくっ 人間を演じる事が多かった我。……私だったのだがこうやって自然に笑みを。考える前に笑う事が出来た。そう言う感性を得た。人間、と言うもののな。……本当に好ましい。主のおかげだ。これこそが礼だな。新しいものをありがとう」
『あー、あーー、判ったって! なんかこっぱずかしいからもうやめやめ! またエンドレスになる』

 気持ちは判ったがやはり気恥ずかしさがあるのだろう。少々強引だが話しを終わらせる様にした。

「くくっ、そうだな。……では、そろそろ行くか。門がある以上エールたちがアメージング城へ向かうのは実質不可能。……戯骸の件があるから 厄介なのに遭遇しないとは言えないが。一応……最初の方くらいは」
『ああ。陰ながら、ってな。……それと透明化魔法をもうしておくか。見つけられたらまた面倒だぞ』

 透明化の魔法はかなり便利な魔法。消耗はそれなりに激しく、一度攻撃をしたり、されたりすると強制解除されるが、隠密で言えば究極の技能の1つ。
 《脅迫者》《知り過ぎた女》《盗み聞きの魔女》等々の異名を持つ女 クレイン が装備していた ステルススーツの完全上位互換。
 
 ここで少し昔話を――。

 それはLP時代。

 何故かクレインの透明化は まだ魔王になる前のランスには通用しなかったとの事。そしてユーリにも同じく。ランスは『美人の匂い!』 で判断し、ユーリは 『空気の流れが違う。後気配を殺しきれてない』で判断。

 どっちも透明化を看破するという凄まじく凄かったのは違いないが、どっちが尊敬の眼差し…… 良いの意味で凄いと思われたのかは 言うまでもないので割愛。

 閑話休題。
 つまり、非常に便利な魔法ではあるが 消耗が激しく気が付いたら解かれてた、と言う事も十分ありえて、更に攻撃をする、受けるで解除される為扱い辛い。と言うのが一般的な意見だが ゾロは特に気にした様子はなく、淡々と使用している。
 戦闘でも攻撃すると解除されるが、一撃必殺、即暗殺が使える為 はっきり言ってチートな力なのだが 使用するのは逃げる時、諜報の時、隠れる時 などしか理由は判らないが使わないらしい。

 ゾロは指をぱちんっ! と鳴らして魔法を発動。
 徐々に輪郭が薄れ、軈ては完全に周囲の景色に溶け込んだ。

『さて……、ここは翔竜山。あの馬鹿が来る可能性だって0じゃないから早々に引き上げてもらいたい所だが……』
「……どうだろうな。簡単に引き上げるのなら、端からこの場所に来たりはしないだろう。……っと」

 その時だった。
 気配を上から感じられたのは。

 即座に察知し、会話を止めて息を潜めた。流石に透明化していても 話をしていれば聴覚でバレてしまうから。 軈て ざっ、ざっ とこの山道を踏みしめる足音が聴こえてくる。複数の足音と圧迫される様な雰囲気。独特の魔力の流れを感じた。

 感じたからこそ、移動を止め 直ぐ傍の大き目の岩に腰掛けた。移動をしたらこの場に何かがいる、と言っている様なものだから。



「ったく……。戯骸のヤツ。ザビエルが消えてから好き勝手動いてたと思えば、こんなにも魔王様に歯向かうとは……」
「仕様がないよサテラ。だってアイツ 魔王様を言うよりランスの事が好きなホモ野郎だし。魔王様は見るのも嫌って言ってたから追い返せただけでも十分だって」


 ため息と呆れが混じった声も聞こえてきた。


『魔人サテラ、それにサイゼルか。サテラの方は シーザーとイシスがいた時点で此処にいるのは間違いないわな』
「………」


 ゾロは、首を横に振り 声を出さず 念じる様に会話を繋げた。

『それだけじゃないぞ主よ。少々厄介な相手もいる様だ。……サイゼルは兎も角、サテラと一緒にいるのが特に厄介。我らの存在がバレでもすれば ミラクル以上に絡んでくる』
『……? あっ』

 足跡が更に増えた。2人よりも後ろにいたからだろうか、少しだけ気付くのに遅れてしまっていた。足跡1つをとっても何処か気品さを携えており、そして 最初の2人……サテラ、サイゼルを 静かだが圧倒するだけの威圧感も持ち合わせていた。
 更に包む様に周囲を浮遊する様々な色の球体。一切の隙が見えない所以がそれらの球体にあった。


 ――現在の魔人筆頭にして 最強の魔人ホーネット。


 臨戦態勢である訳でもない。ただ歩いているだけだというのに、周囲に放つオーラは途方もない威圧感を含んでいる。サテラとサイゼルは まるで気にしていないが、同じ仲間だからの一言に尽きるだろう。有り得ない事だが、敵対する様な事があれば……同じ魔人であるサテラもサイゼルも含めたとしても 直ぐに勝敗が決まってしまう程の差があった。

「ホーネット様がサテラ達と一緒に来る……と言った時は少し驚きました。今日はどうしたのですか?」
「…………いえ。今日は少々胸騒ぎが。ここにきて、……確信に変わりました」

 ホーネットは目を閉じて集中していた。何かを感じ取る様に……。

「どういう事ですか? ホーネット様」
「………」
「ホーネット様?」
「こ、こらサイゼル。あまり 気を散らす様な事するなよ。ホーネット様は今集中しているんだから!」
「わ、判ってるわよー!」

 サテラに注意され、サイゼルは慌てて飛びのく様に下がった。
 ホーネットはさして気にする様子もなく そのまま目を瞑り続けた。数秒後、ゆっくりと眼を空ける。

「サテラ……」
「あ、はい」
「魔王様の命令は、戯骸を追い返す。でしたよね」
「……はい、そうです」
「………」

 確認する様にホーネットはそう聞く。この時サテラには少々違和感を感じた。
 誰よりも何よりも魔王の命令を重くに置くホーネットが 再度その内容を自らに聞いてきた事にだ。魔王の命令だけに限らず、発言全てを一言一句違えず覚え、忠実に仕えるのがホーネット。その彼女が聞き直す……何てこと、これまでには一度たりとも無かったから。
 と、サテラは思ったのだが それ以上深くは考えなかった。
 
「シーザーとイシスが中々戻ってこない所を見ると、少々手古摺ってるみたいだ」
「うーん……、アイツって使途だけど能力だけはずば抜けてるからね……。死んでも蘇る不死属性って極めて厄介だし。まっ、炎はハウゼルの方がぜんっぜん強いし! 私がいるから安心して下さいね、ホーネット様」
「こら、サイゼル! あまり調子に乗るな。ハウゼルにも言われてるだろ、変な所でミスするなよ!」
「って、何よ! そんなのサテラだけには言われたくないわ!」

 いつの間にか、サテラとサイゼルの喧嘩に発展しだした。
 そんな2人に冷やかな視線が突き刺さる。透明化してなかったら直ぐに気付かれそうな視線を。

『サイゼル……。ハウゼルがいない時はサテラと喧嘩する様になったのか?』
『確かに、それは私も思った所だ。……しかし、現在、サイゼルとハウゼルが別行動と言うのも聊か不自然さもあるな。あの2人は離れない。とさえ思っていたのだが』
『……まぁどっちもレベルの低い言い争い、と言うのは変わらない様だが。それにしてもサテラとサイゼル。加えてホーネットまでいるなんて。……国でも滅ぼしに行くのか? って面子だな』

 魔人1人でも人間にとっては災害と言って良い相手だ。それが三人。その内1人は魔人最強。即倒ものの光景だと言えるだろう。


 ここで少しラ・サイゼルとラ・ハウゼル姉妹について説明をしよう。


 時折喧嘩はするものの相思相愛と言って良い程仲の良い姉妹であり。……少々危ない関係?  近親相●をしてる様な間柄? と思ったりしてしまう様な光景が広がったりしてるとかしてないとかと意見が出たりするのだが、その真偽の詳細は省く。

 今サイゼルとハウゼルが離れているのは 気まぐれに魔王ランスが別々に命令を下したからなのである。



「なんだとっっ!!」
「なによっっ!」



 そんな喧嘩をしている2人。
 ホーネットは漸く瞳を開かせると、小さくため息を吐いた。

「御止めなさい。2人とも」
「っっ!?」
「ご、ごめんなさいっ!」

 ピタリ、と止まる所を見ると流石の一言だ。この中では一番年上はサイゼル。そしてサテラとホーネットは殆ど変わらない歳なのだが しっかりしたお姉さん、と思えなくない。

「少々頭を冷やしてからの方が良いかもしれませんね。サテラ、サイゼル。……この先はお2人に任せます」

 ホーネットは踵を返した。
 その行動に2人は驚くと同時に、自分達が悪かった、と罪悪感も感じられた。

「す、すみませんっ、ホーネット様っ! う、うるさくさせて、気を散らせてしまって……」
「あ、あぅぅ…… ご、ごめんなさい」
「けーー、なーさけない事この上ないなぁ」
「う、うっさい……」

 いつの間にか、ひょいとサイゼルの傍へとやってきたのはサイゼルの使途ユキ。
 いつもの毒舌でサイゼルに精神ダメージを与え続けているとホーネットが口を開いた。

「いえ。今回は2人に命令が下り、私にはありませんでした。これは気晴らしの散歩。ですから 気にしていませんよ。……たまには3人で歩くのも良い、と思ってます。楽しかった……」


「「「…………………………」」」


 にこやかに笑うホーネット。
 この時も、あまりの事態に2人とも……いや、毒舌使途のユキですら固まった。

 ホーネットの笑顔を見たのは一体いつの頃か判らない。いつも気難しそうにして威厳を保つ様にもして、表情を緩める事はあっても、ここまでの笑顔を見せる事は無かったから。
 それだけで、気分を害した、と言う考えは間違えている事に気付き、安堵するサテラとサイゼル。

「また、付き合ってくれますか?」
「あ、ありがとうございます! ホーネット様。勿論です!」
「わ、私も何時だって付き合います!」
「ケケケ。ホーネット様とハウゼルとどっちを取る?」
「え? それ、それは……、う、うぐぐぐぐ、そ、それは……」
「ケケ、ジョーダンだ」

 色々とやり取りを続けながら、軈てサテラたちは下山していった。戯骸はシーザーやイシスと共に下へと落下していったから、合流できるのはもう少しかかるだろう。

『……魔人と使途、合わせて6人か。普通なら鉢合わせた時点で詰みだ』 
『ああ。あの2人なら、付け入る隙は十分ある。……勿論、変に刺激をしなければに限るが』

 ゾロは 2人が降りていくのを見送りながらそう思っていた。
 元々この場所は魔王の城がある場所。当然魔人や使途がいても不思議ではないし、それくらい危険な場所だとエールたちが思い知るのには良い機会かもしれない。……でも 命が無くなるまでは許容できないのも事実だ。

『行く……だろう?』
『ああ。……無論、ここから動けたら直ぐにでもだが。アイツ(・・・)が此処にいるからな』

 視線がサテラ達の消えた方ではなく、反対方向。……ホーネットの方へと向けられた。
 2人に任せる、と言い踵を返した筈のホーネットがアメージング城へと帰る事なく まだそこにいたのだ。歩を止め佇んでいた。
 
「…………」

 ホーネットの周囲を浮遊する球体の1つ。緑玉がふわりとホーネットの頭上に移動をはじめ、緑色の光を彼女に降り注いでいた。
 それは身体強化の魔法。
 光の粒子が消えてなくなる瞬間に、まるで瞬間移動をしたのではないか? と思える如き速度で移動をするホーネット。

 空気を斬り割き、光の様に移動した先は、ゾロが腰掛けている岩場。
 誰もいない筈の場所に、ホーネットは穏やかな表情で、慈愛に満ちた声をかけていた。




「……久しぶりですね。私は、あなたに会いたかったです」


 
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