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おぢばにおかえり

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9部分:第三話 高校生と大学生その一


第三話 高校生と大学生その一

                 第三話  高校生と大学生
 私は実家は教会です。八条分教会という奥華大教会直属の教会です。
 奥華は結構大きな方の大教会で下にある分教会の数は三百近いです。私の実家はその直属です。子供の頃は何でこんなに自分の家は広くて変なものが一杯あるんだろうって思ったりもしました。
 中学までは実家で育ちました。実家のすぐ側にある八条学園に中学校まで通っていました。それで高校からおぢばに帰ることになったんです。
 天理高校で三年。何かあっという間でした。入学したと思ったら卒業でした。それで大学は天理大学です。家を継がなければいけないから宗教を勉強させてもらっています。そうしたこともあって今は詰所に住まわせてもらっています。
 この詰所は各地から帰って来た信者さんや修養科生といって三ヶ月天理教のことを勉強させてもらいに帰って来ている方、そして本部に勤めておられる方が住まれるところです。私は大学生ですがひのきしんを手伝わせてもらうということで特別に住ませてもらっています。
 うちの詰所はお庭も建物もかなり広くて大きいです。やっぱり三百近くも教会があるとそれだけで人も多いからです。
 建物も二つあって本館と別館があります。私は本館にいるんですがあの新一君は言うまでもなくこちらによく来ます。ええ、今日もなんですよ。
「それで今日ですね」
「へえ、そんなことがあったの」 
 事務所のロビーで炊事の井本さんとお話しています。とても小柄で額に黒子があります。それがチャームポイントです。杉山さんも教会の方で結婚される前は秋藤さんといいました。いずれ教会長の奥さんとなられる方です。御主人はこの詰所で働いておられます。
「そうなんですよ。大学に入ったらですね」
「大学に来てたの」
 私はそれを聞いて否が応でも不足を感じずにはいられませんでした。
「で、何しに来てたのよ」
「いや、単に遊びに」
 新一君は例によって軽い調子で答えます。
「それで来ただけだけど」
「遊びに、ねえ」
 それを聞いてまずは目をやぶ睨みにさせて彼を見ました。
「何の遊びかしら」
「いや、奇麗なお姉さんいないかなって」
 それでいつもこんな返し言葉です。
「それでまあ。大学に入ったんだけれど」
「それでいたの?」
 不足を言葉に込めて尋ねました。
「どうせ次から次に声かけてたんでしょ」
「その前に先生に怒られてさ」
「まあそうでしょうね」
 想定の範囲内ってことでしょうか。天理高校の生活指導は結構厳しいですから。
「柔道の山村先生に」
「よかったわね、山村先生で」
 何か山村先生の名前を聞いて嬉しくなりました。凄く怖い天理高校の体育科の先生の中でも特に怖い先生です。柔道部の顧問で全国区の柔道部を指導している人なんです。
「で、投げ飛ばされたの?」
「いや、怒鳴られただけ」
「何だ」
 それを聞いてかなりがっかりです。プールにでも投げ込まれて頭を冷やせばいいのに。
「それだけだったの」
「何を馬鹿なことやってるかってさ。心狭いよね」
「それは阿波野君が悪いわよ」
 井本さんの奥さんが笑って新一君に言います。
「そうですかね」
「だって。堂々と制服で大学生の娘に声をかけてたんでしょ?」
「っていうか探してたんですよ」
「誰をよ」
 今度は私が尋ねました。
「いや、先輩を」
「私を?何で?」
「いや、学校の勉強を教えてもらいに」
「嘘でしょ、それ」
 またやぶ睨みになって彼を見ます。
「絶対に」
「まあ嘘だけれどね」
 やっぱり。本当にこんなのばっかりで。
「うそとついしょこれ嫌いよ」
 ここで彼に天理教の教えを言ってやりました。
「そんなことしているとまたほこりが積もるわよ」
「ほこりかあ」
「そう、ほこりよ」
 天理教では悪いことを八つのほこりと言います。をしい、欲しい、にくい、かわい、よく、こうまん、うらみ、はらだちの八つです。特にこうまんやはらだちがよくないとされています。
「そういうことばっかりしていると大変なことになるわよ」
「そうかあ。じゃあ止めるか」
「ついでに大学に来て変なことするのも止めなさい」
 そう彼に言ってやりました。
「いいわね」
「本当に俺って無茶苦茶言われるなあ」
「当たり前よ」
 何を言うかって思ったら。
「やること為すことちゃらんぽらんなのに」
「そうかな」
 本当に自覚がないんですよね、彼は。だから言うんです。
「俺これで結構真面目なんだぜ」
「寝言は起きて言うものじゃないわよ」
 また言ってやりました。
「それを覚えておきなさい」
「先輩は厳しいなあ」
「新一君だけは別よ」
 実際にそうしています。私実は後輩には凄く優しい先輩だって言われてきました。けれど彼にだけは本当に別なんです。あんまりですから。
「わかったわね」
「わかりたくないなあ」
「その反論なのよ」
 わかっててやってるんでしょうか。
「そんなのだから駄目なのよ」
「じゃあ真面目にやればいいんだよね」
「ええ」
 あれっ、私の言葉が届いたんでしょうか。内心びっくりです。
 
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