真田十勇士
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巻ノ百三十三 堀埋めその四
「そしてそのうえで」
「惣構えの堀をですな」
「それを埋める」
「そうして大坂におられるのですか」
「それが茶々様のお考えなのじゃ」
「交渉されるべきでは」
まだ言う後藤だった。
「茶々様にもう一度文を読んで頂き」
「そしてか」
「惣構えといいましても」
「三の丸の堀だけを埋める」
「そのこと確かにしましょうぞ」
「そもそも堀を埋めさせるなぞですぞ」
長曾我部はこのことを強く言った。
「それだけで最早」
「武士としてはか」
「左様、あってはならぬこと」
「自ら守りを捨てること故」
「それだけで愚かなこと、ですからどうしても講和されるなら」
それならばというのだ。
「茶々様が大坂を出られ」
「江戸にと言われるか」
「そうされるべきでは」
「それは絶対に無理でのう」
大野はその彫の深い秀抜な顔を曇らせて長曾我部に答えた。
「あの方はどうしてもな」
「大坂を出られぬのですな」
「それは何よりも絶対と言われていてな」
「お考えが変わらず」
「堀をと言われる、そして講和もな」
「もうですか」
「早くにという感じでじゃ」
これは砲の音、特に自身がいる奥御殿に弾が落ちたことからだ。茶々は講和を一刻も早くと言っているのだ。
「だからな」
「では」
「すぐに講和じゃ、諸将もそれでお願い申す」
納得していなくても納得してくれ、大野はあえて無理を言っていた。それがわかっていながらそうしたのだ。
しかしだ、その話を聞いてもだった。
諸将は納得しなかった、それで幸村も真田丸に戻って大助にも家臣達にも話した。
「講和が決まったが」
「今ですか!?」
「今講和なぞしては幕府の思う壺ですぞ」
「何をされるかわかりませぬ」
「大御所殿も既にお考えでしょうし」
「講和はなりませぬが」
「拙者もそう修理殿に申し上げたがな」
しかしとだ、幸村は我が子と十勇士達に述べた。
「しかしじゃ」
「どうにもなりませぬか」
「茶々様が決められたので」
「だからですか」
「最早」
「どうにもならぬ、修理殿は立派な方であるが」
それは幸村から見てもだ、まさに豊臣家の復権に相応しい。
だがそれでもとだ、幸村は大野についてさらに話した。
「しかしな」
「あの方はですな」
「茶々様には逆らえぬ」
「どうしても」
「それが出来ぬ方ですな」
「だからじゃ、茶々様が講和と言われるとじゃ」
篭城等これまでと同じくというのだ。
「それに従ってしまうのじゃ」
「だからですか」
「執権であられる修理殿もそう言われ」
「そして、ですか」
「そのうえで」
「そうじゃ、もう使者が行っておるじゃろう」
講和のそれがというのだ。
「大御所様のところにな」
「ではですな」
「もうどうにもなりませぬか」
「講和の賽は投げられましたか」
「既に」
「そしてこの真田丸もじゃ」
大坂城を守っているこの出城もというのだ。
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