おぢばにおかえり
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7部分:第二話 神殿その四
第二話 神殿その四
「お腹空いてきたよね。それでさ」
「ええ」
「たこ焼きかいか焼き食べない?」
「たこ焼きかいか焼き?」
どっちも商店街にお店があります。味は中々いいです。天理の名物の一つでもあります。私も新一君もずっと食べています。
「そう、どっちか。どうかな」
「私は何か」
けれど私は首を傾げて答えました。
「もっとあっさりした方がいいかしら、今は」
「じゃあ甘いものとかは?」
今度はこう提案してきました。
「アイスクリーム、いやソフトとかさ」
「じゃあソフトね」
これも商店街にいいのがあります。たこ焼き屋さんが一緒にやってるんです。
「それだとこの子達も食べるわよね」
「そうそう。僕も好きだし」
「新一君には聞いていないわよ」
またむっとなっちゃいました。彼に対しては別です。
「まあ言いだしっぺではあるわね」
「その言いだしっぺはお金ないんだ」
「私もよ」
そんなこと言っていつも持ってるんです。彼はお金とかそうしたことは本当にしっかりしているんです。それでいつも何か買ったり食べたりしています。
「だから自分のは自分でね」
「ちぇっ、厳しいなあ」
「それ位しっかりしなさい」
ある意味しっかりしていますけれど、彼は。
「他人に出させない。あるんだったら」
「なかったら」
「その時は仕方ないけれど」
あれ、何でか顔を新一君から背けてしまいました。ちょっとあさっての方を下に見てしまいます。声もどうにも小さくなってしまいます。
「それでも。今はね」
「まあこれは冗談だし」
「本当?」
また彼を見て問い掛けます。
「そうは思えない口振りだったけれど」
「まあそういうことにしておいてよ、ここは」
「それはこれからの心掛け次第ね」
そう言っておきます。
「新一君の」
「これでも結構いい心掛けしてるって言われるんだけれど」
「何処がよ」
絶対に嘘です。有り得ません。
「でまかせばかり言う癖に」
「先輩は厳しいなあ」
「新一君だけは別」
厳しくしないと。つけあがりますから。
「だからいいわね。ソフトは自分持ちよ」
「はいはい」
「子供達のは私が出すから」
「あれ、先輩が」
何か意外といった感じで私の方に顔を向けてきました。また微妙な感じです。
「だからお金があるからよ」
「そうなんだ。俺が出そうと思ってたのに」
「いいわよ、それは」
それは断りました。
「だって私が先輩だし。それは」
「いや、この場合は」
「お姉さんの言うことを聞きなさい」
さっきの言葉を逆に使って言ってやりました。
「いいわね」
「いいんだ」
「そうよ、いいのよ」
無理矢理押し切ってやりました。
「よかったら新一君のも出してあげるわよ」
「あっ、僕のはいいよ」
何故か謙遜してきました。
「その分のお金はあるしさ」
「さっきと言ってること逆じゃない」
どうしたんでしょう、一体。
「どうしたのよ」
「いやさ、やっぱりさ」
何か私から視線を逸らして話をします。さっきの私の顔と似た感じになっているのは気のせいでしょうか。
「こういうのは。あれだよ」
「あれ?」
「自分の分は自分で出さないと。女の子にはね」
「そうなの」
「そうだよ。それに」
私から視線を逸らしながら言葉を続けます。
「先輩はさ。やっぱり」
「やっぱり?」
「その。つまりさ」
言葉が詰まってきました。何が言いたいんでしょう。
「あれだし。その」
「言ってる意味がわからないんだけれど」
怪訝な顔をして彼に言いました。
「何が言いたいのよ」
「あっ、何でもないよ」
急に誤魔化してきました。かなり変な感じです。
「何でもないから。とにかくソフト買おう」
「ええ」
よくわからないまま彼の言葉に頷きます。それでソフトを子供達の分まで買ってあげました。
「はい」
子供達にソフトを渡して食べながら商店街を進みます。その途中でまた新一君が私に話し掛けてきました。
「じゃあ今日はこれで」
「帰るの」
「うん、また明日ね」
「来なくてもいいから」
すぐにそう言い返してあげました。
「忙しいと邪魔だし」
「そんな冷たいこと言うんだ」
「当たり前でしょ」
この言葉も口癖になってきました。困ったことです。
「そもそも詰所にはいないんだし」
「時々泊まってるじゃない」
「押し掛けてね」
本当に時々詰所に泊まるんです。もう自分の洗面用具とか置いてるそうです。部屋も半分自分の部屋まであるし。図々しいとしか言うしかありません。
「主任先生達の好意に甘えないの」
「じゃあ先輩と一緒の部屋は?」
「怒るわよ」
はったおすわよ、と言いそうになりましたがそれは止めました。立腹を覚えましたけれど何とかあと一歩のところで踏み止まりました。
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