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天体の観測者 - 凍結 -

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リアスの心象

 
前書き
修行Ⅱです
ではどうぞ 

 
 5日目の過酷な修行を無事終えたリアス達はウィスから戦いにおける心構えを享受されていた。

 リアス達がいるのは机と椅子だけが置かれた質素な部屋。
 室内の壁の至る所には枯れた植物の枝が張り付いている。
 それ以上にその部屋の内部に装飾が施されることはなく正に質素と言う言葉を体現していた。

 部屋の中央には大きな円形の机が置かれ、リアス達はその周囲に置かれている椅子に座っている。
 対するウィスは先程と変わらず宙に浮遊し、リアス達に教鞭を振るっていた。

 見ればリアス達は全員が手首に青色のリストバンドを手首に巻いている。
 それらは全てウィス特製のリストバンドである。
 加えてリアス達の履いている靴もウィス特製の物であり、見た目にそぐわぬ重さを誇っていた。

 その重さ何と一つ25キロ。
 つまり今やリアス達は合計100キロの重りを身に付けているのだ。
 見れば彼女達の足は地面に深く吸い付き、両手はだらんとぶら下がっている。
 リアス達はその場からまともに動くこともできないのである。

 残るアーシアにも同様にウィス特製の仕掛けが施されている。
 それは現状の彼女の力を踏まえた上で、随時重りの重さを最適なものへと自動調整するという優れものだ。

 対するリアス達は彼女達が重さに慣れた頃合いを見計らい、ウィスが即座にリアス達が耐え切ることができるギリギリのラインまで重くしている。
 加えて彼女達の上着とズボンも同じ様に重さを通常の数十倍の重さに設定し、心身共に追い込むことも忘れない。

 これも全てリアス達の修行の一環であり、5日間の間ずっと継続させてきた修行である。
 先程砂時計の爆発による疲労と怪我の全てもウィスが即座に回復させてある。

 今リアス達が身に付けているこの重りはその後ウィスが即座に取り付けたものだ。
 ライザーとのレーティングゲームの開催まであと5日。
 10日目の最終日までリアス達の実力を限界まで上昇させるつもりだ。

 もしも生死に直結する致命傷を負うことがあっても問題ない。
 ウィスならば即座に回復させることができるのだから。

 対するリアス達であるが身体とスタミナの方は問題無い。
 だが既に彼女達の気力は枯渇寸前であった。
 だがウィスに修行を頼み込んだのは自分達であり、こんな所で泣きを見せるわけにはいかない。

 ウィスの修行は自分達の想像を絶する程の過酷さであった。
 ウィスは妥協することなく身体を酷使する修行メニューを課してくるのだから。

 この5日間の修行で自分達の実力が驚異的な勢いで上昇していることは実感している。
 修行という名の地獄の特訓を瀕死の状態で何とか生き延びてきたリアス達は一回りも二回りも成長した気分だ。

 否、強制的に実力を引き延ばされているのだ。
 生きるか、死ぬかの瀬戸際のラインをウィスの手によってギリギリにまで調節され、幾度も生と死の狭間を経験してきたのだから当然であるが。

 ウィス曰く、生物は死の淵から蘇る度に格段に強くなることができるらしい。

 そんなウィスは今自分達の前で教鞭を振るっている。
 そう、レーティングゲームにおける心構えについてだ。










「いいですか、リアス?油断や慢心、ましてや余裕が許されるのは圧倒的格上だけだけです。」

「リアスの貴族としてのプライドによる行動は勇敢ではありません。それはただの蛮行に他なりません。自身のプライドを語れるのは両者の力が拮抗している場合か自身が相手よりも格上の場合だけです。」

 ウィスはリアスが足元をすくわれないように強く指摘する。

「勘違いしているのならばこの際はっきり言っておきます。対等な勝負とは力が拮抗している相手とでしか成り立ちません。実力差がかけ離れている者同士でいくら公平な戦いだと言ったところで何も対等になどなりはしません。見せかけだけだです。」

「現時点でライザーに対して対抗できる可能性を秘めているのはリアスと朱乃の2人ですね。レーティングゲームではこの2人を中心に戦略を立てることが必要です。」

「修行の結果次第では一誠の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を遣うことも戦略に組み入れることも覚えておいてください。」

「そして相手の弱点が分かっているのならばそこを突くのが戦いの鉄則です。悪魔の弱点である聖水と十字架を最悪の場合は躊躇することなくジャンジャン遣いましょう。相手には容赦する必要はありません。」

 そう、敵を見つけ次第サーチアンドデストロイだ。

「名誉や名声は後でいくらでも結果次第で帳消しにできます。今回リアスたちが第一目標とすべきなのはレーティングゲームの勝利です。」

「例え相手に卑怯だ、卑劣だと言われようが今回は勝てば良いんですよ。」

 それで文句や難癖をつけてくる奴がいるならば自分が力技で黙らせるだけである。

「そもそも今回のレーティングゲームの条件が公平ではありません。リアス達は未だ眷属の数は足りず、実践経験も不足しています。対するライザーはレーティングゲームの経験も豊富であるのと同時にフルメンバー、加えてライザーは不死という面倒な能力も有しています。」

 こんなレーティングゲームなど唯の出来レースに他ならない。

 時間を遡り、此度の騒動の背景を調べてみるとどうやら魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーが兄としてリアスを秘密裏に手を貸していたことが分かっている。
 義姉であるグレイフィア・ルキフグスも可愛い義妹であるリアスを救うべく奔走していることも確認済みだ。
 オカルト研究部でレーティングゲームの提案を述べたのも彼女だ。このことから両者とも初めからライザーとの政略結婚に反対だったのだろう。

 仮にも魔王という悪魔社会のトップなのだから公私混同を控えて欲しいものだが。
 どうやらサーゼクス・ルシファーはかなりのシスコンであるようだ。

 これではどう転んでもリアスが政略結婚で結婚させられることはないだろう。
 その労力を少しでもはぐれ悪魔や三大勢力が引き起こしている騒動の鎮静に励んで欲しいものである。

「いいですか、リアス。……王とは戦ってはいけないんですよ。」

 だが今、そんなことを言っても意味がない。
 ならば今はリアス達を鍛えることが先決だ。

 そう、王であるリアスが負けてしまえばリアス達の敗北が決まってしまう。
 リアスはレーティングゲームにて決して戦ってはいけないのだ。





 こうしてウィスはリアス達にひたすらレーティングゲームにおける心構えを説きに、説きに、説き伏せた。







▽△▽△▽△▽△







 日が堕ち、闇が支配した大樹の中をウィスは歩く。

 そんな中、リアスがこの場にいないことに気付いた。
 ウィスは惑星の至る所に気を張り巡らせ、リアスの魔力を探る。
 
 リアスの魔力は朱乃達の寝床より少し離れた場所に感知できた。

「…。」

 ウィスは少し逡巡した後、即座にその場から消え、リアスの元へと向かう。










「…。」

 今のリアスは眼鏡を掛け、レーティングゲームのに関する本に目を通していた。
 その表情はとても真剣なものである。

「夜更かしは美容の天敵ですよ、リアス?」
「ウィス…。」

 そんなリアスの元にウィスが突如現れる。

「此処は暗いですね。場所を変えましょう。」

 ウィスが杖を軽く打ち鳴らす。

 途端、周囲の景色が移り変わり、大樹の姿を一望することができる湖の畔へとウィスとリアスの2人は転移していた。

「此処は…?」
「外ですよ、リアス。」

 煌びやかな装飾が施された椅子を杖から取りだしたウィスはリアスに対面する形で座る。
 気付けば自身の背後にも同様の椅子が現れていた。

 いそいそと落ち着かない様子にてリアスは椅子に腰を下ろす。

「う~む、われながら上品な出来ばえ。」
「…。」

 そんなリアスの様子を気にしないようにしているのか分からない様子でウィスは自作のケーキを美味しそうに食している。

 緊張感皆無な様子だ。

「…ねえ、ウィス?せめて一誠に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を遣わせてはどうかしら?」

 リアスは重々し気に口を動かす。
 その様子はどこか儚げであり、弱々しい。

 幾ら悪魔の肉体を有しているとはいえ、一誠はまだ悪魔になって間もない。
 神器を遣わずにウィスの過酷な修行を受け続けていては本当に死んでしまうかもしれない。

 故にリアスは最悪の場合を想定し、ウィスへと諫言するのだ。





「それでは駄目なんですよ、リアス。」

 だがそんな彼女の言葉をウィスはやんわりと否定する。

「駄目…?」

「まだ彼のレベルはようやく赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使用するのに耐え得る肉体になった程度…」

 何処か達観した様子でリアスを一瞥し、ウィスは一誠の現状を申告する。

「仮に、あの城を神滅具所有者の領域だとすれば、今の彼の素の力はこの程度…」

 神滅具所有者の領域を大樹であるとするならば、今の一誠の神器無しでの力を目の前の成長半ばにて折れている木だとウィスは例える。
 
「もっともっと肉体のレベルを上げた上で赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を遣わなくては、強くなったと言ってもたかが知れています。更なる先の世界は見えませんからね?」

「多分彼も分かっているのでしょう。…赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を遣ってはいけないなんて私、一言も言っていませんからね?」

 一誠にはもっともっと強くなってもらわなければならない。
 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の出力は一誠の素の身体能力に大きく左右される。
 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)という神器は一誠の素の力を累乗し、強大な力を発揮するものだから。

 そう、0に幾ら数字を掛けてもゼロ。
 故に一誠にはこの修行にて一皮剥けてもらわなければならないのだ。










「…ねえ、ウィスは今回の私とライザーとの政略結婚についてどう思っているの?」

 突如リアスは話の端を折り、物憂げな表情を浮かべながらウィスへと心の声を漏らす。

「…そうですね。リアスの行ないは貴族として間違っていると言っていいでしょう。」

 裏切られたとばかりにリアスは表情を曇らせ、ウィスを見詰める。
 ウィスの口から放たれたのは自身の望んだ答えではなく、どこまでも現実的な言葉。
 それはリアスの貴族としての責務を責めるものであった。

「…まあ、それはあくまで悪魔社会の未来を考慮した上での責務ですが。」

 そんなリアスの不安をウィスは即座に払拭する。
 悪魔という種の存続を図るべく純潔同士の政略的結婚、成程確かに筋が通っている。

「悪魔社会という大のためにリアスという小を切り捨てる。それは実に合理的で正しい選択です。正しすぎるほどにね。





…ですが、だからといってリアスの人生を、未来を踏みにじっていい理由にはならないと私は思います。」

 そうだ。いくら種の存続のためだからと言って一人の少女の人生を踏み躙っていいはずがない。
 それが悪魔社会にて権力を有する代償に貴族であるリアスが背負うべき義務なのだとしても。

「自分をリアスという個人として愛しているくれる人と結婚したい、いいんじゃないですか?」

 ウィスはリアスの小さな夢を肯定する。

「この際はっきり言っておきますが私は悪魔が存続しようが、滅亡しようが別に構いません。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)によって悪魔の数は増えているのかもしれませんがそれ以上に多くの問題を生み出しているのも事実ですからね。」

 そう、悪魔社会の未来を考慮した政略結婚などウィスにとっては初めからどうでもいいことだ。

 純血悪魔の悪魔の子孫を残すため?
 悪魔の未来のために?
 先の三大勢力の対戦の傷跡を少しでも無くすため?
 くだらない。
 実にどうでもいい。 

「世界に不変なものなど存在せず、万物のあらゆるものはいずれ死を迎えるのが定めです。だというのに悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だけに飽き足らず、純潔悪魔であるリアス達本人の意思を無視してまで種の存続を望むのは傲慢だと思いませんか?」

 そんなものは老害共が勝手にやっていればいい。
 そんな下らない悪魔社会の未来のために一人の少女の未来を奪うことを許容するつもりは毛頭ない。

「リアスを縛りつける悪魔社会という名の鎖を私が破壊しても構わないんですよ?」

 冥界などウィスにかかれば即刻更地にすることも可能だ。 

「リアスが望むならば天使も、堕天使陣営も、そして人外の全ても私は滅ぼしましょう。なんなら地球そのものさえも…」

 そうすればもうリアスを縛る鎖は何もない。
 文字通りリアスは自由の身となるのだ。 



 本来ならばウィスがここまでリアスに肩入れする必要はない。
 だがウィスにはどうしてもリアスを助けたい理由があった。

 本当に些細で、誰にも想像できないような理由が。





 そう、リアスは彼女に似ていた。
 幼少時に突如アニムスフィア家当主の家督を引き継いだオルガマリー・アニムスフィアに。

 名家の跡取りとして自らを律し、気高くあろうしていたマリー。
 同じくグレモリー家の跡取りとして日々奮闘するリアス。

 自身を見下している周囲に認めてもらうべく奮闘していたマリー。
 魔王という優秀な兄と比較されながらも必死に己の夢を叶えようとしているリアス。
 
 無論、全てが似通っているわけではない。
 身長はリアスの方が上であるし、2人の髪は全く異なる色だ。 
 特に身体の胸部に至っては年齢差を無視した差が存在している。

 リアスを通してマリーを見ていたのは事実であり、ウィスは気付けば彼女に手を貸していた。 

 そう、ウィスはリアスをどうしてもほっとけなかったのだ。

 しかも聞くところによると此度の政略結婚は酒の勢いが発端らしい。
 酔いながら政略結婚を申し立ててしまったのだと。

 開いた口が塞がらないとは正にこのこと。
 久しぶりにキレてしまいそうであった。
 もう三代勢力は冗談抜きで滅ぼそうかと一考した程である。

「だからリアスは自身の夢を叶えるべくただひたすら前を突っ走ればいいんですよ。私がこの10日間の間にリアス達をライザーとも渡り合える力をつけさせますから。」

 ウィスは優し気にリアスの手触りの良い髪を撫でる。

 ウィスがリアスを通して見ているのはマリーかリアスか。
 その真偽はウィスにしか分からない。

「…子供扱いしないで、ウィス。」

 むくれ、ついウィスから顔を逸らしてしまうリアス。

「私にとってリアス達は全員子供ですよ。見た目に騙されているかもしれませんが。」

 実質、ウィスの実年齢は軽く数千歳を超えている。

「そんなに気負う必要はないんですよ。あ、勝っちゃた、みたいな感じで良いんです。」

「軽いわね。」

 そんなウィスの非常に軽い言葉でどこか憑き物が落ちた様子でリアスはふわりと笑った。










「く…ぅうぅぅ…っ!絶対に皆の足手まといにならないっ…!」

 ウィスとリアスが2人で言葉を交わすなか唯一人一誠は修行に取り組んでいた。
 汗を大量にかきながらも一誠は重力が数倍となった修行場の地面を踏みしめる。

 尊敬するリアス部長のため、そして自分達の修行を真剣に見てくれるウィスの期待に応えるために。










 その後もリアス達はウィスの過酷な修行に取り組み、幾度も生と死の狭間を垣間見ながらも自身の限界に挑み続けた。










─こうしてリアス達は運命の10日目を迎えることになる─
 
 

 
後書き
何とリアスがメインヒロインだった(嘘)

リアス達のお風呂描写は無し
すまない、本当にすまない…

そろそろウィスを本格的に暴れさせたい気分です
いや、本当に
まあ、ドラゴンボール超のウィス達天使の力を有している主人公に叶う存在がddにいるのか不明ですが…
 
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