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おぢばにおかえり

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53部分:第九話 座りづとめその一


第九話 座りづとめその一

                    座りづとめ
 天理高校では毎朝神殿に集まります。そこで出席も一緒にとります。
 まずは朝御飯を食べ終えてそれから寮を出ます。朝はお掃除とかもあって寮を出る時にはもう完全に目が冴えています。
「この前ね」
「どうしたの?」
 同じ学年の娘に声をかけられてそれに顔を向けます。歯磨きとお顔を洗って少しお化粧をしながら話をします。
「このアイシャドーあるじゃない」
「ええ」
 見れば黒いアイシャドーです。何か少しだけ目立つ位の。
「これ、クラスの男の子に言われたのよ」
「何て?」
「疲れてるの?って」
 そこまで言って口を尖らせてきました。
「何それって感じじゃない?」 
 そうして不平を私にぶちまけてきました。
「アイシャドーよこれ。それで疲れてるって」
「何かそれって鈍感ね」
 私はその話を聞いてそう答えました。
「朝の短い時間で頑張ってお化粧してるのにね」
「そうよ、その点男は気楽でいいわよね」
 その娘はさらに口を尖らせて不平を言います。
「何もしなくてもいいんだし」
「女の子より手間がかからないのは確かよね」
「そうよね。女の子って何から何まで」
 手間がかかるしあれこれとしないといけないし。本当に大変です。
「下着だって気を使わないといけないし」
「そうそう」
「この前ね」
 ここで話が変わりました。私はファンデーションを塗っていてその娘はアイシャドーです。随分と丹念にアイシャドーをしています。
「お手ふりの時間あったんだけれど」
「何かあったの?」
 天理高校は天理教の学校ですから天理教の教義の時間があります。それを専門に教えておられる先生もおられます。その教義の中には天理教の踊りのものもあります。これがお手ふりです。座りづとめといって座ってするものと立ってするものの二つがおおまかにあります。立ってするものにはよろづよ八首と十二下りの二つの系統があります。覚えるのは人によっては中々大変だったりします。
「その時何か男の目がおかしかったのよ」
「ふんふん」
「それがどうしてかって思ったら」
 話しているうちにその顔がどんどん曇っていっています。
「見られていたのよ」
「見られていた?」
「そうなのよ。足広げていて」
 ああ、何かそれを聞いてすぐに何があったのかわかりました。もうそこまで言われれば。
「それで」
「見られていたのね」
「そうなのよ。その日のは白だったけれど」
「丸見えだったのね。向こうから」
「そういうこと」
 なのでした。お手ふりの時間は男の子と女の子が別れますからついつい自分達が踊っていない時はおしゃべりをしていて油断して。そうなっちゃうんです。
「何か向こうがやけに私見てるなあって思ったら」
「うわ、それは間違いないわね」
 よくあることですが。やっちゃうんです。
「見られてるわよ、確実に」
「そうなのよねえ。しかも」
「しかも?」
「その時三角座りだったのよ。それってやっぱり」
「見られてるわねえ」
 その姿勢をすることが多くて、女の子同士だと。だからそれで。
「失敗したわ」
「気をつけてね。向こうはそれを期待してるんだし」
「ええ。見られたことは仕方ないけれど」
 その娘もそれは諦めていました。見られたのはもう戻らないです。
 
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