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おぢばにおかえり

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38部分:第六話 レポートその七


第六話 レポートその七

「あのね、何度も言うけれど私はキスは」
「旦那様になる人だけでしょ」
「そうよ、わかってるじゃない」
 わかってて言うところが新一君です。本当にふざけています。
「わかっていたらその御礼は引っ込めるの。いいわね」
「簡単なことだしね」
 めげずに言ってきます。そもそも新一君の辞書に反省とか懲りるとかいう単語はないみたいです。どんな辞書を使っているのかはわからないですけれど。
「簡単なこと?」
「そうだよ、僕が先輩のさ」
「旦那様になるっていうの?」
「そう、いざなぎのみこと」
 親神様のご守護は大きく分けて十ありまして。これを十全の守護といいます。そのうちいざなぎのみことは人間男一の道具、種の理です。簡単に言うと男の人ですね。それに対するのがいざなみのみことですけれどこちらは人間女一の道具、苗代の理です。簡単に言うと女の人です。
「だったらいいよね」
「何処までふざけてるの?」
 そうとしか思えません。十七の子が言う言葉じゃないです。まして私もまだ十九です。何で二歳も年下の子にこんなこと言われるんだか。頭の中からレポートのことが完全に消えちゃいそうですけれそれは何とか覚えておきました。
「それで何処まで本気?」
「完全に本気だよ」
「また詰所で梶本さんと飲んでいたの?」
 今度はお酒かと思いました。けれど違うみたいです。
「あのね、若い時からそんなに飲んでると」
「飲んでないよ。何か先輩ムキになり過ぎだよ」
「そうさせてるのは何処の誰よ」
 思わずそう突っ込みました。
「いつもいつも訳のわからないことばかり言って」
「気にしない気にしない」
「とにかくキスは駄目よ」
 それはもう私が決めました。
「わかったわね」
「それじゃあ何がいいの?」
「そうね。最近ソフトクリームばかりだし」
 何でかわからないけれどそればかり食べてる気がします。気のせいでしょうか。
「パンケーキでどうかしら」
「パンケーキ?」
「そうよ、大学の食堂の」
 甘いものばかりですけれど。好きなんです。
「それでどう?」
「先輩も一緒なんだ」
「そうだけれど」
 そう新一君にも答えます。
「それがどうかしたの?」
「じゃあそれで御願い」
 新一君は笑顔になります。何かそれだけで満足だっていった感じの顔になっています。私がいることが何かあるんでしょうか。
「是非ね」
「わかったわ」
 とにかくそれで納得してくれるのならそれに越したことはありません。話が簡単にまとまって私としてもいいことでした。妙に引っ掛かりますけれど。
「じゃあここを出たらね」
「うん。すぐに終わらせてね」
「それにしてもねえ」
 あらためて新一君を見て溜息をつきます。
「最近私お金食べ物にばかり使ってるんだけれど」
「そうかな」
 新一君は全然自覚ないみたいです。
「気のせいでしょ」
「気のせいじゃないわよ」
 そう新一君にも言い返します。
「実際にソフトクリームとかラーメンとかそのパンケーキとか」
「そういえばそうかな」
「新一君と一緒にいるせいよ」
 憮然とした顔をして言ってあげました。
「どういうことよ、これ」
「気にしない気にしない」
「まあいいけれどね。けれど花の十九歳が」
 また溜息が出ます。新一君を見ているとどうにも。
「こうして何か訳のわからない子といつも一緒で。何やってるんだろ」
「何か嫌?」
「別に嫌じゃないけれど」
 だからじっと見詰めないの。そういう目で見られたら困るっていうか。急に子犬みたいな目になって。こうした目にたまになるんです。ああ、弱った。
「それでもよ。節度をね」
「じゃあいいんだよね、僕が側にいても」
「ええ」
 仕方なくそう答えてあげました。
「ただ、節度は守ってね」
「うん」
 とても嬉しそうに頷きます。
「そういうことなら」
「全く。本当に困った子なんだから」
 これも何回思ったことやら。二人の妹よりもずっと手間がかかるなんて思いませんでした。男の子て手間がかかるって聞いていましたけれど。
「じゃあ後でパンケーキね」
「うん」
 そう話を決めてレポートの勉強を終わらせました。それから食堂でパンケーキを食べてその日は詰所に帰ることになりました。帰り道も新一君と一緒です。
「これで今日は終わりなんだね」
「ええ、そうよ」
 彼に答えます。
「後は詰所でレポート書くだけだけれど」
「あそこで書けるの?」
「書けるわよ」
 何か変なことを言うなと思いましたけれど答えました。
「ちゃんと」
「そうだったんだ」
「そうよ。そこは安心して」
 そう彼に言ってあげます。
「いつもそうしてるし」
「そういえばさ」
 ここで新一君は私に尋ねてきました。
 
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