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ロボスの娘で行ってみよう!

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第22話 ヤンの帰還


ティアマト会戦直前のお話です。
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第22話 ヤンの帰還

宇宙暦789年2月9日

■自由惑星同盟 首都星 ハイネセン

 この日エコニアでの任務とケーフェンヒラーの資料を持ってヤンがハイネセンへ帰還した。
ハイネセンの軍事宇宙港から統合作戦本部へ直行し帰還の報告を済ませ、待命の指示を受ける。
その後、2年ぶりに家族の元へ向かうパトリチョフと分かれて官舎があてがわれるまで安ホテル生活になるなと思って建物の外へ出ると、記憶にある顔の持ち主が名前を呼んで近づいてきた。

「お帰りなさい、先輩」
「なんだ、迎えに来てくれたのか」
「男で残念でしょうが、キャゼルヌ先輩に頼まれまして」

ダスティー・アッテンボローが笑いかけ、先輩の手からスーツケースをもぎ取った。彼等2人の共通の先輩であるアレックス・キャゼルヌが、ヤンの慰労の席をもうけてくれたという。レストランでなくキャゼルヌの官舎で、婚約者の手料理を御馳走してくれると言うのだった。

「そう言えば、そろそろティアマトで戦闘ですね」
「そうだね、同数の正面決戦か」
「余り良くはないですね」

「犠牲がどれだけ出るやら」
「そうですね」
「そう言えば、リーファは今回出ているのかい?」

「リーファ先輩なら、留守番だそうですよ」
「そりゃまたなんで?」
「良くは知りませんが、総参謀長とやり合ったとか何とか?」

「今日は来ないのかい?」
「何でも、事後処理中だそうで来られないようです」
「なんだ、さっき作戦課へ寄れば良かったな」

そんな話をしながら無人タクシーで走行すること15分、アレックス・キャゼルヌの新しい官舎は芝生と樹木に囲まれた独立家屋だった。結婚が近いので、アパート式の官舎から転居したのである。客人を迎えて、キャゼルヌは婚約者を紹介した。

「此方はオルタンス・ミルベール嬢・・・・・・・・・もうすぐキャゼルヌ夫人になる」
キャゼルヌは照れ一杯に婚約者を後輩達に紹介する。食事の用意をしていたオルタンス・ミルベールは、エプロンを着けたまま、気さくに客人に挨拶した。

「アレックスがなにかとお世話になっているそうで、ありがとうございます。結婚してからも遊びにいらしてくださいね」
オルタンス嬢、近い将来のキャゼルヌ夫人は、この年二十三歳という事だった。血色の良い健康美人とと言う表現がよく似合う女性である。ヤンもアッテンボローも、ごく自然に好感を覚えた。折から食堂から漂ってくる料理の芳香が、彼等の食欲中枢を通して、その好感を更に高めたことは疑いない。

「オルタンスは料理がわりと得意でね」
キャゼルヌの表現は控え目過ぎるほどだった。ヤンにせよアッテンボローにせよ、美食家には程遠い。だが、未来のキャゼルヌ夫人が出してくれた手料理は、食事としては最上の喜びであるという考えの具現化であった。

ヤンとアッテンボローは雉肉のシチューを二杯もお代わりした。更にその後で出された麻婆豆腐も二杯もお代わりした。
「シチューと麻婆豆腐がお好きなの」
「今日から好物になりました。キャゼルヌ先輩は幸せですね、こんな美味しい料理を作ってくれるご婦人と結婚できるんですから、毎日食べたいぐらいですよ」

「あら、お上手だこと」
「本心からですよ」
「おいおい、人の婚約者を誘惑するなよ」
にやつきながらキャゼルヌ先輩が話した後で台所へ呼びかけをする。

「おい、この料理を作る相手と結婚願望があるそうだぞ」
すると台所からエプロンを着けたリーファが現れた。
「はーい、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」

リーファの姿を見てヤンとアッテンボローが驚く。
「リーファは統合作戦本部に居るんじゃないのか?」
「いや、驚かそうと思いましてね。此処でオルタンスさんと料理を作ってました」

「どの料理がリーファのだい?」
「麻婆豆腐や杏仁豆腐とか中華系ですね」
「どうりで、洋風と中華風が揃っていたわけだ」

「リーファさんに相談されてね、アッテンボローさんが逃げてばかりだからと」
「そう言う事だ、アッテンボローそろそろ覚悟を決めるんだな」
「ヤン先輩、先輩なら判ってくれますよね」

そう振られてヤンも困った顔をする。
「私に振られても困るよ」
「私の料理を毎日でも食べたいんですってね、良いわよ卒業したら毎日作ってあげるわ」

アッテンボローはヤンの慰労会だと思ったら、自分のドッキリ企画も入っていたので、やられたと思うので有った。

一際の笑いの後、キャゼルヌとアッテンボローにはコーヒーが供され、ヤンとリーファには紅茶が出された。近未来のキャゼルヌ夫人の心遣いに感銘を受けながら、ヤンは抱え込んできた話を始めた。ケーフェンヒラー老人の死、それに絡まる幾つかの歴史上の事件についてである。

「俺は席を外しましょうか」
「私も席を外しますわ」
アッテンボローが腰を浮かしかけると、リーファも早速アッテンボローを何処かへ連れ出そうと考えたようだが、キャゼルヌが軽く片手を上げてそれを制した。

「柄にも無く気を利かせんでいい。で、どう言う事が具体的に判ったんだ」
キャゼルヌの言葉にアッテンボローはホッとした顔をして、リーファは仕方が無いかと言う顔をしている。

その後ヤンがケーフェンヒラー老人が調べ、自分の推測を入れたぶるーブルース・アッシュビー、ジークマイスター、ミヒュールゼンのスパイ網やその裏側などを話し始めた。

「此がクリストフ・フォン・ケーフェンヒラーの手によって、40年の歳月をかけて集められた事件の概要です」
それを聞いてアッテンボローが呟いた。
「しかし何というか、その、見てきたような嘘という気もしますね」

「嘘だよ」
あっさりとヤンが断定したので、彼の先輩と後輩は、ティーテーブルの上と下で非音楽的な音を立てる事に成った。彼等の反応を鄭重に無視して、ヤンは続けた。

「物的証拠は何一つ無いんですよ。蓋然性は高いし、説得力もあります。ですが現在の所仮説に過ぎません」
「その仮説が定説になるに為には、何が必要なんだ」
キャゼルヌの問いに、またもあっさりヤンは答えた。

「もっと多くの情報です」
「簡にして要を得ているな」
そう話したとき黙って聞いていたリーファがボソリと話し出した。

「マーチジャスパーに聞いた事があるわ」
その言葉に3人がリーファを見る。
「ジャスパーって、フレデリック・ジャスパーか」

「ええ、フレデリック・ジャスパー元帥ですよ」
「いったい何時?」
「えーと、アレは確か771年だったはず。ジャスパー提督が統合作戦本部長を勇退するパーティーだったな」

「771年と言えば、3才だろ」
「ええ、父がジャスパー提督の部下だったこともあって参加したんですよ」
「しかし、3歳児に話すかね」

「あの頃から、ませてましたからね。戦場のお話を少しして貰った時に話しているですよ」
「それで、ジャスパー提督はなんと?」
「ヤン先輩顔が近いですよ、私の唇はダスティーのものなんですから」

ヤンは言われて顔を離し、アッテンボローはやれやれという顔をする。
「リーファ、でどうなんだ?」
キャゼルヌが場を仕切り直す。

「ジャスパー提督は、アッシュビー提督が確かにジークマイスター氏と連絡を取り合い情報を貰っていたことを薄々感じていたそうですが、第二次ティアマト会戦までは確証に至らなかったようです。しかしアッシュビーの死後に宇宙艦隊の情報力が急速に質が下がった事を感じ、更にパランティアでコープ提督の大敗などから疑惑を持ち、宇宙艦隊司令長官になると密かに調べたようです」

「なるほど、一度成りとも調べたのか」
「ええ、その後に疑惑が確証になったのですが、表に出せなく成ったわけです」
「それで退役の酒の席で3歳児についつい喋ってしまった訳か」

「そうなりますね、普通の3歳児はそんな事聞いても判らないですからね」
「ある意味、リーファのバグキャラ具合が出たわけだな」
キャゼルヌがそう言うとヤンもアッテンボローも頷いた。

実際リーファはマーチジャスパーに聞いた事はあるが、大半が愚痴だったのでが、ある程度は本当でありある程度は原作知識を混ぜたものであった。

「リーファの話を資料に入れて良いかな?」
「んー、私の名前さえ隠してくれたら良いですよ」
「ありがとう、此でかなり確証の持てる文章になるよ」

「先輩頑張ってくださいね」
ヤンが返事をしようと思ったときアッテンボローに聞いた留守番の事を聞きたくなった。
「判ったよ。所でリーファは今回、留守番だそうだけど何があったんだい」

ヤンからそう言われると、リーファとキャゼルヌが顔を見合わせたあと話し出した。
「いやね、敵の迎撃を馬鹿正直にティアマトでやると言うので、ダゴンまで引いて別働隊をイゼルローン回廊に進出させて、慌てて帰投する敵を追撃しろと言ったら、総参謀長から卑怯者呼ばわりされて留守番ですよ」

「リーファの案の方が理にかなっているだがな、統合作戦本部長も乗り気だったが、宇宙艦隊の方が反対で正面決戦に決まったわけだ」
「それは、本末転倒じゃ無いですか。士官学校生の俺だって判りますよ」

「ダスティー、庇ってくれて、あ☆り☆が☆と☆う♪」
リーファはアッテンボローに撓垂れかかる。
「それはともかく、今回正面決戦で勝てますかね?」

「ワイドボーン先輩に策を授けましたが、司令官次第ですね」
「同数なら、痛み分けの可能性が多きわけだな」
「けど、なめてかかると危ないはずですよ」

「なるほど窮鼠猫を噛むと言う事ですね」
「そうなるね、ワイドボーンの献策が旨く行けばどうにかなるのかい?」
「成るはずですけどね」

「明後日辺りか決戦は」
「そうなりますね、私も当日は統合作戦本部に詰めますんで」
「そうか、頑張れよ」
「はい」

その後ヤンとリーファとアッテンボローが家を辞したのは二十一時のことだった。荷物は翌日引き取りに来る事にして、ヤンは安ホテルに直行するし、リーファは実家へ、アッテンボローは士官学校宿舎に帰るのだが、冗談でリーファがアッテンボローをホテルへ連れ込もうとして少々な騒ぎを起こしながら帰宅した。

リーファが明後日から始まる第三次ティアマト会戦の結果を知っていればこんなにノンビリしていなかったであろう。


 
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