おぢばにおかえり
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122部分:第十六話 色々と大変ですその九
第十六話 色々と大変ですその九
「ブラジルなんかいいかしら」
「ブラジルですか」
「日系人の人も多いしね」
「ええ」
これは私も聞いています。プロレスラーのアントニオ猪木さんも元々はブラジル移民だっていうのをお父さんから聞いたことがあります。お父さんは猪木さんのファンなんです。
「それもあるし」
「そうなんですか」
「天理大学も勉強して受けようかしらって思ってるけど」
「まだ決めておられないんですか」
「ええ、実は」
そうみたいです。といっても先輩は高校三年生なんですけれど。
「どうしようかしらね」
「ブラジルですか」
「ブラジルって治安が」
これは私も聞いたことがあります。ストリートチルドレンとかも。
「悪いらしいですけれど」
「それも承知のうえでよ。日本だって最近はあれじゃない」
「そうですけれど」
特に地震があった後の神戸は酷いものでした。一番頭に来たのはあるニュースキャスターが神戸の有様を見て温泉街とか言ったことです。テレビにその人が出たらうちではすぐにチャンネルを変えます。何でテレビで良識派になっているのか不思議なんですけど。
「それにそれを乗り越えてこそね」
「布教なんですね」
「そう考えだしているんだけれどね」
先輩は考える顔で仰いました。
「本当にどうしようかしら」
「他の国はどうですか?」
私はこれを提案してみました。
「台湾とか韓国は」
「それもいいかも知れないわね」
先輩は私のお話にも乗ってくれました。
「本当にどうしようかしら」
「おぢばを出られるんですか」
「そうね。そうなるかも」
それも否定されません。かなり本気みたいです。
「けれどそうなってもね」
「いいんですね」
「ええ。全部御導きだから」
おみちの言葉が出ました。
「それも受けさせてもらうわ」
「そうなんですか」
「じゃあ。ちっち」
「はい」
「その時まで宜しくね」
「あっ、はい」
急に畏まられてびっくりです。そんな急に。
「こちらこそ。御願いします」
「じゃあ。これからね」
今度は私ににこりと笑われてきました。それで。
「参拝しない?」
「参拝ですか」
「ええ。丁度神殿の前だし」
右手には神殿が。前には商店街が。そんな場所に今います。
「どうかしら」
「そうですね。それじゃあ」
そして私も先輩のそのお言葉に乗らせてもらいました。
「御願いします」
「それじゃあ。そういえばね」
ここで先輩はまた気付かれたように仰ってきました。
「何ですか?」
「一年生だから参拝するところは西の礼拝場よね」
「ええ、まあ」
その通りです。そこでいつも参拝しています。
「そうですけれど」
「そうよね。あの頃が懐かしかったり」
「懐かしいですか」
「二年や三年になったらわかるわ」
また笑顔で私に話してくれます。
「その辺りもね」
「そうなんでしょうか」
「そうよ。またね」
「はあ」
「実感ないでしょうね」
今度も笑って仰ってきました。
「まだね」
「やっぱり二年か三年になってからなんですね」
「そういうことよ。そういえばね」
ここで先輩は何かに気付かれたようです。
「はい?」
「礼拝場の階段って大きくないかしら」
不意にこんなことを仰ってきました。
「階段がですか」
「ええ」
それまで笑顔だったのが消えて。暗い顔になっています。
「ほら、礼拝場に入る階段」
私にその礼拝場に入る階段を見るように促ししながらお話します。
「あそこ。大きくない?」
「ですよね。確かに」
そして私もそれは同じことを感じました。
「上から見上げられると怖いっていうか」
「そういえばこうも言われているのよ」
不意にまた話が変わりました。
「こうもって?」
「上から見上げる女の人は美人だってね」
「そうなんですか。それじゃあ」
低いなりにやってみようかしらって思ったりしました。そんなことを考えながら佐野先輩と二人で参拝したのでした。その西の礼拝場で。
第十六話 完
2008・3・8
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