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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編067話 if ゲート編 03話

「結婚して下さい!」

 ……その一言が周囲に響き渡った瞬間、最初は何があったのが、意味が分からなかった。
 ちなみにそう言ったのは、自衛隊の栗林……とかいう、背の小さな、それでいて巨乳の女。
 そして言われたのは、俺……ではなく、ムウでもなく、イザークでもなく……

「何を言っているんだ、この女は?」

 髭面むさ苦しい、ムラタだった。
 日本からやって来た面々――正確には担当は1人で残りは護衛の自衛隊員だが――にシャドウミラーについての説明を色々としているところで、何の偶然がムラタが部屋の中に入ってきたのだ。
 もっとも、そんなムラタに驚いたのは俺だけじゃない。
 寧ろ日本からやってきた面々の方が驚いていただろう。
 何しろ、ムラタが持っているのは日本刀。
 ……そう、『日本』刀なのだ。
 日本からやって来た面々が、それを見て驚かない筈もない。
 いやまぁ、銃刀法違反とかそういうので驚いたのかもしれないが、そういう意味では自衛隊の面々だって銃を持ってるしな。
 ともあれ、そんな訳で姿を現したムラタだったが、栗林はそんなムラタを見て何を思ったのか、いきなりプロポーズしたのだ。

「……はっ! ちょっ、クリ! お前一体いきなり何を言ってるんだ! クロ!」
「あ、は、はい!」

 伊丹の言葉に、クロと呼ばれた女の自衛隊員がムラタに向かって突っ込んでいこうとする栗林を押さえようとする。

「……日本って、思ってたよりもかなり愉快な国なんだな」
「ち、違います! 全くそんな事はありません! 彼女は……そう、特殊なんです!」

 役人が慌てたようにそう言う。
 いやまぁ、何を思ってあんな事を言ったのかは俺もちょっと気にならない訳じゃないが……

「理由はともあれ、ムラタを呆然とさせるってのはちょっと凄いな」
「そうね」

 俺の言葉に、エザリアはしみじみと頷く。
 もし今の光景をシャドウミラーの他の面々が見れば、間違いなく驚愕するだろう。
 それくらい、今の光景は珍しい事だった。

「えっと……すいません。実はうちのクリ、強い相手には惚れっぽいらしくて……」
「あら、それは強い相手なら誰でもいいの?」

 栗林から話を聞いた伊丹が説明しにくるが、エザリアの言葉に対し、即座に首を横に振る。

「いえいえ、そんな事はないです。ただ強いだけの乱暴者はさすがに……」
「……けど、ムラタよ?」
「いや、その言い方はどうなんだ」

 エザリアの言葉を借りれば、ムラタと乱暴者がイコールで結ばれる事になるんだが。
 シャドウミラーに所属した当初ならともかく、今のムラタは別にそんな乱暴者って感じじゃない……と、思う。
 勿論荒々しい性格をしているのは否定しないが。

「ふん、強い相手が好きだというのなら、何故アクセルに言い寄らない?」

 そんなムラタの言葉は、不思議と周囲によく響いた。
 そして俺に集まる驚愕の視線。
 いやまぁ、ムラタのように強面の男と比べて、俺の方が強いとは普通思えないだろうから、そんな視線を向けられてもおかしくはないのだが。
 だが、それは真実でもある。ムラタにとって、俺という存在は超えるべき相手なのだから。
 ……一応今の俺の姿は20代の一番年上の姿なんだが、それでもやはり、外見という形ではムラタより上とは思われないのだろう。
 これで、15歳や10歳の姿だったら、一体どうなっていたのやら。
 いっそ混沌精霊の姿で姿を現してみるってのも、ちょっと面白かったかもな。

「えっと、その……アルマー代表。彼は……」

 沈黙を破って、伊丹が改めて俺に尋ねてくる。

「ムラタだ。シャドウミラーの実働班……まぁ、軍隊の一員だと思って貰えればいい」

 一応シャドウミラーが、いわゆる軍事国家だという情報は既に日本に渡っている。
 軍事国家と表現すれば、日本のような国にとっては嫌悪すべき存在になるのかもしれないが、門世界……日本風に言えば特地か。その特地で遭遇した、話の通じる国だ。
 しかもその国は日本……いや、地球よりも高い科学力を持っているらしいとなれば、内心でどう思おうと、その嫌悪感を表面に出すような真似は出来ないだろう。

「軍隊の一員よりも、生身で強い一国の代表……何それ……」

 俺達に聞こえないように口の中だけで呟く伊丹だったが、残念ながら混沌精霊の俺の耳にはしっかりと聞こえていた。
 その気持ちは分からないでもないけどな。
 若い奴が多い中でも、ムラタというのは貴重な中年枠だ。
 ……中年枠という点では、実はエザリアも入るのだが、エザリアの場合は20代にしか見えない外見だしな。
 ともあれ、そんなムラタが俺よりも強いとなれば、当然のように向こうにとっては気になってもおかしくはない。
 実際に栗林の方は、隠そうとしているが何度も俺に好奇心に満ちた視線を送ってきているし。
 俺の強さが具体的にどれくらいか知りたい。
 だが、それを聞くのは役人の護衛という身分では出来ない事だと、そう理解しているのだろう。
 さて、どうするか。シャドウミラーという国が日本に比べて色々な意味で異常だというのは、既に示してある。
 特にここに来る途中で技術班と茶々丸の虚空瞬動を使った追いかけっこまで見てるしな。
 ともあれ、シャドウミラーの面々が生身でどれだけの力を持つのか……それをしっかりと見せつけておくのも、これからの日本との交渉でかなりのアドバンテージになるのは間違いないだろう。
 エザリアが得た情報によると、門世界の日本はアメリカのペット的な存在で、中国にとっては太った豚のように食らうべき存在と化している。
 そんな国と接触を持ってしまったのは、正直なところ失敗だったような気がしないでもないが……門世界で得られる資源を考えれば、日本を支配でもしない限りは友好的に付き合っていく必要がある。
 ……支配するには色々と面倒だし、そもそも支配するのに必要な労力を考えるとリターンは少ないので、友好的な存在にしておいた方がいいんだよな。
 ちなみに門世界で得られる資源というのは、当然のように石油やレアメタル、レアアース……といったものではない。
 そういうのは、キブツを使えば幾らでも得られるのだから、採掘する手間を考えれば、普通に日本に譲っても問題はない。
 この場合の資源というのは、門世界にしか存在しない生物とかだ。
 いわゆる、オークやワイバーンといった類のモンスター。
 一応ワイバーンは以前の件で入手して、ホワイトスターの牧場で飼われてはいるし、繁殖にも成功している。
 だが、それでも可能であればもっと数を増やしたいというのもあるし、より上位のドラゴンやら何やらも出来れば生け捕りにして捕獲したい。
 そういう意味で、この門世界は非常に美味しい世界なのだ。
 ここを支配している帝国も弱いしな。

「そうだな。なら、歓迎会代わりだ。俺達シャドウミラーの人間がどれだけの戦闘力を持っているのか……その辺りをちょっと見てみるか?」
「是非!」

 真っ先にそう言ったのは、当然のように栗林。
 ムラタの強さを見たいというのもあるし、目当てのムラタが言っていた、俺の方が強いというのを確かめてみたいという思いもあるのだろう。
 他の面々も栗林の言葉に反対はないらしい。
 役人が反対しないのはちょっと意外だったが……まぁ、向こうにしてみれば、俺達の力を少しでも見極めるというのは重要なのだろう。
 そんな訳で、俺達は少し離れた場所にある公園に向かう。
 だが、こうして大勢で移動していれば当然目立つ訳で……公園に到着した頃には、大勢の観客を引き連れていくことになっていた。
 いや、俺は別に構わないんだけどな。

「おい、見ろ。さっきも車の中からエルフを見たけど、今度は生のエルフだぞ」
「でも、隊長。エルフはともかく、獣人がどこにもいないのは何でです?」
「それを俺に聞かれても困るだろ」
「2人とも、静かにして下さい。これからシャドウミラーという国がどれだけの力を持っているのかを確認するんですから」

 クロとか言われてた……正確には黒川だったか? その女の言葉に、伊丹ともう1人の男は静まり返る。
 栗林の方は、興味津々の視線を俺達の方に向けていた。
 いや、伊丹達以外の連中も、全員がこっちに視線を向けている。

「アクセル様、頑張って!」

 そんな風に声を掛けてくるのは、エルフの女。
 まぁ、仮にも俺はエルフに祭られている神という扱いなので、俺に対する応援はされてもおかしくはないのだろう。
 ともあれ、公園の真ん中で俺とムラタは向き合う。

「こんなに離れる必要があるんですか?」
「ええ。寧ろ、アクセル達が本気で戦わないからこそ、この程度の距離で済んでるのよ。もしアクセルやムラタが本気で戦うような事になれば、この一帯が壊滅してもおかしくはないわ」
「……えっと、それは冗談とかそういうのではなく?」
「厳然たる事実よ。もっとも、アクセルもそれが分かってるからこそ、本気で戦うような真似はしないんでしょうけど」

 役人とエザリアの声が聞こえてくるが、別に俺はそこまで本気でやるつもりはないんだけどな。
 もっとも……ムラタが習得した神鳴流は俺のような混沌精霊にとってはかなり効果的な流派なのは間違いない。

「では……いくぞ!」

 その言葉と共に、ムラタは瞬動を使って俺のすぐ横に移動してくると、持っていた刀を振るう。
 気を纏わせた刃は、普通の刃とは違って俺に触れれば傷を付ける事が可能となっていた。
 だが……それはあくまでも、触れられればの話だ。
 少しだけ身体を動かすと、俺のすぐ側を刃が通る。
 そして俺の前を通った刃は、次の瞬間には即座に返され、首を狙ってきた。
 いや、首を狙いに来るってどうよ?
 そんな風に思いつつ、手に魔力を込めて刃を掴む。
 真剣白刃取りって奴だな。
 もっとも、人差し指と親指を使って刃を止めるのも真剣白刃取りになるのかどうかは分からないが。

「ちょっ! 何あれ!?」
「姿が……消えた……? そんな事、出来る訳が……」

 外野からそんな声が聞こえてくるが、取りあえず今はムラタとの勝負に集中した方がいいだろう。
 準備運動はこの辺でいいだろう?
 そういう意思を込めてムラタを見ると、そんな俺の思いがムラタにも伝わったのだろう。
 俺が刃から手を離すと、再び瞬動を使って距離を取る。

「では、そろそろ本気で行かせて貰おう。……神鳴流奥義、斬空閃!」

 その言葉と共に、刀を振った事により生まれた斬撃が俺目がけて向かってくる。
 それを俺は軽く手を振った事により白炎を生み出して斬撃を消滅させ、続いて空間倉庫から拳銃を取り出す。
 普段であれば、ムラタを相手に……いや、シャドウミラーの相手をする為に、拳銃を持ち出すような事はしない。
 これは殺傷力が高い……という問題ではなく、純粋に意味がないから。
 ガァンッ! という銃声が周囲に響く。
 50口径という、拳銃としては極めて高い威力を持つ。
 ……この銃は、別に技術班で開発した訳ではなく、どこぞのマフィアかテログループ辺りを襲撃した時に奪った奴だった気がする。
 ともあれ、俺がわざわざこうして普段使わない拳銃を使ったのは……単純に、この光景を日本からやって来た連中に見せておきたかっただけだ。
 キンッ、という甲高い金属音と共に、ムラタは刀を振り下ろす。

「嘘っ! まさか銃弾を刀で切り落とした!?」

 栗林の驚愕の声。
 他の自衛隊の連中も……そして役人までもが、唖然としてこっちを見ている。
 それに比べると、シャドウミラーがどのような存在なのかを知っている他の面々は、特に驚いた様子もない。
 シャドウミラーの中でも一定以上の力を持つようになれば、銃弾の類は基本的に効果がない。
 いや、当たれば当然ダメージがあるのだから、効果がないというよりは命中させる事が出来なくなるといった方が正確か。
 特に瞬動を自由に使いこなせるようになれば、更に命中させるのは難しくなるだろう。
 つまり……もし自衛隊とシャドウミラーが敵対した場合、銃火器の効果がない自衛隊は著しく不利になるという事でもある。
 ……それ以前に斬撃が飛んだという点でも大きく驚いているのが分かったが。
 どこからともなく拳銃を取り出したというのも驚いていたし、俺の目論見は大体成功したな。

「なら、次だ」

 パチンッと指を鳴らすと同時に、影から伸びる槍……影槍。
 自衛隊の面々の驚愕の声を聞きながら、影槍はムラタによって次々に切断されていく。
 そんな風に模擬戦を続け……やがて最後はムラタの腕を蹴り上げ、ムラタの手から日本刀を放して俺の勝利で模擬戦は終わる。
 そうして一段落してるところで、栗林がこっちに近づいてくるのが見える。
 あー……ムラタじゃなくて俺をロックオンしたのか?

「あの、ちょっとお話を……」
「言っておくが、俺は10人以上の恋人がいるから、結婚は出来ないぞ」
「……え?」

 理解出来ないといった風な栗林だったが、視線を向けられたエザリアが頷くとショックを受けたように固まるのだった。

「うわ、リアルハーレムだ。……すげぇ」

 伊丹、その言葉、しっかりと聞こえてるからな? 
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