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英雄伝説~西風の絶剣~

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第37話 事情聴取と勘違い

side:エステル


 おはよう、皆!エステルよ。もー、昨日は最悪だったわ。えっ?なんでかって?それが最上階のスイートルームに泊まれることになったのにデュナン侯爵っていう王族の人がいきなり来て部屋を寄こせだなんて言ってきたのよね。執事のお爺さんがあたしたちに地面に頭が付いちゃうくらい下げて謝ってたから譲ったんだけど流石にもう部屋は一杯で借りれなかったって訳なの。
 でも偶然にもナイアルがホテルに泊まっていてあたしたちは以前の空賊事件で情報を話したお礼で止めてもらう事ができたのよね。しかも美味しいご飯まで奢ってもらっちゃったしラッキーだったわ。
 

「じゃああたしたちはギルドに向かうわね」
「色々とありがとうございました」
「おうよ、俺はルーアンに暫くいるからまた何かネタが入ったら教えてくれよな」


 ホテル前でナイアルと別れたあたしたちはギルドに向かいさっそく依頼をこなしていくことにした。


「おはよう、ジャンさん」
「おはようございます」
「やあ、おはよう。早速来てくれたみたいだな」
「うん、約束したしね」
「早速ですが仕事を紹介してもらってもいいですか?」
「勿論さ!色々やってもらいたい事はあるんだけどまず何からやってもらおうかな?」
「お、お手柔らかに……」


 ジャンさんと話していると導力通信機がランプを光らせて鳴り出した。


「おっと、ちょっと待っててくれよ……はい、こちら遊撃士協会ルーアン支部。やあ『白の木蓮寧』の……連絡してくるなんて珍しいな……なんだって?」


 ジャンさんは表情を険しくして話を聞いていた。なんか前にもこんな光景を見たような……嫌な予感がしてきたわ。


「……分かった。直にウチのものを向かわせるさ」


 ジャンさんは通信を終えるとあたしたちに向きかえった。


「どうしたの?何か事件でもあったの?」
「事件か事故かは分からないんだが昨日、街道沿いにある孤児院が火事にあったそうなんだ」
「孤児院って……フィルが住んでいるって言ってた?」
「知ってるのかい?」
「行ったことはありませんが昨日知り合った子が住んでいる場所なんです」
「住んでいた人たちは無事なの!?」
「その確認はとれていない。とりあえず、それも含めて君たちに調査をお願いしたいんだ。頼めるかい?」
「勿論よ!」
「僕たちはこれから直に孤児院に向かいます」
「よろしく頼んだよ」


 ジャンさんから孤児院の場所を聞いてあたしたちは孤児院に向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「ひ、酷い……」
「完全に焼け落ちてるね……」


 孤児院があった場所に着いたあたしたちが最初に目にしたのはほとんどが燃え尽きた建物の残骸だった。


「あれ?あんたたちは……」


 近くにいた男性たちがあたしたちを見て傍に近寄ってきた。


「ひょっとして君たちは遊撃士協会から来たのかい?」
「う、うん……」
「皆さんはマノリア村の方ですか?」
「ああ、俺たちは瓦礫の片づけをしてたんだ。昨日の夜中に火事が起きて慌てて消火に来たんだけど建物はほとんど焼け落ちてしまった」
「あの、ここに住んでいた人たちはどうなったの?フィルって子があたしたちの知り合いなんだけど……」
「ああ、あの子の知り合いか。大丈夫、全員無事だよ。今はマノリア村の宿屋で休んでもらってる最中なんだ」
「よ、よかったぁ~……」


 フィルや一緒に住んでいた皆は無事だったのね。少し安心したわ……


「ただそのフィルって子が怪我を負ったらしくてね。何でも不審者に襲われたとか……」
「不審者!?じゃあこの火事は……」
「人為的に起こされたもの……だね」


 し、信じらんない!?どうして何の罪もない孤児院の人たちにこんな酷い事が出来るの!?


「エステルさん、ヨシュアさん!!」


 声をかけられたので振り返るとそこにはクローゼが立っていた。


「あ、クローゼ。あなたも来ていたの?」
「はい、先ほど学園長から孤児院で火事が起きたと知らせを頂いて急いで駆けつけました。フィルさんやテレサ先生、それに子供たちは?」
「大丈夫、皆無事よ。今はマノリア村の宿屋にいるらしいわ」
「そうですか、皆が無事で本当に良かった……」


 クローゼはよほど安堵したのか涙を流していた。


「取りあえずマノリア村の宿屋に向かおう。被害にあった人たちから情報を貰わないとね」
「はい、行きましょう」


 あたしたちは孤児院を後にしてマノリア村に向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「先生、みんな……!」


 マノリア村に着いたあたしたちは直に宿屋の2階に向かい孤児院の人たちがいる部屋に入った。クローゼが声をかけると全員がクローゼを見て驚いていた。


「あ、クローゼ姉ちゃん!」
「来てくれたんだ……!」


 子供たちは嬉しそうにクローゼに駆け寄っていった。


「みんな、怪我はしてない?」
「うん。フィルお姉ちゃんが守ってくれたの」
「でもフィルは怪我をしちゃって……」
「フィルさんが!?」
「あ、クローゼ。来てくれたんだ」


 ベットに眠っていたフィルが起き上がってこちらを見ていた。左腕には包帯が巻かれており見ているだけで痛々しい姿だった。


「フィルさん!お怪我は大丈夫なんですか!?」
「ん、見た目ほど深い傷じゃないから大丈夫。まあ血を流し過ぎて気を失っちゃったけど」
「良かった……」


 どうやらフィルも無事みたいね、良かったわ……


「クローゼさん、来てくださったんですね。そちらの二人は?」
「あ、テレサ先生。ご無事で何よりです。お二人は遊撃士の方で今回の事件について調べてくれるそうです」
「まあこんなお若いのに遊撃士だなんて……私は孤児院の院長を務めているテレサと言います」
「あ、はじめまして。あたしはエステルと言います」
「同じくヨシュアです。早速で申し訳ございませんが昨日の火事について話を伺ってもよろしいですか?」
「……ねえ皆、お腹すいてない?私と一緒におやつを食べにいこうか?」
「えっ?いいのー?」
「わーい、やった-!」


 クローゼは子供たちを連れて下の食堂に向かった。どうやら気を使って子供たちを連れだしてくれたようだ。


「クローゼに気を遣わせちゃったね」
「うん、できれば子供たちには聞いてほしくないことだからね」


 あたしとヨシュアはテレサ先生とフィルから火事について話を伺った。二人の話によると昨日の昨晩に孤児院の近くに黒づくめの恰好をした数人の集団をフィルが発見したんだけど負傷させられてしまいそいつらが孤児院に火を放ったそうだ。そいつらはそのまま逃走したらしい。


「こんなことを聞くのは不謹慎ですが誰かに恨みをかってたりしてましたか?」
「見当もつきません。ミラにも余裕がありますから借金をしていたわけでもありませんし周辺の皆様にはよくして頂いてましたから……」
「つまり強盗や怨恨が目的って訳じゃないのね」
「そうなると愉快犯って可能性もありますね。事件の前後に何か変わったことはありませんでしたか?」
「いえ、特には……」


 う~ん、怪しい奴もいなかったし犯人たちの目的が分かんないわね……


「失礼します」


 話を聞いていると下に行ったクローゼが戻ってきた。


「あれ?クローゼ、どうかしたの?」
「はい、実がテレサ先生にお客様が……」
「私にですか?」


 どうもテレサ先生に用がある人が訪ねてきたらしい。こんな時に一体誰なんだろうか?


「お邪魔するよ」


 部屋に入ってきたのはダルモア市長とギルバートさんだった。


「あなたはダルモア市長……」
「おや?君たちは昨日出会った遊撃士の諸君だね。もしかして今回の事件を調査してくれているのかい?流石はジャン君、手回しが早くて結構な事だ。さて……」


 ダルモア市長はあたしたちに話しかけた後にテレサ先生に視線を向けた。


「お久しぶりだ、テレサ院長。先ほど知らせを受けて慌てて飛んで来た所なんだよ。だがご無事で本当に良かった」
「ありがとうございます、市長。お忙しいところを態々訪ねてくださって恐縮です」
「いや、これも地方を統括する市長の務めというものだからね。それよりも今回の事件は本当に許し難いものだ。ジョセフの奴が愛していた建物があんな無残な姿にされるとは……心中、お察し申し上げる」
「いえ、子供たちが助かったのであればあの人も許してくれると思います。遺品が燃えてしまったのは唯一の心残りですけど……」


 ジョセフって人は誰かは分からないけどテレサ先生にとって大切な人だったっていうのは彼女の顔を見て理解できたわ。あたしは改めて今回の事件を起こした奴らに怒りを感じた。


「遊撃士諸君。犯人の目処はつきそうかね?」
「調査を始めたばかりですので確かな事は言えませんが、ひょっとしたら愉快犯の可能性があります」
「そうか……何とも嘆かわしい事だな」
「市長、失礼ですが……」
「ん、なんだね?」


 秘書のギルバートさんが何か思いついたように話し出した。


「今回の事件、もしかすると彼らの仕業ではないでしょうか?」
「……」
「ま、待って!?彼らって誰の事?」


 あたしはギルバートさんが犯人の目処に心当たりがあるのか聞いてみた。


「君たちも昨日絡まれただろう?ルーアンの倉庫区画にたむろしてるチンピラどもさ」
「あいつらが……?」


 あたしは昨日絡んできたあの3人組を思い出した。確かにガラは悪かったけどあたしはこんなことをするような連中には見えなかったわ。何ていうかチンピラっぽい小物臭が凄かったし。


「失礼ですがどうして彼らだと思うんですか?」
「昨日もそうだったが、奴らは市長にたてついて面倒ごとばかり起こしているんだ。市長に迷惑をかけることを楽しんでいるフシすらある。だから市長が懇意にしてるこちらの院長先生に……」
「ギルバート君!!」
「は、はい!」
「憶測で滅多なことを口にするのは止めたまえ。これは重大な犯罪だ、えん罪は許されるものではない」
「ん。わたしも少し軽率だと思うよ」


 流石に憶測だけで犯人扱いするのは不味いし不謹慎でもある、ダルモア市長もそう思ったのかギルバートさんを叱ったしフィルもジト目でギルバートさんを睨んでいた。


「も、申し訳ございません。考えが足りませんでした……」
「余計なことを言わずともこちらの遊撃士諸君が犯人を見つけてくれるだろう。なあ君たち?」
「うん、任せて!」
「全力を尽くさせてもらいます」


 あたしとヨシュアはダルモア市長の期待に応えるように強く答えた。


「うむ、頼もしい返事だ。所でテレサ院長、一つ伺いたいことがあるのだが……」
「なんでしょうか?」
「孤児院がああなってしまってこれからどうするおつもりかな?再建するにしても時間はかかるし何よりミラがかかるだろう」
「……正直、困り果てています」


 そうよね、急にあんなことが起きたんだもん。生活していくだけでも精一杯なのに立て直すなんて無理よね……


「そこでどうだろう。私に一つ提案があるのだが」
「……なんでしょう?」
「実が、王都グランセルにわがダルモア家の別邸があってね。たまに利用するだけで普段は空き家同然なんだがしばらくの間、子供たちとそこに暮らしてはどうだろう?」
「え……」
「勿論ミラを取るなどと無粋な事は言わない。再建の目処がつくまでいくらでも滞在してくれて構わない」
「で、ですがそこまでご迷惑をおかけするわけには……」
「どうせ使っていない家だ。気がとがめるのであれば……うん。屋敷の管理をしていただくというのはどうかな?」
「市長……」


 ダルモア市長ってば凄い人ね。無償で別宅を貸すだなんて心が広い人だと思うわ。


「……ちょっとおかしくない?」
「……フィルさん?」


 そこにフィルが話に入ってきた。


「君は確か最近孤児院に来たという……何がおかしいのかね?」
「いくら何でも話の都合がよすぎると思う。借りも作らないで無償で別宅を提供してあなたに何のメリットがあるの?」
「それは私が院長先生に昔からお世話になってるからで……」
「それなら無理にグランセルに行かなくても市長ならルーアンとかで生活できる場所を用意できるんじゃないの?」
「生憎今はルーアンに提供できる場所が無くてだね……」
「わたしにはテレサたちにここからいなくなってほしいようにも思えるけど?」
「君!いくら何でも無礼が過ぎるぞ!!」


 ギルバートさんは顔を真っ赤にしてフィルを睨むがフィルも負けずと睨み返す。ど、どうしよう……


「……フィルさん、ありがとうございます。私がこの地に想いがあるからそう言ってくださったんですね?」
「……」
「市長さん、申し訳ありませんが少し考えさせてもらってもよろしいでしょうか。何分いろんなことが急に起こってしまい未だ混乱していますので……」
「無理もない……ゆっくりお休みになるといい。今日の所はこれで失礼する」


 ダルモア市長はギルバートさんを連れて去っていった。


「は~、驚いちゃった。フィルったらどうしたの?」
「ダルモア市長に初めて会った時もあまりいい顔をしていなかったしダルモア市長に何か思う事があるのかい?」
「……別に。ただ単にあのダルモアって人の言葉が嘘くさく感じるだけ」
「嘘くさい?」
「何にも感じないの。薄っぺらいまさに表面だけの言葉……私はそう感じる」
「そう?あたしは懐の広い人に見えたけど?」
「まあわたしがひねくれてるだけだと思うし気にしなくていいよ。それよりもテレサ、さっきの申し出はどう答えるの?」


 フィルは話を変えてテレサ先生にさっきの返答をどうするのか聞いた。


「そうですね……フィルさん、あなたはどう思いますか?」
「……まあ普通なら受けたほうがいいよね。でも王都に行ったらクローゼに会えなくなっちゃうし何か寂しく感じる」
「……私も正直嫌です。あそこはテレサ先生とジョセフおじさんと過ごした思い出が一杯詰まった場所ですから……我儘を言ってごめんなさい。でも……」
「クローゼ……ふふ、いいんですよ。あそこは、子供たちとあの人との思い出がつまった大切な場所。でも思い出よりも今を生きることの方が大切なのは言うまでもありません。だから近いうちに結論は出そうと思います」
「……はい」
「……まあわたしはテレサが決めた事なら反対はしないよ」


 クローゼとフィルはテレサ先生の言葉に頷いた。


「エステルさん、ヨシュアさん。申し訳ありませんが調査の方をお願いします」
「分かりました。必ず犯人を見つけて見せます!」


 あたしはテレサ先生に力強く答えた。


「た、大変だよ!クローゼお姉ちゃん!!」


 そこに孤児院の子が慌てた様子で入ってきた。


「マリィちゃん?どうしたの、そんなに慌てて……」
「あのね、あのね!クラムの奴がどこかに行っちゃったのよ!!」
「え……クラム君が?」


 どうやら子供の一人がいなくなってしまったらしい。


「うん、さっきクローゼお姉ちゃんがオジさんたちと一緒に二階に上がった時にクラムもついていったんだけど降りてきた時すっごい怖い顔をしながら「絶対許さない!」って言ってそれから姿が見えなくなっちゃったの」
「それって……まさかその子、ルーアンの不良たちの所に行ったんじゃないかしら」
「うん、さっきギルバートさんが話していたことを聞いてしまったんだろう」
「た、大変じゃない!?」


 今話に聞いた様子じゃ勢い余ってあいつらの所に乗り込みそうだしそうなったら何をされるか分からないわ。


「とにかく急いでルーアンに向かおう。今なら追いつけるかもしれない」
「ええ、急ぎましょう!」
「私も行きます!」


 あたしとヨシュアはクローゼを連れてルーアンに向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


 ルーアンに着いたあたしたちは直にあの不良グループがいる南街区の倉庫区画に向かった。するとそこに白い鳥が降りてきてクローゼの腕に止まった。


「その子は?」
「シロハヤブサのようだけど……」
「この子はジークといって私の友達なんです。どうしたの、ジーク?」
「ピューイ!ピュイピュイ!」
「そう、分かったわ……やっぱりあの子、一番奥の倉庫に向かったようです」
「ええっ!クローゼ、その子の言葉が分かるの!?」
「いえ、言葉は分かりませんが気持ちが伝わるんです」
「正に以心伝心だね。でも今はそれに驚いている場合じゃないね」
「ええ、早く奥の倉庫に向かいましょう!!」


 倉庫区画の一番奥にある倉庫に入ると中には数人の若者がいて彼らに帽子を被った男の子が怒鳴っていた。


「……とぼけるなよ!お前らがやったんだろう!?絶対に許さないからな!!」
「なに言ってんだ、このガキは?」
「コラ、ここはお前みたいなお子ちゃまが来るところじゃねーぞ。とっとと家に帰って母ちゃんのおっぱいでも飲んでな」
「ひゃはは、そいつはいいや」


 若者の中には昨日あたしたちに絡んできた3人組もいて帽子を被った男の子をバカにしていた。


「ううううう……わああああああっ!!!」


 男の子は等々我慢できなくなったのか彼らに体当たりした。


「な、なんだ……?」
「このガキ、なにブチ切れてんだ?」
「母ちゃんがいないからってバカにすんなよ!オイラには先生っていう母ちゃんがいるんだからな!」


 男の子は更に体当たりをしていく。


「その大切な先生や皆が住んでいた家をよくも、よくも、よくもぉ!!」
「チッ……」
「しまいにはフィルまで傷つけやがって!!絶対に許さないぞ!!」
「うぜえんだよ、ガキが!!」


 3人組の一人が男の子を突き飛ばした。


「あうっ……」
「黙って聞いてりゃいい気になりやがって……」
「どうやらちっとばかりお仕置きが必要なみたいだな」
「お尻百たたきといきますか?ひゃーはっはっは!」


 これ以上は不味いわね。あたしたちは倉庫の中に入った。


「あんたたち、やめなさい!」
「お、お前たちは……」
「ク、クローゼ……姉ちゃん?」
「子供相手に遊び半分で暴力を振るうなんて……最低です!恥ずかしくないんですか?」
「な、なんだとー!?」


 クローゼってばすっごく怒ってるじゃない。あんなに怒りを露わにするなんて思わなかったわ。


「ようよう、お嬢ちゃん。ちょっとばかり可愛いからって舐めた口利き過ぎじゃねえの?」
「いくら遊撃士がいたところでこの数相手に勝てると思うのか?」
「クローゼ、下がってて!」
「僕たちが時間を稼ぐよ。その隙にあの子を助けてあげて」


 あたしとヨシュアはクローゼを下がらせようとしたがクローゼは首を横に振った。


「いいえ、私にも戦わせてください」
「へ……?」
「本当は使いたくありませんでしたけど……」


 クローゼは懐から細い剣を出して構えた。


「剣は人を守るために振るうように教わってきました。今がその時です」
「ええっ!?」
「護身用のレイピア?」


 クローゼはレイヴンの連中に振り返るとレイピアを突き付けた。


「その子を放してください。さもなくば実力行使させていただきます!」
「か、かっこいい……」
「可憐だ……」


 クローゼの姿にレイブンの下っ端が見惚れていた。


「可憐だ、じゃねえだろ!」
「こんなアマっ子にまで舐められてたまるかってんだ!」
「俺たち『レイヴン』の恐ろしさを思いしらせてやるぞ!」


 レイヴンの連中は武器を構えて襲い掛かってきた。


「……いきます!!」




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



「こ、こいつら化け物か……」
「遊撃士どもはともかくこっちの娘もタダ者じゃねえ……」


 ふう、結構やるとは思ったけど所詮はチンピラね。魔獣と比べたら大したことないわ。


「す、すごいや姉ちゃん!」
「本当にクローゼったら凄いじゃない!」
「その剣、名のある人に習ったみたいだね」
「いえ、まだまだ未熟です」


 いやあれで未熟だなんてリート君みたいに謙虚ね。クローゼはレイピアをしまってレイヴンに近づく。


「これ以上の戦いは無意味だと思います。お願いします、どうかその子を放してください」
「こ、このアマ……」
「ここまでコケにされてはいそうですかって渡せるか!」


 う~ん、往生際の悪い奴らね。



「……そこまでにしとけや」


 背後から誰かが声をかけてきた。振り返るとそこには……


「ア、アガット!?」


 重剣のアガットが立っていた。何でこんな所にいるの?


「やれやれ、てめえら。またつまんねえ事で喧嘩してんのか?」
「あ、あんたはアガットの兄貴!?」
「き、来てたんすか……」


 あ、兄貴!?どういうことなの?


「アガット、兄貴ってどういうことなの?こいつらの知り合いなの?」


 あたしはアガットにそう質問したがアガットはそれを無視して赤髪の男に話しかけた。


「……レイス」
「は、はい。なんでしょう?」


 アガットは返事をしたレイスという男を殴り飛ばした。


「ふぎゃっ!?」
「お前ら……何やってんだ?女に絡むは、ガキを殴るは……ちょっとタルみすぎじゃねえか?」
「う、うるせえな!チームを抜けたアンタに今更指図されたく……」


 アガットは文句を言おうとしたロッコという男を壁まで殴り飛ばした。


「うぎゃっ!?」
「ロッコ……なんか言ったか?」
「あ、兄貴!勘弁してくれ!ガキなら解放するからよ!」


 残ったディンが帽子を被った男の子をクローゼに返した。


「クローゼ姉ちゃん!」
「クラム君、良かった……もう大丈夫だからね」
「ふん、最初からそうしときゃいいんだよ」


 アガットはすました顔でそう言いながらこっちに振り返った。


「どこぞのひよっこが放火事件を調査してると聞いたがやっぱりお前らだったか」
「な、何よ。だいたいどうしてあんたがここにいるのよ」
「お前らがあわててこっちに向かっていたのを見かけただけだ。おい、坊主」

 
 アガットはクローゼに抱き着いていた男の子に声をかけた。


「な、なんだよ……?」
「一人で乗り込んで来るとはなかなか気合の入ったガキだ。だが少々無茶をしすぎたようだな。あんまり家族には心配をかけるんじゃねえぞ」
「え……?」
「……クラム」


 そこにテレサ先生とフィルが現れてクラムと呼んだ男の子に近づいていった。


「せ、先生!?それにフィルまでどうしてここに……」
「ん。そっちの赤髪のお兄さんに事情を聴いてここまで来たの」
「クラム。あなたという子は……」
「こ、今回はオイラ謝んないからな!火をつけた犯人を絶対にオイラの手で……」
「クラム!」


 テレサ先生は大きな声でクラムの名前を呼んだ。クラムは怒られるんじゃないかと思ってビクッとしたがテレサ先生はスッと屈むとクラムと目線を合わせた。


「ねえ、クラム。あなたの気持ちはよく分かります。皆で一緒に暮らしたかけがえのない家でしたものね。でもね、あなたが犯人に仕返ししても燃えてしまった家は元には戻らないわ」
「あ……」
「それにあなたにもしもの事があったらどうするの?家は作り直せてもあなたは一人しかいないのよ?私にはそっちのほうが耐えられないわ。あなたたちさえ無事なら先生はそれだけでいいの。だからお願い、危ない事はもうしないで」
「せ、先生……うう、うううううう……うわああぁぁぁぁん!」


 クラムは大きな声で泣き出してテレサ先生に抱き着いた。


「グスッ……こういうのあたし弱いのよね……」
「うん、クラム君が無事で本当に良かったね」
「はい……」


 あたしたちは二人の光景を見てつい感慨深くなっちゃった。


「チッ、これだから女子供は……お前ら、坊主どもを連れてギルドに行ってな。俺はこのバカどもが犯人かどうか締め上げて確かめておくからよ」
「わ、わかったわ……」


 ここはアガットに任せておいた方がいいわね。あたしたちは倉庫を後にしようとしたんだけどアガットが何かを思い出したようにフィルに話しかけた。


「おい、そこの銀髪のチビ。お前、フィルって呼ばれてたよな?」
「……そうだけど何か用?」


 フィルは警戒するようにアガットを見つめた。そういえば人見知りだって言ってたわね。


「……特徴はあってるし名前も一致しているか」
「……特徴?」
「お前、帝国で起きた事件の犯人と遭遇した兄妹の妹のほうじゃないか?」
「ど、どうしてそれを……!?」


 フィルは驚いた様子でアガットを見ていた。帝国ってエレボニア帝国の事よね?そこで起きた事件とフィルが関係してるの?


「カシウスのおっさんから依頼を受けていてな。お前の兄貴が探しているんだとよ」
「リィ……じゃなくてリートが!?」
「ああ、今そいつはロレントにいる。良かったな、家族が見つかってよ」
「そっか……リートはカシウスに、遊撃士協会に保護されてたんだ。そりゃ見つかんないよね……」


 フィルは嬉しそうに微笑むがあたしとヨシュアは驚いていた。


「フィル!あなた、リート君の妹だったの!?」
「エステル、もしかしてリートの事知ってるの?」
「知ってるも何も父さんが保護した子だしあたしたちはロレント出身だから何度も会ってるわ」
「えっ、エステルってカシウスの娘だったの?」
「そういえば苗字は名乗ってなかったわね」


 まさかリート君に妹がいてしかもそれがフィルだったなんて……なんというか奇妙な縁過ぎて言葉が出ないわ。


「やれやれ、ようやく見つかったか。これでおっさんから押し付けられた仕事も大体片付いたな」
「アガットさんはフィルの行方を捜していたんですか?」
「ああ、カシウスおっさんから連絡受けてな。自分の代わりに探してくれと急に言ってくるもんだからたまったもんじゃないぜ」
「父さんが……それにしてもリート君も水臭いわね。妹がいるだなんて言ってくれてたらもっと早くフィルのこと報告できたのに」
「まあまあ、彼の事だから僕たちの旅に余計なものを背負わせたくなかったんじゃないかな?」
「そうだとしてもさ~」


 まあその件についてはまたリート君と話すことにしよう。今はフィルの事を一刻も早くリート君に伝えないといけないしね。


「フィル、早速ジャンさんの所に行ってあなたが無事だったことをロレントにいるリート君に報告してもらいましょう」
「……うん!」


 フィルは出会ってから一番輝いた笑顔をあたしに見せてくれた。まあこの笑顔が見れたんだから旅に出てよかったって思えるわね。


 あたしたちはギルドに戻り今回の件とフィルの件を伝えるとジャンさんは早速ロレント支部へと連絡をしてくれて取りあえずは今回の騒動は幕を閉じた。まあまだ犯人は見つかってないんだけどね……

 
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