名探偵と料理人
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番外編4(前編) 金田一少年の事件簿:怪盗紳士の殺人
前書き
こちらのお話は番外編第4弾です。金田一少年の事件簿の事件です。
「ありがとうございました」
最寄りの駅からタクシーで二時間半。俺はやっと目的地である蒲生剛三氏の屋敷に到着した……帰りはもう、走ったほうがいいな。タクシーだと三万もかかるし、時間もこんなにかかるとは思わなかった。
「にしても、なんか……立派な家なんだが」
違和感があるな。仕事柄、あと知り合いに屈指の富豪のお嬢様が二人もいるからか豪勢なお屋敷は見慣れている。それらに比べるとこのお屋敷はなんとなく変な感じがするな。なんだろう。庭は丁寧に刈り込んであるし、所々にある彫像も今まで見た物と比べておかしいところはない。気のせいかな?
「緋勇龍斗様でいらっしゃいますね?お待ちしておりました」
「あ、はい。初めまして。この度は急な要望にもかかわらず、訪問をお許しいただきありがとうございます」
「いえいえそんな。私はこの家で執事をやっている小宮山と申します」
「本来訪問するはずだった画商の方が来られなくなったにも関わらず、私の単独での訪問を許可いただけたのですから感謝してます」
「ははは。緋勇様はお若いのに礼儀正しい。その言葉は我がご主人様へと直接お伝えください。ご主人様も楽しみにしていらしてましたよ。それでは屋敷にご案内します」
「よろしくお願いします」
小宮山さんに案内されて屋敷の方へ進みだした。歩きながら俺は小宮山さんに問いかけた。
「綺麗な前庭ですね。ここの前庭のデザインや所々あるオブジェは館の主人…蒲生剛三氏が?」
「はい。全てご主人様の指示にございます。絵のモチーフにしているものもいくつか御座いますよ」
「へえ……そう言えば私が同行するはずだった画商さんは新作の買い付けの交渉だったそうなのですが、今日はそのおまけの私1人で来てしまったので何か私が出来る事を余興に行いたいと思ってます。何かありませんか?」
「それはありがたい!世界に名だたる料理界の若き新星にそう言ってもらえるとはご主人様もお喜びになるでしょう!!最近は気の滅入ることばかりあったので緋勇様には料理を振る舞っていただけませんか?良い気分転換になりましょう」
「気が滅入る?何かあったんですか?」
「…あちらをご覧ください」
「あの木は……」
小宮山さんの指を刺した方向には葉が一枚もない黒ずんだ大木は佇んでいた。俺はその気に近づき、幹の様子を伺った。
「燃やされてますね……この臭いは松脂、テレピン油を引火剤に使われたのかな?このかすれ具合からして先週あたりにこうなったって所ですか」
「…!!なぜそれを。確かに燃やされたものは先週で使われたのはアトリエにあったテレピン油です。ですがそれが分かったのは樹の近くに空の溶剤瓶があったからなのに……」
「あ……いえね、実は人より五感が過敏でして。これくらい特徴的な匂いなら分かるんですよ」
「はあ、左様で……?」
俺と同じように樹に近づき、鼻を寄せてくんくんと嗅ぐ小宮山さん。
「うーん。私にはさっぱりです。やっぱり一角の人は五感をとっても凡人と比べて違う物なのですね」
「鍛えれば、誰でもいけますって。それで、この樹が燃やされたことに何か付随して気が滅入るような事でも?脅されているとか」
「ご慧眼恐れ入ります。実は先週、ご主人様がこの樹をモチーフにした絵画が一枚、とある泥棒に盗まれまして」
泥棒……
「その泥棒というのは捕まったんですか?」
「いいえ。そいつは「怪盗紳士」という泥棒でございまして、盗みを働く前に予告状を出しさらにはその絵になったモチーフも奪うと言うふざけた犯罪者なのです…」
「じゃあ、その樹が燃やされたのはそういう経緯があったというわけですか…」
怪盗キッドもまあふざけた奴だがただの破壊活動はしないからな。手段として変電所壊したりしてるけど。かなり乱暴な奴みたいだな、怪盗紳士って。確か絵画専門の泥棒なんだっけか。
「実はさらに立て続けに予告状が届いているのです。そのため警察の方も詰めていると言う次第でして」
「それは……ご心労お察しします。今日はよろしければ私が何か心休まるような一品お作りしましょうか?蒲生氏のご家族や好みを教えて頂ければそれに合わせて何か考えますが…」
「おお!それは有り難い!ですが今日はささやかながらパーティがありますので、そこはご主人様とご相談して頂ければ」
「…パーティ?」
「ええ。その新作「我が愛する娘の肖像」のお披露目パーティです。参加者はご主人様の知人やご友人などのごく少人数で行う物なのですが」
「へえ」
それはある意味職業柄得意分野だな。
「わかりました。それでは行きましょうか」
「ええ、こちらです」
――
小宮山さんに案内されて館の主である蒲生剛三氏と歓談した。その際に紹介されたのが女医である海津里美さん。彼の健康面のサポートを行っているそうだ。明言はされなかったがわざわざこんな山奥に通って、この場で紹介されるような間柄なのだから恐らくは恋人同士なのだろう。
挨拶もそこそこに、俺はその新作とやらを見せてもらう事となった。案内された部屋には誰もいなかった。そしてお目当ての絵は壁の高い所にかかっていた。
「へえ……とてもきれいな女性ですね。今にも絵から抜け出しそうな存在感があって、それでいて今すぐにでも消えてしまいそうな儚さが同居しているような…すみません、芸術には疎くてこれを言い表せる語彙が見つかりません」
「はっはっは。いやいや!かの世界で活躍する君にそこまで言ってもらえるなんて光栄だ!これは私の生涯の最高傑作といっても過言ではない作品のなのさ!!」
俺の言葉に気をよくしたのかがはがはと大きく口をあけて笑う蒲生氏。だが、なんだ?芸術家ってそんな軽々しく最高傑作なんて自分で言う物か?まだ五十代。枯れるには早すぎる気がするんだが。ちょっと違和感を感じるな。それに俺を見る目。褒めているようで褒めてないぞこの人。
作品の話を一通り聞いた後、何かを作ってもよいかと聞いてみた所、今日の新作のお披露目のパーティに俺も一品作ることになった。
来客は俺を抜いてあと6人来るそうなので俺と蒲生氏と海津さん、そして今美容室に行っている娘さんを入れて10人になるそうだ。東京の警視庁の人も来るらしいけどその人は青森県警の警官と一緒に怪盗紳士を警戒するのでいらないとのこと……警視庁で怪盗?中森警部かな?
「娘というと……あの絵の?」
「ああ!君も遭えば驚くと思うぞ。今回のパーティは彼女の紹介の方が強いのだがね!!」
あと、俺が来ることは他の客にも知らせていないのでパーティの中盤で俺の事を紹介したいと言う。それまでは厨房で待機してくれないかと。
「はあ……別にかまいませんが」
「いやいや!あの勇名轟く緋勇龍斗の料理が出ていれば紹介する必要もなく皆に君の存在は知れ渡ってしまうだろうけどな!まあ君の実力が本物であればサプライズにならんだろうが頑張ってくれたまえよ!」
厨房の場所は小宮山に聞け、そう言い残して部屋を後にした蒲生氏。
にしても、あのおっさん。さっきの言葉で確信したけど俺の事かなり胡散臭く思っているな。と、いうか嫉妬?嫌悪?まあ押しかけたのは俺だし?邪険にするのは分かるが馬鹿にされて黙っているほど俺は大人しくないぞ?よーし……
「小宮山さーん。ちょっとお願いがあるんですけど……」
「……何故だ!?同じものを使っているのになぜこんなにも違いが?!」
そんな声が、蒲生邸の厨房で鳴り響いだ。
――
「しっかし、おでれえたな!あの和泉さくらがこんなになっちゃうなんてな!」
「でもあたしぜーんぜん知らなかったわ!さくらさんがあの有名な蒲生画伯の娘さんなんて」
「私の方こそびっくりよ!一月前に転校して出て行った東京の同級生と青森のこんな山奥で再会するなんてね!」
オレと美雪は蒲生剛三氏の新作「我が愛する娘の肖像」のお披露目パーティに参加している。一緒に来ていた剣持のおっさんは警備に参加するってことでここにはいない。しかしもったいないよなー、こんな豪勢な料理が食べられないなんて。お、ローストビーフ♪
「もぉ、一ちゃん!お肉ばっかり食べていないでちゃんと野菜も食べなきゃ!!」
「うっせえなー、美雪。うちじゃあスーパーの安売り肉くれえしか食えねえんだしこういう時位味あわせろってえの」
「バランスよく食べなきゃ帰って体に悪いのよ?」
「ふふふ、なんだか七瀬さんお母さんみたいね?」
「いっつもこうなんだぜ?さくら。やれ片付けしろー、早く起きろー、運動しろーってな」
「それは一ちゃんがだらしないからよ!…ってあら?これすごいわね!ねえねえ、一ちゃんさくらさん見てみて!」
「なんだよ、美雪…っておお!こりゃすげえな」
「これって、お庭にある彫刻やお父様が書いた絵のモチーフ?ただの野菜スティックにすごいわね……!」
テーブルの上に透明のグラスに無造作に入れられている色とりどりの野菜スティック。何故か飾りが施されているものと普通の二つがあるのが気になるが…
「な、なあ。これって……」
「え、ええ。これ私だわ」
「す、すごいわね。こんな小さなものなのにさくらさんの表情がはっきり分かる」
他のテーブルを見渡しても同じようなセットが五つほどあった。触ってみると瑞々しい感触が帰ってきた。これってどんだけの人数で用意したんだよ…!?
「と、とりあえず触っちまったし食べるか」
「わ、私は普通のでいいわ。なんかさくらさんを食べるのは」
「わ、私も」
なんでい、結局飾りの方を食うのはオレだけかよ。そんじゃまあ頂きマース…!?……!!………!?!?
「うっうっうう…」
「ど、どうしたの、一ちゃん!?」
「き、金田一君!?」
体を丸め、震えるオレに声をかけてくる2人。うめくオレに周りで歓談していた大人たちも異変に気付いて近づいてきた。
「お、おいどうした?」
「い、いやわからないです!この野菜スティックを食べてから…」
「うますぎるううううぅぅぅぅううううううう!!!!!!!」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
「なんだこれなんだこれ!たった一本の野菜なのにこの充実感!天草で食ったあれよりうめえ!!」
「ちょ、ちょっと一ちゃん?泣いてるの?」
俺は知らず知らず泣いていたらしい。
「ったく。騒がしいガキだ。ただの野菜だろう?」
「あ、あんたも食ってみりゃあ分かるさ」
「ふん…なんだ、普通の野菜スティックじゃないか。ばかばかしい」
そう言ってオレを見下してくる…こいつは確か和久田とか言ったか?
「違う、そっちじゃねえよ」
オレはもう一つのカップに入った飾りのついた方を指さした。そのまま二本目を頂く。
「…!へ、へえ。ずいぶんと洒落たものじゃないか。でもこれがなんだって……」
「…春彦?」
さくらのお父さんである剛三さんが和久田さんに何があったか聞いているが彼は答えず、一本目を食べるとそのまま黙って二本目へと手を伸ばした。
その様子に他の参加者も野菜スティックへと手を伸ばし……テーブルの上にあった50本近くの飾りが施された野菜スティックは瞬く間に消えてしまった。
「…しっかし、なんであんなに味に差があったんだ?何もついてない方は普通のだったよな?」
「ええ。あたしが最初に食べたのは普通だったわ」
「私もよ。お父様が用意したシェフを呼んで聞いていたみたいだけど……」
狂ったように皆で競うように食べた後、我に返ったオレ達は元のグループに分かれて歓談に興じていた。だが、微かに聞こえてくる話の内容はさくらのお父さんの絵の話とさっきの野菜スティックの話と半々みたいだな。
にしても…
「すっげえ顔してたな、さくらのお父さん」
「いつもお世話になっているシェフさんなんだけど…」
「何を耳打ちされたのかしらね……」
お?さくらのお父さんが何か言うみたいだな。
「み、皆さん。パーティを楽しんでいただけてますかな?私もこのめでたい場を皆に祝って貰えてとても嬉しい。そこで私も皆にサプライズを用意していた。先ほどの料理、料理か?…料理がそれだ」
??何でそんなに苦虫をかみつぶしたような顔で言うんだ?
「用意したものは普通の物だ。ウチのお抱えのシェフ曰く「技量の差」だそうだが。まあ、あれを作った人を皆に紹介したいと思う」
ん?さっきのシェフさんが戻ってきたな。後ろについてきてい…るの……は。
「「あーーーーーーーー!?」」
パーティ会場にオレと美雪の声が響き渡った。
――
「「あーーーーーーーー!」」
うわお。なんでここにいるんだ、一に七瀬さん…
俺は来てもいいとこの館の料理長に連れられてパーティ会場に来ていた。料理長の手にはなぜか人参二本と彼の包丁。俺も持ってくるように言われたが。声を上げた二人を無視して剛三氏は話を続けた。
「ご紹介しよう!彼が四年前、13歳という若さで全世界のパティシエの頂点に立った緋勇龍斗君だ!今日は来れなかったもう一人の画商の付添で来てもらったのだが、皆も味わった通り、唯の野菜であれだけのものを作ってくれたのだ!!そこで…」
そこで?
「もう一度、その腕を見せてくれないか?」
そう言った剛三氏の顔を俺は直観した。ああ、この人は俺の事を嫌いなんだな、と。全く、あんなすばらしい作品を書いた人間と同一人物だとは到底思えん。
まあ、小宮山さんに余興をすると言ったので丁度いいか。
「おっとその前に…」
料理長が俺に渡そうとした人参をインターセプトした剛三氏。何をするかと思えば……そのまま人参をかじった。その人参自体の味は普通のと変わらないことを確認したかったのかね。そこまですかぁ……
「さあ、どうぞ!」
いや、どうぞって。はあ。
俺はそれを受け取り、かじり取られた欠損部分を上手くいかせる…ふむ、東都タワーでも作るかね。
俺はトリコ世界の包丁を手に持ち、渡された人参に刃を入れる。人参の持つポテンシャル以上の美味しさを引き出し、無駄なく、それでいてスピーディに。
俺が東都タワーを完成させたのは刃を初めて入れてから10秒足らずだった。
「…どうぞ?剛三氏。料理長も俺の包丁で切ってみてくださいな」
「!!」
もうこうなったら徹底的に反論を潰してやるよ。誰に何かを誤魔化す事は出来るだろうけど、自分は誤魔化せないだろう?
――
結局、剛三氏は受け取った俺と料理長の人参を食べて、そのまま部屋に戻ってしまった。
「よお、龍斗!やっぱオメエすげえんだな。切っただけなのにあんなに違いが出るもんだな」
「ありがと、一。にしてもまーたお互い住処とは離れた所で出会ったな」
「あー、確かに。妙な所で会うもんだなー」
「え、えっと。金田一君。緋勇さんとお知り合いなの?」
「え?ああ、コイツとは妙に旅行先というか出かけ先で会うんだよ。2人とも東京に住んでいるのにな!」
「だねえ。この場にいるってことは君が剛三氏のご息女かな?」
「あ、はい。和泉さくら……蒲生さくらと言います」
「さくらさんは一か月前まであたしたちと同じ不動高校に通ってたのよ。しかもあたしたちの同級生!」
「おー。ってことは一たちともここで再会した感じかい?あと、同い年なんだし砕けた感じでいいよ」
「分かったわ。それと再会については実はそうなのよ。私が呼んだわけじゃないのにお披露目の時に入った部屋に見知った顔があって吃驚したわ。でも、二人はすぐには気付いてくれなかったみたいだけど?」
そう言って二人に意味深な目線をやるさくらさん。
「いやあ、だってなあ?美雪」
「そ、そうよね。一ちゃん」
「?なになに、どうしたのさ2人とも」
なんと、東京にいた頃のさくらさんは眼鏡におさげと今の姿からかけ離れた姿だったと言うのだ。だが、彼女はあの絵があったからこそさくらさんが娘であることがわかったと言う…なんで、今の姿と違うときなのに分かったんだろうか?
一との旧交を温めていると、招待客がさくらさんに絡み始めた。画家仲間の吉良勘治郎さん。剛三氏の甥の和久田晴彦さん。吉良さんはかなりの酒を召しているようでかなりの赤ら顔だった。彼はさくらさんと剛三氏の関係は剛三氏が言っているだけだと否定的だ。まあそれなら遺伝子鑑定にでも出せって話なんだが。和久田さんはさくらさんを財産狙いの女とねめつけてきた。てか、自分の半分の子にいやらしい目線をやるおっさんて。
小宮山さんが偶然を装って和久田さんのスーツにカクテルをかけて彼を追い出したことでイヤミは中断された。やるね執事さん。
このやりとりをみていた海津さんが剛三氏の娘という立場がみんな羨ましいのだから気にしないでとさくらさんを慰めていた。
「敵ばっかりってわけじゃなさそうね、一ちゃん」
「そうだな」
俺もそう思う。
「そうだ!三人とももう庭は見た?ここのお庭とても素敵なの!案内するわ」
「俺は来て挨拶してからずーっと厨房にいたから見てないな」
「あたしたちも見ていないわ」
さくらさんに案内された庭は小さな滝に大理石のアーチ、川と日本にいることを忘れてしまいそうな見事な庭園だった。
「すごーい!まるで庭の中が一つの世界みたい!」
「全部完成するまでに二年かかったってお父様が言っていたわ!とにかく広いのよココのお庭!」
庭を眺めていると、遠くからこちらに駆け寄ってくる小さな生き物…あれは子犬か。が寄ってきた。さくらさんはその子犬を抱き上げて俺達に紹介してくれた。
「かわいい~これ、さくらさんの?」
「ええ、裏山で迷子になっていたのを私が拾ってきたの。名前はポアロ!」
女の子たちは子犬と戯れながら笑顔になっていた。
「さくらのやつさ。学校じゃ暗かったんだ。いつも一人で本を読んでたりさ」
「そうなのかい?今は笑顔…だよ?」
「ああ、でも…」
「何か気になることでも?」
「いや、なんでもねえ」
なんだろうな?一とさくらさん、学校で何かあったのかな?
「あら、さくらさん。川の向こうにあるのは?」
「ああ、あれはラベンダー荘。お父様のアトリエよ!」
「アトリエ?」
「見てみたい?お父様のアトリエ!」
「え?」
「わあ、あたし見てみたい!」
七瀬さんの勢いのまま、俺達はラベンダー荘に向かう事になった。どうやら、ラベンダー荘には道が遠回りに作られているらしく徒歩だと10分ほどかかるそうで特注のリムジンを小宮山さんに運転して貰ってむかう事になった。
「どっしぇー。テレビに電話に冷蔵庫!ワインクーラーまで完備なんて。よくもまあここまで。座席もフカフカだ」
「ほんと。このシート毛皮じゃない?」
「んー。確かにこれは合成革じゃないね」
「え?」
「ご主人様は大の乗り物嫌いでして、乗ったことがあるのが車と電車が数えるほどだそうです。しかも長距離はこの贅を凝らした特大特注リムジン以外は無理という次第でして。それにしても緋勇様は良くお分かりになられましたね。確かに天然ものの毛皮を使用していますが」
「まあ、上から数えた方が早い大富豪のしりあいがいますからね…うん?」
ラベンダーの香り?
「そうなのですか。やはり緋勇様は仕事柄そう言った方々とご交流があるんですね」
「うへー。龍斗ってやっぱふつーじゃねえのな」
「あ!そう言えば勢いできちゃったけど勝手にアトリエに行っても大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。今から行くアトリエですが以前は勝手に入られることを固く禁止されていましたが新しい絵を描かなくなってからギャラリーとして画商を招いていらっしゃいます」
んん?新しい絵を描かない?吉良さんみたいになんか事情があるのか?でもあの自己顕示欲が高そうな男がそんなことになるものか?
「ウゥゥゥ…」
「どうしたの、ポアロ?」
「ラベンダーの匂いが嫌いなんじゃないか?」
「へ?」
小宮山さんが車を止め、さくらさんがドアを開けるとポアロは一目散に館の方へと戻って行った。
「ラベンダー荘に来るといつもああなのよ。もしかしたら緋勇君の言う通り、ラベンダーの香りが嫌いなのかしら…って、私ラベンダーのこと言ってないわよね?」
「さっき車が外気を取り込んだ時にかおってきたからね。そのあとすぐにポアロが唸りだしたからそうかなって」
「え?」
「ちょ、ちょっと緋勇君。それってポアロより先にラベンダーの匂いに気付いたってこと?!」
驚愕の目を向けてくる一を抜いた三人。
「あー。そういえばそうだった。こいつはとんでもびっくり人間だった」
「失敬な。人って言うのは鍛えれば鍛えた分だけ鋭くなっていくものさ」
「さ、左様でございますか。そ、それではどうぞ、こちらにございます」
流石は歴戦の執事。気を取り直して案内を続けてくれた。ラベンダー荘に近づくにつれ、ラベンダー畑が見えてきた。どうやら剛三氏が好きで植えているらしい。これは、小さな富良野のようだな。
「ほら、一ちゃん。こうやってラベンダーの花を潰すと良い匂いがするのよ」
「…!!ほんとだ」
「この香りにはリラックス効果があるのよ。ポプリや香水なんかに使ったりするのよ」
「…そうね。私もここにはよく来るのよ……」
ちょっと物憂げにそう呟いたさくらさん。一たちには聞こえなかったようだ。小宮山さんがラベンダー畑の間にある小道を進み、ラベンダー荘の玄関に歩哨に立っている警察に人に挨拶していた。
「ご苦労様です」
その言葉に敬礼で返す警官。どうやら、怪盗紳士の侵入を警戒しているようだ。そう言えば館の周りにもいつの間にか警察が配備されてたな。スーツ着ていたのが警視庁から来た人かな。
「な!」
「「きゃあああ!」」
「これは…」
「ななにがおこったんですか!?」
ラベンダー荘に足を踏み入れた俺達が目にしたのは、土の足跡残る床と開きっぱなしの窓。そして……
「お、お父様の自画像が無くなっているわ!!」
何かが掛けてあったのが分かる、空白の壁面だった。
後書き
ちょいちょい事件が起きる場所で登場する、金田一一と同学年の男のキャラクター。原作で言うと千家だったり井坂だったり……あっれ?これ「金田一少年の事件簿」の原作に当てはめるとだと龍斗が犯人になるエピソードがあるじゃ……
蒲生剛三の性格は、自分にない才能を持っている人物に対してとことん陰湿になると設定しています。龍斗は若く、自分より大きな名声を持っているので僻みの対象としています。
蘇生包丁の技術は、トリコ世界の包丁(自己再生機能を持つ生物やそれを促す鉱物が材料が元)のみでしかできません。一に風呂で振る舞ったときは自身の指のみグルメ細胞化して行っていたという語られない設定がありました。
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