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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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"訣別"と"ヒルルクの桜"

 跳躍、飛翔、加速
 その過程を幾度も繰り返すこと数度。

 現在、悪政の王とその兄を大海へと沈め終えたアキトはドラム城へと帰還すべく空中を闊歩していた。

 だがその足取りは決して芳しいものではなく、疲労困憊な様子で能力を行使し続けている。

 冬島特有の凍えるような冷気は軽装な身なりのアキトの肌を突き抜け、徐々にアキトの体を容赦なく蝕んでいった。

 先程までのアキトならば自身の能力によって生成した膜の遮断能力の恩恵で冷気などものともしなかっただろう。

 だが現状アキトはその膜を創り出す体力さえ残っていなかった。
 空中を闊歩すべく引力と斥力の力を同時に足下に発生させることで一時的に発生させる擬似的な足場を創り出すのも手一杯な状況なのだ。
 気を抜いてしまえば即座に眼下のドラム王国の大地へと落ちていきそうである。

 見誤っていたと言わざるを得ない。
 ムッシュールの胞子爆弾(フェイタルボム)を確実に処理するためにあの力を行使したとはいえ、予想以上にその負担が大きかった。

 今の自分は呼吸を激しく乱し、スタミナも先程使用した技に軒並み奪い尽くされた状態だ。
 身体は震え、動かす身体の節々はまるで自分の体ではないように重い。
 このままでは今直ぐにでも能力の調整を誤ってしまいそうである。

 これまでも修行を行う傍らあの引力の塊である球体を幾度も生成したことはあった。
 だが一度に二個も創り出したことなどなかったのだ。

 ジカジカの実の能力の本質は磁界の操作
 そして能力の本質は自分の体を中心に磁界という空間を一時的に定義することで引力と斥力を発生させることだ。

 このことからも分かるようにワポルとムッシュールの2人に使用した先程の力はジカジカの実の能力の本来の使い方ではない。

 自身の身体を中心に引力と斥力を発生させるのではなく自身の体外へとジカジカの実の力を放出し、遠隔操作することでその強大な力を行使するこの力は予想以上に膨大な体力と気力を必要とされたようだ。

 こればかりはどうしようもない。
 いつか克服するしかないだろう。

 朦朧とした意識の中アキトは跳躍、飛翔、加速を変わらず繰り返す。
 今にも力尽きそうだが足を止めるわけにはいかない。
 アキトは自分の身体に鞭を打ち、空中を闊歩していった。

 やがてドラム王国に天高くそびえ立つドラムロッキーが見え始める。

 見れば山頂にはルフィを含めたアキトの仲間達全員が揃っていた。
 城の主であるDr.くれはとチョッパーも城外へと姿を現し、どこか思案気な様子でドルトンさんと言葉を交わしている。

 何故かチョッパーがルフィとサンジの2人に追いかけられていたが。

 眼下にはビビを中心にしてウソップとゾロの3人が此方に気付き、手を振っていた。
 無論、ゾロは無愛想に此方を見据えているだけであるが。

 だがそんな穏やかな光景も長くは続かない。



 次の瞬間、アキトの身に不幸が降りかかったからだ。

 恐らくゾロ達の姿を見たことで無意識に気が抜けてしまったのだろう。

 残り僅かであった体力が遂に底を尽き、アキトは能力を強制的に解除されてしまう。
 もはやアキトに宙を制する力はなく、その身を為す術もなく空中へと放り出されてしまった。

 途端、感じる晴れ晴れとしたまでの開放感と浮遊感

 その時のアキトは珍しく間抜けな顔をしていたという。
 見れば眼下のゾロ達は目を大きく見開き、此方を驚いた様子で見ている。

 しかし、今のアキトに抗う術などあるはずもなく、重力に逆らうことなく眼下へと一直線に落ちていった。

 ゾロ達の元へと……







▽▲▽▲







「「「……」」」

 三者三様に口を閉ざすルフィとサンジとチョッパーの2人と1匹。

 初対面であるはずのルフィとサンジの2人に凝視されたチョッパーは思わず後退せざるを得ない。

 所謂自分の野生の本能とも呼ぶべきものが己の身に迫り来る危険を知らせているのだ。
 先程からは警鐘が絶えず鳴り響いている。

 彼らからは友好的な関係を築こうとする意思が全く感じられない。
 そう、奴らのあの目は捕食者のそれだ。

 自分を食料としか見ていない。

 今にも自分を捕獲し、食材にしようとその眼を爛々とぎらつかせているのだ。

 一歩、また一歩とルフィとサンジが進むごとにチョッパーは同じ歩数分だけ後退する。


 ルフィとサンジが一歩、また一歩と全身し…

 対するチョッパーは一歩、また一歩と後退し…

 彼らは対峙した。

「に…」

 麦わら帽子を被った男、ルフィが口を動かす。
 何を言おうとしているのだろうか。
 
に……?

何だ?


「待てーーー!肉ーーー!!」
「待ちやがれ、トナカイ料理っ!!」
「うおおぉおおおーーーっ!?」

 逃げる、逃げる。

 足を動かす。

 必死に自分の足を動かす。

 後ろを振り返ることなくチョッパーは死に物狂いで捕食者達から逃げるべく前方へと駆け出す。

 捕まれば一巻の終わりだ。


 恐怖しか存在しない

 前だけを見ろ

 進め、己の命がある限り

 決して立ち止まるな

 退けば喰われるぞ、臆せば死ぬぞ!


 奴らは本気で自分を食料にするつもりだ。
 無限追跡ごっこの始まりである。



 一方、ゾロとウソップ、ビビの3人はルフィとサンジの奇行を無視し、上空を見上げていた。

「なあ、アキトって確か空を跳べたはずだよな」
「ああ、そのはずだ」

 素朴な疑問をウソップへと投げかけるゾロ。

「……アキトの奴落ちてきてないか?」
「ああ、確かに落ちてきてるな」
「だよな」
「「……」」

 何度見返しても現在落下中の人物はアキト本人に他ならなかった。

 というか現在進行形で此方へ物凄い速度で落下してきている。
 そう、自分達の元へと。

「「ぎゃああああっ!?」」

 周囲に響き渡るゾロとウソップの悲鳴。
 ビビはオロオロすることしかできない。
 
 ゾロとウソップの2人は無防備にも空から落ちてきたアキトと直撃する羽目になった。

「何しやがる、アキト!?」
「アキトが雪の中に生き埋めにーっ!?」
「アキトさん、大丈夫ですかっ!?」

 辺りには雪が散乱し、小規模なクレーターが出来上がる。

 前方には件の人物であるアキトが埋まっていた。
 
 頭から思いっ切り雪の中へと。
 そう、見事なまでの埋もれ具合だ。
 下半身のみを外に剥き出しの状態で生き埋めの状態で埋まっているのである。

 雪の中から辛うじて露出しているアキトの左手は力なく、ぐったりとしている。
 此方にはまるで助けを求めているかのように手はピクピクと動いていた。

 一体何があった。

「って大丈夫かよ、アキト!?」

 その場の誰よりもウソップが再起動を果たし、アキトの救出へと取り掛かる。
 ウソップはアキトの両足を掴むことでアキトを雪の中から引っ張り出すことに成功する。

 当人のアキトが雪の中からその姿を現す。
 服は雪だらけであり、顔は最早本人と判別できないほどの量の雪で覆われてていた。

 そんなアキトの顔をビビがせっせと払い落とす。
 何と気遣いのできる素晴らしい王女様であろうか。
 
 そんな彼女の思いやりの深さにアキトは思わず心を強く打たれてしまう。
 胸のときめきとも言うべく、熱い思いがアキトの心を支配した。

 恋などでは断じてないが。
 純粋な感謝の思いである。

「大丈夫か、アキト?」
「……逆に問おう。無事に見えるか?」

 ゾロの言葉を弱々しげな様子でやんわりと否定するアキト。
 見ればアキトは力なく両手をだらしなく垂らしている。

疲労困憊な状態ですが、何か?

 力を使い果たし、その場から動くこともできない。
 攻撃力と防御力の両者は共にゼロな状態だ。

 今のアキトを表現するならば翼無き鷲である。
 能力を発動する体力もなく、身体は激痛が支配している。
 自ら立ち上がる力も存在せず、脚は正にへし折られたと形容してもいいほどに力が入らない。

 こうしてアキトは2人の手助けを受けながら城内へと足を進めていった。







▽▲▽▲







「かなり無茶したみたいだね、小僧?」

 此処はナミが寝ている寝室とは別の寝室。
 アキトはウソップとビビの2人の助力を経て何とかこの場へと辿り着いた。

「申し訳ないです。少し、無茶をしてしまいまして……」
 
 Dr.くれはの言葉に返す言葉も思い付かないアキト

「外傷はないようだけど体内に蓄積されている疲労は底知れないものがあるね。加えて今のあんたの体の中はボロボロの状態だよ」

 流石にあれだけ強大な力を行使するにはそれ相応の代償を強いられたことをアキトは実感する。
 使い勝手の悪い力にアキトは思わず嘆息する。

 暫くの間、自分は力の半分どころか2割の力も出すことはできないだろう。
 無理して3割。
 仮に3割の力を出せたとしても更なる負担を強いられてしまうことは想像に難くない。 

「へー、アキトの体内は今そんなにボロボロなのか」

 以外とばかりにウソップはアキトの体をツンツンと指先で軽く突く。
 ウソップ本人は本当に軽い気持ちで触っているのだろうが此方は普通に痛い。

「ウソップ、止めろ。地味に痛い」 

止めろ、今の自分にそれはかなり効く。

「ところでワポルとムッシュール達はどうなったのかね、アキト君?」

 ドルトンさんどこか躊躇した様子で此方へとそう尋ねてくる。
 疲労困憊の状態であるアキトに対して尋ねる質問ではないことは分かっているのだろう。

 だが、それ以上にどうしても此度の事件の首謀者であるワポル達の顛末を知っておきたいに違いない。

 まあ、別にドルトンさんの質問を拒否する理由が此方には別に無いため普通に応えさせてもらうが。

「そうですね。ワポルの部下であるピエロのような男とアフロの男の2人組は城外で事切れていることはご存知ですよね?」

 城外ではクレーターの中に仲良く沈んでいる。
 確認したければ城外へ、どうぞ

「ああ、知っているとも」

 どうやら既に確認済みのようだ。
 ドルトンさんが此方に求めているのはワポルとムッシュールの顛末であろう。

「ワポル達はもう二度とこの国へ足を踏み入れることはありません」

 アキトは敢えてドルトンさんの質問に抽象的に答える。
 わざわざ今回の事件に負い目を感じている彼に自分が奴らを殺したことを直接伝えることはないだろう。

 素直に自分がワポルとムッシュールの2人を始末したと言ってしまえばドルトンさんは更に深く負い目を感じてしまうだろうから。

「ほ…星?つまりアキトはそのワポルとムッシュールって奴らを遥か遠くまで吹き飛ばしたってことか?」

 困惑気味に此方へとその真偽をウソップは尋ねてくる
 どうやらウソップはそう婉曲的に解釈したらしい。

 見ればドルトンさんやゾロ、ビビの3人は自分がワポルとムッシュールを殺したことを理解しているようだ。

 ドルトンさんはやはり部外者である自分にワポルとムッシュールを殺めさせてしまったことを負い目に感じてしまっていることが彼の様子から伺える。

 余り深く考え込まないで欲しいというのが此方の見解なのだが。
 別に自分は奴らを殺したことに特別負い目を感じているわけでもない。

 だが殺人は殺人だ。
 例え相手が悪人であろうとも人を殺してもいい理由にはならないことは知っている。

 だがそれでも自分は奴らを許せなかった。
 誰かが奴らを裁かなければいずれ奴らは再び周囲に害悪を巻き散らすだろう。

 ならば今此処で自分が奴らを潰す。
 そこに後悔などない。
 また自分のことを英雄などと誇るつもりもはないし、英断などとのたまうつもりもない。

 ドルトンさんはまだ納得がいかない様子だがもう此方からは何も言うことはない。
 あとは彼本人の気持ちの折り合いに任せよう。 

 結果、ドラム王国に迫っていた脅威は無事去ったのだ。
 ドルトンさん達には素直に喜んで欲しい。


あと、ウソップお前はいつまで突いているつもりだ


「これ以上俺の体を触るのならばお前を壁に沈めるぞ、ウソップ」
「ごめんなさい」

 ウソップは素直に謝るしかない。
 それほどまでにアキトの目はマジであった。






 
▽▲▽▲







 出発の準備が整ったルフィ達

 出発の手前、Dr.くれはの頼みでゾロが武器庫へと向かって行ったが何だったのだろうか。
 Dr.くれはは何かをしようとしているのだろうか。

 その何とも言えない気持ちを抱きながらアキトはナミとウソップの助けを得て城外へとその重い足を進める。

 自身の目の前ではルフィがチョッパーを仲間へと勧誘している。
 両者が互いに対面する形で目の前で口論を繰り広げている。

 ナミはこのことを見越してチョッパーを口説いていたのだろうか。

 だがチョッパーはルフィからの熱烈な申し出を拒否

 自分は人でもなく、ましてや動物でもない。
 "バケモノ"なのだと

 感謝はしている。
 だけど一緒に旅には行けないのだと。

 涙を流しながら、地面へと顔を深く俯きながら心からの言葉をチョッパーは吐き出した。

「俺は此処に残るけど、いつか気が向いたらこの国へと来て欲しい。だから仲間に誘ってくれてありがとう……」



 

「うるせェ!!いこう!!!」





 しかし、ルフィはそんなチョッパーの葛藤や戸惑いの声の全てを容易にぶち破る。

 そんなことは関係ない。
 チョッパーの心の底に眠る心からの願いをチョッパー本人の口から吐き出させようとルフィは簡潔に大声を上げた。

 今此処でチョッパーの心の中の天秤は傾いたのだ。

 自分に素直になったチョッパーはその後瞬く間に出発の準備を始めた。
 そりを力強く引き、時間が惜しいとばかりにルフィ達をなりふり構わずに押し込む。

 アキトもナミとウソップの2人に背中を押され、頭からそりの中へと突っ込んだ。
 何とも無様な姿である。
 能力の反動が余りにも大きすぎた。
 本格的にこの問題点を改善しなければならないだろう。

 背後を振り返れば包丁を何本も投げ飛ばし、まるでモンスターの様に鬼気迫る表情で此方へと迫るDr.くれはの姿が見えた。
 怒涛の急展開にルフィ達は訳も分からないままチョッパーが引くそりに乗り込み、宙を駆けた。



 その日ドラム王国の国民達は見た。

─ ドラムロッキーの山頂に咲き乱れる満天の桜を ─

─ それはとあるヤブ医者と呼ばれた男が生涯をかけて創り出した努力の結晶 ─

─ それが今此処で()の医者と共に連れ添ったトナカイの旅路を祝うべく空へと打ち上げられた ─

─ 万感の思いが込められ、創り出されたその結晶は今此処にドラム王国全土を震撼させたのだ ─

─ 後のドラム王国ではこの幻想的な現象を"ヒルルクの桜"と語り継がれることになる ─

 ()の医者が心から愛したトナカイであるチョッパーは涙を禁じ得ない。
 ドクターの研究は完成していた。

 30年もの年月をかけて創り出した努力の結晶
 何と幻想的な光景であろうか。

 幻想などではなかった。
 嘘ではなかった。


 ドクター

 ドクトリーヌ……


 チョッパーはドラム王国の上空の幻想的な光景に涙し、遠吠えを上げた。
 こうしてルフィ達に新たな仲間が加わり、船の舵を大きく切る。

 次なる目的地はビビの故郷である『砂の王国・アラバスタ王国』



To be continued... 
 

 
後書き
しゃー!次からアラバスタ王国だ!
長かった…ここまで来るのに本当に長かった……


感想と評価お待ちしております(+o+) 
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