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こそこそ岩

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第一章

               こそこそ岩
 伊神ちなつ、山田紗奈、室生萌南の三人は幼稚園の時から一緒によく遊んでいる。それは中学校に入った今でも同じだ。
 ちなつは三人のリーダー格で背は三人の中で一番高い。少し茶色がかった髪の毛を背中の真ん中まで伸ばしていて前をヘアピンで止めている。大きな目はやや切れ長だ。
 紗奈は三人のうちで一番小柄で黒髪を左右でツインテールにしている、やや切れ長の目は少し気が強い印象を見せている。
 萌南は奇麗な黒髪を後ろでまとめていて幼さの残る初々しい顔立ちをしている。三人共胸は年齢の割に目立っているがそれぞれ衣装は違う。
 ちなつはラフな格好でズボンとシャツ、それにシューズがよく似合っている。紗奈は小学生が着る様なパーカーにフリルの付いたミニスカートにハイソックス、萌南はシックな色合いのセーターにフレアースカートという恰好だ。三人共それぞれの個性が顔立ちだけでなく服装にも出ていた。だが三人共いつも仲がよく学校でも塾でも部活でも一緒だった。
 この時もそれは同じで塾の行きに三人一緒に自分達の家から塾に行く先にある住吉大社のところを歩いていた。三人は今は今シーズンの阪神タイガースの話をしていた。まずはちなつが笑ってこんなことを言った。
「今年藤浪さん復活ね」
「ううん、どうかな」
 萌南はちなつの言葉にどうかという顔で返した。ちなつがセンターで紗奈が右、萌南が左にいて話をしている。
「去年のノーコンがそのままだと」
「それよね」
 紗奈は萌南の言葉に頷いて言った。
「藤浪さんコントロールがね」
「物凄く悪くなったわよね」
「悪いなら悪いでね」 
 紗奈はこう言うのだった。
「もうそれがどうしたってね」
「強気で投げればね」
「いいと思うけれど」
「何か藤浪さん最近ね」
「それが出来てないのよね」
「そうよね」 
 こう二人で話すのだった。
「どうにも」
「そこを何とかしてくれないと」
「前の二年みたいにね」
「どうにもってなるわね」
「何よ、二人共そんなこと言うの?」
 ちなつは紗奈と萌南の話にむっとした顔で言った。
「もっとね、藤浪さんの実力を信じてあげないと」
「私も信じたいわよ」
「私もよ」
 二人はちなつに不安そうに眉を曇らせて応えた。
「けれどね」
「今のコントロールだと」
「オープン戦でも不安あったし」
「あれじゃあペナントもね」
「大丈夫でしょ、自責点自体はなかったし」
 このことを言うちなつだった。
「だからね」
「そう思いたいって言ってるじゃない」
「私達だって藤浪さんに活躍してもらいたいし」
 この想いは同じだというのだ、三人はそうした話をしながら住吉大社の境内、塾に行くには近道なのでそこを歩きながら阪神の話をしていた。
 だがここでだ、ふとだった。
 ちなつはお喋りを止めてそのうえで二人に言った。
「あれっ、何かね」
「何か?」
「何かって?」
「聞こえない?」
 こう言うのだった。
「音がね」
「音って?」
「どんな音が?」
「何かこそこそっていう感じのね」
 ちなつは足を止めて耳を澄ませつつ二人に言った。
「そんな音がするの」
「?そういえば」
「何か聞こえるわ」
 ここで二人も聞いた、その声を。 
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