儚き想い、されど永遠の想い
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81部分:第七話 二人きりでその十一
第七話 二人きりでその十一
「与謝野晶子さんの様に誰もなれるのです」
「私達もでしょうか」
「はい、そうです」
義正は断言した。はっきりとだ。
「その通りです」
「そうですか。私達もまた」
「そうなりますか?」
義正はシューベルトの歌を聴きながら真理に問うた。
「そうなりますか」
「なりたいです」
真理は自然にだ。この答えに行き着いた。
「是非共。夢を現実にしたいです」
「そうしたいですね」
この場合はだ。理想は夢になっていた。
そしてだ。その夢についてだ。真理はまた話した。
「完全な夢はなりませんね」
「現実になります」
「では。是非」
「私もそれを目指します」
義正の言葉は変わらない。決意もだ。
「貴女と共に」
「では。私も」
「それでなのですが。宜しいでしょうか」
義正はあらためて真理に言った。
「私達のことですが」
「私達の」
「これからもこうして御会いしたいのですが」
「このお店でなのでしょうか」
「いえ、他の場所でも」
ここだけではないというのだ。他の場所でもだというのである。
「御互いに望む場所で」
「二人でなのですね」
「そうです。そうしたいのですが」
「それでは」
義正の今の言葉にもだ。頷く真理だった。
そしてだ。こう話して応えたのである。
「私も。二人で」
「色々な場所を行きましょう」
「こういうことを何と言ったでしょうか」
真理はその顔を赤らめさせて義正に尋ねた。
「逢引ではないですか」
「確かデートだったかと」
「デートですか」
「欧州ではそう言っていた筈です」
それだとだ。真理に話した。
「そう記憶しています」
「デートですか。何か」
その単語を聞いてだ。真理は静かに言った。
「不思議な響きの言葉ですね」
「そうですね。洒落ていてそれで」
「甘い感じの。そうした不思議な言葉ですね」
「そう思います。それではですね」
「はい、これからも」
こんなことを話した。その話が終わるとだ。
音楽が終わった。野薔薇がだ。そしてまた次の曲がはじまった。今度の曲は。
野薔薇よりも清らかな調べの曲だった。その曲を聴いてだ。真理は義正に対してだ。その曲に耳をそばだたせながら尋ねた。
「今度の曲は何というのですか?」
「アヴェ=マリアです」
「アヴェ=マリアといいますと」
「聖母マリアは御存知ですね」
キリスト教の聖なる存在の一人である。
「彼女のことは」
「西洋のですね」
「はい、キリスト教の聖者の一人です」
牧村も実際にこう説明する。
「その彼女を讃える歌です」
「そうですか。聖なる人をですね」
真理はソプラノのその清らかな歌を聴きながら述べた。それは聴いているだけでだ。
心だけでなく全てが清らかになりそうだった。その中でだ。
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