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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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番外編~『最強』の悩み~

 
前書き
どうも、胃腸炎でボロクソです。それはさておき、これから暫くは番外編と題しまして、最強の艦娘、木曾のお話です。 

 

 
オレは久しぶりに、一人でいつもの朝練を始めていた。
 
最近は朝も涼しくなってきて、ランニングしやすくなってきた。その内、寒くて仕方なくなってくるんだろうが。
 
オレはいつもより少し遅めのペースで走り始める。まだ少し、レ級にやられた傷が痛い。
 
…………レ級との戦いから、十日が経った。
 
あの時の光景は、瞼の裏側に焼き付いてしまったらしく、何人かはトラウマになってしまっている。羽黒さんなんかは、あれから一度も海の上に立てていない。
 
…………自分で言うのもアレだが、オレがあそこまでボロボロになるとは思わなかった。
 
『魔神木曾』
 
『最強の軽巡洋艦にして最強の艦娘』
 
なんて呼ばれてるオレが、だ。
 
そんなオレが…………何もできなかった。
 
精々、レ級に一発蹴りを入れたぐらいだ。
 
…………夢に見るね。
 
深海棲艦に、あんな化け物じみたのが居るなんて思わなかった。今で戦ってきた中で一番強くても、三人の犠牲が出た位だったのに。
 
全員が生きて帰ってきたのが…………奇跡だ。
 
「そーいや、アイツらは今ごろ佐世保でなにしてんのかなぁ…………。」
 
誰に言うでもなく、朝日が昇ってきている海を見ながらそう呟いた。
 
アイツというのは他でもない。千尋のことだ。
 
世界初の男で艦娘になった奴。まぁ、親父さんが七宮提督でお袋さんが『始祖』の木曾なら、分からなくもないが。
 
アイツのおかげで、オレ達は全員生きて帰ってこれた。
 
でも、納得行かないと言うか、ずっとモヤモヤしたままだ。
 
アイツには、何らかの意思を感じた気がした。今までは『自動修復』なんて見たこと無かったのに、急に出てきた。あの一瞬で、アイツに何か変化があったのだろう。
 
「一体、何を思ったんだよ…………?」
 
いつのまにか、いつものペースで走っていた。
 
 
 
―大会議室―
 

 
 
「―以上、何か質問は?」
 
「提督ー、夜戦はー?」
 
「お前にやらせる夜戦は無ぇ。」
 
いつも通りのやり取りを聞き流しながら、窓の外をボーっと見ていた。
 
今日は一日出撃は無し、と言うか、今日は一日中非番だ。
 
いつもならトレーニング室に一直線だったが、今日はそんな気分じゃない。何をするか考えとかないとな。
 
「それでは、解散。」
 
提督はそう言うと、いつも通り大淀さんを連れて部屋から出ていった。
 
提督はあの日から、少しだけ雰囲気が変わった。と言うか、悩んでるような印象を受けた。
 
まぁ、あれだけ完敗したら、誰でもそうなるか。
 
「…………オレは、まだ強くならなきゃいけねぇのか?」
 
オレは、強くならなきゃとずっと思い続けてきた。
 
親友を亡くしたあの日から。
 
その結果が、『最強』の称号だ。
 
でも、それでもまだ届かない。
 
あの悪魔は、倒せなかった。
 
皆を、守れなかった。
 
あれだけツラい思いをして、友人と言えるような奴も少なくなって、むしろ嫌われるようにもなって。
 
他の艦娘がやってるような趣味とかを全くせずに、ほぼ全ての時間を『強くなること』に掛けてきて。
 
色んな代償を払ってきたのに…………まだ、ダメなのか?
 
…………もう、払うような代償もねぇよ。
 
オレは椅子にもたれ掛かったまま、溜め息をついた。
 
そんな雰囲気のオレに―いや、そもそもオレに話しかけてくるやつなんて、数人位しかいなかった。
 
「よぉ、木曾。今日は一日非番だってな。」
 
「まぁ、まだ傷も癒えてないだろうからね。ゆっくり休んだらいいよ。」
 
「おう、それもそうだぜ?」
 
天龍、時雨、それに摩耶さんだ。
 
ちょっと前までは、ここに千尋と夕立と春雨が居たんだが…………アイツらは佐世保鎮守府に異動だ。少し、寂しくなった。
 
「あぁ、そうさせて貰うさ。」
 
オレはそのまま席を立ち、部屋から出ようとした。
 
何となく、アイツらとも話しにくくなっていた。折角声を掛けてもらってるのに、失礼な話だと軽く笑った。
 
部屋を出る前ににチラリと見たアイツらは、オレを心配してるような顔をしていた。
 
チクリと、何かが刺さった気がした。
 

 
 

 
―屋上―
 
 
 
 
 
オレは何となく、屋上に向かっていた。あそこにはバスケのゴールがあるから、暇潰しにはなると思ったからだ。
 
…………そういえば、あそこで千尋に一本取られたんだっけな。
 

 
『だからどうした。』
 
 
 
『例えば春雨。お前はあれが人間に見えないのか?俺には少し内気な女子高生位にしか見えねぇな。』
 
 
 
『それに、鳳翔さんから聞いたけど、俺のお袋も『始祖』らしいしな。俺も半分は人間じゃねぇ。人のことなんて言えねぇし、言う気もねぇ。』
 
 
 
 
懐かしい話だ。精々半月前位の話なのにな。
 
オレはそんなことを思い出しながら、屋上への階段を昇っていた。すると、屋上からダムダムという音が聞こえてきた。どうやら、先客が居るらしい。
 
オレが屋上への入り口を開けるとそこには、運動しやすそうな格好をしていた皐月がいた。
 
「あれっ。木曾じゃない!どうしたのさこんな時間に!」
 
皐月はオレがやって来たのを見つけるなり、ボール片手にこっちに走ってきた。可愛い奴だ。
 
「あー、今日は非番でな。暇潰しに来てみたんだ。」
 
「へぇー。じゃあさ!久しぶりにボクと一緒にバスケしよ!」
 
…………皐月の眩しい笑顔の前には、誰も逆らうことはできないと思う。無論、今のオレでも、だ。
 
「あぁ。この格好でもいいか?」
 
「全然OKだよ!」
 
オレは本当に久しぶりにバスケットボールを手にした。この表面のぶつぶつとした感触は嫌いじゃない。
 
「そういえば、体の方は大丈夫?」
 
「あぁ。むしろ精神的に来てるところだ。」
 
オレは皐月の質問を軽く流しながらドリブルを始めた。あれ、バスケットボールってこんなに重かったっけ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ふぅん。でもさ!木曾なら絶対次はあのレ級に勝てるよ!」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
チクリ。
 
「っ…………どうして、そう思うんだよ?」
 
オレはゴールの方に体を向けて、皐月から顔をそらした。
 
「だって、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あんなに頑張ってる木曾が、負けるはずないもん!絶対大丈夫だよ!ボクが保証するよ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
皐月は、嫌というほどの眩しい笑顔を浮かべた。
 
―ちげぇんだよ。
 
だったら、こないだは勝てたはずだろ?でも、実際はそうじゃなかった。
 
届かなかったんだよ。
 
オレはボールを両手で持つと、ゴールに向かって投げてみた。
 
ゴールにすら、届かなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
オレは、どうすればいいんだよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………木曾?」
 
皐月の心配そうな声が、やたら遠くに聞こえた。
  
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。いやぁ、自分で書いといてアレですけど、めんどくさい性格してますね。この木曾とかいう娘。それがいいと言われたら、反論する気は皆無ですけど。

それでは、また次回。 
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