儚き想い、されど永遠の想い
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61部分:第六話 幕開けその五
第六話 幕開けその五
「覚えておくことだ」
「覚えていればそれが」
「何時かわかることにつながるからな」
それでだというのである。
「だから覚えておくことだ」
「はい、それでは」
「勇気を持て。何に対しても」
具体的には愛に対してもというのだ。
「そして誰に対してもだ」
「そうした方に対してですね」
「そういうことだ。そして」
「そして?」
「わしに対して勇気を持つ時もあるだろう」
その場合もふと考えてだ。娘に述べるのである。
「その時も恐れるな」
「お父様に対しても」
「勇気を持て。そしてぶつかって来い」
娘を見据えて。そうしての言葉だった。
「いいな、そうするのだ」
「勇気を持ってですか」
「覚えておくことだ、この言葉を」
やはりわかれとは言わなかった。覚えていろというのだ。
「必ずだ。忘れるな」
「覚えていてそして」
「何時かわかるのだ。いいな」
「そうさせてもらいます」
「わしから今話すことはそれだけだ」
これで終わりだというのだ。話はだ。
「それではな。今夜は」
「喜久子さんと麻実子さんにお誘いを受けています」
ここでもだ。二人の友人が話に出た。
「ピアノの演奏会に」
「それにか」
「ショパンとのことです」
その音楽家の曲がだ。演奏されるというのだ。
「それを聴きに行きます」
「なら楽しんでくるといい」
「はい、それではそうさせてもらいます」
「ショパンか。わしはまだ聴いていないな」
「私もです」
「一度聴いてみるか」
そしてだ。こう話したのだった。
「わしも」
「そうされますか」
「うむ、一度な」
笑顔になってだ。娘に話すのである。
「そうしたい」
「では今夜は」
「いや、今夜はいい」
娘の申し出は断った。それはだった。
「今夜はもう予定が入った」
「左様ですか」
「料亭にな。行かねばならん」
そこだというのだ。料亭は幕末から会合によく使われてきた。個室を使えてじっくりと話ができるからだ。幕末の志士達からはじまるのだ。
「だからだ。今宵はだ」
「では。私達だけで」
「友達と一緒に行くといい」
娘に優しい笑顔で話したのだった。
「それもまたよしだ」
「喜久子さんや麻実子さんと一緒に楽しむのも」
「それもまたいいのだ」
また言う父だった。
「友は宝だ」
「それもよく言われますね」
「それはおいおいわかる。友達は大切にするようにな」
「はい、それでは」
こうした話をしてだった。真理もだった。
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