魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第150話「大門の守護者」
前書き
第5章ラスボス戦です。
尤も、RPGものの魔王のように、何戦も重ねますが。
今更ですが、優輝がリヒトとシャルを両方扱う時のスタイルは、基本的にリヒトがグローブ、シャルが武器の役目を担っています。
また、132話で大門の守護者は人に害を齎す程の瘴気を纏っているとある割りに、前回は普通に人が近付きました。これの理由は、守護者自身が内側に抑え込んでいたため、瘴気に気づけなかったからです。ちなみに、例え守護者が手出ししなくとも、近付いた人達は瘴気の影響で衰弱死する運命にありました。
=優輝side=
「っ………!」
駆け付けた時には、既に四神が地面に倒れ伏していた。
既に四神からは霊力が感じられない。……敗北したのだろう。
「警戒は頼むわ」
「了解」
一般人と大門の守護者らしき者の間に降り立ち、守護者と対峙する。
尤も、今は四神が倒れた際の砂塵で見えないけど。
「……!」
大門の守護者も私に気づいたのか、歩みを止める。
そして、砂塵が晴れ、守護者の姿が露わになった。
「「ッ―――!?」」
……その瞬間、息を呑んだ。
私の中の“椿の部分”が、信じられないと悲鳴を上げた。
それは私自身の感情となり……。
「っ、ぁ……ありえない……」
つい、そう声を漏らしていた。
『そんな……!?こんな、こんな事って……!』
リヒトを介して繋げていた通信から、瀬笈さんの声が聞こえる。
彼女も、信じられないのだろう。なぜなら……。
「どうして……とこよ、ちゃん……」
「っ、可能性としては、おかしくないのだけどね……!」
……そう。大門の守護者の正体は、“有城とこよ”。
椿たちの前の主にして、かつて幽世の大門を閉じた陰陽師だった。
「その身を犠牲にして大門を閉じたと言うのなら、そのまま大門の守護者も受け継いでいると考えても、おかしくはない……」
……その陰陽師が、大門の守護者になっているなんて、信じられるだろうか。
少なくとも、帰りを待っていた者達は信じられないだろう。
何せ、葵がかつてない程狼狽えているのだから。
「ッ!葵!!」
「っぁ!?」
ギィイイイイン!!
だけど、そんな動揺から立ち直る時間を、彼女は与えてくれない。
姿が掻き消えるかの如き速度で、間合いを詰めて刀を振るってきた。
咄嗟にシャルに霊力を通して防御。金属音が響き渡る。
「ッ、ッ……!」
「その顔は……懐かしいね」
「っ……!?」
“ギチギチ”と、鍔迫り合いの状態で、彼女にそう言われる。
その顔で、その声で言葉を掛けられ、私の“椿の部分”が動揺する。
ドンッ!
「っぁ―――!」
「優ちゃん!」
その瞬間、シャルが弾かれ、同時に蹴りが叩き込まれた。
蹴り自体は空いていた片手で防いだものの、一気に十メートル以上後退させられる。
「ッ―――!!」
このままでは、彼女の傍に残っている葵が危ない。
そう判断して即座に間合いを詰め、シャルによる刺突を繰り出す。
でも、それは体を逸らす事であっさりと躱される。
キィイイン!
「……!」
「はっ!」
追撃のように、創造魔法で射出した武器が迫る。
それを弾いた所へ、さらにシャルを振るい、何とか剣戟に持って行く。
「『葵はこのまま警戒……ッ、来る!!』」
「っ……!」
音を切り裂くような剣戟を繰り広げる中、そこへ乱入する気配が。
その気配は、近くにいる葵に非常に似通っていて……。
―――……ミツケタ…
「くっ!」
ギィイイン!!
その中身は、酷くドロドロしたものだった。
まるで、泥のような霊力。それが、薔薇姫の姿をしたナニカに詰まっていた。
「『葵、任せるわ!』」
『了解……!』
葵はそのまま、薔薇姫の姿をした妖を相手に、ここから離れていく。
互いに巻き込まれないための配慮だ。
「あの子の相手は、あの子自身にしてもらうよ」
「あの、そっくりな奴の、正体は……!?」
逸らし、防ぎ、反撃する。
互いに、神速の如き剣閃で攻防をしつつ、私は問う。
あれは、確かに中身は違うけど、まごう事なき葵そのものだ。
「答える義理は、ないよ!」
「ッ……!」
強めの一撃を受け流し損ねて、後退する。
その瞬間に彼女は御札をばら撒く。
私はそれを見るや否や回り込むように加速、側面から斬りかかる。
御札自体には、創造した剣を突き刺し、誤発動させておく。
「(中身はともかく、体自体は葵そのもの。つまり、ガワだけ同じで、中身を代用するかのように変えている?)」
器はそのままなのだ。それこそ、葵本人と言える程。
……器、は……?
「(まさか……?)」
忘れがちだが、葵はユニゾンデバイスだ。
一度式姫として死んで、デバイスとしての肉体を得て今を生きている。
霊力や式姫の時の特徴がほぼそのままとはいえ、その体はデバイスだ。
……そう。葵は既に、“式姫として死んだ”のだ。
「あれは、葵の式姫としての体か……!!」
「ご明察だよ」
中身こそ、幽世の門の影響を受けて妖と化している。
だけど、その体は正しく葵のもの。
「(妖と化しているなら、同じ式姫のはずの鞍馬を襲ってもおかしくはない)」
なるほど。これで辻褄が合う。
そして、この事から薔薇姫以外に式姫の偽物はいないのだろう。
「『クロノ、式姫の偽物は葵以外いないみたい。情報伝達は任せるわ』」
『わ、わかった!』
簡潔に伝え、すぐに念話を止める。
その瞬間、眼前に迫る剣閃。即座に上体を反らして避ける。
同時に創造した剣を射出し、牽制で追撃を阻止する。
……が。
「っ!」
―――“扇技・護法障壁”
咄嗟に障壁を張る。そこへ、空気を切り裂いてきた斬撃が当たる。
……射出した剣を切り裂いたその一閃で、斬撃を飛ばしてきたのだ。
「(やっぱり、今までの敵と格が違う!)」
別に、殲滅力などで言えばアンラ・マンユの方が圧倒的に上だ。
でも、単純な戦闘力、戦闘技術においては、他の誰よりも高い。
それこそ、自分自身よりも。
「くっ……!」
戦闘技術の高さは、何も刀……剣の腕だけじゃない。
総合的な戦闘技術、それすらも究極的に高いのだ。
導王流でなければ、既に戦闘技術の差で押され始めていただろう。
……それほどまでに、強さの格が違った。
「っぁ!!」
―――“弓技・閃矢-真髄-”
攻撃を防ぐと同時に、後退。さらに置き土産に御札をばら撒き、術を発動する。
風の刃と炎が守護者の視界を遮り、そこへ矢を連続して放つ。
ギギギィイイン!!
「っ!!」
だが、それらはあっさりと刀で防がれる。
それどころか、お返しとばかりに向こうも矢を放ってきた。
咄嗟に矢を掴み……。
―――“斧技・瞬歩-真髄-”
―――“斧技・鬼神-真髄-”
「―――!?」
背後に回り込んだ、守護者の斧の一撃に吹き飛ばされた。
〈っ、ぁ……!?〉
「(今の一撃でシャルが……!)」
シャルで防いだものの、刀身としていた魔力は砕かれ、杖自体にも罅が入る。
まだまだ戦闘続行は可能だが、不意を突かれたとはいえ一撃でここまで……。
「くっ……!」
―――“扇技・護法障壁”
―――“弓技・瞬矢-真髄-”
吹き飛ばされながらも、脚でブレーキを掛け、障壁を張る。
その障壁を切り裂かれた瞬間に、神速の矢を叩き込む。
「……」
矢に込められた霊力が炸裂し、砂塵が舞う。
そして、当然のようにそこを突き抜けてくる守護者。
「(今!)」
―――“極鎌鼬-真髄-”
既に仕掛けておいた術式を、ギリギリまで引き付けてから発動させる。
同時に、短距離転移魔法を行使。背後に回り込む。
「ッ―――!!」
―――“Lævateinn”
シャルに魔力を込め、炎の大剣を以って一閃を放つ。
「っ!」
「遅い!!」
その一閃は、跳んで躱される。……でも、それは予想の上。
そこへ創造魔法による剣が射出される。
飛べない守護者なら、これで……!
「……吹け」
―――“極鎌鼬-真髄-”
「そこだ!」
武器群は、風の刃にて弾かれる。
だけど、それも承知の上。
霊力を足元で爆発させ、猛烈な勢いで突きを放つ。
「なっ……!?」
だけど、それは外れる。
突き自体は掠った。でも、それは“こちらも同じ”だった。
いつの間にか持ち替えた槍を、守護者は持っており……。
「ふっ!」
―――“戦技・四天突-真髄-”
すれ違いざまに刺突を繰り出し、私はギリギリで回避したものの、掠った訳だ。
さらに、霊力を固めて足場にし、反転。四連続の刺突を繰り出してきた。
「っ、せぁっ!!」
―――導王流壱ノ型“開穿掌”
ドンッ!!
咄嗟に導王流で攻撃を逸らす。
同時に、掌底を放つ。……が、それは霊力を纏った手に防がれる。
大したダメージにはならなかったものの、吹き飛ばす事に成功する。
「くっ……!」
尤も、それが良い手だとはあまり言えそうになかった。
守護者は、間合いが離れると同時に大量の御札をばら撒いた。
その一つ一つから大きな霊力が感じられ、強力な術が込められていると分かる。
まともに受ける事も、その場で回避も出来ない。
よって、短距離転移魔法で回避する。
「―――――――」
……その瞬間。途轍もない悪寒が走る。
「っ、ぁああああ!!」
弾かれたように体を動かす。
シャルを待機形態に戻し、代わりに神力を使って刀…神刀・導標を創り出す。
そのまま、神力を以って背後へと振り切る!!
―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”
―――“刀奥義・一閃”
ッ、ギィイイイイイイイイン!!
「はぁっ、はぁっ」
空気を切り裂いて、焔を纏った矢が迫る。
それを、一閃の下切り裂こうとして……弾くに留まる。
後方へと飛んでいった矢は、後ろにあった無人の建物へと当たり……。
「っ……!」
……一瞬にして、崩壊した。
「(なんて威力……!)」
神降しがなければ、不意打ちでない且つ万全の態勢でも弾けるか分からない。
それほどまでの威力が矢に込められていた。
「っ……!」
ギィイイン!
「はっ!」
悠長に考えている暇はない。
すぐさま彼女は斬りかかってきた。
導標は創造した鞘に差しておき、シャルで迎え撃つ。
音をも切り裂く剣戟がしばし繰り広げられる。
「っ!」
「っ!」
ギィイイイン!!
一際大きな音が響き、少し間合いが離れる。
「(……でも、これなら)」
少し戦って、理解した。
……神降しなら、勝てる。
「『リヒト、シャル。交代だ』」
〈『わかりました』〉
〈『後は任せます』〉
そう。私は、まだ本気を出していなかった。
その証拠に、神降しをしていてもリヒトとシャルを使っていた。
以前よりさらに丈夫になったとはいえ、神力にリヒトとシャルは耐え切れない。
手加減であれば十分に扱えるけど、全力だとさすがに……ね。
「………」
リヒトとシャルを待機形態にし、懐に仕舞う。
そして、腰に差しておいた導標を抜く。
「……本気じゃなかったんだ…?」
「……その通り。でも、それはそちらも同じでしょう?」
「まぁね。様子見は、これぐらいでいいかな」
そういって、彼女は霊力を練り始めた。
……ここからが、本当の戦いね。
「……行くわよ」
―――“速鳥-真髄-”
―――“速鳥-真髄-”
お互いに、速度を上げる術式を発動する。
刹那、傍から見れば姿が掻き消えたかのように加速する。
キィイン!!キキキィイイン!
「はぁあああっ!!」
「ふっ!!」
音を超え、斬り合う。
弾き、逸らし、躱し、動きを読み合う。
霊術や魔法も駆使し、互いに隙を作ろうと試みる。
一進一退。そう言い表せる攻防を、私と彼女で繰り広げる。
「っ、ぁ!」
「はぁっ!」
刀の一撃と同時に蹴りを放つ。
当たろうと防がれようと、これで間合いが離れる。
瞬時に弓を創造。神力による矢を連続で放つ。
当たるかどうか確認する前に、御札をばら撒き転移。
すると、矢を弾いて守護者は寸前までいた場所に突っ込んできた。
ばら撒いた御札の術が発動し、そこへ矢と創造した武器群を叩き込む。
「っ!!」
ギィイイン!!
叩き込み終わった瞬間に、霊力が込められた矢が飛んでくる。
それを弾き、その場から転移で脱出。
刹那、ばら撒かれていた御札から術式が発動。
寸前までいた場所が炎と風の刃に包まれる。
―――“扇技・護法障壁-真髄-”
「(なるほど。あれで全て防いだのね)」
彼女の周りには、霊力による障壁が出来ていた。
それによって、術と矢と武器群は防がれたのだろう。
「なら……!」
矢を放ち、御札をばら撒きながら間合いを詰める。
その直後に転移、彼女の後ろに回り込む。
「っ!」
「はっ!!」
ギィイイン!!
刀と刀がぶつかり合う。
このままであれば、背後から迫る術と矢で彼女は貫かれるが……。
「逃がさない!」
―――“神槍-真髄-”
ぶつけ合った反動でその場から離脱しようとしていた。
だけど、それを地面に置いておいた御札からの術式で阻止する。
「っ……!」
「なっ……!?」
しかし、そこで彼女は御札を術と矢の方に一枚放つ。
その瞬間、大爆発を起こして相殺してしまう。
「(たった一枚の御札になんて術式を……!)」
爆発の勢いを利用し、私の背後へと回り込む彼女。
即座に振り向き、刀の一撃を防ぐ。……が、既にそこに彼女はいない。
―――“斧技・鬼神-真髄-”
「(上!)」
―――“扇技・護法障壁”
パリィイン!ギィイイイイン!!
上からの気配に気づくと同時に障壁を張り、刀で受け止める。
障壁はガラスのように割れ、斧の攻撃は受け止めるも、相当重い。
「っぁ!!」
ドンッ!!
弾かれるように、その場から後退する。
振り下ろされた斧はそのまま地面にクレーターを作り出した。
「ッ、ッ!!」
ギギギギギィイイン!!
砂塵に覆われたクレーターの中心から、守護者が矢を放ってくる。
その一矢一矢には、強力な霊力が込められていた。
それらを、当たるものだけ弾く。
「はっ!」
―――“極鎌鼬-真髄-”
弾き切ると同時に、私を起点に扇状に風の刃を放つ。
その刃は、両サイドから飛んできていた御札を切り裂き、その場で術式を誤発動させ、無効化する。……が、またもや爆風と砂塵で視界が遮られる。
「っ!」
短距離転移で、上空に移動する。
……守護者は、空を飛ぶ事は出来ない。
跳躍で跳んできてたとしても、アドバンテージはこちらにある。
「はぁああっ!!」
神力を雨のように降らせる。
一つ一つが並の魔力弾を比べ物にならない威力で降り注ぐ。
「ッ!」
すぐさま体を少しずらす。
寸前までいた場所を、霊力の込められた槍が通過する。
「くっ!」
さらに短距離転移で回避。
下からの斧の一撃を躱す。
だが、守護者はそのまま槍へと追いつき、再び槍を投擲。
さらには霊力を足場に跳躍。刀で追撃もしてきた。
「(空中戦も、やって見せるか……!)」
槍は導王流で逸らし、刀は刀で受け流す。
空を飛ぶ事が出来なくても、守護者は霊力を足場に体勢を立て直した。
「はぁっ!」
「っ!!」
空中で、刀と刀がぶつかり合う。
やはりと言うべきか、彼女の剣筋に導王流はそこまで相性が良い訳ではなさそうだ。
椿や葵と同じで、陰陽師達が扱う剣術は受け流しにくい。
だけど、それでも導王流の性質のおかげで優位に立てている。
「なっ……!?」
「燃やし、切り裂け!」
―――“火焔旋風-真髄-”
―――“極鎌鼬-真髄-”
空中を高速で移動しながらの剣戟で、守護者が動きを見せる。
受け流されるのを覚悟で、私の刀を大きく弾いてきたのだ。
その代償として、彼女は隙を晒すはずだったが、代わりに持ったのは扇。
それで私に対し、扇ぐように振るい、一瞬で術式を発動させてきた。
おまけに、術式同士を掛け合わせて威力もかさまししていた。
「ッ!!」
咄嗟に、魔力を爆発させる。その反動で術を回避する。
これなら、短距離転移よりも早く発動できる。
「はぁっ!!」
―――“刀奥義・一閃-真髄-”
術式をギリギリで回避した直後に短距離転移を発動。
背後に回ると同時に、強力な一閃を放つ。
「くっ!」
―――“Durchbohren Beschießung”
しかし、既にそこに守護者はいない。
即座に下に向けて砲撃魔法を放ち、それを突き抜けていた矢を掴み取る。
「(……何?……これは……)」
力量を見て、“勝てる”とは思った。
しかし、先程から“このままでは危険だ”と言う警鐘が治まらない。
「ぁぁっ!!」
魔力を足場に、守護者に向けて跳躍。
同時に、体を捻る。そうする事で、飛んできた矢をギリギリで躱す。
「はぁああっ!!」
「シッ!!」
―――“刀奥義・一閃-真髄-”
―――“刀奥義・一閃-真髄-”
そして、上下にすれ違うように、互いに一閃を放つ。
「ッ――――――!?」
……その瞬間、“ゾクリ”と悪寒が背中を駆け巡った。
そして、頬に一筋の傷ができる。
「(互いに、僅かな傷を与えて終わり。……なのに……!)」
本来なら、戦闘中ならば気にしない傷。
それなのに、チリチリと、意識外に追いやれない“痛み”を感じる……!
「ッ、何が……!?」
転移魔法で、一度間合いを離す。
付け入る隙を与えると分かっていても、僅かにでも考える時間が欲しかった。
「(ずっと頭の中を駆け巡っていた警鐘の正体は、これか……!)」
警鐘の正体は分かった。しかし、何故?
……何故、たったこれだけの傷に、ここまでの痛みを感じる?
―――「土宇裳伊様が討たれる事で、均衡を保つというものです」
「――――――」
瀬笈さんの言葉を、ふと思い出す。
土宇裳伊は、幽世における記憶の神だ。それを、彼女は討った。
それに、私が知らないだけで、妖と同一視されるような神も討っていたかもしれない。
その事に気づき、血の気が引く。もし、この推測が正しければ……!
「(神降しをしている私は、危なすぎる……!)」
“神を討つ”。それは、人の身では到底成しえない事だ。
だからこそ、実際に神を討った人間(純粋な人間ではないが)は、神話になる。
……そして、そう言った存在を、まとめてこう呼ぶ。
―――“神殺し”……と。
「見つけたよ」
「っ!!」
守護者に見つけられ、魔力弾と術をばら撒くと同時に短距離転移する。
剣撃を放ち、同時に後ろへ転移、矢を放つ。
「(まずい……!まずい、まずい!!もしこの予想が正しかったら、導王流云々以前に、致命的に相性が悪い!!)」
“神殺し”の名は、伊達ではない。通称と言う枠には収まらない。
一度神を殺したのであれば、他の神も殺せるという事である。
そして、“神殺し”となれば、その攻撃は普通の攻撃の何倍も効く。
「(多少のダメージは覚悟していた。でも、これだと話が違う!神殺し相手に、大ダメージなんて負ってしまったら……!)」
焦りを募らせながら、間合いを詰めてきた守護者の刀を受け流す。
術を術で相殺し、決して攻撃が当たらないように立ち回る。
「(“嫌な予感”……やっぱり的中するのね……)」
若干落胆した気分になる。
尤も、そんな気分に浸っている暇はない。
決着はまだ着いていないし、攻防は今も繰り広げている。
「ふっ!」
「はっ!」
私の放つ一閃が躱され、サイドからの斧の攻撃が迫る。
咄嗟に片手に剣を創造し、それで受け止めた反動で上にずれ、躱す。
同時に、障壁を展開。すると、守護者がもう片方の手に槍を持って、地面に突き刺していた。これには見覚えがある。葵が得意技としている、呪黒剣だ。
障壁のおかげで難を逃れた私は、そのまま上空へ転移。矢で牽制する。
「(……落ち着け。確かに、特性上相性は最悪だ。でも、だからと言って負ける訳ではない。私の読み通り、総合的に見れば勝機は充分にある)」
導王流は格上に有効な武術。
神殺しの特性で私が不利だとしても、それに変わりはない。
「(……なら、やる事は変わらない。痛みぐらい、我慢すればいい)」
通常よりも攻撃が効きやすい。なるほど、確かに厄介で危険だ。
でも、それは今までと何が違う?
初めて次元犯罪者を相手にした時、シュネーや緋雪を相手にした時、アンラ・マンユを相手にした時。……どれも、攻撃を喰らえば危険だった。
それと、何が違う?……そう考えれば、神殺し程度……!
「っ!!」
ギィイイン!!
跳躍からの刀の一撃を、導標で逸らす。
そこからの槍の一突きを導王流によって受け流し―――
「ふっ!!」
―――導王流壱ノ型“反衝撃”
―――斧の一撃を躱しつつ、掌底を当てる。
「か、はっ……!?」
「(まず、一撃……!)」
手応えは、確かにあった。
しかし、それは人体に攻撃したような手応えじゃない。
……霊力……それも、妖気の類になったソレで丈夫になっているらしい。
「っつ……」
おまけに、槍と斧の一撃。
どちらも受け流し、回避したはずだが、掠り傷を負っていた。
神降しの効果で、その痛みは大きい。
「(追い打ちをかけないと……)」
復帰するまで待っていたらダメだ。
すぐに追いついて、追撃を―――
―――“速鳥-真髄-”
―――“扇技・神速-真髄-”
「ッ――――――!!」
ッ、ギィイイン!!
刹那、刀と刀がぶつかり合う。
「(速い……!?)」
ギィイン!ギギギギィイイン!ギギギギギギギィイン!!
音速を軽く超える剣戟。
私が導王流を扱えなければ、決して凌げない剣の連撃が襲い掛かる。
「(迂闊だった……!)」
いつから、相手は今までの敵と同じような相手だと思っていた……!
相手は、椿と葵が認める、最強の陰陽師だ。
一つや二つの搦め手や小細工、使ってきてもおかしくはない!
なぜ、それで勝てると判断していた……!
なぜ、相手も格上に勝てる技術を持っていないと、思っていた……!
「くっ……!」
駆ける、駆ける、駆ける……!
地を駆け、宙を駆ける。同時に、刀を振るう。
その度に、甲高い金属音が響き渡り、衝撃波が吹き荒れる。
ギィイン!!
「っ!」
「ふっ!」
「しまっ、ぁああああっ!?」
僅か。ほんの僅かに、刀が強く弾かれる。
その隙とも言えない一瞬を突き、私は蹴り抜かれる。
「くっ……!」
キキキキキキキキキィイン!!
矢を超速で放ち、御札もばら撒く。
追撃を阻止するために放ったそれらは悉くが切り裂かれ、相殺される。
「っ、ぁ―――」
そして、そこで自分の失態に気づく。
着地……と言うか、ほぼ激突の勢いで着いた場所。
そこは、広い敷地があり、そして……。
「ぁ……ぁ……!?」
「ひ、ぁ、来ないで……!」
……一般市民が、多数避難している場所でもあった。
後書き
戦技・四天突…突属性四回攻撃。基本的に槍で繰り出す突き攻撃だが、一応他の武器でも放つ事ができる。閑話4にも登場している。
開穿掌…主に刺突系の連続攻撃に対して繰り出される技。まるでこじ開けるかのように、掌底を当てるまでの“道”を、相手の攻撃を逸らしながら作り出し、そのままカウンターで掌底を放つ。
神殺し…よくある異名()。この小説では、その異名は概念的に効果が働き、神に対しての攻撃が非常に効きやすくなる。FG〇で言う神性特効。
反衝撃…速度が速い相手に使うカウンター技。勢いよく突っ込んできた相手に、その勢い事反転するように一撃を叩き込む。
扇技・神速…呪い師、巫女が扱う速度バフ。本来、速鳥とは重ね掛けできないが、この小説では出来てしまう。
守護者の正体はかくりよの門における主人公。……ゲームの方でまだラスボスが判明していないですから、代理として誰になるかと考えれば大体予想できる事ですけどね。
このとこよ、ゲームに置き換えればほぼ全てのスキルが真髄に達しているという、廃人も真っ青な超スペックの持ち主です。別の言い表し方をすると、回復魔法を使うラスボスです。
自我を持っているように見えるとこよですが、実際はそんなものではありません。地縛霊のように、未練などが意志を持っているように喋っているようなものです。まともな会話は望めません。
P.S.最近、かくりよの門で神威式姫なる新しいレア度の式姫が出ました。神話級(UR)よりも上のレアリティっぽい上に、こちらでの設定に影響しそうですが……キャラ自体は出さない予定です。少なくとも神威式姫が出揃わない限りは。
……ところでかくりよの門の主人公が探している式姫である“あの子”は、もしかすると神威式姫の可能性が……?
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