儚き想い、されど永遠の想い
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56部分:第五話 決意その九
第五話 決意その九
「それが愛だと思います」
「そうですか」
「そう思われるのですね」
「与謝野晶子さんですね」
真理もだ。この詩人の名前を出した。その出した言葉にはだ。これまで以上に澄んでそれでいてだ。憧れを抱いているものがあった。
「あの方の様にです」
「一途で強い愛ですか」
「そういう愛を抱けたら素晴らしいですね」
こう二人に話すのだった。微笑んでだ。
「私もそう思います」
「そうですね。愛はです」
「そうしたものです」
「恋もまた」
そしてだ。真理は恋についても話すのだった。
「そういうものだと思います」
「恋と愛ですね」
「その二つはですか」
「はい、似ているようで違うもの」
真理は話していく。今度はその恋と愛のことをだ。
「けれど。根は同じだと思います」
「恋と愛はですか」
「似ている様で違うもの」
「けれど根は同じもの」
「そういうものなのですね」
「そうではないでしょうか。だから恋愛という言葉があるのでしょう」
その恋愛という言葉だ。それも話に出た。
「私は。その恋愛をまだ舞台や文学でしか知りません」
「現実にはですか」
「知らないと仰るのですか」
「はい、残念ですが」
ここでだ。こうした言葉も出すのだった。
「どんなものか。それは」
「それがどうしてわかるかですね」
「それはわからないですね」
また話す喜久子と麻実子だった。そしてだ。
そう話してだ。二人はだった。
再び真理に尋ねる。その話をだ。
「では真理さんはこれからですか」
「その恋愛を知りたいと思われているのですね」
「はい、できれば」
できればと。そう話す真理だった。
考える顔で白い砂浜を歩いてだ。彼女は二人の友人に話していく。
「それがどういったものか知りたいです。ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「もう既にそれを知っているかも知れません」
ここでだ。こう話すのだった。
「若しかしてです」
「知っておられるというのですか」
「その恋、そして愛を」
「そうではないでしょうか。まだそれに気付いていても気付いていないだけで」
「そうですか。その恋を」
「恋をですか」
二人に話していく。そうしてだ。
真理はだ。そこにいない彼の顔をだ。自然に思い出した。
その顔を見ながらだ。ふとした感じでまた言った。
「いえ、私は」
「真理さんは」
「どうなのですか?」
「私はもう知っているのですね」
それがだ。今わかったのだ。真理自身にもだ。
「既にです」
「ではそのお相手は」
「誰なのですか?」
「それは」
言おうとしたが言わなかった。しかしだ。
喜久子と麻実子にだ。また話した。
「いえ、それは」
「仰ることができない」
「そうなのですか」
「ロミオなのですね」
この舞台の話をするのだった。それをだ。
「ロミオが」
「ロミオですか」
「あの主人公に想いをですか」
「そうなりますね」
こう言うのだった。言い繕いだった。しかしそこには真実もあった。だがその真実はだ。隠してだ。そのうえで話をしていくのだった。
「私は」
「ロミオもジュリエットも。結ばれれば」
「家同士の対立なぞ乗り越えて」
「そうですね。そうしたしがらみを乗り越えて」
「幸せになれれば」
よかったのにとだ。二人も話す。
「今ならできるでしょうか」
「今の日本なら」
この大正の日本ならだ。どうかというのである。
「あの二人は幸せになれるでしょうか」
「舞台とは違って」
「ならないといけませんね」
真理の答えはだ。絶対を指し示すものだった。それをだ。
「そうならば」
「そうですか。絶対になのですね」
「幸せに」
「与謝野晶子さんの様に」
また彼女の名前が出たのだった。
「果たさなければ」
「ですね。今ならです」
「あの二人も幸せになれました」
二人は彼等のことを思い感情移入してだ。残念そうに話す。実際にはいなくともだ。二人は思われることで現実の存在になっていた。
「ですから。是非」
「今はです」
「そうですね。幸せにならなければ」
微笑んでだ。真理は話した。
「いけませんね」
「そう思いますよね、本当に」
「愛は必ずです」
「幸せになることが愛ですからね」
こんなことをだ。砂浜で話すのだった。そうして二人はだ。お互いを意識しだした。そうしてだ。そこに果たしたいものも見ていたのだ。
第五話 完
2011・3・20
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