FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
五つの祈り
前書き
ストーリーが進んでいるようないないような・・・まもなく劇的に動くと思いますけどなかなかうまく行かないorz
アルバレス軍の猛攻に倒れる仲間たち。こちらも相手を削ってはいるものの、それ以上の被害が出ており、目も当てられない。
それどころか、前日自分たちを逃がすために戦ってくれた四つ首の番犬は全員が死亡。それも、首を刈り取られ、胴体を木に巻き付けられて行進されるという屈辱付き。それを思い出したスティングは、冷静さを保つことができなかった。
「今の俺たち戦いは・・・全部無駄だってのか・・・」
瞳から零れ落ちる涙。彼はその場に崩れ落ちそうになると、二人の竜がそれを支える。
「おい!!しっかりしろ!!」
「スティング!!おい!!」
マスターとしての責任感なのか、仲間たちが傷付いている今の状況を見て彼は自らを攻めるように独り言を呟く。それを見てティオスはなおも追い討ちをかけてくる。
「そもそもこの戦争の考えが俺たちとお前たちじゃ違いすぎた。俺たちは妖精の心臓を手に入れ、イシュガルを殲滅することが目的。それに対して君たちは俺たちを撃退し、仲間を守る。一見同じようだが、その難易度は大きく違う。だがら気にしなくていいんじゃないかな?別にいいじゃない、自分が生き残れれば」
「黙れ」
彼の言葉に怒りを現したのは無精髭を生やした男性。彼は額に血管を浮かべており、今まで感じたことがないほどの殺気を放っていた。
「それ以上そのふざけた口を開くな」
大地が震えるほどの魔力を体内から放出していくギルダーツ。ティオスはそれを見ても、一切動じていない。
「ふざけた?よくそんなことが言える。そもそもこの戦争の引き金となったのは君たち・・・いや・・・違うな」
顎を擦りながらしばし思考したティオスは言葉を選びながらギルダーツに問いかけた。
「そもそも今までの戦い全てが妖精の尻尾が原因だったんじゃないか?」
「!!」
まるで全てを出来事を知っているかのような発言にギルダーツの顔が歪む。その反応を見てティオスは彼に歩み寄る。
「全ての戦いの中心にいた妖精の尻尾。だが君たちの中から大きな犠牲が出たことがあったか?今だってお前たちの初代マスターが原因なのに、自分たちはギルドに残って安全を得て、他のギルドは前線で犠牲を払って戦う・・・その罪悪感はあるのか?」
「・・・」
その言葉に何も言い返せない。妖精の心臓を守るという名目でギルドに残っている仲間たち。しかし、それは周りから見れば逃げていると捉えられてもおかしくない。
「お前たちのせいで多くの人間がこの戦争で犠牲となった・・・それなのにお前たちは平々凡々と暮らしやがって・・・」
苛立ちが頂点へと達したように見えるティオス。だが、彼のその言動に四人は違和感を持った。
「この戦争で?」
「なぜそんなことが断言できる」
確かに死傷者が出ているが、妖精の尻尾からそれが出る可能性だって十分にある。それなのに彼ははっきりと断言した。それはまるで未来を知っているかのように。
「知ってるさ。俺は・・・」
「まさか・・・こいつ・・・」
手を向けて魔力を高める。ギルダーツはフラフラのスティングと、それを支えるローグとグラシアンを守るように立ちはだかった。
「その未来を変えるために来たのだから」
放たれたレーザー光線。それは一瞬のうちにギルダーツの左腕を貫いた。
「見えてきたゾ」
反撃を許さぬ猛攻を見せるアルバレス軍。その絶望的な状況の北部に、不思議な形をした乗り物がやって来た。
「移動神殿オリンピア、到着~」
その不思議な乗り物は、ソラノがアルバレスで情報を仕入れた時や、そこまでシリルたちを連れていく際に利用した移動型の神殿。どうやら海だけではなく陸地でも移動ができるらしく、彼女たちはそれに乗ってやって来たらしい。
「六魔将軍の力、見せてやろう」
「今は魔女の罪デスネ」
やる気満々のマクベス、胸に手を優しげな表情を浮かべているリチャードがそう言う。
「あっれ~?雪山って聞いてたゾ?」
「そう聞いてたんならその服装どうなんだよ」
雪が無くなっていることに驚いているソラノだが、彼女はシリルたちと会った時と同じ水着姿。言動の一致しない彼女にソーヤが突っ込みを入れる。
「どうでもいいが早く降ろせ・・・うぷ」
戦闘にいつでも動き出せる準備が整っていた四人に対し滅竜魔導士であるエリックは乗り物酔いを発症しており彼らの後ろでうずくまっている。戦場へと到着した彼らはオリンピアから降りると、ぶつかり合う人々を見下ろす。
「ゼレフを倒せば、真の自由が手に入る・・・」
「我々五人の祈りを叶えるために・・・」
「共に戦おう」
かつて楽園の塔建設のために捕らえられた彼らはそれぞれが祈りを持っていた。それを叶えるべく、この争いの絶えない世界から解放されるために、五つの祈りを抱えて彼らは戦場へと降りていった。
「!!」
アルバレス軍と対峙する中、ユキノが何かを感じて視線を逸らす。
「どうした?ユキノ」
「いえ・・・何でもありません」
注意が逸れた彼女を心配してミネルバが声をかけるが、彼女は首を横に振り再び戦いへと戻っていく。ミネルバはその仕草に違和感を覚えたが、迫ってくる大軍を倒すために頭を切り替えるのだった。
五人の新戦力が投下された北部。その頃妖精の尻尾では、ブランディッシュがナツ、ルーシィ、ハッピーを引き連れて東部から攻めてきているオーガストと交渉へと動き出していた。
そんな中南部では、常識では考えられないような事態に陥っていた。
ドンッ
「グアッ!!」
狂戦士の蹴りを受けて宙に舞う氷の神。全身ボロボロになっている彼は着地どころか受け身も取ることができず、地面へと叩き付けられる。
「天一神・星彩!!」
金を主とした鎧に身を包んだ緋色の剣士。彼女は槍のような武器を構えて天海に突進を試みるが、彼はそれをヒラリと交わすと、鎧にヒビを入れるほどの強烈な拳を叩き込む。
「そんなことか・・・」
装着時の魔力消費が激しいために10年もの間着けるものが現れなかった、いわば最強の鎧。それなのに、魔力を持たぬ人間がその身一つでやすやすと傷をつけてしまうことに彼女は驚きを隠せなかった。
「怨刀・不倶戴天!!斬の型!!」
エルザの後ろから現れたカグラが攻撃を放ったことで無防備になっている天海に迫る。彼女は抜刀した剣を振るうが、彼は体をズラしただけであっさりと回避した。
「遅い」
「!!」
続けて攻撃に移ろうとしたカグラだったが、それをこの男は許さない。足を蹴りあげ剣を弾き飛ばすと、武具を失った剣士の肩目掛けて上げた足を振り下ろす。
「がはっ!!」
上段から落とされた蹴りに地面に沈むカグラ。彼女が落ちたその場所は人型に大きく沈んでいた。
「アイスメイク・・・エイプ!!スノータイガー!!スノードラゴン!!」
リオンが三体の造形を作り出す。それがそのまま向かっていくのかと思ったが、それだけでは通用しないことはすでにわかっている。
「グレイ!!レオン!!行くぞ!!」
「おう!!」
「はいはい」
グレイが虎に、レオンが竜に、そしてリオンがゴリラに飛び乗る。三人は造形の突進力も追加し攻撃力を高める作戦に出たのだ。
「こいつで行かせてもらうぜ!!」
右腕から黒い模様が体へと伸びていく。滅悪の力を手に入れたグレイはこうすることによりその力を最大限に発揮し、魔力を高めることができるのだ。
「氷魔・零ノ太刀!!」
剣を作り出しリオンの作り出した虎の駆け上がる速度を生かして剣を振るう。それは天海の左の脇腹に突き・・・
ガシッ
「!!」
刺さる直前、彼がそれを右手で寸前で捉える。そのまま力を入れると剣は瞬く間に砕け散り、後に残ったのは氷魔と化した青年が目を見開く姿。
「悪魔を滅することができようと、俺に勝つことはできないようだな」
天海は呆然と立ち尽くす彼の顎に下からの蹴りを入れて浮かび上がらせると、宙に浮く彼よりも上へもジャンプし、両手を握り合わせ地面へと撃ち落とす。
「アイスメイク・・・ドラゴンフライ!!」
今度はリオンがゴリラからジャンプして重力に従って落ちてくる天海目掛けてトンボの造形を飛ばす。身動きができない彼はそれを避けることなく、目にも止まらぬ早さで全ての造形を払い落とし、両足で綺麗に着地する。
「封印の氷地獄!!」
そのタイミングを待っていた男がいた。着地した場合如何なる人間でもその勢いを吸収しなければならずすぐには動き出せない。彼が足の着いたタイミングでその周辺を凍らせたレオン。天海はそれにまんまとハマり、足をホールドされていた。
「喰らいやがれ。永久凍土!!」
ダイナミックなフォームから繰り出された神の拳。それは天海の顔面を見事に捉え、青年は吹き飛ばされた。
ドゴォォン
街の近くまでやって来ていたこともあり民家を破壊し飛ばされていく天海。数軒の家が原型を留めなくなったところで止まった彼は、血が流れている口元を拭い、煙から姿を現した。
「いい攻撃だ、レオン」
「マジかよ・・・こいつ・・・」
完璧に決まったはずのレオンの一撃。それは精練された魔導士でさえも意識を保つことができなかったのに、彼にとっては無意味としか言いようがない攻撃だったことに衝撃を隠しきれない。
「今のはレオンの必勝パターンだろ・・・」
「あいつ・・・どういう構造してんだよ」
多対一の絶対的有利な状況のはずなのに、まともに決まった攻撃は今の一発のみ。それどころかこちらには確実にダメージを与え戦力を削ってくるその姿に、険しい顔を崩せるものはいない。
「俺をもっともっと・・・」
そう言って彼が足に力を入れた。攻撃が来ると確信したレオンは身構えたが、彼の視界からその男は消え去った。
「楽しませてくれ!!」
百メートル近く離れていたはずだった彼は次に姿を現した時には少年の目の前に来ていた。瞬間移動と勘違いするほどの動きにレオンは反応しようとしたが、とてもそれは間に合わない。
「天竜の咆哮!!」
天海の攻撃が決まる直前、横から風のブレスが彼を直撃する。予期せぬ攻撃に天海は弾かれ転倒した。
「皆さん!!加勢します!!」
「ウェンディ!!」
彼の邪魔をした人物は先程までディマリアと戦っていたウェンディ。彼女の後ろにはジェラールも復活しており、エルザとカグラは思わず安堵の表情を見せた。
「・・・シェリアは?」
「敵がいないところに逃げてもらってる。シャルルも一緒に」
隣に来た少女の登場に仏頂面のレオンがか細い声でそう問い掛けると、彼女は敵を見据えたまま厳しい口調でそう答えた。
「そっか・・・ならよかった」
そうとだけ答えたレオンは立ち上がった天海に目を向ける。その背中を離れたところから見ている一人の少年。
「・・・」
戦場で激しく戦っている仲間たち。そこに彼は入っていくことができない。理由は、友人から言われたこの一言が原因だった。
『今のお前じゃ、誰にも勝てない』
相手がエドラスの父だと言われてシリルは動揺した。それでも相手は自分たちの仲間を傷付けた敵。それは変わらない事実。だからこそ共に戦おうとしていたのに、そう言われてハブられてしまった彼は奥歯を噛み締めていた。
「お前に何がわかるんだよ・・・」
ずっと大好きだった父がいなくなって、ようやく再会できたかと思えばそれは永遠の別れを告げるもの。そんな状況で一年が経ちようやく立ち直ってきた頃に天海が現れた。それだけで父が大好きだったシリルに取って、精神的ダメージは非常に大きかった。
「雷竜の咆哮!!」
「波動砲・矢の章!!」
少年の後ろでは確実に人数が減っているアルバレス軍をどんどん削っていく二人の男の姿が見える。他にもジュビアやメルディも共闘しており、アルバレス軍が全滅するのは時間の問題だった。
(俺は一体・・・どうすればいいんだ?)
皆が戦いを繰り広げている中、一人だけ取り残されている少年。彼は拳を強く握り絞め、異世界の父に圧倒されている仲間たちのことを見つめていることしかできなかった。
「なぁ、ラクサス」
「どうした?カミュ」
まるで虫を払っているかのようにアルバレスの兵隊たちを次から次へと凪ぎ払っていく二人の男。そのうちの一人、赤い髪をした青年は隣で戦う大男に話しかけた。
「あいつ・・・さっきから何してるんだ?」
彼が気にしているのは誰とも戦わずただ立ち尽くしている水竜。周りが戦っているのに責任感の強い彼の足が止まっていることに、カミューニは疑問を抱かずにはいられなかった。
「さぁな」
「さぁなってお前なぁ・・・」
仲間想いのメンバーが揃っている妖精の尻尾の一員である彼なら何かしら彼に声をかけに行くかと思ったが、ラクサスはそちらを一瞬見ただけですぐに戦いに戻ってしまう。カミューニはその薄情さに顔をしかめた。
「心配じゃねぇのかよ」
「俺が心配して何とかなるならいくらでもしてやるさ。だが、そういうわけじゃねぇだろ?」
その言葉に思わず口を尖らせる。彼の言うことも一律あるが、それでも何も思わないのはどうなのだろうかと。だが、次の一言でその考えは一蹴される。
「俺はあいつを信じてる。シリルなら、あいつなりの答えを見つけられるはずだ」
何やかんや言ってもやはり心配はしていたようで、それにちょっと安堵したカミューニはニヤリと笑う。彼らは残り少なくなってきた敵を蹴散らすために、意識をそちらへと戻したのであった。
後書き
いかがだったでしょうか。
ティオスと天海のチートっぷりが発揮されている今シリーズ。果たして彼らを止められるものは現れるのかな?
ページ上へ戻る