ランス ~another story~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第3章 リーザス陥落
第105話 怒りと笑み
前書き
~一言~
遅れてすみません!! でも何とか1話分投稿します!
そしてそして ランス10……とうとうクリアー!! そしてテンションアップww面白かったです~! あの最後にまで行けるでしょうか…… 涙
でも、ガンバリマス!
じーくw
――剣、極。
――魔、極。
無数の剣閃を浴びたジルは、永遠とも思える封印を受けていたのにも関わらず、今だ忘れる事の出来ない過去を思い返していた。
ここで少し 昔話をしよう。
それはジル自身がまだ魔王ではなく 人間だったあの時代の物語。……悲劇の物語。
ジルは美しく蒼い輝きを持った瞳と髪。そして何よりも聡明な賢者であった。その事によって嫉妬心が周囲から沸き起こっていた。
一部の者達を洗脳、唆し ジルは魔物の使いである事。いずれ人間に害を及ぼす者であると信じ込ませ、ジルにとっては全くいわれのない迫害を強く受け、暴行、拷問を受け続けた。
この世のありとあらゆる痛みを苦しみを苦痛を浴び続けた。地獄があるのなら あの時程のものはないだろう。だからこそ、懇願し続けた。
『死に、たい……。ころ……して……』
長く苦しむくらいならば殺して欲しいと思うようになった。だが、この先は残酷そのものだった。
最後には四肢をも切断されて放置された。
そのまま死を待つしかない途切れかけた意識の狭間で、ジルの想いは変わった。
『……ころして……やる。…………ころし、て、やる』
死を間近に憎悪を滾らせた。
――全てを……、全ての人間を殺す。
その激しく果てが無い怒り、負の感情は その時代の魔王《ナイチサ》さえも呼び寄せるものだった。
――娘よ。何を望む?
魔王はジルに問いかける。
その問いの答えは決まっていた。
『全て殺す。……人類の、滅亡』
激しい怒り。憎悪。その全てをその一言の中にナイチサは視た。
――面白い。貴様に全てをやろう。私の力を、知識を。全ては貴様の望むがままに。
こうして、ジルは魔王となった。
継承者の資質があったからとは言え、まるでナイチサそのものを吸収するかの様に、瞬く間に全てを継承した。
先代魔王ナイチサの記憶も同時に継承していた。彼の唯一の失敗は勇者の存在だ。人類の残数とその勇者の強さは関係していることを。人類の数が減れば減る程 勇者の強さは覚醒、解放されていくことを。
だからジルは、人類を虐殺するのではなく、奴隷化して生き地獄を味合わせる方法をとった。そう、かつて人間だった自分がされたことを全人類に。
その時の人類はまさに地獄だったと言えるだろう。夜に灯りをともす家はなく、ただ只管に息を殺して魔物に見つからないことを願い、朝になり命あることに感謝する。それが日常になっていた。 人間牧場とよばれる 人間を大量生産する事を目的としてつくられた施設で、人類の数を調整し、勇者の力を削ぎ、ついにはその時代の勇者をも殺してのけた。
勇者とはシステムであり、特定の人物を殺して終わりと言う訳ではない。殺したとしても新たな勇者が生まれてくるだけだから。だからこそ、人類の調整は欠かせないものだった。殺しはしない限り、人間に何をしても良いとし、更に狂ってしまわない様に人間達よりもさらに下級生物がいることをも示した。それが《人うし》。人うしの選出は人間達が決め、四肢と舌を切り落とし、愛玩動物同様に扱う。
魔物が人間に何をしても良いように、人間達もまた 人うしに何をしても良い。こうやって人類は終わりのない悪夢を円滑に循環させられ続けた。それが魔王ジルの時代 GL期だった。
人間を甚振り続ける。それを永遠に。抑えきれぬ怒りのままに、ジルは人間を甚振り、苦しめ続けた。
そして、数年後。
『漸く捕らえたぞ。魔王!』
『さっさと斬っちまえ~! ワシに魔王の血を寄越せ~~!! 思う存分味合わせろ~~!』
魔剣カオスを携えた人間が目の前に現れた。
その男はあらゆる魔を、剣を極めた魔法戦士だった。その名はガイ。
魔人を……魔王をも斬れる魔剣を手に、快進撃を見せ続け、等々 魔王の前にまで迫った。
だが、ガイには精神面に弱点があった。
二重人格と言う特性をもち、善と悪の二つの精神を持つガイは、ジルに後一歩まで迫った所で、精神を悪に乗っ取られてしまった。
『……面白い、な。私はお前が気に入ったぞ。……ガイ』
その隙をジルは逃さない。
ガイはその後 人としての生を終えてしまった。
これから歩む生は――魔人としての生だった。
ジルは怒りしか湧かなかった筈の自分自身に違和感を覚えた。ガイを前にし、判らない感情に覆われる。
そう――自分自身が笑っている事に気付いたのは ガイとの戦闘を終えた数時間後の事だった。
そして幾星霜。
あの時と同じものを、……目の前に似た匂いのする男を見た。
使っているのは剣のみであり、今魔は使って無い筈なのに潜在的なものを確かにジルは見た。
嘗て自分を狙い、そして最後には殺したガイに近しいなにかを。
―――お前……気に入った。
「ッッ!」
瞬速の連撃。今持てる全てを込めた奥義。確かにいきなり魔王に通じるとは思ってなかったが、通じなかった以上に そこになにかを見た。禍々しいなにかを。
「ぐっ、あ……! クルックー!! セル!! 頼む!!」
強大な何かに呑まれる前に、ユーリは力の限り声を上げる。
奥義使用の反動で、全身に耐えがたい苦痛、虚脱感も感じていたが 今はそれどころではないから。
清十郎とリックに抱えられた2人が直ぐに傍にまでやってきておろした。
そして2人を挟む様に、清十郎とリックは陣形をとる。
「我々が貴女方を守ります」
「頼むぞ。お前達」
「「はい」!」
セルとクルックーの2人は手を取り合い、構えた。
精神を集中させる間、無防備になる故にリックと清十郎がその間守るのだ。
「「いたいの、いたいの……」」
集中し続け、魔法を完成させる。それは今は1人では使えない。2人の魔法を重ね合わせる事で漸く使う事が出来る神魔法 上位魔法の1つ。
「「全部、とんでいけーーーーっっ!!」」
神魔法 《全回復》の発動である。
現在 ヒーリング系での最上位ヒーリング3を更に超えた神魔法。互いに行う事で合体魔法となり、効果はさらに跳ね上がった。
結果ユーリの虚脱感と苦痛を取り去り、万全とは流石に言えないが それに近い状態にまで回復させた。
「すまん……‼ ちっ……!!」
ユーリは癒しの光を浴びた後に、素早く後方へと跳躍した。
後方で粗方息を整えると、対面側にいるランスに向かって叫ぶ。
「もう一度言うぞ。……ランスの馬鹿野郎。ちゃんと考えてやれ」
「なんだと……!? 遅れてきといてオレ様を馬鹿とは何事だ!」
「判ってる、だろ。……幾ら今までは乗り切れても、お前の異常な天運でも、コイツには通じない事くらい判っていただろうが……。無防備に飛び込むな」
「く……。ふんっ! あの程度オレ様なら楽勝で躱せたわ。馬鹿者」
憎まれ口を言っているが、ランスにも十分判っていた事だろう。
走馬燈が流れてしまっていたのだから。
この短い会話。それが出来た事すら奇跡と思える程に。
「貴様ら……!!」
手を出すな、と言われたノスだったが 流石に我慢しきれなかったのか、両手を構えて最上級魔法グレートファイヤーボールを放とうとするが。
「……二度は、……云わぬ、ぞ。ノス」
「っっ!! も、申し訳ござませぬ。ジル様」
ジルの一言でその怒りの炎は瞬く間に鎮火された。それは絶対零度の冷気を纏った冷たい言葉。ノスの忠誠を知りつつも、意に反す事をすればどうなるのか、どうするのかが周囲にも直ぐに判る程だった。
「……お前、名は……?」
ゆっくりとした動きで、視線をユーリに向けた。
相手のペースに呑まれるのを嫌うユーリ。
だが、まだ皆の臨戦態勢は整っていないのも確かだった。
殆ど全員がこの凶悪な雰囲気にのまれてしまっている。リックも清十郎も例外ではなく、威圧されてしまっている。
ユーリ自身は、回復をしてもらった事もあるが、初撃目も魔王相手に一切の躊躇いもなく攻撃を放つ事が出来た。それは ユーリの中に存在する者と、ユーリの過去の経験があるからこそ、迷う事なく攻める事ができ、魔王相手にもその精神も十分持ちこたえる事が出来たのだ。
この戦いの中で――皆もその域にまで辿りつくしかない。飲まれ続ければ、瞬く間に 弱い者から命を落としてしまうのは明らかだ。
故に、時間を稼ぐ為にユーリは 付き合う事にした。己の名を魔王に告げる。
「―――ユーリ・ローランド」
告げると同時に剣先をジルに向けた。
その答えを訊いたジルは満足した、と言わんばかりにゆっくりと頷くと。
「ユー……リ、ロー、ランド。…………」
ジルのその蒼白い身体に朱い瞳。しれらが妖しく光ったかと思えば、口許を歪ませて消えゆく様で、身体の芯にまで届く。まるで矛盾した声量でいった。
「……我の、ものになれ。……ユーリ、ローランド」
それは何処かで訊いた事のある様なセリフだった。
『こ、これこそがイメージしてたヤツだ……! な、なんで あの時…… ぅぅ…… んゆぅ……』
と、何処かで声が聞こえるかもしれない……いや、今は絶対に聴こえない。それに、以前訊いた事のあるセリフと、皆が思ったのだが あの時の様なリアクションを取れる者は誰一人としていなかった。
「…………」
ノスだけは気が気じゃない様子だった。
あの時と――ガイの時と同じだったからだ。
嘗て人間としてこの魔王にして 主君のジルに刃を向け、そして魔人と化した。絶対の主である筈なのに、魔王としての時間が終わるや否や、また刃を向けた。その身体に刻んだ。刻むだけでは飽き足らず、魔剣カオスで封じた。1000年もの永き封印。思い返しただけでも腸が煮えくり返るノス。
だが、憎悪をどれだけ滾らせようと、ジルの手前行動に移す事は出来なかった。主の言葉は、判断は絶対だから。それが例え歴史を再び繰り返そうとも。
そして等のユーリは、無言のまま構えた剣を鞘へと仕舞った。
その行動に皆が驚いたが、直ぐに杞憂だと悟る。
「オレが頷くと思うのか? 魔王ジル。……お断りだ」
当然ながら拒否をしたから。
「…………」
そんなユーリを真っ直ぐ見るジル。焦点さえ定かではなかった瞳がしっかりとユーリの姿を映していた。自分自身が視られている訳でもないのに、後衛にいるセルは震えが止まらなかった。
神がついてくれている。
何度も何度も自身に言い聞かせ続けるが、
「……お前はこの世にはいてはいけない存在。――もう 過去の存在なんだ」
柄を握りしめ、構えた。
「……オレの友がいる国に、……人間の世界に仇名すな。そして、お前の存在はオレの目的の邪魔だ」
ジルの口許は、軽くだが歪む。笑っている様にも見えた。
「………ならば、どう……する」
ジルはゆっくりと歩み出した。一歩、一歩 確実にユーリに近づく
「…………我と……やる、か?」
動き1つ1つが心臓を握りつぶされる様な感覚がする。
これまでに幾度も魔人と相対してきた。多少なりとも、その手の圧力にも耐性が付いたと思ったのが自惚れだった。
いつもなら、かなみや志津香は勿論、軽口をいつも叩くロゼやミリもなにか口にする事だろうが、彼女達も金縛りにでもあったかの様に、口を縫い付けられたかの様に開く事が出来なかった。
「……判らぬ、のか。………我とやる事の意味が」
敵の巨大さはこれまでの比じゃない。
今までの前哨戦…… いや戦いすら始まってないと言える程のものだった。
「……さぁな」
僅かに姿勢を低くし、柄を握る力も上げた。
魔王を前にしても決して気圧されてない強靭な精神力だ。そして、それでいて周囲の状況の把握も忘れてはいない。自分の前にはジル、ノス…… そしてランスがいる。挟撃するにはもってこいだった。
ランスの傍にはシィルとマルス、そしてリア。相手が悪過ぎるが それでも回復支援が出来る2人が傍にいる事を良しとした。
何よりも……ランスは萎縮してなどいない。
このジルを前にしても……前に出ていた。雰囲気を除けば絶世の美女と言える容姿だったからこそ、と言えるかもしれないが、それでも それがどれ程凄まじい事かはわかる。
――このランスと言う男が前にいるから、ユーリは今、少しでも安心して戦えるのかもしれない。
「ランス。そのカオスなら 魔人を、魔王も斬れるみたいだ。同時に封印もな。だったらさっさと活躍しろよ。じゃないと、オレが全部持っていくぞ」
「ふん!! ここで格好良く敵の親玉をやっつけて、きゃー! ランス様すてき~ 抱いて~~! と呼ばれるのはオレ様だ。確かに極上の女だが、元気が有り余ってるみたいだからな。ちょいと大人しくさせてからゆっくり セックスだ!」
軽口を叩くが、それでも決してジルから視線を外さない。
その後ろにはノスも控えているのだ。
「……………ノス」
ここで先に動いたのはジルだった。
嵐の前の静けさ、とでもいうのだろうか ユーリやランスの2人の会話以外、殆ど無音。荒い吐息の音、邪悪な気配だけが支配するこの空間で、再びジルの声が響く。
それだけで、常人であれば心臓が止まりそうになるが、ここに集った戦士達はそれを堪えた。
「はっ。此処におりまする」
沸き起こる殺意を、ユーリに向けられた明確な殺意を懸命に押し殺すノス。その気配だけで常人であれば 即座に気絶をしてしまいそうな殺気もジルを前に霧散した。
「臭いな……。……カオスは、いらぬ」
「は。仰せのままに……」
ジルからの命令。
その内容を訊いたユーリは、すかさず動いた。
狙いは――カオス。
あの剣が狙いなのだと言う事を理解したからだ。だが、ノスの方が位置的にも早く、更にランスもただ立ってるだけではない。
息つく暇もなく両雄はぶつかり合った。
「このデカ物め!! 死ねぇ!! ランスアタたたたーーーック!!」
カオスを手に、ノスに斬りかかったのだ。
魔人には無敵結界が存在する為、攻撃の類は一切通じない。それは今まででも実証済みだ。特に志津香に限っては、アイゼルとの一戦で嫌と言う程身に染みていた。
だが、その剣はノスに届く。それは先刻ランス自身が確認した事だった。
「……カオス。ジル様を永きに渡り封じた忌まわしき異物。……お前はいらぬ!!」
ノスはランスの剣を握り掴んだ。
万力で締め付けられたかの様に、剣は全く動かない。
「うぎぎぎぎぃぃ!! こ、この馬鹿力……が!」
ミシミシ…… と嫌な音が場に響く。それは刀身からの音である。もうほんの数秒、一秒あるかないかで カオスはへし折られてしまうだろう。
そんな刹那の時間。
「煉獄・斬光閃」
「ぬっ!?」
ユーリの放つ、斬撃がノスの側頭部を抉った。無敵結界はカオスにより斬られている為、今のノスには暫く結界を張り直す事が出来ない。つまり、どんな攻撃でも当たる。リ・ラーニングを使用するまでもなく。
「だから言っただろうが。此処にいらないのはお前らの方だ!」
「ッ!?」
一足飛び脚でノスの眼前へ。
斬光閃を放つと同時にユーリも移動をしていた。超接近し、そのままノスの手……否、指を斬り落とした。
「うぐぉッ……!!」
流石のノスも己の身体の一部を落とされる事態に見舞われるとは思っても無かった事と、もう遥か昔に忘れ去ったと言っていい 《痛み》を思い出し、表情がゆがんだ。
そして、斬り落とされた我が一部を見つめる。それが自分自身の指である事に気付くのには時間がかかってしまっていた。
「……なんだ? まさか 『人間に斬られる筈がない』とタカ括ってたのか。カオスの効果、お前も知らん筈がないだろうが」
ユーリはニヤリと笑った。
その言葉がゆっくりとノスの脳裏に刷り込まれた。
我が身を奪った初めての人間。恐らくは憤怒で満ちているだろうが、あまりの怒り故に 通り越してしまったのか、魔人の脳の回転が極まった。怒りをそのまま力へと変え、蹂躙する。本来の姿を明かし、この場の人間を根絶やしにしようと考えはしたのだが、主を前に醜く暴れるのには怒り以上の抵抗があった故にノスは実行しなかった。
ただただ、考えるのは目の前の人間……ユーリの事だ。
――なぜ、この人間は向かってこれる? なぜ、ジル様を前に背を向け儂に向かってこれる?
そう、ユーリは自分自身にも、そして何よりも全く臆さず《魔王ジル》と相対していた。
全盛期ではなく、1000年と言う永き時、悠久の時を封じられた故に、その力は著しく消耗しているのだが、それでも《魔王》を冠するものに。
人間と魔人の差は極めて高い。伝説と称される人間でさえも魔人の前には平伏し続けた。
その中でも唯一の例外は、魔人カイト。その酔狂な魔人は、絶対無敵の己の結界を取り払い、純粋に力くらべ、技くらべを行い、結果敗北した一点を除けば、ただの人間が抗えた事など殆どない。
そんな魔人よりもさらに上位に位置するのが《魔王》だ。
その隔たりは何処まで高いのか魔人ノスにも皆目見当さえつかない。遥か頂き……天地程の力の差を持つ魔王を前に何故臆さない? 何故あっさりとこちら側へと向かってくる? それは背を向ける行為だ。魔王を前に背を向ける。……それも逃げるのではない。支援の為にだ。
この人間には――恐怖はないのか……?
「後ろの魔王が怖くないのか? って面してるな。……ノス」
頭巾に殆ど隠されていた素顔から、ユーリははっきりと読み取っていた。
簡単に心情を読まれる程、ノスは動揺し続けていた様だ。
「馬鹿かお前は。単純明快だろ。……オレは1人じゃないからだ。……頼れる仲間がいるからだ。勿論、そこにいるランスって男もな。無鉄砲でそれこそ単純なヤツだがこういう時はプラスにしかならん男だ」
「誰が仲間だコラ! 貴様はオレ様の下僕だろうが! それにオレ様はいつもいつでもプラス思考のポジティブシンキングだ!」
あわや殺されかねない威圧感に圧されていたランスだが、しっかりといつもの調子を取り戻していた。……いや、取り戻す事が出来ていた。
「(認めんぞ。いや、認めたくない……か。なんだかこのユーリの童顔ぶりを見てたら、幾らか気が楽になった気がしたぞ。まぁ、好んでみる様なもんでもないが、笑えるから良しだな)がははは!」
「……おいコラ。 変な事考えてないか!?」
「がはははは!! 何を馬鹿な。オレ様はこんな大ピンチでも大チャンスに変える男! 今も尚、この状況を打開する策を練っている所だ」
ランスは調子を完全に取り戻した。改めて握られた魔剣カオスを握りしめる。
「これは、あの美女をずーーっと封印してた剣だろ? ボンクラ、なまくらじゃない。つまりは、コイツで オレ様のスーパーな一撃を喰らわせればそれで済だ」
間違えては無い。
カオスは魔人を斬る事が出来る。……そして、魔王も例外ではないのだから。だが、ユーリは 出てくるため息を止めず、あからさまにしていた。。
「無言でため息吐くんじゃない!」
「……それが出来てりゃ、話が早いだろうがっていう無言のアピールだ」
それは いつもの2人のやり取り。2人を見てきている者が視ればすぐにわかる。本当にいつも通りのやり取りだった。
顔を合わせれば何かと言い争っている2人。
だが、言い争っている……と言うのは言葉の綾だ。2人は仲の良い兄弟の様にも見えてしまうから。心情では 思いっきり否定したい気持ちも、今は頼りになり過ぎる2人を見たから、今は息を潜めた。
そしてそれは連鎖していく。
「……当然、よ。負けない。絶対に、負けない」
「リーザスを取り戻す……っ 絶対、私は あの時に誓ったんだから……っ」
志津香とかなみ。
ユーリとランスに負けずと劣らない程の仲の良さがあり、色んな意味で良きライバル。魔王を前にし、心底震え動く事さえままらなかったが、それでも今は違う。前に足を出す事が出来る。進む事が出来る。例え、相手が絶対的な死を齎す魔王であったとしても、座して待ったりはしない。
「ふふ……。まー いつまでも、固まってちゃ話にならないわよねぇ。まだまだヤリたりない、飲み足りない。人生謳歌はこれからだし」
「そりゃそうだ……。ここがゴールだってんだからよ。最後の最後で根性ださねぇとだ」
ミリ、ロゼ。
いつもは大体がトラブルメーカー。
だが、こういう時は 身体の髄から恐怖し、殆どの者が委縮して動けない状態において、その軽口がどれ程救われる事だろう。この2人でさえ萎縮し言葉さえも出しにくそうにしていたのに、今は違った。ランス同様、楽に慣れた様だ。
「勇ましい事極まれり、だ。今に始まった事ではないが女は強い。この場でも素を出せるとはな」
「……ええ。同感です。ですが、彼女達に二番手を譲る訳にはいきません。……我らが出なければ」
「当然だ」
リックと清十郎。
戦う事が何よりの褒美……と明言しているのは清十郎だが、性質においてはリックもそう違いない。この戦争で互いに高め合う間柄となり、無二の戦友と呼べる間柄へとなった。それはこの解放軍皆にも言える事だが、共に傍で戦う時間が一番ながいのがこの2人だったから。
そんな2人でも 魔王の……魔の頂点の気配には 例外なく気圧される。だが、それでも前に立ち、攻撃をする自分達のリーダー的な存在……ユーリ。そして例外ではあるものの、その気質十分なランス。
実に対照的な2人ではあるが、そんな2人を、そして 臆さず怯む事もない女達を見て、魔王の威圧を容易に跳ね返せるだけの力を得た。
「……私達は、神がついてくれています。ぜったい、ぜったいに……っ」
「はい。そうですね。ここで私達が負けてしまえば、人類は終わります。それは神も望んでいない筈でしょう。……私は死んでも皆さんを治します。セルさん。頑張りましょう」
「は、はい!」
クルック―とセル。
AL教の神官である彼女達も流石の魔王を前には身体が固まってしまっていた。何とかユーリを回復する事は出来たが、回復する為に魔王や魔人に深く近づき過ぎてしまった。前にはユーリがいてくれて、リックや清十郎も同じくカバーをしてくれたのだが、それでも圧倒的な魔の気配をその身に受けた。それは他の誰よりも強く現れていた。
でも、それを精神力で振り払い、他の者達と同じ様に戦う事を強く胸に想いながら身体を奮い立たせる。ここで崩れれば終わりである事を強く意識して。そして 絶対に皆を守る事を意識して。
「……自棄を起こしてるって訳じゃなさそうだな。ほんと……お前ら人間ってヤツは……っ!」
この中では人間よりは 魔王や魔人に強さにおいても種族においても近いと言って良い存在の悪魔フェリス。それでも、相手2人は……従者位置になっているノスに至っても遥かに自分自身を凌駕している。あの2人に抗えるのは 悪魔であっても上級悪魔に分類される者でしか無理だと言う事はフェリスにも判る。
でも不思議と逃げると言う手は考えられなかった。例え命令が無くても、ここまで深く関わってしまった者達を見捨てて逃げる様な事は……。
「マリス……」
「はい。……皆さんを、ランス様を、ユーリさんを……信じましょう」
「……うんっ」
リアとマリス。
魔王ジルが降臨した時点で その身体を震わせ立つことも出来なかったリアの傍にマリスが身を徹して守りに入っていた。決して口には出さないが、魔王が現れた時 死を意識した。ランスが率先して駆け出していったが、それでも希望は一切見えなかった。だからリアよりも先に、一秒でも長くリアを生かす為に、いや 身代わりにさえ考えていたのだが、もう1人の男のおかげで考えが180度変わった。
死ではなく生への執着へと。
そんな人間達の眼に希望の光が再び瞬き、灯るのを感じたのだろうか、ジルはゆっくりとした仕草で口許へ手を宛がい、仄かに笑みを浮かべていた。
「―――久しい、な。この、感覚」
思い返すのは、魔剣カオスを手に挑んできたガイとその仲間達との決戦。
魔王を前にしても決して怯む事なく、臆す事もなく挑んできた人間達。結果は――ガイの自滅と言う形ではあるが、勝利を収め、ガイの仲間達は全滅。ガイ本人も魔人化させた。
そして月日は流れ、運命の再戦の場。
愛人であり魔人筆頭ガイの謀反。魔剣カオスを携えただけでなく、同じく魔王を斬る事が出来る 聖刀日光 を携えた当時の勇者が同行し 遂には心臓を貫かれ、封印された。
「―――似ている。そう、だ。その眼だ。そんな眼を……して、いたな」
この場の全員を満遍なく見渡すジル。そして口許を歪ませた。
「……ノス」
「っ……! は、はっ!」
怒りで我を忘れる寸前だったノスを呼び止め、傍らへとやった。
「……少しでも、力を――。用意、致せ」
「ジル様。今彼奴等を始末しては……?」
「く、くく……。少しでも、万全で臨んでやった方が、良いだろう? ……良き戯れだ。久しく、忘れていた感覚、だ」
言葉を発する度に不穏な気配が場に充満していく。
ジルの殆ど変わらない表情が僅かに崩れたのを見たノスは 直ぐに行動に移した。
身に纏うローブを広げ、ジルを覆うと光が生まれた。
「ちっ……、転移魔法、ゲートコネクトの光」
それを見たユーリは直ぐに察した。
光の正体、それが転移魔法であると言う事に。
「だぁぁぁ! 逃げるなぁ!」
ランスもユーリの言葉を訊いたからか、逃げるのだと言う事を察し、飛びかかった。
だが、それが届く事はない。
「命拾いしたな。人間ども……。次は必ず。………必ず、殺す」
ノスの殺気に満ちたドス黒いなにかがこの場に叩きつけられる。
そして、その視線の先にはユーリがいた。ノスの最大のターゲットにされた様だ。
「ちっ、逃げられた。役立たずユーリ。とっととあのクソじじいを殺さないからだ」
「あの一撃程度でノスを殺せるんなら、とっととリーザスくら救えてる」
完全にこの場にいなくなったのを悟るとユーリは少しだけ力を抜き、剣を収めた。
「ユーリ」
「あぁ。大丈夫だ」
志津香が駆け寄り、ユーリの状態を確認する。確かにユーリは見た目問題ない様だ。あの全回復の神魔法のおかげだ。
「少し、気の抜けそうな状況だが……、まだ安心は出来ん。……フェリス。まだあいつらはここにいるだろ?」
「ああ。あの魔王の気配……ここからは消えたが、直ぐ傍に感じる。まだリーザス城の中だ」
傍で控えていたフェリスは 視線を鋭くさせながら天井部を見た。
恐らくはこの上に……リーザス城の最上部にある玉座の間にいるのだろう。魔王だから、ありきたりな場所だとは思えるが。
「決戦の地は上か……。持ち越しだな」
「…………」
清十郎とリックは フェリスと同じく天井を見据える。
彼らも邪悪な気配、魔王の気配を正確に感じ取っている様だ。あれだけの気配を間近に浴び、忘れられる訳がない、と言うのが正しいかもしれない。
「いやはやー。流石に生きた心地はしなかったわねぇー。もうこんなの嫌だから、アイテムたーーっぷり渡してあげるから私は次は遠慮しとくわ。あの魔王前じゃダ・ゲイルも滓みたいなもんだし」
「自分の使役してる悪魔を滓って……結構酷いなロゼ」
「しょーがないじゃない? 寧ろ、『あれをやっつけちゃって~』って自殺命令を出す事に比べたらさ?」
「そりゃま、そうだな」
一先ず目の前にあった脅威が去った事に流石に安心するロゼとミリ。
「超絶な美少女が逃げてしまったが、まだ城にいるのは朗報だな。がははは! 今度こそおいしく頂いてやるぜー!」
上機嫌に笑っているランス。
「きゃー! 流石ダーリンっ!」
横で喜んでいるリア。
「はぁ……、あんなの見た後なのに、なんでこの馬鹿は……」
「まぁ、ランスだし……。仕様がないんじゃないかな」
そして呆れ果てる志津香とかなみだった。
ページ上へ戻る