インフィニット・ゲスエロス
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17話→ISという名の兵器
前書き
七年後の世界は、どう変わったのか?
メールを確認した後の一夏の行動は迅速だった。
素早く着替え、財布と携帯を持って外へ。
ものの五分もしないうちに、彼は既に電車に乗っていた。
電車内で手早く、まだ寝ているであろう姉にメールを打つ。
思い出されるのは、兄が居なくなってから仏頂面の多くなった姉の顔。
(姉さん、喜ぶだろうなあ…………)
本人はむきになって否定するかもしれないが、姉にとっても、太郎兄さんは特別だ。
俺が待ち受けにしている写真も、自宅の机に飾ってあるし、高校時代買って貰ったペアリングは必ず薬指に嵌めている。
まあ当人は、買って渡されたから仕方なくだ!と言って聞かなかったが。
『姉さんへ、兄さんから連絡が来たので会ってきます』っと。
短く文章をまとめると、姉に向けて、一夏は太郎の帰還メールを投げた。
最寄りの駅を降りて、IS学園に向かう。
「ISか…………」
駅構内までデカでかと張られているそれに、一夏は正直、苦いものを感じた。
IS(インフィニット・ストラトス)
兄・姉、そして箒の姉である束さんが作り出し、研磨した兵器。
たった500機足らずしかないのにも関わらず、約七年前より、全ての既存であった兵器に代わり、ISは世界の兵器の頂点に立ったモノである。
全ては七年前に始まった。
【白騎士事件】
世界中の兵器が、日本に牙を向けたその事件、幸運にも、殆どの兵器は無効化され、撃ち漏らしたものも、『理由は不明だが』日本に着弾する前に起爆し、幸運にも死傷者ゼロとなった事件。
これ自体は喜ばしいことだ。
だが、この後が問題だった。
始まりは、意図しない三人と兵器の宣伝からだった。
会社の宣伝のためか、事件直後にISの開発提携をしていた社の役員の一人が、三人の情報とISのスペックをネットに放出。一躍、三人は時の人になった。
まあ、この時点で兄と束さんの行方が知れず、メディアにさらされたのは主に俺と姉さん、後は山田家と篠ノ之家の家族だったが。
これはまあ、大変だったが、兄さんの手紙にあった更識?家とかいう番号に電話したら、直ぐにメディアがピタリと来なくなったからまあいい。
問題となったのは、戦後処理だ。
兵器を日本に向けて撃った先進国側は、その日、全ての首脳が直接来日し、言った。
内容はFBIの調査により~とか、我が国の調査により~など千差万別だが、言いたい事を噛み砕けば中身は一つ。
『なんだが分からないのですが、勝手に兵器が動いたんです』
日本、流石に遺憾であるでは済まさず激怒。
すわ開戦か、という緊張感が漂う時に出てきたモノがあった。
これが歴史の教科書に出てくる、通称『ピース・ノート』である。
篠ノ之束の分析結果を山田太郎が翻訳し、書かれたそれに、正確に何がどう書かれているかは、国家機密として秘されているため不明だが、一番重要な中身は公開された。
内容としては至ってシンプル。
今回の事件の犯人。特殊なウイルスプログラムの現時点での分析結果である。
各国は狂喜した。
なんせ、不可能犯罪の答えが目の前に出てきたのだから。
一部の穿った見方をする人間は、これは太郎兄さんと束さんのマッチポンプではないか、と疑ったが、それならばわざわざ各国に教える必要がない。
それに、各国は既に今回の事件のせいで、内部の平和主義者や人権団体から、死ぬほど追い詰められていた。
とりあえず、各国は素直にこの出された蜘蛛の糸にすがることにした。
賠償金は支払うが、今回の件は意図してないものだと日本に理解を求める国々。
日本は、正直納得はしたくはない。
しかし、日本VS先進国他全て、というのは現実的に不可能である。
例えば、食料自給率だけで考えても半数以上を輸入に頼っている現状、あまりごねても、どちらにとっても不幸なことにしかならない。
そのため、政府は最終的に賠償金に危険にさらされた国民への慰謝料を上乗せすることで納得することとなる。
これで、とりあえず『今回の事件』の後始末は完了した。
だが、問題はまだ残っていた。
今回の件をウイルスの責任にすることは良いが、国防の要足る戦艦、戦闘機が感染したウイルス、その具体的な対策が現時点ではできていない以上、何かウイルスに対抗できる兵器がなければ、国が無防備になるという問題である。
無論、コンピューター制御されていない銃器や一部の戦車、飛行機は問題なく使えた。
だが、民間人の携帯すら高機能になっている昨今、そんな旧世代の遺物はあまり数もないし、そのようなマニュアル操作を多く残す兵器を操れる、いわゆる2次大戦のエースは既に退役しているか鬼籍に入っている。
これをメインにして軍を再編成することは、難しかった。
しかし、その点については、各国共に心当たりがあった。
ウイルスに感染した兵器と至近距離で戦って、かつ暴走等を起こさなかった兵器が具体的なものとして一つあったからである。
そう、当時暴走していた兵器を止めた兵器、IS【インフィニット・ストラトス】である。
勿論、それが百パーセント今回のウイルスに感染しないこととイコールではなかったが、ウイルス解析をした二人も噛んでいる高機能の兵器である。可能性は非常に高かった。
結論として、各国はこぞってその兵器に希望を見いだした。
加害者としてけじめをつけた後、各々水面下で動く世界中の国々。
そう、あの日から、世界はISに夢中になったのだ。
(まあ、そう各国の都合良くはいかなかったけどね)
当初、世界に名だたる篠ノ之束&山田太郎の作品とはいえ、現品を各国の科学者達に見せれば解析、複製できると思っていた。
だから、各国はある程度の金額を支払い、サンプルとしてISを1つ~3つづつ買い上げるだけに留めた。
それが、致命的な勘違いだと気付いたのは、半年ほどたった頃だった。
解析仕切れない、『どの国』も。
そう、製造国である日本すら国が集めた科学者すべてをもってしても、解析、複製が出来なかった。具体的には、全ての要となる、『ISコア』が複製不可能だった。
更に不幸は続く。
この兵器は、白騎士事件の後、全てのコア起動が、女性以外、出来なくなっていた。
いや、正確なことを言うと、正規のISコアを起動すると、このような表示が出て、装着がキャンセルされた。
『このISコアは、外部からの攻撃により、現在一部の例外を除き、男性のIS装着をお断りしております』
軍の性質上、ほとんどが男性で構成されている各国軍事関係者、非常に困る。
だが、前述した通り、ISコアを解析できない各国は、セキュリティ解除を試すも、結果は不可であった。
各国、発明者コンビに会うために日本国にコンタクトを取るも、現状、二人の行方が知れず、不可能と返答。
それでは家族から、と考えようにも、いかなる伝を使ったのか、その頃には二人の家族も行方が知れず。
少々強引に調べようのしたエージェントは、『雲隠れ』をしたらしく、現在でも行方が知れない。
そして、窮した世界に残されたのは、たった500に満たない製造済みの『ISコア』のみ…………。
そこから世界は、果てし無いISコアの取り合いを始めた。
七年たった今も、各国は、ISコアを巡り争いを続けている。
「下らねえ…………」
正直、一夏にとって、いまや全世界の国防の要になったISの感想は、それだけだった。
織斑家は国から莫大な金額が支給され、姉は勲章すら受勲した。
だから何なのだ?
兄に気軽に会えなくされた上、仲が深い友人以外には遠巻きに見られるか、親の命令で媚を売られる日々。
正直、くそ食らえだった。
『ISが女性にしか使えないのは、旧軍隊の男性優先の体質に篠ノ之博士が異論を唱えるための……』
宣伝カーが下らない暴論をがなりたてる。
七年前から声が大きくなった女尊男卑主義者の下らない放送も、更に一夏を苛立たせる。
(何も知らず、何の努力もしてない奴等が勝手言いやがって)
兄の存在を貶めて、篠ノ之博士のことばかりを持ち上げるコイツらが、一夏は大嫌いだった。
嫌なものをなるべく見ないように、一夏は早足でIS学園に向かった。
後書き
論理的に正しい事だけが世の中に溢れているのなら、戦争なんて起こらない。
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