ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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相談-コンサルテイション-/part2
10分ほどの休憩終了後、再びサイトたちは集まって学校行事について引き続き話し合うことになった。
しかし、キュルケがまた舞踏会をやろうだの、モンモランシーの遠乗りだの、結局何も変わらずじまいだった。
(みんな好き勝手言うばかりだな…)
何も変化がない仲間たちにサイトはうんざりしかけていた。
「え、ええっと…他に何か意見はないですか?さっきすでに発表したこと以外でお願いします」
後半からの司会だが、地球で学級委員の経験があるハルナが行っていた。当初はギーシュがしきろうとしたが、全くかじ取りができなかったので、結局彼女が自ら率先して勤めていた。
「なぁ、自分がやりたいだけの意見じゃなくってさ、もっとこう…みんなで作って楽しめるものを考えてくれよ」
「そういうあんただって、故郷の出し物をそのまま口にしただけじゃない」
ルイズの横槍にサイトはうぐ、と喉を詰まらせる。
「平賀、少しいいか?」
そこでシュウがサイトに向けて挙手した。
「な、何かいい案が浮かんだのか?」
「案というか、意見だ。『俺たちの手で作る』という条件さえ満たせば、舞踏会でも遠乗りでも問題ないはずだ」
「なるほど。それなら…こうしてみてはどうだろうか?」
クリスがシュウの意見をもとに、何かを思いついたようだ。一同が話に耳を傾ける。それは、彼らにとって意外なものだった。
「平民に向けた舞踏会!?」
ルイズたち貴族組全員が、まるで申し合わせたように声をそろえた。
「これなら、今回の行事の条件でもある『我々の手で開催する』という条件も満たせる。それでいて、ルイズが言っていた有事の集団行動で互いに慣れた動きで迅速に行動できるはずだ」
「いいじゃん!まさに文化祭って感じがする!」
クリスの提案に、サイトは興奮気味だ。だが、その突飛に思える発想に対し、真っ先にモンモランシーが食いかかってきた。
「ありえないわ!貴族が平民を舞踏会に招くなんて!」
「そうだよクリス。何を言うんだい…」
ギーシュも強く抵抗感を見せている。
「待ってください!クリスさんの考えを聞いて見ましょう」
ハルナが難色を示す一同に向けて言い放ち、クリスの話に耳を傾けさせた。
「この催し物の目的に有事の際の連携があるが、平民のことを我々は忘れてはいないか?本来、我々貴族は平民の上に立って彼らを導く者。だが我々はその平民のことをよく知らない。それでは有事の際に彼らの手を借りて行動する必要が来たときの障害になりかねない。まずは彼らの立場に立ち、彼らのことを知るべきと考えている」
「言われてみれば一理あるが…」
「別に大丈夫だろギーシュ?俺達、ウェザリーさんの舞台に出たときに、魅惑の妖精亭のみんなと一緒に演劇しただろ。むしろ経験者じゃんか」
「ほぅ、そうなのか」
「そんなに軽く考えないでよ。あなたは良いわよね、平民だからそんな風に言えるんだから…」
サイトの話にクリスは関心を寄せたが、モンモランシーは軽く謂ってくるサイトにため息混じりに言い返す。あの舞台だって本当なら、実家にバレたりしたら大事になっていたに違いなかった。
「でも他に案なんてないでしょ?あたしは面白そうだから構わないわ」
「私もやっていい…」
「二人とも!?」
キュルケからは賛成、タバサからはどちらでも構わないという意見が出たことに、ギーシュとモンモランシーは目を見開く。
「私も構わないわ。サイトの言うとおり、すでに平民たちと一緒に行動したことがあるもの。さらに連携を深めるために必要なら、クリスの提案に賛成するわ」
さらにルイズも賛同したことで、サイトは目を輝かせた。
「それじゃあ、他に意見はないですか?私もこの案がいいと思うんですけど、他に何かあれば…」
司会者としてハルナが最後に、この話し合いに出席している面々に意見を求めた。
「…こうなっては仕方ないな。なら僕もクリスの案に乗るとしよう」
「はぁ…まぁ確かに、抵抗はあるけど、クリスのその案自体は悪いとは思わないわ。ギーシュが何かやらかさないかもみないといけないし」
だが、難色を示していてギーシュやモンモランシーも含め、誰からの反論もなかった。
「みんな、私の案に賛同してくれて感謝する。みんなでいい行事にしよう」
こうして、クリスの提案した『平民に向けた舞踏会』を行う方針でいくことになった。
これでクリスがクラスのみんなと、そして手伝いを頼むことになったシュウがテファとの間にできた溝を埋められるきっかけとなればいいのだが…その結果にサイトは望んだ結果が出ることを祈った。
クリスの提案である平民への舞踏会を行うことが決まり、話し合いが終わった後でシュウはテファとリシュの待つ部屋に戻った。
「サイトたちの、お手伝い?」
「ああ。ビーストとの戦いもないし、アルビオンへ向かう手段もない今、何もやることがない。少しの間だが平賀達の手伝いをすることになった」
「そう…」
しばらく彼が戦いに出ることがない。それはよい知らせだと思った。だが騒ぎたくなるような程の喜びではなく、あくまで一時の安心だけにしかならないのではという不安と疑念があった。もしまた、人に害をなす脅威がでれば、彼はきっと…。
「やはり安心したか?」
「え?」
ふと声をかけられ、テファは顔を上げる。
「俺が戦わずに済むことが」
「…ごめんなさい。私たちがこうしていられるのは、あなたのおかげだってわかってる。でも…」
テファはそう聞いて、少し沈黙した後、頷いた。どうやら自分が何を考えているか見抜かれていたようだ。彼が自分以外のために傷つき続ける姿は、何度思い出しても痛々しすぎた。特に自分を守ろうとしてくれているときが、その重さを物語っていた。
「…いいさ。俺もお前たちから目を背けていた。簡単に許していいことじゃない。だから、謝るべきは俺の方だ」
シュウは首を横に振る。
本当は、わかっていた。自分を心配してくれる人たちの思いを無視することもまた悪いことなのだと。でも、自分の周りで次々と悲劇が起こる。悲劇を生みたくないと努力したのにそれらがことごとく裏目に出る。彼が贖罪と称して周りからの救いを拒否したくなるのも仕方なかったかもしれない。
「ティファニア…戦いを止めた今、俺はこの先何をすればいいのかわからない。暇つぶしに平賀の頼みごとを聞いてるのも、今の俺にはないからだ。夢も希望も…」
視線を落としながら、シュウは続けていった。
「アスカは、俺に『終わったなんて言ったらだめだ』って言っていたが…もう俺には、以前のように人を守るために戦ったり、それらに役立つ何かをする気力は…ない」
昔から願っていた。人の暮らしが豊かにしたい。誰かを守りたい。そのために幼い頃から、プロメテの子として研究と発明を繰り返した。そのはてに戦士としての鍛練も積んだ。でも…全てが思い通りに行くことはほとんどなかった。支えてくれる人たちが、傷つくばかり。
「今でも怖いんだ…俺が、誰かの平穏を乱すだけになることが…」
己の両手を見つめると、これまでの戦い、愛梨との死別、アスカとの別れの光景が頭を過り、それが彼の手を小刻みに震えさせた。
「言ったでしょ?もう戦うことをやめて、休めば、きっと…誰もあなたを狙わない。
全部忘れて…なんて言わないけど、一人で抱え込まないで?今まで助けてもらったんだもの。吐き出したくなったら、何でも言って?」
「…ありがとう」
シュウは、らしくなく誰かに甘さを見せていることに気づいていた。少年時代に新宿で最初のビースト、ザ・ワンによって死する人たちを、内戦地でセラたち現地の人たちを守れず、それで心が折れかけた自分を支えてくれた愛梨も失い、この世界でも自分を助けようとしてくれたアスカにただ守られ、何度も罪を重ねてきた自分が…こうして目の前にいる少女に甘えてしまう。
許されるはずがない…そう思っていても、度重なる地獄のような現実に、贖罪をかねた戦いに心が疲弊した彼に、この優しさと安らぎに満ちた時間を捨てるほどの気力はなかった。
「ねぇ、さっきから何のお話してるの?」
「子供には関係のないことだ。適当に流せ」
リシュが横から聞いてきたが、聞かせるのも面倒だし、まだ子供の彼女が理解するには時間がかかるに違いないので、シュウは突っぱねるように言った。リシュは不服そうに口を尖らせた。
「シュウ、ティファニア。ちょっといいか?さっき言い忘れてたことがあったんだけど」
すると、扉の向こうからノックする音が聞こえてきた。テファが「はい、どうぞ」と許可を出し、サイトが入ってきた。
「テファ、シュウから今度俺たちが行うことになった行事について話は聞いた?」
「え、ええ」
「テファもシュウもここに来てからまだ日が浅いだろ?
それに ここに来るまでの間に何度も辛いことがあって、外の世界のこと怖がってるんじゃないかって思ってさ。
でも、だからってここでずっとじっとしてるのもなんだし、学院の仲間との親睦を深めるって意味も含めて、君も手伝いがてら、参加してほしいと思うんだけど、どうかな?」
サイトからの提案に、テファはえ?と声を漏らしながら目を丸くした。
「えっと…」
外の世界を見たい。確かにサイトの言う通りの願望があった。でも、恐ろしい怪物や闇の巨人たちと、シュウの身を裂くような戦いを見続け、外の世界への不安を感じていた。サイトはそんな自分にも気を使ってくれていたのだ。
だが自分だけで決めていいのだろうか。戸惑いと迷いが表れていた彼女は、視線をシュウに向けた。
「…平賀、この世界ではエルフは疎まれているのだろう?身の安全を考えると…あまりお勧めはできない」
シュウはテファの身の安全を第一とした意見を述べた。
「それはそうだけどさ…このままじゃかわいそうだろ?あんただって、テファに対して思うところもあるだろうし…」
サイトもシュウの意見には理解を示すも、だからといってこのままでいいとは思えなかった。だからシュウを説得しようと思ったが、シュウが遮るように話を続けた。
「ああ、確かに。俺にお前の我儘を断固反対する権利はないし、最後に決めるのはお前だ。やりたいと思うなら反対はしない」
彼は最後の判断を彼女自身に委ねた。シュウにとっても、これは自分だけで決めていいことではない。どうしても参加したいのなら反対はしない、その意向を示した。テファはそれを聞いてやや困ったような表情を浮かべた。
「シュウ…いいの?迷惑じゃない?」
「俺のことを気にしなくていい。寧ろ俺の方が迷惑をかけたことが多々あったんだ。やりたいなら素直に言っていい。さっき何でも言えと、お前自身が俺に言ったはずだ」
そう言われて、さっき自分がシュウに対して、何でも言ってほしいと願い出たのを思いだし、少し躊躇いながらも頷いた。
「…私、やりたい。私もやってみたい!」
「うっし、交渉成立だな!二人とも、よろしく頼むぜ」
テファも参加の意思を示し、サイトは笑みを見せた。
「むー…」
すると、リシュが不満そうに頬を膨らませながら唸りだした。三人は彼女は放ったらかしにされて怒っていることに気づき、リシュに何かできそうなことを手伝わせる形で参加させることにした。
その夜、キュルケは少し胸を踊らせていた。…物理的な意味ではない。
「平民に向けた舞踏会、ね…ふふ」
サイトが提案して始まった、生徒の手で行われる行事。面白いと感じたり、いい男には目がない彼女は強く気を引かれた。連日、祖国であるガリアからの無謀な任務のほかに、魔法学院襲撃でウルトラマンたちの戦いという危険にさらされたタバサにとってもよい刺激となるだろう。
それにしても、襲撃と言えば彼らのことが頭に浮かぶ。
一人はアルビオンで初めて会ったシュウという青年。もう一人はコルベールだ。
あのシュウという青年が、まさかあのウルトラマンの一人だったとは。なるほど、自分のような女が好ましく思わないのも頷ける。しかし、主であるティファニアとはうまくいっていないようだ。詳しいことはまだ聞いていないが、二人の間になにかあったことは間違いない。特にシュウは、まだ何か隠しているのだろうと思えた。あのコルベールが、実はかつてアニエスの故郷を焼き尽くした張本人で、学院を襲ったメンヌヴィルとは上官と部下の関係だったように。
戦争をあれだけ否定し、臆病さを積み隠さなかったがために、情けない臆病者だと思っていた。でも、愚かだったのは自分達の方だと、あの時キュルケは気づいた。迫り来る死の恐怖。それを自分の手で相手に押し付け命を奪った後悔。それをコルベールは知っていた。それもわからず、死を畏れず戦うことが勇敢な、加えて容姿の整ったいい男で、そんな男となら結ばれたいと今までの自分なら思っていたが、違う。死の恐怖を知らず戦うのは、ただの命知らずで、本当の勇気ではない。恐怖を知った上で、命を懸けて戦うことが本当の勇気だ。そんな恐怖と、コルベールやウルトラマンは向き合ってきたのだ。
窓の外を眺めながらキュルケは、これまで自分が男の外見と力の強さしか見えていなかったことに気づき、それを恥じた。
(あたしも男を見る目がまだまだだった…ってところね)
しかし、この事がむしろ自分にさらに火をつける。この経験と認識が、さらに自分が結ばれたいと強く思える男に出会える確率が…いや、既に見つけていた。
そうとわかったら明日、早速アプローチをかけなければ。他の誰かが手をつけてしまう前に。
部屋に戻ろうと上の階へ向かう最中、彼女は廊下の窓の外を見て、ふと足を止めた。校舎中央の塔のバルコニーに、誰かがいる。
(こんな時間に?)
夜更けにあの高台に上る生徒や教師はほとんどいない。まさか誰か身投げでもする気なのだろうか?でも警部兵たちが騒いでないし、フーケ事件での見回りの怠慢さを見直された教師陣も騒いでいない。不法侵入者の可能性もある。実際フーケもメンヌヴィルのいずれも、警備は意味をなさなかった。
別に警備兵の真似事というわけでもないが、危険な奴かどうか確かめるのもいいだろう。その後は誰かに知らせればいい。…以前と変わらない好奇心が大きいが。
キュルケは中央の塔のバルコニーへ足を運び、たどり着く。
そこにいたのは、青い髪をした同じ年くらいの少女だった。
その頃…。
ティファニアは一人、自分に与えられた部屋から、夜を照らす二つの月を見上げていた。リシュはシュウになついているため、彼の部屋で寝ている。
昼間、シュウが言った言葉を思い出していた。彼が人を守るために戦う。それはすごく立派なことだと思っていた。でも…知ってしまった。戦い続けるほどその身に地獄が降りかかるのだと。彼自身もすでに精神的の限界を迎えていた。
しかし幸い、シュウは自らの無謀さを詫びた後、少しずつだが出会ったころのような落ち着きを取り戻し始めていた。同時に、どこか柔らかくなった気もする。彼はすでに戦いに赴けるような気力を持っていない。それは、彼が傷つくたびに心を痛め続けていたテファにとって、不謹慎だとは思っていても、安心を抱かずにいられなかった。
そして今回、サイトが提案したという、魔法学院の生徒たちによる学校行事のこと。これの準備の手伝いが自分とシュウにも持ちかけられた。久しぶりに、平穏で楽しい日が自分たちに舞い込んでくるような予感がした。
(このまま…もう二度と、彼が戦わずに済めばいいのに…)
この静かな夜のように、平穏であれば…そう願わずにいられなかった。
しかし、この時誰もが気づいていなかった。
邪悪な影が、シュウを常に狙い続けていた。
彼が平穏を求めることを徹底して許さないとばかりに…
ジャンバードや改造ロイヤル・ゾウリン号の解析のためにトリスタニアに残っていたムサシ。彼はロイヤル・ゾウリン号の中である作業を行っていた。ヤマワラワもムサシに付き添いできている。彼はこの世界では世にも珍しい珍獣。どこぞのマニアに目をつけられたりして、彼を刺激すると怒って50mを超える巨体になってしまう。幸いこの世界では地球から見ても珍しい生き物がメイジの使い魔として存在していることが多いので、ヤマワラワはこの世界に留まっている間はムサシの使い魔扱いだ。
自身が元の世界から持ってきたものは少ないが、最低限持ってきたものはある。EYESに所属していた頃から携帯している小型銃ラウンダーショット、腕時計型通信機EYESペーサー、また個人で怪獣の探査と解析が可能な機器をつめているアタッシュケースだ。すでにEYESペーサーはサイトのビデオシーバー、シュウのパルスブレイガーとは、ジャンバードを介して連絡が取れるように回線が繋げられている。
今彼が行っているのは、ロイヤル・ゾウリン号の解析だ。ラウンダーショットに搭載されている分析用スキャナーで、船体を覆っている特殊な金属を見ている。
解析データが展開されたモニターにあまたの数値で示されていく。
(やはりただの金属じゃない。僕らの世界に飛来した宇宙人たちの宇宙船を覆っていた金属にも匹敵する固さ…)
続いて操舵室にも彼は入ってみる。かつてのように舵が着いているが、元々の木造の上に金属の補強材等が加わっただけの頃と違い、全てが硬質な宇宙金属で構成されている。さらに言うと、自分が所属していたEYESの作戦指令室にも匹敵する精密な機械がびっしり張り巡らされていた。
(この機体、どう考えてもこの星の技術で作り出すことはできない。この星に入り込んだ宇宙人が手を貸してるのは間違いない。でも、今の問題はそこじゃない。
この機体が安全かどうかと言われると…)
ムサシは、もう10年近くは経った今も覚えている。彼のいた地球の防衛軍は、ムサシが所属していたEYESと同じく地球の平和を願う組織でもあるが、手段と考え方の違いから対立することが多かった。ムサシたちが怪獣も地球の生き物であり、むやみに殺すことは許されない、共存できるよう保護に力を尽くすべしと考えていた一方で、防衛軍はその真逆…怪獣や星人による犠牲を避けるために、危険と見なしたものにすぐに武器を振りかざし攻撃を徹底していた。しかも防衛軍には、特にタカ派思想が強い上官がおり、完全に間違っているとまでは言わないが横暴が過ぎる人でもあったのでタチが悪いイメージが強かった。
そんな対立する組織同士が、当時のカオスヘッダーの脅威が強くなったことが関係して手を結んだ。しかしここでも防衛軍は懐疑的な手段に手を染めた。
地球を侵略しようとした『潜入宇宙人・ベリル星人』の残した『侵略変形メカ・ヘルズキング』を防衛兵器として再利用することだった。
ウルトラマンコスモスに救われることが多かったことで、いつまでも彼に頼るわけにいくまいという当然の理由を持っての計画だったが、ムサシはこの計画に嫌な予感を感じていた。不幸にもそれが的中した。コスモスと同等の地球の守護者として生まれ変わったはずのヘルズキングは、ベリル星人が自分たちの技術を利用された時に備えて組み込んでいた防衛プログラムによって、再び人類に牙をむいた。結局その際もコスモスとEYESの共同戦線によってヘルズキングは停止したが、このこともあってムサシは、人間がよその世界の技術に手を伸ばすことに対して、嫌な予感をよぎらせずにいられなかった。
(サイト君にはルイズちゃんに召喚された時に与えられたガンダールヴの力がある。あれにはあらゆる武器を、触れただけで理解し使用できるようになるという力があるけど…)
ムサシは一瞬、サイトの持っていたガンダールヴの力に頼ろうと思ったが、すぐにその考えをやめた。このような希望的観測で、本当にヘルズキングのようにこの船が暴走でもして、トリスタニアの街の人たちに被害を加えたりしたら、所詮別次元の地球人である自分に責任なんて取れない。
一度ジャンバードに戻りながら、思案するムサシを案じてか、傍らにいたヤマワラワが顔を覗き込んできた。
「ウゥ?」
「…あぁ、大丈夫だよ。少し考え事をしてただけだから」
身を案じているのだろうと思ったムサシは、身をかがめて目を合わせて微笑みを浮かべた。
「けどヤマワラワ。今更だけど、君もよかったの?本当なら、友達であるティファニアちゃんの傍にいたかったんじゃないかな?」
そのように問われたヤマワラワだが、首を横に振った。コスモスペースの地球からさらわれ、この星でティファニアと友達になった矢先にシェフィールドの呪縛に囚われ操られてしまうという不幸に見舞われた。その分だけ、友達であるテファともっと触れあいたいと思っているはずなのだが。
「そっか…」
しかしムサシは、ヤマワラワが首を横に振る理由も思い当たった。初めて任務でヤマワラワと遭遇した時のことだ。テファよりも前に、ヤマワラワは現在では家庭を持ったとある男性とも友達だったこともあり、彼が大人になったことでもう彼と遊ぶことができなくなるという切ない過去もある。その経験が、ヤマワラワに我慢を覚えさせたのだろうか。
「…今、ティファニアちゃんは黒崎君とようやく歩み寄り始めたみたいだ。サイト君たちも学院で一緒に何かやってくれてるみたいだし、今度遊びに行ってみようか?」
「ウホ!」
ムサシからの提案を聞いて、ヤマワラワは喜びを見せた。これまで友達と出会って切ない別れを繰り返してきた彼は、やはり内心ではテファに会いたかったらしい。
ジャンバードに戻った二人。内部は、ムサシが手を付けた影響からか、少しばかり工具やら、壁から露わになっているケーブルが目立っていた。他にも、ムサシが簡易的に衣食住ができるように寝袋や、食料、服を収めた少し大きめの木箱が部屋の隅に置いてあった。
サイトたちによると、ジャンバードは現在の宇宙船形態になったり、タルブ村での戦闘で見せた戦闘モード携帯『ジャンボット』にもなれると聞いていたが、他にも何か隠された機能がないか探っていた。とはいえ、未知の宇宙船だ。壊して二度と使えなくしてしまわないように気を使わなければならない。シュウが初めてこの船に手を付けた時、近くに怪獣の反応を探知できるようにジャンバードの一部の機能を復旧させたことがあったそうだが、未知の宇宙船の機能の一部にそこまで手を付けられたシュウの技術力は予想を超えていると思った。立ち直りつつあるらしいので、今度ヤマワラワをテファに会わせた時は、彼にジャンバードを一緒に見ていきたいものだ。
「ん…?」
ふと、ムサシの耳に着信音が聞こえた。ジャンバードのモニターからだ。
モニターにトリスタニア周辺、およびトリステイン魔法学院までのルートを現したマップが表示された。シュウによって、万が一何か特殊な反応があったら、このようにトリステイン国内の電子マップが表示され、反応の発生地点を赤く表示されるようになっていた。
しかし、ムサシはその反応の発生地点に……目を細めた。
「この反応は…!?」
だが、その反応は長く持たなかった。
ちょうど外で、夜明けの朝日が立ち上っていた。それと同時に電子マップから反応は消えていた。
「今のは、いったい…」
反応があったその地点…それは、サイトたちが留まっているトリステイン魔法学院だった。
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