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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その25

 
前書き
橋の名前決定編。 

 
実はも何もなく、ごくごく当然の結果ですが、再不斬さん達が再襲撃してきた日。
九喇嘛の分身封印しようとしたカカシ先生を背後から襲っちゃっただけでなく、イナリ君を口で言い負かしてしまっていた事も先生にバレちゃったので、罰として私は一人でタズナさん達の橋作りの護衛かつ、お手伝いを言い渡されてました。
その際、サスケとサクラが、カカシ先生との修行とツナミさんとイナリ君の護衛任務を日替わりで交替しつつ、イナリ君との親睦を深めているのは知っていました。

が、何故今ここで、橋の名前にサクラの名前。

うん。
無い。

やっぱ、無いです。

私の名前も無いし、サスケの名前も無いだろうし、有るならカカシ先生かタズナさんか?と思わないでもないけど。
今回の役割的にはカカシ先生の名前も有りかもだけど、先生忍だし。
やっぱ、それも無しだよね、うん。

それだけが頭の中一杯を埋め尽くします。

確かに私はイナリ君を気に入らなくて苛めちゃったし、最初っからその可能性は排除してましたし、むしろこの結果にめっちゃくちゃ安堵を感じてますが、それとこれとは話が別です。
イナリ君のその主張に意義ありです!

満更でも無さそうに頬を染めて、柄じゃないと断りをサクラが入れたのを見逃さず、すかさずこの話題に嘴を挟みました。

「この橋に人の名前付けるなら、サクラの名前なんかを付けるより、もっと相応しい名前があると僕は思うな」

僕の掣肘にむっとした顔になったイナリ君が私を睨み付け、噛みついて来ました。

「何だと!?サクラお姉ちゃん以外の誰の名前をつけようってお前は言うんだよ!」

むっすりとした敵意と不満が渦巻く子供の顔に、ちょっぴり呆れがこみあげます。
町の人達も、イナリ君の意見に異は無いらしく、そこはかとなく不満げです。
そんな面々を、更に増した呆れ混じりに眺め回して、溜め息混じりに提案しました。

「タズナさんの名前だよ」
「え」

呆気に取られたイナリ君が、円らな瞳をこれ以上無く見開きました。
私の提案を聞いた町の人たちは、まるで何かを相談するかのように視線を交わし始めました。
そんな群衆など知らぬと言いたげに、私が名をあげたタズナさんが否定の声をあげました。

「ちょっと待ってくれ。それはワシが辞退したんじゃ。ワシは何もしておらん。この橋はワシら皆で造り上げたもんじゃ。その橋にワシの名前だけ付くのは道理が通らん。故に、辞退させてもらったし、ワシは嫌じゃ!!」

タズナさんの嫌がる気持ちも分からなくは無いですが、未だ貧しく、困窮しているこの国の皆さんには、心の拠り所ってものが必要だと思うんですよね。
なんとなくサスケに視線を送れば、肯定するように頷き返してくれたので、ぐうの音も出ないような反論ぶつけて黙り込ませてやりますよ。

ええ。
それはもう、容赦無く。

イナリ君にもケンカを売られましたからね。
言い値でそのケンカ買ってあげましょう!

「何言ってるんですか。本来だったら、うちの里への依頼にお金がないからって、嘘ついて依頼料ケチろうとしたタズナさんの木の葉隠れへの依頼は、普通なら受理されない案件だったんですよ?むしろ、里から制裁加えられててもおかしくない案件です。それを、全ては自分が責を負うからと、里の上層部にいかにこの橋が波の国にとって重要なのか説き伏せて、木の葉隠れの里として下した依頼不受理の決定を覆すくらい、うちの里の上層部の心を動かしたのはタズナさんじゃないですか」
「な、何!?」

動揺して、腰が退けていますけど、そんなタズナさんに対してこの私が遠慮なんかするもんですか!

さんざっぱら鬱憤溜めてきたんです。
お世話にもなりましたが、鬱憤も溜まってるんです。
タズナさん家の隣近所にどころか、町中に言いふらされた恨みは生涯忘れません。
忘れようもありません。
自分の望まない立場押し付けられて、精々自分の行い悔やむがいい!!
そんな事も気付きそうにもない鈍感かつ調子のいい野郎なので、むしろ押し付けられる人間像に窮屈さを感じてしまえ!!!

勿論、ちょびっと口を滑らせて話を大きく盛って仕立て上げてやりますよ!
だって私は、下忍なりたてのまだまだ未熟な忍者ですもの♪

「しかも火影様は波の国の事を一心に思い、危険も金銭的な負担も承知で、それら全てを自分が背負うと断言したタズナさんの心意気に惚れて、火の国の大名様に掛け合って、波の国の大名様に橋作りに関係する諸経費についての助成金を出してはもらえないかと掛け合う事すらされておられるんですよ?確かにうちの里の火影様は人格者でもあらせられますが、超一流の忍でもあります。当然、全ての判断は情を差し挟まない冷徹な物差しによって決断されます。そんな一流の忍揃いのうちの里の上層部の心を変えて、私達がここに来る切っ掛けを作ったのは誰です?うちの里まで危険を承知で依頼しに来たタズナさんでしょう?」

私が口にした助成金云々に少しざわついた人達を鎮めるように、私は尤もらしく言葉を紡いだ。

「勿論、たかが忍の里の里長の提案です。大名様方がご提案を受け入れてくださるとは思えませんし、受け入れて下さったとしても、実際にそれが交付されるのはいつになるやらなのは、皆さんだってお分かりでしょう?でも、明白な事もありますよね。身体を張って故郷の為、仲間の為に尽力して、この大きな橋を完成に導いたのは誰ですか?他でもないタズナさんでしょう?そういうのを英雄っていうんじゃないんですか?柄じゃなかろうが何だろうが、この波の国の英雄の名前以外、皆さんの波の国の未来への希望をかけたこの橋の名前に相応しい名前は無いって、僕は思いますけど。ねえ、サスケ」
「ああ。そうだな。しかもタズナさんは道中含めて何度もガトーの手の者の忍者に襲われている。にも拘らず、結果としてこうして橋は完成した。タズナさんの尽力なくしてこの橋の完成は見なかったとオレも保証する」

私が話を振ったサスケの言い分を聞いていたサクラも、素直に私の意見に同調してきました。

「確かにそうね。ナルトとサスケ君の言う通りだわ。私もこの橋の名前はタズナさんの名前がいいと思う。だって、確かにタズナさんが居なかったらうちの里は依頼を受けなかったし、そう考えると、確かやっぱりタズナさんは波の国の危機を救った英雄って事になるわよね!!」

サクラの言葉尻に被せるように、僕は言葉を繋げてあげました。

「こう見えても僕、英雄って存在については一家言あるんです。英雄ってのはつまり、如何に絶望的な環境に置かれたとしても、自分以外の誰かの為に、決して諦めず、未来への希望に繋がる行動を取れる人の事を言うんでしょう?そして、その行動によって現在の環境改善に成功すれば、そこに居る人々から救い主として持て囃され、失敗すれば、お前こそが自分達の不幸と不遇の現凶と罵られる。それでも構わないから、未来のためにと立ち上がる人の事を英雄と呼ぶんでしょう?そして、その行動がその土地に住む住人が掲げる象徴に都合が良いから担げあげられる存在でもあるんでしょう?だったら、タズナさんが英雄じゃなくて何だっていうんですか?波の国かつ、この街の顔役って点では、今と全然代わりないと思うんですけど」
「じゃ、じゃが!!」

未だに焦りを滲ませ、否定しようとするタズナさんに向かって、私はにっこりと有無を言わせぬ一言を言い放ってあげました。

「それに、ガトーにずっと命を狙われるなんて危険な役を、この橋が出来るまでずっと張り通して、橋を作ろうと声をかけて回ったのもタズナさんなんですよね?だったらやっぱり、タズナさんはこの波の国の皆さんが誇る、波の国の英雄に他ならないですよね?」

そう言いながら、同意を求めるように集まった皆さんの目を見渡せば、全員が全員、我が意を得たりとばかりに頷いてくれた。

「ナルトちゃんの言う通りだ!」
「そうだそうだ!」
「タズナさん。嫌がってるあんたには悪いが、やっぱりこの橋の名前にはあんたの名前しかねえと俺たちも思うぜ!」
「俺達にはまだまだ希望が必要なんだ!あんたの行動はその象徴だ!命を狙われて、それでも橋造りを諦めねえなんて、誰にでも出来る事じゃねえ!木の葉に助けを求める事もだ!やっぱりあんたはすげえ人だよ!俺達の誇りで、俺達の英雄だ!!!!」

話を振ったのは私ですが。
熱狂的に爆発した人が口走った私の名前をちゃん付けで呼ばれて、街の人達からそう呼ばれる事になったきっかけを思いだし、若干、装っていた笑顔がひきつりました。

私、やっぱりちゃん付けで呼ばれるの、嫌ですね。
この街の人達には!!!!
くそっ、タズナさんめええええ!!!!

恨みを込めて、熱狂する街の人に取り囲まれて狼狽えてるタズナさんに向かって、しっかりと毒を吐いておいてやります!!!!

「嘘付きで卑怯者でデリカシー皆無の、端からみればただの呑んだくれのダメダメ親父ですけどね!」

その途端、熱狂していた街の人達は水を打ったようにしんと静かに成りました。

「ナルト。ちょっとお前口が…」

静かになった街の人達に焦りを覚えたのか、カカシ先生が私の口を窘めようとした時でした。
どっと沸き立つような街の人達の爆笑が起こりました。

「違いねえ!!!!」
「こいつあ一本取られた!」
「良いじゃねえか、親しみやすくてよ!」
「そうだ、そうだ!俺達の英雄にピッタリだぜ、タズナさんはよう!なあ、皆!!!!」
「そうよ!呑んだくれの何が悪い!呑んだくれの俺達だって、やりゃあ出来るって教えてくれたのよ、タズナさんはな!よっ、橋造りの英雄タズナさん!」
「良いねえ!橋造りの英雄か!タズナさんにピッタリだぜ!!」
「橋造りの英雄タズナ!くぅ~、街の特産品もこれで何か作れるぜ、お前ら!」
「冴えてんじゃねえか、てめえ!火の国に繋がる橋を架けてくれただけでなく、街の収入源にもなってくれるなんざ、やっぱ、タズナさんは俺達の英雄だな!」
「違えねえ!ありがとな、タズナさん!いつも俺達の為に身体張ってくれてよ!ガハハハハハ!」

ちょっと前の熱狂が嘘の様に爆笑して盛り上がる街の人達に、とうとうタズナさんも我慢が切れたようでした。

「黙って聞いとりゃ、誰がデリカシー皆無の呑んだくれの英雄じゃ!断るって言っとるんじゃ!!」
「無理無理!諦めなってタズナさん。橋の名前はタズナさんの名前と同じ名前。そして、タズナさんは俺らの英雄!ナルトちゃんの言うようにもう決まっちまってんだよ!なあ、皆」

反論したタズナさんに即座に笑いながら言い返した、街の青年団に属し、ガトーカンパニーが壊滅した直後に橋造りの手伝いに来た若い男の人の呼び掛けに、街の人達は笑顔で同意を返します。
テコでも動かなそうな街の人達の満面の笑顔の数々に、タズナさんは以下にも面倒臭そうに頭をかき回し、私に指差し、怒鳴り散らして来ました。

「おいこらナルトの嬢ちゃんよう!一体、ワシになんの恨みがあるってんじゃ!!」
「恨みしか無いです。当たり前じゃないですか!僕、デリカシーの無い人、超嫌いです」
「んなっ!?」

即座に言い返してあげた私の言い分に、私を指さしたまま、タズナさんは硬直して絶句しました。
そこへ、タズナさんの親友で仕事仲間だと言う人が、心底面白そうにタズナさんの背中をバシバシ叩いて大笑いし始めました。

「ぎゃはははは!だあ~から何時も言ってんだろう?おめえにはデリカシーが足りねえってよ。だからツナミちゃんにもいつも怒られるんだって。ナルトちゃんにもデリカシーがねえって嫌われちまってんじゃねえか!!女の子相手にいつもやり過ぎて、から回ってんだよ、おめえはよ!」

爆笑の渦に包まれる街の人達と、その様を歯ぎしりしながら不満そうに睨み付けてるタズナさんに向かって、私はにっこりと笑いかけて止めを刺してあげました。

「これから里に帰ったら、僕、出会った人皆に新しくできたこの橋は、タズナ大橋って名前なんだって個人的に言いふらして置きますね!なんでそう呼ばれるのようになったのか、その来歴と、タズナさんがどんな人だったのかって事も微に入り細に入り事細かく、タズナさんが否定しても覆せないような認識植え付けるLvで!」
「おうよ!頼むぜ、ナルトちゃん」
「いっぱい言いふらして宣伝しておいてくれ!」
「英雄のいる街なんてそうそうねえからな。人伝に聞いた火の国の人達が、一目英雄の作った橋と英雄を見ようと足を伸ばしてくれるようになるかも知れねえしな」

ぐっと親指をたてて街の皆さんに向けて笑いかければ、街の皆さんも同じように悪どい笑顔で親指を立ててくれました。
そこにちょっぴり商売っけを見出し、綺麗な営業スマイルで営業トークをかましてみます。

「宣伝が目的なら、もう一度うちの里へご依頼いただければ直ぐですよ?そしたら火の国所か忍五大国にだってタズナさんの名前を轟かせて見せます。ねえ、先生?」
「あ、ああ。まあ、それが里への依頼で、俺達への任務って事ならそうするが…」
「へえ!そいつあ良い事聞いた。よう、先生さんよ。ちっとその辺について詳しく聞かせちゃくんねえかい?」
「え、まあ、それは構いませんが…」

私の営業トークに興味を持った町の人にカカシ先生が囲まれて、あれこれ問い詰められているのを見つめながら、驚いた表情で私を見つめてくるイナリ君の視線に私は気付きました。

気付いたけど、でも、ねえ。
これ以上は必要ないと思うし。

敢えて気付かない振りしながら、もみくちゃにされてるカカシ先生を眺めていた時でした。

「おい、イナリ」

何か言いたげなイナリ君を無視していた私の代わりに、見かねたらしいサスケがイナリ君に話しかけてました。

「自分が何を目指して何を出来るようにならなきゃいけないのか、もっと良く考えてみろ。お前は、一人ぼっちなんかじゃない」
「うん」

こんな些細なやり取りで何か分かり合ってしまえるほど、なんだか、私が知らないうちに随分サスケもイナリ君と仲良くなってたみたいです。
サスケの言葉に素直に頷いたイナリ君も驚きだけど、サスケの方が私的にはもっと驚きです。
だって、サスケがこんな言葉を誰かに言うとは思わなかった。
いや、サスケは本当はとっても良い奴だから、こういう事があっても実は全然おかしくはないんだけど。
でも、何となく、イメージじゃないんですよね。
びっくりして思わずサスケを見つめた私に気付いたサスケが、むっとしたように睨んできた。

「なんだ」
「別に?」
「ふん」

照れたようにそっぽを向いたサスケがなんだか可愛くて、私は思わず笑顔になる。

「だからなんなんだ、その顔は!」
「べっつに~?なんでもないよ!」
「なんでもない訳ねえだろう!言いたい事があるならはっきり言え!」

そんな私を見咎めて、照れ隠しに私に突っかかってくるサスケに、思わずにまにまと頬が緩んでしまう。
それを更に見咎めて、サスケは余計にヒートアップしてきます。
それはいつもの、私達のやり取りです。

ちょっと、立場逆転しかけてますけど、それでもない訳じゃない、いつものやり取りの延長です。
なにか言いたげなサクラの視線含めて、全然ちっとも変わらない、いつもの私達のやり取りでした。 
 

 
後書き
あのまんまでもいいかなあと思いましたが、これっきゃねーでしょう。
と思いました。 
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