獣篇Ⅱ
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17 人の最期の頼みは、せめて聞いてやれ。
_「負けてなんかいねェよ、オレたちゃァ。今も戦ってるよ、オラァ。」
_「き、貴様ァッ!」
_「銀さんッ!」
晴太くんが、欄干から身を乗り出す。
_「来るなッ!何してやがる、てめェ。さっさと行かねェか!?母ちゃん連れて、ここから早く逃げんだよ。」
_「い、いやだッ!銀さんを置いて、オイラだけ逃げ出せ、って言うのかよッ!?そんな真似、こんなことに巻き込んで、そんな真似、絶対にできるかよッ!?」
_「巻き込んだァ?勝手に顔突っ込んだ、の間違いだろ?行けよ、てめェら親子に何かあったら、オレたちゃァ、ここまで何しにきたのか分からねェよ。」
_「いやだ、そんなの絶対いやだッ!役には立たないけど、オイラがき銀さんを助ける!ずっと最後まで一緒にいるッ!」
なんと、正義感の強い子だろうか。
_「てめェは…」
_「銀さん、言ったじゃないッ!血は繋がってなくとも、家族より強い絆があるって。そうさ、血なんか関係あるかよ!?オイラを泥棒から足洗わせてくれた、まともな生活送れるようにしてくれた、独りぼっちのオイラと、一緒にいてくれた。短い間だったけど、楽しかった。ジイちゃんが死んでから始めてだった。あんなに楽しかったの。母ちゃんと何も変わらない、皆…銀さんは…オイラにとっちやァ、大切な家族なんだよォッ!大切なこと、いっぱい教えてくれた…かけがえのない人たちなんだよォッ!それをこんなところに捨ててけ、って言うのかよ!?こんなところに見殺しにしとけ、って言うのかよ!?」
_「ソイツが聞けただけで、オラァ、もう十分だよ。…行ってくれ、オレをまた、負け犬にさせないでくれよ。」
_「銀さん…銀さァァァァんッ!」
_「哀れな男よォ。国も主君も、守るものを全て失い、最期は他人のものを守って死んで行くとは。己の剣にそんなに意味が欲しいか?そんな剣では何も守ることなどできはせんわッ!己の命すらなァ。」
_「ぎ、銀さん…銀さんんんッ!」
ただひたすらに、晴太くんを抱き締めるしか道がなかった。
_「泣いてる暇なんて無いんじゃないかぃ?男が己の命を落とした最期の望み。コイツは聞いてやった方がいいんじゃないのかな?」
_「急げ、」
と私。
_「何言ってんだよッ!?今さら…
何言ってんだよ、母ちゃん!?」
_「ごめんよ、晴太。アンタだけでも逃げとくれ。」
_「母ちゃん!?」
_「や、やめなさい!晴太!」
!
_「何だ、これ…」
_「言ったはずだ。吉原の女は、日輪はわしのものだ、と。どこにも逃げられはせぬ、と。地上に飛び立とうにも、ここには空などない。ましてや翔ぶための翼など、とうの昔にちぎれ落ちておるわ。もはやその女、一人では歩くことはおろか、立つことさえままならん。もうどこにも行けはせんのだ。わしの元から飛び立つことなど、できはせんのだよ。」
_「女を繋ぎ止めるため、足まで奪ったか。」
まだ、銀時は生きている。
希望は、銀時の両肩にかかっている。
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