相談役毒蛙の日常
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十六日目
「灯俊…」
「なに、そんなに緊張するな」
「いや…でもよぅ…」
「じゃぁ…いくぞ…」
「うん…」
すぅ…と息を吸う。
「「リンクスタート!」」
キリトと会った日の翌日、THE SEEDがリリースされた。
それは瞬く間に世界に広がった。
その三日後、レクトが所有していたALOのメインサーバーがベンチャー企業にタダ同然の値で売り渡された。
更にその翌日。
「う~ん~そうねぇ~」
俺の目の前で首を傾げる美少女のような成人女性…
名を霧島綾雨(きりしまあやめ)何を隠そう葵の母親だ。
どっからどう見ても大学生にしか見えねぇ…もう35越えてる筈なのに…
それもキャリア警察官で超有能、賞を何個も持ってる。
なんでこんな人がシングルマザーやってんだろ?
「だめですか綾雨さん?」
「そうねぇ~じゃぁ葵の入学祝いって事にしましょ~。
危険性は~灯俊君と一緒なら大丈夫でしょ~」
ホッと一息付く。
「ふぅ…よかったな葵」
「うん!」
コレで心配事が一つ減った。
「じゃ、俺はコレで」
「あら~食べていかないの~?」
「あぁ…もうそんな時間ですか」
時計を見ると十一時半だ。
「遠慮しなくていいのよ~」
うーん…
「じゃぁ、ご一緒させて貰います」
「よろし~」
綾雨さんが席を立ち、キッチンへ消えた。
「さて…葵」
「なんだよ?」
「ゲームを始める前に色々決めとかないといけない事がある」
「なんだよ?」
「どんなプレイをしたいかだ」
「?」
「アルヴヘイム…ALOの世界で何をしたいかだ。
剣を作りたいか振りたいか…それとも料理人になりたいか…
ALOは自由度が高い。何をしたいかは予め決めといた方がいい」
事実、行き当たりバッタリだと確実にビルドエラーを起こす。
「うーん…やりたいことなぁ…オレはお前とゲーム出来れば満足だぜ?」
となると戦闘職かぁ…
「戦闘メインだけどいいのか?」
「ああ。いいぞ」
じゃぁ次はバトルスタイルだな…
「じゃぁどんな戦い方をしたい?」
「うーん…そう言われてもなぁ…戦い方なんて知らないし」
そうだよなぁ…
「じゃぁ…魔法で敵を殲滅したい?剣で直接戦いたい?」
「剣かなぁ…」
近接系…
「どんな武器を使いたい?」
「刀!」
刀かぁ…確かストレージに…いや、もう無いかもな。
「じゃぁ…少し刀のスタイルを説明するぞ」
そして俺は葵に刀のコンセプトやセオリーを話した。
「灯俊は刀使った事あるのか?」
「あるぞ。ただ俺のスタイルには合わん」
「灯俊のスタイルって?」
うぅむ…どう説明しようか…
俺には複数のスタイルがある。
TPOに合わせて装備を替えるからだ。
その中でも一番多く使うのは…
「大剣持っての突撃かなぁ…」
「突撃?」
「ああ。防御はステータス任せ、とにかく攻める。回復はスキル任せだな」
「?」
あぁ…未経験者に言ってもわからんか…
「要するに攻撃だけやるのさ」
「危なくないのか?」
「それをカバーするのがスキルや仲間だ」
「ふーん」
「ま、だいたいのコンセプトは決まっただろう?」
「うん」
「じゃぁどの種族が一番向いてるかって言うと…」
続きを言おうとした時。
「二人共~できたわよ~」
綾雨さんがキッチンから出てきた。
「はい、手伝います。葵続きは後でな」
「ああ。わかってるさ」
俺達は席を立ってキッチンへ向かう。
テキパキと食器を出したりする。
どうやらタラコパスタのようだ。
「灯俊く~ん、お皿取ってちょうだ~い」
「はーい」
綾雨さんが盛り付けた物をダイニングに出す。
そして…
「「「頂きます」」」
パスタをクルクルとフォークに巻き付け…
「美味しいです」
「あらぁ~よかったわ~」
うーん…母さんより旨い…やはりこの人が男に逃げられた理由がわからん…
なんて考えてると…
「灯俊」
ん?あぁ水か。
俺の近くに置いてあったペットボトルを取り、葵のコップに注ぐ。
「ねぇ~灯俊君~」
ん?
「なんですか?」
「……………」
「………」
「私にも~お水ちょうだ~い」
よく見ると綾雨さんのコップも空だった。
「はい、どうぞ」
「ありがと~」
そう言えばさっきの間は何だったのだろうか?
少し気になりながらパスタを口に運ぶ。
「ねぇ…灯俊君」
「ふぁい?」
綾雨さんが間延びしてない…?
「さっきのゲームの件だけど…一つ条件があるわ」
え?
「それは…」
なんだろう…
「私の事をお義母さんと呼ぶ事よ!」
「ママ!?」
「むぐぅ!?」
パスタが!パスタが喉に!
「んぐぅー!」
「あぁ!もう!」
葵にコップを手渡され、それを一気に煽る。
ゴクン…
「はぁ…はぁ…はぁ…アンタいきなり何言ってんだ!?」
「そうだ!オレが灯俊と!?あり得ない!」
そもそも葵の精神は男だ!
「だって貴方達~名前を呼ぶだけでわかり合えるじゃな~い。
ソレに~さっきの会話だけど~まるで人生設計建てる夫婦みたいだったからぁ~
もういっその事~付き合っちゃえばいいと思ったのよ~」
「十何年もいたらその位わかります!」
「あら~そお~?」
そうなの!
「だいたいオレは男なの!」
と葵が抗議する。
「そうだったわね~」
はぁ…全くこの人は…
「そう~ならさっきの条件は無しでいいわ~でもちゃんとウチの子を頼むわよ~」
「ええ、わかっています」
ビギナーの指導はベテランの務めだ。
それに俺は教導隊を率いた事もある…葵も直ぐにいっぱしの剣士になれるだろう。
「「ごちそうさまでした」」
「おそまつさまでした~」
食器を下げる。
「洗いましょうか?」
「大丈夫よ~」
「わかりました」
「じゃぁ後は~若い二人で~どうぞごゆっくりぃ~」
と言って綾雨さんはキッチンへ向かった。
「さて…葵」
「んだよ」
「さっきの話の続きだけどさ」
「ああ」
「お前の望むプレイスタイルならサラマンダーが一番のオススメ…なんだけど…」
「なんだよ?問題あるのか?」
「ああ、サラマンダーは少し評判が悪くてな…
俺としてはシルフを選んでほしい」
「別にいいぞ…ところでなんでサラマンダーはダメなんだ?」
うーん…何て言うか…あんまり言いたくないんだけど…
「サラマンダーって少し軍隊染みててな…
あと俺達のギルドと折り合いも悪いし…」
「別に良くねぇか?」
「いや、サラマンダーってスタートポイントに人置いてるんだよ。
そこでの勧誘がしつこいらしい」
「ふーん…じゃぁお前のギルドってサラマンダー居ないのか?」
「居るけど少ないな。他の種族がほぼ同じくらいなのに対してサラマンダーは平均の三割がいいところだ」
「あー…面倒臭そうだな…」
「その分シルフはいい。先日軍務のトップが入れ替わったが話のわかる奴だ」
というかサクヤが兼任している。
「ふぅん…じゃぁシルフでいいや」
シルフ…うん大丈夫だな。
そして新生ALOサービス開始翌日。
俺と葵はアルヴヘイムへ飛び立った。
後書き
綾雨がシングルマザーであるりゆう。
酔った勢いで夜のプレイに官品の手錠使ったら翌朝逃げられた。
なお隠れドS。
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