レーヴァティン
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第四十四話 琵琶湖その七
「江戸時代の川柳ですが」
「まさに梅毒でだな」
「はい、鼻が落ちたのです」
親の目を盗んで遊郭に通ってだ。
「そうなったのです」
「笑い話の様に言っているな」
「それだけ当時は一般的だったのでしょう」
「梅毒がか」
「それで川柳でもそう言っていたのでしょう」
「今詠むと怖い川柳だ」
英雄はにこりともせずにこう言った。
「実にな、しかしな」
「それでもですね」
「この世界では治る」
薬や術でだ。
「なら行こう」
「そしてそのうえで」
「人生も学ぼう」
女を楽しみそこからというのだ、英雄は快楽だけでなく学問のことも考えてそのうえで遊郭に行こうと決意した。
そうして実際にだった、謙二を宿に残してそのうえで他の面々と共に遊郭の場所に向かった。するとだった。
店に多くのお白粉で化粧をして前に帯がある紅を基軸とした実に艶やかな模様の着物を着た女達がいた、その女達と店や場所の雰囲気を見てだった。英雄は共にいる面々に対してこうしたことを言った。
「ここは吉原だな」
「その赴きですね」
「そうでありますな」
「そうだな、ここは江戸時代だ」
こう良太と峰夫に述べた。
「その文化だな」
「混ざっているでござるな、この島は」
智の口調はしみじみとしたものだった。
「どうにも」
「そうだな、都は平安時代もあるしな」
「私ですね」
良太がここで笑って言ってきた。
「陰陽師ですから」
「そうだ、陰陽師もあればだ」
「この様にですね」
「江戸時代もある、それが実にな」
「我々から見れば不思議ですね」
「様々な時代の日本が同時にある様だ」
それがこの東の島だというのだ。
「俺達の知っている日本とはまた違う」
「左様ですね、ですが」
「それでもか」
「はい、この島はそうした島です」
「それが普通だな」
「はい、我々から見れば複数の日本が存在しているのも」
それが不思議でもというのだ。
「この島の住人達にとってはです」
「自然のことか」
「そうなります」
「俺達の知っている日本とこの島はまた違う」
「そうなります、ですから遊郭もです」
「江戸時代だな」
そこにいる遊女達も店もだ、客引きの者達も吉原の様だ。
「それも化政の頃か」
「それが普通なのです」
「そうか、では今は江戸時代に入りだな」
「はい、そしてです」
「楽しめばいいな」
「そうなります、ではそれぞれですね」
「これだという女がいればな」
英雄はここで女達を見た、そのうえでの言葉だった。
「その店に入るか」
「そうしましょう」
こう話して実際にだった、一同はまずは智がそして次は良太がその次は峰夫がだった。それぞれこれだという女を見てその女がいる店に入った。最後に英雄はある店で三人のいいと思った花魁達を見て店のやり手婆に言った。
「あの三人を同時にだ」
「うちの太夫ですが」
最高位の花魁だとだ、婆は英雄に驚いた顔で言葉を返した。
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