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相談役毒蛙の日常

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十三日目

「はぁ…」

朝8:00

つい数分前、俺達は妖精郷からおいだされた。

俺はベッドで脱け殻のようになっていた。

「玉藻…もう…あえないのかなぁ…?」

ドタドタドタドタ!

誰かが階段を駆けあがってくる。

誰…と言うのは判りきっている。

ガチャ!

「灯俊!いつまで寝てんだよ!」

「葵…」

入ってきたのは霧島葵(きりしま
あおい)。

俺の幼馴染で、御隣さんで、親友だ。

「なんだ?そんなシケた面して…
あ、そう言えばお前がやってたゲーム、なんか凄いことになってるぞ」

だろうな…運営上層部がグルで違法実験…

運営のメインメンバーが揃ってしょっぴかれたら停止するよな…

「その事は誰よりも早く知ったさ…それを暴いて広めたのは俺達だからな…」

「はぁ!?」

「昨日、ALOのラストダンジョンが踏破された…
犠牲を出しつつ踏破に成功したのは俺ともう一人だけ…
しかしラストダンジョンのクリア報酬も、提示されていた街も無かった。
そして…運営が用意した衛兵プレイヤーを俺が足止めしている間に、奴は真実を知り、俺に伝えた…
俺はそれを持ち帰り、仲間に広めるよう言った…」

「じゃぁ…この騒ぎって…」

「そうさ…この騒ぎは俺が起こしたような物だ…」

だが…それで俺は半身を喪った…

ゲームクリアに報酬は無く、有ったのは真実を暴いた代償。

「あの世界は偽りだった…だけど、そこにあった繋がりは本物だった」

だけど、その繋がりの要だった世界は閉ざされた…

「なぁ…葵」

「なんだ?」

「ゲームの…MMORPGの正しい終末って何なんだろうな…」

「正しい終末?」

「今回みたいに運営の不祥事でいきなり消えたり…
だんだんとユーザーが減っていつの間にか終わってたり…」

「さぁな、でも…MMORPGに"正しい終末"なんて有るのか怪しいけどな」

そう…だな…

うん。

「じゃぁ、朝メシ食って来る」

「そうか、先はじめてるぞ灯俊」

「構わんぞ」

それだけ言って、俺はダイニングへ向かった。

「あれで…正しかったのか?」

いや、正しかった…筈。

少なくとも間違ってはいなかった。

俺達は、ALOプレイヤーに"別れ"の時を与える事ができた。

それにどのみち須郷は逮捕されただろう。

朝、ログアウトした後に、スマホでニュースを見ていた。

そこには『VRゲーム、またもや不祥事!?』とあった。

テレビをつける。

案の定、どこのチャンネルもALOとレクトと須郷の事を報道していた。

ニュースではコメンテーターがここぞとばかりにVRテクノロジーを批判していた。

それを作った茅場昌彦の事も、発展させた技術者も、それで遊んでいたプレイヤーをも批判していた。

このコメンテーターはたしか中国よりだったな…

等と思っていたらやはり唐突に政府にいちゃもんを付け始めた。

くだらない

俺は馬鹿馬鹿しくなって、テレビを切った。

朝食を済ませ、部屋に戻る。

「おお、早かったな灯俊」

「まぁ…な…」

そう言って部屋の真ん中に有るのか円卓の、葵の向かいに座る。

「さて…やろうか…」

過去問の問題集を取り出す。

俺達は中学三年生…あと一月と少しもしない内に高校受験だ。

先生は俺ならもう少し上を…というか最難関私立を受けてもいいと言っていたが、学費とか諸々で親に迷惑をかけたくないので地元の公立高校だ。

葵も俺と同じ高校を受ける。

既に合格ラインは越えてるが、万一がある。

「なぁ、灯俊、ここって…」

「ああ、ここは…」

そうやって、葵に教えたりしていた。

そして俺達は最後の仕上げをして受験した。




3月7日…受験翌日

俺達は公立受験が終わり、久々に登校していた。

テルキス…照秋とも久々に話したが、ALOの話題は互いに避けていた。

そして放課後…

カバンに諸々突っ込んでいると突然俺のスマホが着メロを流し始めた。

「だれだ?」

応答アイコンをタップして耳に当てる。

「『久しぶり、トード』」

その声の主は、黒衣の剣士だった。

「『ALO…いや、VRゲームの未来について大事な話がある…今から来れるか?』」

「おい、俺にも喋らせろバカ。ていうか何故俺の番号を知っている?」

「『あー…わるい…早く伝えたくてな…
あと番号については国家権力を使った』」

いや、お前何者だよ?

「まぁ、いい。で、どこに行けばいい?」

「ダイシーカフェって店だ、ググれば出る」

店の名前だけ言って後はググれってか?

「はいはい、ダイシーカフェね…」

「『じゃぁ、待ってるぞ』」

プツッ…プー…プー…

言いたい事だけ言って切ったぞアイツ…

えーっと…ダイシーカフェ…ここか?

スマホで検索すると直ぐに出た。

「灯俊?」

「なんだ?」

いつの間にか近くに来ていた葵に話しかけられた。

「この後どっか行こうぜ、久々にゲーセンとかどうだ?」

ゲーセンかぁ…

「確かに行きたいがこの後に用事があってな…」

「用事?………コレか?」

葵はニヤニヤしながら小指を上げて言った。

「いや、男だ」

「え!?お前ホモだったのか!?」

ちげーよ…

あと今のセリフで腐った雌豚共がこっち見てるからな?

「お前がそう思うんならそうなんだろうな 、お前の中ではな」

とお約束のセリフを言って歩き出す。

「あぁ!ちょっと待ってくれよ!俺が悪かったって!」

「あー、はいはい」

わかったからそんな捨てられた子犬みたいな目で見るなよ…

「なぁなぁ!俺も行っていいか!」

はぁ?

「お前、予定とか無いのかよ?」

「有ると思うのか?」

あぁ、そういえばそうだな…

と思っていると葵が上目遣いで聞いてきた

「なぁ…ダメか?」

…………………………かわいい

つい頭を撫でてしまった…………

はっ!?俺は何を!?

「ん?いきなり撫でたりしてどうしたんだ?」

葵がキョトンと首を傾げる。

あっれぇ!?俺の幼馴染ってこんなに可愛かったっけ!?

コイツとはもう十数年の付き合いだけどコイツってこんな可愛い仕草してたっけ!?

もしかしてもしかするけど俺の幼馴染って世界一可愛いんじゃね!?

いやいやいやいや!あり得ない!コイツはナリは女だが中身は男だ!

そうだ!男だ!

うん!あり得ない!

と、自分を納得させる。

この間0.5秒。

「着いてきてもいい、だけど大事な話があるらしいから絶対に騒いだり茶々入れるなよ」

「ん、わかった。
それにしても大事な話か…まさか愛の告白!?」

あぁうん。

置いていこう。

俺は葵を置いて歩きだした。

「あぁ、待ってくれよ!」

後ろで何か聞こえるが知った事ではない。

俺は教室を後にした。
 
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