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儚き想い、されど永遠の想い

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416部分:第三十二話 紅葉その六


第三十二話 紅葉その六

「ではすぐにですね」
「屋敷に帰るよ」
「わかりました。それでは」
「夜は時として因果だね」
 こんなことをだ。義正は佐藤に言った。
「急いで帰りたいのにそうできないこともあるから」
「色々な方とお話しなければなりませんから」
「料亭でね」
「それもまた仕事のうちです」
 そこで会い話し合い様々なことを決めるのである。
 そしてだ。その他のこともだ。義正は彼に話した。
「他には歌舞伎を観たりね」
「芸術鑑賞もまた仕事になります」
「仕事はただ百貨店において色々なことを決めるだけでなく」
「御会いすることやお話をされることもです」
「そうだね。だから夜も忙しいね」
「記者達は時として言います」
 義正は車の中に入る。その車の扉を開けてだ。佐藤は彼と話をする。
「旦那様の様な方が癒着していると」
「政治家や軍人、官僚とだね」
「だからこそ料亭で御会いしていると」
「癒着、便利な言葉なのかな」
 義正は車の後部座席に入りだ。そこに座って述べた。
「実際にそうでなくてもそう印象付けることができる」
「そうですね。それも悪く」
 佐藤は運転席に座った。そのうえで義正の言葉に応える。
「印象付けられます」
「その通りだね。現実を無視して」
「例えば伊藤公爵ですね」
 明治の元勲の一人だ。その功績は計り知れない。
「あの方は実際の生活は極めて質素でしたが」
「三菱の。岩崎さんとの関係が言われていたね」
 岩崎弥太郎がだ。伊藤博文の腰巾着と言われていたのだ。
「けれど実際は伊藤公爵も岩崎さんも」
「はい、そうした方ではありませんでした」
「井上公爵や山縣公爵はともかくとして」
「ですがそれはです」
「僕は汚職やそうしたことは好きにはなれない」
 どうしてもついて回るものだとわかっていてもだった。潔癖症の義正にはそうしたことが好きにはなれないのも当然だった。
 それでこう言ってからだ。彼はさらに言うのだった。
「しかしそれは所詮は小の悪なんだね」
「私もそうしたことは好きではないです」
 佐藤もだった。潔癖であった。
「ですがそれでもですね」
「うん。井上公爵にしても財界の方々と親しくするのは」
「国家として必要です」
「そうだね。財界の方々のお話を聞いてそれを政治に反映させる」
「無論財界の方々だけではありません」
 車を出す。そうしながらさらに言う佐藤だった。
「学者の方々や軍人の方々もそうです」
「そうした色々な方々と会って話をしないとね」
「政治を誤ってしまいます」
「それは財界にも言えることだから」
 義正もいるだ。その世界もだというのだ。
「だから料亭を使って会って」
「歌舞伎や舞台を観て親睦を深め」
「そうしていかないといけないけれど」
「記者にはわかっていないのですね」
「むしろそういう記者の人達こそね」
 どうかとだ。義正は曇った顔で話す。
「いざという時には」
「近頃思うのですが」
 佐藤の声が曇ってきた。彼は車を駐車場から出し運転しながら主に話す。
「新聞記者というものはです」
「あの人達がどうしたのかな」
「社会の木鐸ではなく」
 警鐘を鳴らすものではなくだ。どうかというのだ。
 
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