真田十勇士
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巻ノ百二十六 軍議その八
「しかしじゃ」
「茶々様がですな」
「有楽様に全幅の信頼を抱いておられる」
「ご自身の叔父上ということもあり」
「それで、ですな」
「そうじゃ」
それでというのだ。
「あの方だけはじゃ」
「有楽様を信じておられ」
「城の者が何と言おうとですな」
「あの方が信じておられる故」
「有楽様とご子息も」
「共にじゃ」
まさにというのだ。
「あの様にしてじゃ」
「城に置いておられる」
「そうなのですな」
「ではこのままですか」
「大坂のことは幕府に筒抜けですか」
「忍なぞ用いるまでもないですか」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「だからじゃ」
「それでは」
「我等はですな」
「有楽様もですか」
「注意して見ておいて」
「それを牽制としようぞ」
こう言うのだった。
「有楽様が城におられるままならな」
「それならばですな」
「見てその視線でお動きを牽制する」
「そうしていきますか」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「そうしていくぞ」
「わかり申した」
「では有楽様とご子息は見ていきましょう」
「そしておかしなことはさせぬ様にしましょう」
「絶対に」
「そうする、しかし中にそうした御仁達もいてな」
そしてとだ、また言った幸村だった。
「それを牽制位しか出来ぬのはな」
「困ったことですな」
「茶々様がよしと言われているので」
「この有様では」
「やはり」
「辛いものがある」
こう言うのだった。
「実際な」
「ですな」
「では明日その軍議じゃが」
いよいよその時だというのだ。
「果たしてな」
「どうなるかですな」
「茶々様も出られる」
「必然的に」
「本来は出られぬ筈じゃが」
茶々は秀頼の母に過ぎない、だから本来は政にも戦のことにも何かを言う資格はないのだ。だが彼女は秀頼の母という立場から普通にそうしたことを話す場所に出てそうして口を出してくるのである。
それでだ、今幸村も言うのだ。
「それがな」
「どうしてもですな」
「仕方ありませぬな」
「茶々様を止めることも出来ぬので」
「それで」
「出られることは間違いないわ、後は諸将でどう言うかじゃ」
それしかないと思ってだ、そうしてだった。
幸村はその軍議に出た、そこには先日幸村が顔を並べて話した者達が揃っていた。後藤や木村達がだ。
幸村はまずは彼等を顔を見合わせて頷き合った、無言で。だが執権の大野だけは難しい顔をしていた。
それを見て幸村は暗いものを感じた、だがそれでも彼の策を堂々と言った。
そのうえでだ、彼はまずは秀頼に問うた。主である彼に」
「どう思われますか」
「大坂に一万五千か二万の兵を置いてじゃな」
「大野修理殿が守られ」
執権であり実質的な采配を振るう彼がというのだ。
「そしてです」
「余も本陣を出してじゃな」
「上様は残られても構いませぬ」
大坂城にというのだ。
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