本当の強さ
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第二章
「黒帯だからね」
「絶対に強いわよ」
「先輩達に比べるとまだまだにしてもな」
春奈も笑顔で言った。
「黒帯だったな」
「強いわよね」
「絶対にな」
春奈は倫子にも笑顔で言った。
「そうだよ」
「もうその辺りのチンピラにも負けないわね」
倫子は得意げな顔でこうも言った。
「それこそ」
「それ位はなったでしょ」
「何たって黒帯よ」
「だったらそれ位はなってるだろ」
強くとだ、三人も言った。そして家に帰ってだ。
倫子は満面の笑みで家で家事をしていた母に言った、この日はスーパーのパートが休みで家で家事をしていたのだ。
「お母さん、初段になったわ」
「あら、おめでとう」
「ええ、これでね」
母に笑顔のまま言う、自分によく似た彼女に。
「私強くなったわよね」
「まあね」
「まあねって」
「腕力とか技はね」
こう娘に言う母だった。
「強くなったわね」
「ええ、よかったわ」
「ただそれだけね」
「それだけって?」
「だからそれだけよ」
今していた掃除を止めて倫子に言ってきた。
「力とか技がね」
「いや、そういうのがでしょ」
倫子は母に怪訝な顔で返した。
「強くなったってことでしょ」
「それが全部じゃないのよ」
「力とか技とか」
「そういうのだけじゃないの」
そうだというのだ。
「人間ってね」
「言ってる意味わからないけれど」
「そのうちわかるわ、倫ちゃんも」
「そうなの」
「まあ間違っても空手の力や技を暴力とか弱いものいじめには使わないでね」
「そんなの絶対にしないわよ」
母の今の言葉にはすぐに返すことが出来た、倫子も他の三人にしてもそうしたことをする娘達ではない。
「空手は心を鍛えるもので」
「部活で言われてるのね」
「先生にも先輩にもね」
「そうよね、まあ答えには出会ってるみたいね」
「答えって」
「これなら確実にわかるわ」
笑って娘に言うのだった。
「よかったわ」
「そうなの」
「ええ、じゃあ着替えて」
部活のことなので制服で言っていた倫子にあらためて言った。
「それで休みなさい」
「それじゃあね」
「今日の晩御飯はカレイの唐揚げだから」
「あっ、そうなの」
倫子はカレイの唐揚げが好きだ、それで笑顔で応えた。
「それじゃあね」
「食べるわよね」
「勿論よ、それじゃあ今日はね」
「初段になったり」
「お腹一杯食べるわ、強くなっただけね」
こう言ってだ、倫子は実際にこの日は好物を食べて上機嫌で自分が強くなったことを自分自身で祝った、そしてだった。
それからも部活に励みどんどん強くなっていった、だが。
ある日だ、倫子は他の部員達と一緒に顧問の先生に部活の後の道場でこんなことを言われた。
「日曜ある人に部活に来てもらう」
「ある人?」
「ある人っていいますと」
「先生の知り合いの人でな」
倫子達に答えて話す。
「峯川治五郎という人だ」
「峯川治五郎?」
「誰ですかその人」
そう聞いてもだ、部員は誰もその峯川のことを知らなかった。
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