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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第147話「木曽三川の龍神」

 
前書き
最も人数が多い(モブ局員除き)グループなのに、最も苦戦しているグループであるはやて達sideです。……と言うのも、かくりよの門でも一つ手前の龍神である信濃龍神と一線を画した強さを持っているので……。
 

 






       =out side=







「最優先事項!絶対に直撃だけは避けてやぁ!!」

「言われなくても、わかってるってはやて!」

 全員に聞こえるように、はやてが指示を飛ばす。
 そして、その指示に応えるように、ヴォルケンリッターの皆は気を引き締める。

「はやてちゃんとアインスは私と一緒に後方支援。前衛はシグナムとヴィータちゃんに任せるわ。……本当ならザフィーラも前衛なのだけど……」

 ポジションを決めるシャマルだが、ふと後方へと注意を向ける。
 そこは、先程ザフィーラが吹き飛ばされた方向。
 いかに盾の守護獣であるザフィーラとは言え、大ダメージは逃れられない。

「基本的に、シグナムとヴィータちゃんが攻撃を引き付けて、はやてちゃんとアインスで後方から攻撃。私は拘束と援護を担うわ。もし、隙ができれば、一気に叩き込む形で!」

「了解!」

 大まかな行動を決めるだけで、各々行動を開始する。
 細かい指示は必要ない。ヴォルケンリッターである彼女達は、歴戦の騎士だからだ。
 細かく指示を出すよりも、各自で判断した方が連携も取れるというシャマルの判断から、この方針指示は為されていた。

「行くで!出し惜しみはなしや!全力で倒すんや!」

 戦意を高めるように、はやてがそういう。
 それに気づいたのか、敵の木曽龍神は、戦いの始まりを表すかのように咆哮する。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

「っ、ぐぅ……!?なんだ、これ……!?」

「ただの咆哮では、ないのか……!?」

 その咆哮を比較的近距離で聞く事になったヴィータとシグナムは、咆哮の異質さに気づく。

「な、なんやこれ……体が怠いような……」

「……呪いの類です。それも、霊術の方の……」

 まるで風邪を引いたかのような体の怠さに、アインスはそういう。
 魔法にも呪い系の魔法が存在し、それと似た“瘴気”があったからこそ気づけた事だ。

『っ、はやてちゃん!敵が……!』

「ぁああああああああ!?」

「っ………!?」

 リインが木曽龍神が何かするのに気づいた瞬間、ヴィータとシグナムが吹き飛ばされてくる。さらに、離れているはやて達にも衝撃波が襲った。

「……まさか、さっきまでは戦う気すらなかった言うんか……?」

 その衝撃波の正体は、木曽龍神が放った霊力の放出。
 それは、所謂深呼吸で息を吐き出したかのようで……はやての言う通り、木曽龍神が戦意を示すために放った“殺気”でしかない。

「っ、単純戦闘力はナハトヴァールより上やと思い!防戦に回ったらこっちが先に負ける!気圧されずに攻撃や!!」

 震える体を鼓舞するように、はやては声を発する。
 しかし、それでも体は思うように動かない。
 当然と言えば当然である。はやては今の面子の中では最も経験が浅い。
 強大な存在と相対する機会など、ほとんどなかったからだ。
 ……だが、その代わりに動いたものがいた。

   ―――“魔纏闘”

「ぬぅううおおおおおおおおおお!!」

 宙を飛ぶ木曽龍神の真下。
 いつの間にかそこへ潜り込んでいたザフィーラが、渾身の一撃を叩き込む。

「ザフィーラ!?」

「チィ……!この程度では、びくともしないか……!」

 はやてを庇い、吹き飛ばされたはずのザフィーラ。
 木曽龍神の巨体の一撃は、大ダメージのはずだが、そんな事は知らないとばかりに、ザフィーラは戦線に戻ってきていた。

「っ、避けろザフィーラ!」

「くっ、“鋼の軛”!」

 繰り出された一撃は、怯ませこそしないものの、ダメージを与えていた。
 よって、木曽龍神も尾による反撃を繰り出した。
 シグナムの声にザフィーラは上に跳び、置き土産に鋼の軛を放つ。
 ……が、それはあっさり砕かれ、無意味に終わる。

「……強度が足りぬか…。だが、通用しない訳ではないな……」

 しかし、ザフィーラはそれ見て無意味ではないと判断する。
 なぜなら、鋼の軛が命中した箇所の鱗が若干凹んでいたからだ。

「だ、大丈夫なんかザフィーラ……」

「はい。ギリギリ防御が間に合いました……ダメージは確かにありますが、戦闘に支障はありません」

 間合いを取ったザフィーラへ、はやてが駆け寄り、心配する。
 防御や吹き飛ばされた際の着地に使った手足は傷ついていたが、そこまで深い訳ではなく、ザフィーラの言う通り支障はなかった。

「っ、主、失礼!」

「え、ちょっ!?」

「ふん!」

 ザフィーラははやてを片手で抱きかかえ、空いた片手を振るう。
 正拳突きのように放たれた拳から、魔力の衝撃波が発生する。
 それは、二人へ迫っていた木曽龍神へと命中する。
 また、その反動で飛ぶ事で木曽龍神が放っていた爪の一撃も回避していた。

「主よ。どうか我らを信じて後方へお下がりください」

「で、でも……」

「我らは守護騎士。主を守れなければ意味がありません。……心配せずとも、我らヴォルケンリッター、そう簡単には負けません」

 さらに距離を取ったザフィーラは、そこではやてを放す。
 そして、すぐに前線へと戻った。

「……そうであろう。シグナム、ヴィータ」

「ああ」

「そーだな。あたしらははやての騎士だ。こんな図体のでけーだけの龍に、負ける訳にはいかねーよな!」

 気合を入れ直したヴィータとシグナムが、そんなザフィーラの横へ並ぶ。
 もう、木曽龍神に気圧される事はない。

「あの巨体だ。我らが陽動なのは理解している。……我らで攻撃する際は、カウンターを狙え。相手の攻撃の勢いに合わせ、鋭い一撃を加えればいい」

「なるほど。先程の鋼の軛はそう言った目的か」

「ああ。次は通じる強度で放つ」

 巨体であるが故に、外す事は滅多にない。
 そして、攻撃の勢いは強く、そして無防備になる。
 そこへカウンターのように攻撃を叩き込めば、普段よりもダメージが増す。
 それをザフィーラは二人に伝える。

「けどよ、そう簡単に行くか?」

「簡単かどうかではない。やらなければこちらがやられるだけだ」

「……それもそーだな」

 気を引き締め、三人は三方向へと飛び立つ。
 ただ飛び回るだけでは気を引けないので、魔力弾を撃ちこんでいく。
 大したダメージにはならないが、木曽龍神の注意は三人へと向いた。

「来るぞ!」

「っ……!」

 ザフィーラへは爪を、シグナムへは尾が迫る。それを見てヴィータは叫ぶ。
 爪ではカウンターが通じないため、ザフィーラは回避する。
 そしてシグナムは、紙一重で尾を回避し……。

「ぜぁっ!!……ぐっ!?」

 尾へと、剣を振るった。
 しかし、その勢いに吹き飛ばされるようにシグナムは弾かれる。

「くっ……確かに、生半可な攻撃では逆に弾かれるか……」

   ―――“Diabolic Emission(デアボリック・エミッション)

「……ダメージは通っているが……足りないか」

 直後にアインスが懐へ入り込み、魔法を放つ。
 あっさりと直撃するが、木曽龍神に堪えた様子はなかった。

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け」

「クラールヴィント!」

「でぇえりゃぁああああああああ!!」

 はやてが詠唱し、アインスの離脱の援護を兼ねてシャマルが拘束を試みる。
 アインスを追おうとした龍神は、拘束で動きが阻害される。
 そこへ、ヴィータが割り込むように肉迫し、ギガントフォルムに変えたグラーフアイゼンをすれ違いざまに叩きつける。

「っってぇ~!?でかすぎるんだよ!」

「だが、さすがに頭に今のは効いたようだ」

 攻撃をぶつけた反動で手が痺れ、ヴィータは声を上げる。
 だが、効果は覿面だったようで、ザフィーラの言う通り龍神は若干怯んでいた。

『はやてちゃん!』

「石化の槍、“ミストルティン”!!」

 その隙を逃さず、はやての砲撃魔法が突き刺さる。
 魔法陣から放たれる七筋の光が木曽龍神へ直撃し、そこから石化する。
 生体細胞を凝固させる効果を持つこの魔法は、非常にタフな相手に有効だ。
 本来なら非殺傷設定で封じられているその効果も、今は十全に発揮する。

 ……しかし……。

「ッ、離れろ!!」

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「ぉわぁあああああああああああ!!?」

 木曽龍神は大きな咆哮を上げる。
 ザフィーラの咄嗟の警告も空しく、一番近くにいたヴィータが吹き飛ばされる。
 幸い、付随効果のある方向ではなかったため、ダメージはそこまでない。

「嘘やろ!?石化せぇへん!」

『今の咆哮で掻き消されましたぁ!』

 だが、はやてが驚いた通り、木曽龍神の石化は解除されていた。

「……咆哮をする事で生命活動を活発化。石化の効果を圧し潰し、既に石化した所も再生させたという事か……?」

「もしそうだとしたら、ますますとんでもない相手ね……」

 アインスの推測に、シャマルは冷や汗を流す。
 ただでさえとんでもない相手だと実感していたのに、そこへ格上キラーでもあるミストルティンが通用しないと来た。
 かつて戦ったナハトヴァールも、異常な再生能力故に無効化されたが、今度の相手は第一に“威圧感”が違った。
 それ故に、アンラ・マンユや、以前の謎の男のような強大さを感じていた。

「オオオオ!!」

「っ!!」

「主!」

   ―――“水尾撫(みずおな)で”

 誰が放ったか木曽龍神はしっかりと見ていた。
 故に、狙いがはやてになるのも当然と言えた。
 霊力による水を尾に纏わせ、はやて目がけて振るう。
 咄嗟にアインスがはやてを連れてその場から離脱し、何とか事なきを得る。

「……た、助かったわアインス……」

「いえ。……しかし、これほどの相手とは……」

 薙ぎ払われた場所は、見るも無残な状態になっていた。
 幸い、結界内なので実際には被害が出ていないが、それでもその威力は理解できた。

「……咆哮を伴われると近づく事すら困難か……」

「どうすんだ?何かする度に吹き飛ばされてっと、あたしらが先にやられるぞ」

「何も事あるごとに咆哮するとも限らん。……が、そうだな…。なるべく喰らわないのが当然だが、もし回避できないのならば、地面に降りて踏ん張った方がよさそうだな」

「それしかあるまい」

 前衛組の三人はそう判断し、再び注意を引き付けるように立ち回る。

「ぉおおおおおおっ!!」

「さすがに打撃で素手に負けたくねぇよなぁ、アイゼン!」

「斬っても再生されるのであれば、再生できなくなるまで斬ればいいのだろう?」

 ザフィーラが胴の辺りに突撃するかのように殴り掛かる。
 そんなザフィーラに対抗するように、ヴィータはグラーフアイゼンで頭を叩く。
 そして、シグナムは爪の攻撃を躱しつつ、攻撃手段を削ぐように腕を斬り続けた。

「っ……!ダメ、私だけだと、足止めも出来ないわ」

「そうか。……だが、何かしら動きに違いはあるだろう?」

「ええ。一瞬だけ、拘束を破るために力を入れるのか、動きが止まるわ」

「なら、無駄ではない。続けてくれ。その間に、私と主で攻撃する」

 シャマルが何度も拘束を試み、アインスとはやては長距離砲撃を狙う。

「オオオオオオオオオオオオ!!」

「ッ!散れ!!」

   ―――“大尾撃(だいおげき)

 砲撃魔法を何度か撃ち込んだ時、木曽龍神が吼える。
 そして、咄嗟に前衛三人は散らばるように離れる。
 また、はやて達後衛組も上空に逃げる。
 ……その瞬間、寸前までいた場所を尾が薙ぎ払った。

「ちょ、直撃したくねぇな……アレ……」

「見ろ、尾が当たった木が枯れている。……ただ強力なだけじゃないらしい」

 攻撃後の惨状を見て、ヴィータが呟き、シグナムが冷や汗を垂らす。

「……予備動作がわかるだけ、マシって状態やな……」

「あの巨体で、攻撃速度は中々なものです。……時には、回避が困難になるかもしれません。退き際を見極めて行動しないといけません」

「昔の陰陽師たちは、こんなん相手にしてたって事やろ?……よぉ倒せたなぁ……」

 陰陽師ははやて達と違って空を飛べなかった。
 その事も含めて、昔はどうやって倒していたのか気になるはやてだった。

「……援護するように砲撃しても意味ないな。目を付けられるのも承知で、大火力を叩き込んだ方が良さそうや」

「そうですね。幸い、あの鱗は極端に丈夫と言う訳ではありません。ただ火力が高いだけの魔法でも、通じるようです」

「となると、叩き込むのは火力重視の魔法やな。えっと……」

 夜天の書に記録される魔法を探るはやて。

「……やっぱり、なのはちゃんの魔法が一番か?」

「……いえ、あれは魔力を集束させるからこその魔法です。魔力を使わない相手なら、別の魔法が得策です」

「アインスも放つからなぁ……」

 攻撃を避けつつカウンターを少しずつ叩き込む前衛三人を視界に入れながら、どの魔法がいいか探すはやて。早めに決めるべきだが、如何せん種類が多すぎた。

「……主、一つ、適した魔法があります」

「なんや?」

「この“ミョルニル”と言う魔法です。夜天の書に記録される魔法の中でも、一番の火力を誇ります。……ただし、燃費が悪く反動もありますが」

 夜天の書をあるページで止め、アインスがそこに書かれている魔法を指す。
 それは、かつて優輝がアンラ・マンユの攻撃を相殺するのに使った魔法。
 その魔法は古代ベルカの中でも屈指の威力を誇っていた。
 もちろん、燃費が悪い事と使い手が滅多にいない欠点があったが。

「……多少代償があっても、火力を選ぶわ。あんな相手、ちょっと反動がある程度で出し惜しみしてたら勝てへんわ」

「はい。……では、発射に取り掛かりましょう」

「せやな。シャマルには、しばらく援護を一人でやる事になるけど……」

『構いません。拘束をしながらの援護射撃ぐらいならできます』

 少し離れた所にいるシャマルから念話でそう言われ、はやては心置きなく魔法の術式を組み始めた。

「魔力を注げば注ぐほど、強化される……シンプル故に、強力なんやな」

「はい。多少無茶をすれば、あのアンラ・マンユの攻撃も完全に相殺できます」

「……そういや、優輝君が使ってたような…」

 思い出すようにはやては呟きながら、魔力を込め始めた。

『強力な魔法を叩き込むから、上手く隙を作って離脱してや!』

「『了解です!』」

 はやてから念話を受け取り、前衛組もそのように立ち回る。

「ぉおおおおおお!!」

「っ、シグナム!」

「丁度いいタイミングだ!」

 殴り続けるザフィーラを振り払おうと、龍神が尾を動かす。
 それを見て、シグナムに呼びかけるヴィータ。
 そして、シグナムはちょうど弓に変えたレヴァンテインを構えており……。

「翔けよ、隼!」

   ―――“Sturmfalken(シュツルムファルケン)

 迫りくる尾に突き刺さるように矢が放たれた。
 また、シグナムは発射直後にその場から飛び退き、攻撃を回避していた。
 ちなみに、ザフィーラも龍神の攻撃の寸前に距離を取っている。

「っしゃぁ!クリーンヒット!」

「今のは良い一撃だ……!」

 作用・反作用を生かした強力な一撃。
 さしもの龍神も、今のは効いたらしく、怯んでいた。

「ぬぅうううううん!!」

     ドンッ!!

 そこへ、間髪入れずにザフィーラが脳天から一撃を打ち込む。

「あたしもだ!!」

 さらにヴィータも追撃を打ち込み、龍神の頭を地面に叩きつける。

「『主よ、今です!』」

『了解や!』

 それを好機と見て、ザフィーラとシャマルが拘束魔法を行使。
 同時に念話ではやてに呼びかけ、一度その場から離脱する。

「主!」

「行くでアインス!」

「はい!」

 絶好のチャンスを生かし、はやてとアインス二人で魔法を放った。

「打ち砕け極光!」

「全てを破壊し尽せ…!」

   ―――“Mjöllnir(ミョルニル)

「ォォォオ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?」

 極光が直撃した龍神は、絶叫を上げる。
 今までにない、明らかな大ダメージを表す絶叫だった。

「やったか!?」

「あかんヴィータ!それフラグや!?」

「えっ!?」

 思わず言ったヴィータの言葉に、はやては反射的に突っ込む。
 そして、その通りと言わんばかりに、まだ息のある木曽龍神が姿を現す。

「あ、あたし、やっちまったか……?」

「いや、普通に耐えられただけだ……」

「つい突っ込んでしもうただけで、ヴィータは悪くあらへんよ。……でも、あれを耐えられるんかぁ……」

 明らかに最大火力だった魔法だ。
 いくらダメージを与えたとはいえ、倒せなかったのはショックである。
 そして、耐えられたという事は……。

「主!今すぐさらに距離を取るべきです!倒せなかったという事は、相応の報復として、相手も大技を……!」

「ォォォ……!」

   ―――“一が至るは―”

 アインスが焦りながら言うように、龍神から力の鳴動が発せられる。
 すぐさま全員が距離を取り……彼女達を庇うようにザフィーラが割り込んだ。

「オオオオオオオオ!!」

   ―――“四刻(しこく)

「ぬぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

   ―――“魔纏金剛体(まてんこんごうたい)

 水とは思えない勢いの、水の奔流に、ザフィーラはその身を盾として耐える。

「ザフィーラ!?」

「ッ!?嘘だろ!?あいつ、今のを耐え抜きやがったぞ!?」

 そして、耐え抜く。
 その事にはやて達も驚きを隠せなかった。

「『主よ!まだ、来ます!!』」

「ォォォオオ……!」

   ―――“二又交わるは―”

 だが、驚く暇はなく、再び力の鳴動を感じ……。

   ―――“四刻八刻(しこくはちこく)

 真下からの水の奔流に、全員が吹き飛ばされた。

「ぅ、ぁっ……!?」

「ぬ、ぅっ……!(ぬかった……!まさか、直接攻撃を当ててくるとは……!)」

 まさか真下から間接的に攻撃するとは予想出来なかったのだろう。
 全員がまともに攻撃を受けてしまった。
 耐えられたのは、防護服と警戒して使っていた身体強化のおかげだった。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

   ―――“三つが満ちるは―”

「ま、まだ来るのか……!」

「一か八か……主よ、もう一度、あの魔法を……!」

 間髪入れずに次が来ると察したアインスは、咄嗟に賭けに出る。
 それは、技が放たれると同時に先程の魔法で倒す事だった。
 大技ならば、相応の隙がある。そう考え、この賭けに出た。

「他の者は、防御を!」

「っ、やるっきゃねぇな!」

「ああ……!」

 どの道、龍神の技を阻止する事は出来ない。
 ならば、何とか耐え抜き、次で倒すしかない。
 ヴィータとシグナムもそう考え、防御魔法を張る。

「……何とか、威力を弱めてみます」

 シャマルもまた、拘束や障壁で威力を減らそうと試みる。
 ちなみに、かつてなのはのリンカーコアを狙い撃ちした旅の鏡による、内部からの攻撃も試みたが、龍神の体に込められた濃密な霊力によって無効化されていた。

「――――――――――」

   ―――“四刻八刻十二刻(しこくはちこくじゅうにこく)

 まるで“終わりだ”と言わんばかりに、声にならないような唸り声を上げる龍神。
 そして、先程までとは比べ物にならない水の奔流が繰り出される。

「ッ―――!?」

 それは、まさに意思を持った水のようだった。
 眼前の物を邪魔だと言わんばかりに、まるで棘のように鋭く、大岩のように重く迫る。
 それを見て、防御していたシャマルは悟ってしまう。
 “これは、耐えられない”と。

 ……だが、忘れてはならない。

「ぬ、ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 ……今や名に恥じぬ力を持つ、“盾の守護獣()”がいる事を。

   ―――“魔纏錐穿波(まてんすいせんは)

 先程まで身体強化に使っていた魔力を、高密度の円錐状に放つ。
 高密度となった魔力は、龍神の霊力に削られる事なく、展開される。
 また、円錐状に放たれた事により、水の奔流を穿つように防いだ。

「す、すげぇ……」

「あれを、防ぐか……」

 明らかに防げないと思われた攻撃をたった一人で防いだ事に、ザフィーラを良く知るはずのヴィータとシグナムは開いた口が塞がらなかった。……むしろ、良く知っていたからこその驚きだったのかもしれない。

『はやてちゃん!!』

「っ、アインス!」

「はい!」

「「打ち砕け極光、全てを破壊し尽せ!」」

   ―――“Mjöllnir(ミョルニル)

 ザフィーラが防いでくれたのを見逃さず、再び二筋の極光が龍神を呑み込んだ。
 そして、その極光が晴れた所には……。

「……………」

     ズゥウウン……

 力なく地に伏す木曽龍神の姿があった。

「……やったのか?」

「……多分な」

 身動きをしなくなった龍神を見ても、気が抜けないはやて達。
 あれ程の魔法を一度は耐えたのだ。そう思うのも無理はない。

「とりあえず、倒した事を報告して、門を閉じて貰わないと……」

「……そうやな」

 シャマルの言葉にはやてが頷き、アインスがそれに応えるように念話をする。
 その間に、ヴィータは攻撃を見事に防いだザフィーラに称賛を送ろうと近づく。

「それにしても、さっきのすげぇな!いつの間にあんな魔法を使うようになったんだ?」

「…………」

「……ザフィーラ?」

 ヴィータが話しかけるも、ザフィーラは無言のままだった。
 さすがに訝しんだヴィータが、正面に回り込んで顔を覗き込もうとして……。

「っ、ちょ、おい!?ザフィーラ!?」

 力尽きるように、ザフィーラは地面に向かって落ちていった。

「くっ……!」

「さ、サンキューシグナム……」

「……どうした、ザフィーラ」

 咄嗟にシグナムがザフィーラを掴み、地面に激突する事はなかった。
 何事かとシグナムがザフィーラに問う。

「……単に、無理をしただけだ……。先程使っていた魔法は、体の限界を無視したものだからな……負担が大きすぎて、この様だ……」

「……飛べるか?」

「何とか、な……」

 ふらふらと、だが、ギリギリで耐えるようにザフィーラはその場に浮く。

「ざ、ザフィーラ、大丈夫なんか?」

「……そう言いたい所ですが……申し訳ありません」

「ええよ!ザフィーラは凄い頑張った!あの攻撃を防いだやんか!」

「……ありがとうございます……」

 はやてを心配させまいとするザフィーラだが、空元気も出せない程、体への負荷が大きかったようで、今にも落ちてしまいそうだった。

「主、すぐに戻した方がよろしいかと」

「……せやな。ザフィーラ、一旦アースラで休んどいてや。後は私達で何とかするから」

「……はい」

 本来なら、最後まで守護獣として傍に着くべきだっただろう。
 だが、却って足手纏いになると考えたザフィーラは、大人しくアースラへと戻った。

 その後、手の空いていた奏を転移で呼び、門を封印した。











 
 

 
後書き
冒頭の二撃…かくりよの門にて、木曽龍神が最初に行う全体攻撃。衰退(被ダメ増加)を付与してくるため、本編では咆哮と霊力の解放と言う扱いになった。実際は技名などはない。

水尾撫で…前列or後列全体攻撃。前列の場合は悪臭(道具封印)、後列の場合は沈黙(術封印)付与効果付き。沈黙付与が痛いため、かくりよの門では術系パーティの場合は全員前列推奨になっている。攻撃自体は霊力の水を纏った尾で薙ぎ払う。

大尾撃…毒付与効果ありの全体攻撃。名前の通り、尾を使って広範囲を薙ぎ払う。ただし、毒のように蝕む霊力を纏っている。

四刻…直前の詠唱後、水属性単体溜め攻撃。木曽龍神の形態の一つ、揖斐龍神の時に放つ溜め攻撃。霊力で作られた水が襲い掛かる。

魔纏金剛体…魔纏闘に次ぐザフィーラオリジナル魔法。魔纏闘と同じ要領で、極限まで防御特化の身体強化を施し、その身を盾とする。身体強化なので霊術にも強く、その防御力はトリプルブレイカーすら普通に耐え抜く。

四刻八刻…詠唱後、全体頭割り(人数で割る分散固定ダメージ)。ゲームならともかく現実ではザ・初見殺しな座標攻撃。ただし人数が多い程威力は減る。

四刻八刻十二刻…詠唱後、短時間の衰退付与の全体攻撃。ゲームではここまで来れば後一息と言った所だが、本編では段階的に威力が増す溜め技を連発しているので地獄でしかない。

魔纏錐穿波…魔纏金剛体に使っていた魔力を、高密度の円錐状にして放つ魔法。まるでドリルのように攻撃を削り、円錐状の形を生かして攻撃を受け流すこの魔法は、防御としても攻撃としても使う事が可能。強度も金剛体と同等。なお、体の負担が途轍もなく大きいため、一発が限界。


あれ、なんだろう、このザフィーラ優遇っぷり……。
いや、“盾の守護獣”なんだから防御力は相当高くないとダメですけど……。
ちなみに、耐えている時のザフィーラは作中トップクラスの防御力を持っています。ユーノの防御魔法より堅いです。

かくりよの門風に考えると、はやて達では全然戦力が足りません。なのにやり合えていたのは、空を飛んで回避する事が出来たからです。……まぁ、ゲームシステムと実際の戦闘の違いですね。
ちなみに、本来なら木曽龍神は木曽三川の川の名前に沿った形態にHP減少で変化し、それぞれに応じた戦法を取らなければなりません。……廃人勢はそんなの知った事じゃないとばかりに削りますけど。 
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