儚き想い、されど永遠の想い
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379部分:第二十九話 限られた時その十
第二十九話 限られた時その十
「日本の春です」
「桜のある春ですね」
「桜のない春はありません」
日本においてはだ。まさにそうだった。
「ですから今こうして」
「桜達を見て」
「お茶を飲みましょう」
ここでのお茶はもう決まっていた。
「それでいいですね」
「お抹茶ですね」
「はい、そのお茶です」
「そのお茶を飲んで、ですね」
「楽しみましょう」
こう話してだった。二人でだ。
また下に敷いてだ。それから義正が茶を立ててだ。真理に差し出す。
真理は作法、表千家のそれで飲みながらだ。言うのだった。
「結構なお手前で」
「有り難うございます」
「やはりこのお茶ですね」
真理は碗を置きこうも言う。
「桜には」
「我が国のお茶こそが合いますね」
「そう思います。実際に飲んでみるとわかります」
「では私も」
次は義正だった。今度は真理が茶を立てる。
そして自分に差し出されたそれを同じく表千家の作法で飲みだ。
そのうえでだ。義正は話した。
「結構なお手前で」
「有り難うございます」
ここまでのやり取りは同じである。それからだ。彼は言ったのである。
「お茶もまた薬ですね」
「お薬としても飲まれていましたね」
「かつては。ただ」
「ただ?」
「それは身体のことだけではありません」
そうだともいうのである。
「心もです」
「心もそうなりますか」
「お茶は心を落ち着かせるので」
それ故にだ。心の薬にもなるというのだ。
「だからです」
「そういうことなのですね」
「それでどうでしょうか」
義正は自分の前にいる真理に問うた。
「このお茶を飲みながら見る桜は」
「よく。お花見といえば」
「はい」
「お酒を嗜みますが」
「私もよくそうしました」
かつては義正もだ。桜には酒だったというのである。これは多くの者がそうだ。桜は不思議な花でありだ。酒もまたそれに合わせて美味にさせるものなのである。
その酒のことを思い出しながらだ。義正は言うのである。
「ですがお茶もまたです」
「いいものだというのですね」
「むしろお酒よりいいかも知れません」
「お茶の方がそうだと」
「はい。お酒はどうしても心を騒がしくさせてしまいます」
うわずらせてしまうというのだ。その心を。
「ですがそれでもです」
「お茶はですね」
「はい。心を落ち着かせます」
まさにだ。正反対だというのだ。
「そこが全く違います」
「確かに。一杯飲んだだけで気持ちがかなり変わります」
「花はどの花もです」
桜に限らずだ。どの花もそうだというのだ。
「静かに見るのが最もいいですから」
「だからこそお茶なのですね」
「はい、そうです」
笑顔で述べた言葉だった。
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